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コラム

「ビジネスと人権」「ハラスメント対策義務化」など 人事労務関連レポート2022年4月号

2022 年4 月7 日

三菱総研DCS、社労士事務所による人事労務市場の「今」を解説。今日から業務に役立つ情報から今後の法改正などの情報までトータルでお届けいたします。

トピックス

「労働環境」を巡る世界の動き⑥
- 「ビジネスと人権」について

「ビジネスと人権」に対する行政対応
前月号記載の「人的資本」に対する政府の動きにリンクするように、2月15日萩生田経済産業大臣が閣議後の記者会見で「サプライチェーン(供給網)から人権侵害を排除する人権デューディリジェンスのガイドライン(指針)」を夏までに策定すると表明しました。2020年、政府は『「ビジネスと人権」に関する行動計画』(2020-2025)を策定していますが、欧米ではサプライチェーンの人権侵害に対する法的規制を強めている中、我が国では法律はもちろん具体的な指針も作成されておらず、「国際競争力のリスクが高まることも十分考えられることからも」速やかに措置することになりました。紙面上では「ビジネスと人権」を詳細に論ずることはできませんが、以下概要を述べます。

「ビジネスと人権」の概要
「ビジネスと人権」については、国連の決議「国連ビジネスと人権に関する指導原則」(2011)、OECD(経済開発協力機構)の「多国籍企業行動ガイドライン」(1976年以降改訂、2018年ガイドラインに基づく最新のガイダンスを策定)の中で、人権・雇用及び労使関係の項目で内容を規定化、ILOでは「多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言」(1977)、「労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言」等で示されています。我が国では、経団連の「企業行動憲章」(2021年12月改定)第4章「人権の尊重」、第6章「働き方の改革、職場環境の充実」の中で最近の動向も踏まえ策定されています。
「人権」の具体的な内容としては、ILOが定めている中核的労働基準の内容で、労働者の結社の自由・団体権・団体交渉の保障、強制労働の廃止、児童労働の禁止、ジェンダー平等、雇用及び職業における差別禁止等です。
こうしたビジネス上の人権への配慮は、自社で完結されるのではなく、国際的に重要視されているのは国内外のサプライチェーンにまで対象とするということです。各企業で扱っている原材料や製品が強制労働や児童労働によるものでないことが当然求められます。万一児童・強制労働等による製品として認定されると、取引停止や不買運動の対象として企業経営に直接打撃を与えるだけでなく、企業イメージやブランド力の毀損に結びつくことになります。これまで衣料や食品等で問題となった事例は欧米企業で多く見受けられています。そのため、EUをはじめ規制の強化が進んでおり、我が国の企業の取り組みが遅れていることが危惧されています。

強制労働の禁止例としては、イギリス(2015年)・オーストラリア(2018年)で「現代奴隷法」として制定されており、一定の規模の企業に人権デューディリジェンスに関する取組みの情報開示の義務を課しています。同様にフランス(2017年)・カナダが制定の動きとなっているほか、オランダは児童労働について法制化、ドイツでサプライチェーンにおける人権デューディリジェンス実施の法制化(2021年)がされました。
「EU」では、人権デューディリジェンスの実施を義務付けし、罰則を科す法案が検討されています。今回経産省が進めようとしている「人権デューディリジェンス」は、強制労働の該当事例や調査方法等を具体的に示すものとして期待されています。また、企業に「人権デューディリジェンス」の実施を努力義務レベルでなく、義務化も検討するとされています。企業活動において「ビジネスと人権」の取組みは、無視できない重要なものとなっています。

36協定 ~手続きと届出の注意点~

4月から新しい年度が始まる会社も多く、それに合わせ36協定の起算日を4月としている会社も多いかと思います。36協定について、ポイントや注意点を手続きと届出に絞ってご案内します。

■手続き ~労働者の過半数代表の選出~

協定を締結する労働者側の当事者は、事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合、無い場合は労働者の過半数を代表する者が当事者となります。この過半数を代表する者の要件は、①管理監督者でないこと、②労基法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続きにより選出された者であること、③使用者の意向に基づき選出された者でないこととされています。上記②については、投票・挙手以外にも、持ち回り決議や話し合い等、民主的手続きがとられている必要があります。管理監督者は過半数を代表する者にはなれませんが、例えば過半数代表を投票で選出する場合の投票権はあります。また、過半数か否かの母数には、パートタイマー、アルバイト、契約社員、嘱託社員、長期休職者、育児休業中の者等、在籍する者が含まれます。

■届出の注意点

令和3年4月より使用者・労働者の署名または記名押印が不要となり、記名のみでの届出が可能です(協定届を協定書と兼ねるのであれば署名または記名押印は必須)。協定の締結・届出は会社単位ではなく、事業場単位で行う必要がありますのでご注意ください。また、届出作成の際の間違えやすい箇所として、「労働させることができる法定休日における始業及び終業の時刻」の欄に、所定労働日の所定始業時刻と所定終業時刻を記載している会社が多く見られます。しかし、当該欄は必ずしも所定労働時間・もしくは法定労働時間に収まるような始業時刻と終業時刻を記載する必要はなく、所定・法定労働時間を超えた時間を記載することも可能です。

令和4年4月1日から中小企業でもパワーハラスメント対策の義務化

労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(以下、労働施策総合推進法)の改正により、中小企業については努力義務とされていたパワーハラスメント(以下、パワハラ)対策が、令和4年4月1日から義務化されます(大企業は令和2年6月1日から義務化)。
労働施策総合推進法において規定されている事業主が雇用管理上講ずべき措置として、大きく以下の4つが挙げられます。①職場でのパワハラの内容等の明確化及びその周知・啓発、②相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、③職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応、④併せて講ずべき措置 (プライバシー保護、不利益取扱いの禁止等)
また、パワハラとは、職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの要素を全て満たすものを指しますが、どういう行為がパワハラに該当するかを把握しておくことも重要です。過去の判例では、部下を注意する時、口頭での注意だけでなく物を使用して部下を殴打した事案がパワハラに該当すると認定される一方、再三にわたって不適切行為を行った部下に対して、注意書を作成したり声を荒げて叱責する事案はパワハラには該当しないといった判決が出ております。厚生労働省から公開されておりますハラスメント対策のリーフレットにはパワハラに該当する例、しない例が挙げられておりますので、ご一読ください。

厚生労働省リーフレット https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000611025.pdf

キャリアアップ助成金が変わります

「キャリアアップ助成金」について、厚生労働省より令和4年度の変更点の概要資料が示されました。なお、この情報は令和4年度予算の成立及び雇用保険法施行規則の改正が前提であり、今後変更される可能性がありますのでご注意ください。

■正社員化コース・障害者正社員化コース
正社員化コースのみ
・有期雇用労働者から無期雇用労働者への転換の助成が廃止されます
両コース共通改正事項 ※令和4年10月1日以降の転換に適用
(1) 正社員定義の変更
・「賞与または退職金の制度」かつ「昇給」のある正社員への転換が必要となります
(2) 非正規雇用労働者定義の変更
・「正社員と異なる雇用区分の就業規則等」が適用されている非正規雇用労働者の正社員転換が必要となります
■賃金規定等共通化コース
・対象労働者(2人目以降)に係る加算が廃止されます
■賞与・退職金制度導入コース
(旧諸手当制度等共通化コース)
・諸手当等(賞与、退職金、家族手当、住宅手当、健康診断制度)の制度共通化への助成を廃止し、賞与または退職金の制度新設への助成へと見直されます
・対象労働者(2人目以降)に係る加算が廃止されます
■短時間労働者労働時間延長コース
・社会保険の適用拡大を更に進めるため、以下の措置が取られます
(1) 延長すべき週所定労働時間の要件を緩和
(週5時間以上→週3時間以上)
(2) 助成額の増額措置を延長
(令和4年9月末→令和6年9月末(予定))

令和4年4月1日以降の変更点の概要
https://www.mhlw.go.jp/content/11910500/000923180.pdf

雇用調整助成金特例・小学校休業等対応助成金の期限が延長されます
(~R4.6月)

雇用調整助成金について、現在令和4年3月31日を期限として新型コロナ特例措置が実施されておりましたが、厚生労働省はまずは「命と暮らしをしっかり守ること」に努めるとし、この特例措置の期限を令和4年6月30日まで延長することを決定しました。4月1日~6月30日の助成内容については、3月31日までの内容と変更なく以下の通りとなります。

中小企業 原則的な特例措置 助成率4/5(9/10) 上限 9,000円/日・人
地域特例・業況特例 助成率4/5(10/10) 上限 15,000円/日・人
大企業 原則的な特例措置 助成率2/3(3/4) 上限9,000円/日・人
地域特例・業況特例 助成率4/5(10/10) 上限15,000円/日・人
(括弧書きの助成率は解雇等を行わない場合)

令和4年7月以降についての取扱いは雇用情勢を見極めながら5月末までに決定される予定になっています。
令和4年4月1日以降の措置の概要
https://www.mhlw.go.jp/stf/r404cohotokurei_00001.html

また、雇用調整助成金と併せて、小学校休業等対応助成金・支援金についても令和4年6月30日までの延長が決定しており、各月の助成額については以下の通りとなります。

休暇取得月 1~2月 3月 4月 5月 6月
小学校休業等対応助成金
(日額上限)
原則 11,000円 9,000円
特例※ 15,000円
小学校休業等対応助成金
(支給額)
原則 5,500円 4,500円
特例※ 7,500円

特例の対象は緊急事態宣言対象区域またはまん延防止等重点措置を実施すべき区域であった地域に事業所のある事業主になります。
令和4年4月1日以降の措置の概要
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_24071.html

「男性の育児休業取得推進 奨励金支給数を約2倍に  東京都

東京都は令和4年度、男性の育児休業取得促進の取組みを強化します。男性労働者に育休を取得させた企業に、最大320万円の奨励金を支給する「働くパパママ育休取得応援事業(働くパパコース)」について、支援数を前年度の400社から750社へと大幅に増やす方針です。分割取得時も支給対象とし、通算して15日間を取得させた場合に25万円を支給、以降15日ごとに25万円を加算します。経済団体と連携し、経営者への意識啓発キャンペーンも展開します。
働くパパママ育休取得応援事業は、法令を上回る社内制度を整備して従業員の育休取得・原職復帰を図る企業に奨励金を支給する「働くママコース」と、男性に育休を取得させ、育児参加を促進した企業を奨励する「働くパパコース」で構成しています。
男性の育休取得などを促進する改正育児介護休業法が今年4月から段階的に施行されるため、東京都は令和4年度、同事業の働くパパコースを拡充し、男性による育休取得をさらに後押しすることとしました。
中小企業に対しては、令和3年度から引き続き、特例的な加算措置を設定する予定です。産後8週の期間に30日以上の育休を取得させた場合、助成額に20万円を追加します。たとえば、出産直後に30日間の育休を取得させたケースの支給額は、期間に応じて支給される50万円に20万円を加算した70万円となります。
制度概要
https://www.hataraku.metro.tokyo.lg.jp/josei/katsuyaku/papamama/index.html

労災メリット制コロナは対象外 厚労省・省令

厚生労働省は令和4年1月31日、新型コロナウイルスを労災保険のメリット制の対象外とする省令を公布・施行しました。事業主が感染防止対策を講じたとしても、感染を完全に防ぐのは難しい現状を踏まえた対応で、業務上疾病として、保険給付や特別支給金の給付をしても、メリット制の算定に組み込みません。
メリット制は労災の給付実績から、個別の事業主の保険料率を±40%の範囲で増減させる制度です。事業主の労災防止の促進や保険料負担の公平性の維持を目的としています。

雇用保険法改正案が閣議決定されました

令和4年2月1日、政府は定例閣議において、雇用保険法等の一部を改正する法律案などを閣議決定しました。新型コロナの影響が続く中、おととし2月からこれまでの雇用調整助成金などの支給額は5兆円を超えており、雇用保険の財源不足が課題となっているため、雇用保険料率の引き上げを盛り込んだ内容となっています。 具体的には雇用保険二事業分(事業主が全額負担)が令和4年4月から0.5%の引き上げ、失業等給付(労使折半)分が令和4年10月から0.4%の引き上げと段階的に上がる予定です。

事業の種類 令和4年4月~9月 令和4年10月~
一般の事業 9.5/1000 13.5/1000
農林水産業及び清酒製造業 11.5/1000 15.5/1000
建設業 12.5/1000 16.5/1000