社労士

コラム

「2022年の主な法改正まとめ」「労働環境を巡る世界の動き」など 人事労務関連レポート2022年2月号

2022 年2 月4 日

三菱総研DCS、社労士事務所による人事労務市場の「今」を解説。今日から業務に役立つ情報から今後の法改正などの情報までトータルでお届けいたします。

トピックス

国際社会における「日本」の地位、特に「経済」の視点からみると20世紀後半のピークから年々「地盤沈下」しています。例えば一人当たりの労働生産性はOECD加盟国38国中28番目で、20位レベルで推移していた地位は徐々に低下し、現在主要先進7か国で最も低い水準となっています。
特に象徴的なのは、製造業の労働生産性です。OECD内では1995年、2000年はかつて首位であり、ものづくりにおける日本の優位性を示していましたが、今や2018年データベースで韓国の次の16位まで低下しています。この著しい低下の原因を経済学者の橘木俊詔氏が指摘されています。一つに企業が将来の不確実性を危惧して内部留保を高め、設備投資を怠ったこと、次に無形資産といわれる研究開発、ITシステム、新商品開発等に対する取り組みの遅れ、三つ目に労働者の質の向上に対する取り組みの弱さ、特に学校教育(大学教育)や企業や公的機関の取組みの問題点を指摘されています。
こうした停滞状況下で、いわゆる中間層といわれる階層の分解が進み、「格差問題」として社会的な大きな問題としてクローズアップされてきました。こうした現状を打破すべく、安倍政権下では、経済成長を重点に取り組むべく様々な政策を打ち出して今日に到っていますが、なかなか効果を実感するレベルに到っていません。OECDの他国の10年間の賃金水準は軒並み20%以上上昇しているにも関わらず、我が国は同一水準に留まっています。
それでも、別の数値で人口数を加味されますが日本のGDPはいまだ米国、中国についで3番目の大国です。しかし、近年GDPは伸び悩んでいます。GDPの構成の一番大きな要素は、民間の主に個人消費支出です。家計に入る収入が増えなければ消費も増加しませんが、たとえ増えても消費になかなか結びつかないのは、コロナ対策として一人10万円の給付金の多くが預貯金に回ったことで明らかです。企業が投資に及び腰になるのは先行きの経済見通しに対する不安のためとされています。家計も先行きの不安があれば、財布のヒモは固くなるのは当然です。政府には、「老後」やコロナ問題のような災禍に対して安心な社会的セーフティーネットをどう整備するのか、すみやかに具体的対策として打ち出してもらいたいものです。そうすれば家計消費も進み経済成長にはずみをかけられるはずです。
以上マクロ経済の視点から現状について述べましたが、こうした視点を企業のミクロベースの成長に置き換えて考えてみます。DX経営の取組みの強化、無形資産投資、従業員の質の向上を目指す取組みが当然重要です。こうした取組みを推進し成長軌道に乗せるためには、当然従業員が一丸となって取り組むことが鍵となります。社内の組織上に不安や不満因子があっては従業員一丸となって取り組むことはできません。問題となる因子を取り除いていくことから進める必要があります。成長を促す組織整備の第一歩に、職場の安全安心の労働環境、ウェルビーイングの環境作りはかかせません。

「労働環境」を巡る世界の動き
- 「SDGs」「ESG」「ビジネスと人権」と「ISO30414」について -

ISO30414の報告書について

ISO30414で報告として求められる構成内容の概要については、前号で紹介しました。検討した11の項目58の指標を報告書として取りまとめることになります。その意義は、HRに関して組織の健全性及び持続可能性の評価を外部にアピールできることと指摘されています。この報告書に「人事戦略、目標及び重点領域、取り組むべき重要な課題、及びビジネス展開を支援するHRの手順、プログラム/プロジェクトといった重要な情報に追加して、HCRの主要な測定基準の定性的な説明を含めることが望ましい」としています。また重要業績評価のスコアカード提示はHCRに適しているとも指摘されています。
この報告書が投資家や他のステークホルダーによる将来の予測を可能とするため、「人的資本」の動向や期間ごとの変化、可能であれば未達又は上回った目標に関する情報を提供すること、また、年次報告の一部として年1回行われることが望ましいとしています。

中小企業向けの推奨事項

中小企業にとってISO30414に則した「人的資本」に関する報告は、融資等の金融サービスを受ける場合や従業員の確保をするための重要な要素となり得ると言えます。11の項目58の指標全てをまとめる必要はなく、報告エリアの中で中小企業に対して報告として推奨されている指標がありますので、その内容を中心にまとめれば大企業より負担はそう多くありません。また、M&A等においてHRに関するデューデリジェンスのプロセスを提供することにもなりますので本報告を活用することは推奨されています。

ISO30414の活用について

米国証券取引委員会(SEC)は2020年8月に「人的資本(HC)」に関する情報の開示をルール化しましたが、具体的な開示項目や方法は示されていません。そのため現状の開示された各企業の報告内容は詳細なものもあれば非常に簡単なものまで様々です。こうした状況を踏まえ、体系的具体的な指標と方法を持つISO30414を活用することが検討されそうです。当然、日本企業で米国に上場していれば対象となるため、対応が求められることになります。既にこうした動向も踏まえ東京証券取引所も昨年新たな非財務情報の開示に関する対応を求めるよう改訂されています。今後こうした動きがより具体的に進むことになるでしょう。
既に我国多くの企業でもこうした「人的資本」の情報の開示は「統合報告書」の中で行われています。ただし開示内容や方法は各社ごとに違いますので「人的資本」情報として評価する状態になっていません。ISO30414のような規格による報告によって社内外の多くのステークホルダーが「人的資本」について初めて比較や評価できることになります。また、自社にとっても改善すべき課題やリスクが明確にするための材料として生かせることになります。
ただし、比較検討が可能としても業種、業界や各企業の経営戦略や人事制度もそれぞれ異なることから財務情報のように単純に比較検討することにはなりません。ISO30414の作成にあたって日本政府として経産省が関わりましたが、コアなメンバーとして参画する立場ではありませんでした。ジョブ型人事制度を主とする欧米主導で進められた結果、個々の指標をまとめるにあたって、我国にとってなじみの薄い従業員のコンピテンシー等や後継者育成関係等厳しい内容や工夫すべきものがあります。
従来人事情報は定性的なもので客観的に可視化することにはなじまない分野と思われがちでしたのでISO30414をもとに「人的資本」を取りまとめることは、人事情報の可視化や人事上の課題を明確にしたり、内外のステークホルダーに対する自社の人材状況の理解の促進、優秀な人材確保の定着に生かす一歩として活用することになり大変有意義と言えます。

2022年(令和4年)主な法改正まとめ

令和4年は実務上重要な法改正が多く予定されていますので事前にチェックされておくことをお勧め致します。今年の主な改正ポイントを一覧にまとめましたのでぜひご活用下さい。

施行日 法律・制度 概要
2022年1月1日 <健康保険法>
傷病手当金支給期間の通算化
  • 同一のケガや病気に関する傷病手当金の支給期間が、支給開始日から通算して1年6か月に達する日まで対象となります。
  • 支給期間中に途中で就労するなど、傷病手当金が支給されない期間がある場合には、支給開始日から起算して1年6か月を超えても繰り越して支給可能になります。
※令和3年12月31日時点で、支給開始日から起算して1年6か月を経過していない傷病手当金(令和2年7月2日以降に支給が開始された傷病手当金)が対象となります。
<健康保険法>
任意継続被保険者制度見直し

原則2年間の継続加入が求められていましたが、本人の申し出により任意で資格喪失することが可能になりました。これにより、例えば2年目は国民健康保険に加入するという選択が可能となり、人によっては保険料負担が軽くなります。

<雇用保険法>
マルチジョブホルダー制度

複数の事業所で勤務する65歳以上の労働者が、選択した2つの事業所での勤務を合計し所定労働時間が20時間以上、雇用見込が31日以上である要件を満たす場合に、本人からハローワークに申出を行うことで、申出を行った日から特例的に雇用保険の被保険者(マルチ高年齢被保険者)となることができるようになりました。
失業した場合には、一定の条件を満たせば、高年齢求職者給付金を受給することができます。

<国民年金/厚生年金保険法>

「眼の障害」の障害認定基準が一部改正されます。

2022年4月1日 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律 パワハラ防止のための雇用管理上の措置が中小企業でも義務化されます。(大企業では2020年6月より義務化済)
正規雇用労働者の中途採用比率公表義務化
労働者数301人以上の企業は正規雇用労働者数に占める中途採用者の割合(中途採用比率)を少なくとも年1回、3事業年分を公表日を明示しインターネット上で公表することが義務付けられます。
<女性活躍推進法> 一般事業主行動計画の策定義務の対象拡大
常時雇用する労働者が301人以上から101人以上の事業主に女性が活躍できる一般事業主行動計画の策定・届出が義務化されます。
<育児介護休業法>
  • 育児休業を取得しやすい雇用環境の整備
  • 妊娠・出産(本人または配偶者)の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置
  • 有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和
  • 「引き続き雇用された期間が1年以上」の要件を撤廃し、無期雇用労働者と同様の取扱いとなります。
  • 育児休業の申出方法等の見直し
<国民年金/厚生年金保険法> 在職中における年金受給の仕組みの見直し
60歳~64歳の在職老齢年金の支給停止の基準額が現行の28万円から、65歳以上の在職老齢年金と同じ47万円に緩和されます。
受給開始時期における選択肢の拡大
年金受給開始時期の繰り下げ上限年齢が現行の70歳から75歳まで引き上げられます。
国民年金手帳の新規発行が廃止され、基礎年金番号通知書が交付されます。
<健康保険法> 数十万円規模の高額な特定不妊治療(「体外受精」や「顕微授精」等)が保険適用となり一部負担となる予定です。治療開始時点の女性の年齢が43歳未満の場合に適用されます。子供1人につき最大6回(40~43歳の場合は最大3回)保険適用されます。
<改正個人情報保護法> 取り扱いが厳格化され、漏えい時には通知が義務化され厳罰が科されます。
2022年10月1日 <育児・介護休業法> 柔軟な育児休業(いわゆる「産後パパ育休」)の創設
  • 子の出生後8週間以内に4週間まで分割して2回取得することが可能になります。
  • 労使協定を締結した場合に限り、労働者が合意した範囲で産後パパ育休中に就業をすることが可能になります。
育児休業の分割取得が可能に
  • 分割して2回まで育児休業を取得することが可能になります。
<健康保険/厚生年金保険法>
適用拡大
社会保険料免除要件
短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大
被保険者(短時間労働者除く)の総数が常時100人を超える事業所で雇用期間が2カ月を超える見込みがある労働者は加入対象となります。
「産後パパ育休」の創設に伴い社会保険料の免除要件が追加
①同一月内で育児休業を取得(開始・終了)し、その日数が14日以上の場合(追加)
②その月の末日が育児休業期間中である場合(現行と同じ)ただし、賞与に係る保険料については連続して1か月を超える育児休業を取得した場合に限り免除となります。
2022年12月1日 事務所衛生基準規則及び労働安全衛生規則 事務所衛生基準規則及び労働安全衛生規則一部改正(照度)
  • 一般的な事務作業(300ルクス以上)
  • 付随的な作業(150ルクス以上)

上記が主な法改正の予定です。企業の担当者としては傷病手当金や育児介護休業法関係の改正に注目したいです。就業規則の改定をはじめとした社内の運用変更に大きく影響することが考えられます。