MURC

コラム

持株会社の人事機能定義における留意点

2021 年5 月11 日

程 明(てい めい)

組織人事ビジネスユニットHR第3部 コンサルタント

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社

コンサルタント程 明

 グループ経営の意思決定スピードおよび的確さの向上、グループシナジーの発揮、グループ会社間の連携強化等を目的として、持株会社(ホールディングス、以下HD)を立ち上げる企業は数多い。そのような目的を実現するために、HDの多々ある役割の中で特に重要になるのがグループ人材マネジメントだ。HDがグループ全体の人事をどう束ねるか次第で各社の人材マネジメントのあり方が大きく変わってくるため、HDの人事機能をどう定義するかが重要な論点になる。本レポートでは、当社コンサルティング事例を用いながら、その留意点について紹介したい。

1. HD人事機能定義の前提となるグループ人材マネジメント方針

 グループ人材マネジメント方針とは、グループ価値の最大化または現場最適の視点から、人材マネジメントの何を集約・標準化し、何をグループ各社の自主性に任せるのか、HD人事機能の各社に対する“関与度合い”を整理したものである。この“関与度合い”は大きく「自律・分散型」、「中間型」、「統合・一体型」の3つに分けられる。採用、異動・配置、育成といった人材マネジメントの領域別にそのイメージを図表1に示した。

図表1 人材マネジメント領域別のHDの関与度合い
(出所)MURC作成

2. HD人事機能定義のポイント

 ある金融グループのHD人事機能に関するコンサルティングに我々が取り組んだ際、このHDは創立から間もないこともあり、その役割も各社からのHDに対する期待値も不明確な状態であった。そこでまず、事業方針の策定、グループ最適のリソース配分、グループ全体のオペレーション最適化といった観点におけるHDそのもののあり方について、HDだけでなく、グループ各社の経営層も交え、検討を行った。その結果、事業方針とリソース配分については大方針をHDで策定し、具体的な施策設計は各社に一任、オペレーション最適化については施策設計までHDが主導するという合意がなされた。この合意の前提には、グループ各社の事業内容や事業戦略が大きく異なっているという実態があった。そこで、グループ人材マネジメント方針についてもこの前提に基づいて検討を進めた。具体的には各社ごとに人事戦略が異なる領域については各社に任せることにし、経営幹部人材の育成、スペシャリストの採用・育成等、グループ共通的に必要な部分はHDが主導的に行うことにした。この考えを踏まえ、HD人事機能の主要な役割として定義したのが以下の3点である。

  • 経営幹部候補の計画的人材開発に向けた管理職(部課長層)の育成
  • 各社および横断的取り組みに資する、特定分野の高度な専門知識・スキルを有するスペシャリストの採用・育成
  • 給与、労務、組織管理などといった業務の標準化・集約化そして、これらの役割を遂行すべく、グループ人材マネジメント方針として図表2の内容を明文化した。
図表2 グループ人材マネジメント方針
(出所)MURC作成

 本事例も踏まえ、HD人事機能定義にあたって我々が重視するポイントは以下の3つである。

ポイント①HDのあり方に関するグループ各社との合意形成

 第一に、HDそのものの役割に関するグループ各社との合意が、グループ人材マネジメント方針検討の前提となることに注意が必要である。本事例において、クライアント内では当初HDのあり方が不明確なままグループ人材マネジメントの検討が進められていた。しかしながら、HDがグループ各社の経営実績のみを管理するのか、戦略レベルまで介入するのか、もしくは具体的な施策まで個社と討議するのかによって、HD全体のあり方が変わってくる。もちろんそれによって人材マネジメントにおけるHDの関与度合いも大きく変化する。HDのあり方が不明確な場合は、人事担当者だけではなく、各社の経営層まで巻き込み、合意しておく必要がある。

ポイント②HDと各社間のパワーバランスの考慮

 第二に、HDと各社の間でのパワーバランスを十分に考慮することが、HD人事機能の実現性という意味から重要である。パワーバランスを考慮することなく目指す姿を追求しても、各社との意見調整に多大な時間を要し、HDにおける作業工数を捻出できずに検討・運用が頓挫してしまう可能性が高い。HDの成り立ちや人的規模、HD経営層の顔ぶれや経歴等も踏まえ、現状どこまでガバナンスを効かせられるのかを考えた上でHD人事機能を定義しなければ、せっかくの検討も絵に描いた餅に終わってしまうだろう。実際に本事例でも、各社の経営パワーははるかにHDより強く、人材マネジメントの方針の初案を各社に提示したところ、大きく反対を受けていた。最終的には、経営パワーが強い子会社の取締役をHDの執行役員に任命したことで、HDと各社間のパワーバランスを整え、グループ全体最適による事業戦略や方針を検討できるようになった。

ポイント③HD人事機能の関与度合いを領域別に検討

 第三に、各社に対するHD人事機能の関与度合いをすべての領域で一律にそろえる必要はないことにも留意したい。本事例においても、採用や人事制度は原則各社の自主性に任せるのに対し、育成や異動については、HDで横断的に運営・管理していく方針とした。HDの役割やグループ人材マネジメントの目的に照らし、人事領域ごとに最適な方針とすることが重要である。

3. 最後に

 グループ経営の一環として、HDがグループ全体の人事機能をできるだけ集約・統合しようとするケースは多い。ただし、各社とのパワーバランスや現実的な体制を十分考慮せずに「統合・一体型」を進めようとしても、当初の想定通りにはいかず、悪影響すら及ぼす結果になり得る。一足飛びにあるべき姿を目指すのではなく、さまざまな要素を考慮した複数年のロードマップを策定の上、各社の関係者も巻き込んで取り組みを進めていくことが重要である。

組織人事ビジネスユニット HR第3部 コンサルタント

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社

コンサルタント程 明(てい めい)

コンサルベンチャー企業で組織人事コンサルティング支援(2年)等を経て、2019年3月に三菱UFJリサーチ&コンサルティング入社。現在は役員の指名・報酬・サクセッション等や人事制度の構築支援を中心に従事。

  • 主なコンサルティング実績

    金融:グループ横断人材マネジメント構築に関するコンサルティング支援
    製造業(複数社):役員評価・報酬制度改革に関するご支援
    小売:グループ各社役員のポスト序列・評価・処遇に関するガイドライン策定支援
    製造業:執行役員制度設計に関するご支援
    製造業(複数社):賃金・評価制度設計に関するご支援
    医薬品:従業員業績連動賞与設計に関するご支援
    建設業:職場意識調査プロジェクト 等 多数