社労士

コラム

「労働環境を巡る世界の動き」「心臓疾患の労災認定基準」など人事労務関連レポート2021年11月号

2021 年11 月2 日

三菱総研DCS、社労士事務所による人事労務市場の「今」を解説。今日から業務に役立つ情報から今後の法改正などの情報までトータルでお届けいたします。

トピックス

「労働環境」を巡る世界の動き①
- 「SDGs」「ESG」「ビジネスと人権」と「ISO30414」について -

今日、マスコミを通じて「SDGs(持続可能な開発目標)」や「ESG(環境・社会・企業統治)」についてたくさん報道されています。また、これらに関連して「ビジネスと人権」も頻繁に取り扱われています。

企業はあらゆるステークホルダーとの対話が求められる

従来、企業活動において最も強調されていた点は、企業活動の要は資本・「投資」によって収益を生み出しその成果を投資家に還元することであり、経営者の第一の責務は短期にいかに多くの収益を出すかが求められていました。その結果、環境問題や先進国と開発途上国の格差およびそれぞれの国内の格差、貧困問題など解決すべき深刻な事態が広がりました。企業は収益を上げるだけでなく、社会的責任が大きく問われるようになりました。
こうした事態を解決するため、今日の企業は「投資家」に対してだけでなく、気候変動に関係するCO2の発生などの環境に対する配慮や消費者、従業員、市民など企業活動に関係するあらゆるステークホルダーとの対話や利害関係を調整しながら企業価値を高めていくことが求められています。

企業価値評価の新たな視点

企業が行うこれらの関係者などへの配慮は企業活動にとってやむを得ないという消極的な側面でなく、こうした社会的責任を課していくことで新たな収益をつくるチャンスとして積極的に行動することが評価されるようになってきました。2015年国連サミットで2030年までに国際社会の共通目標として採択された「SDGs」の17の目標の中に、企業活動に求められる人権・ジェンダー問題、貧困対策などのゴールが示されています。また、企業に投資する大口の年金基金や金融機関等は長期・安定的に成長する企業を選別する視点を「ESG」に取り組んでいるかで評価する傾向が強まっています。

非財務情報(人的資本)の開示義務化

一定の規模の企業には、これらの側面をどのように行動しているのかを情報として開示することを求める動きが活発になっています。財務情報は最低限法的に公開を義務付けされていますが、昨年8月SEC(米国証券取引委員会)は非財務情報として人的資本(HCR)情報の開示を義務付けしました。日本では本年6月東京証券取引所の「コーポレートガバナンスコード(企業統治指針)」が改訂され、上場会社に人権の尊重、従業員の健康・労働環境への配慮や企業の中核人材における多様性の確保等の取り組みを求めるとともに、その取り組みなどの情報の開示を求める改訂がなされました。
今回こうした非財務上の公開の動きのなかで重要視されている「人権」に関することや「人的資本」の情報に関し連載で解説することにいたします。

脳・心臓疾患の労災認定基準が改正されました

厚生労働省は脳・心臓疾患の労災認定基準を改正し、2021年9月14日に都道府県労働局長あてに通知しました。認定基準改正のポイントは下記4点です。

  1. 長期間の過重業務の評価にあたり、労働時間と労働時間以外の負荷要因を総合評価して労災認定することを明確化

    改正前は、発症前1か月に100時間または2~6か月間平均で月80時間を超える時間外労働が発症との関連性が強いとされていました。
    改正後は、上記の時間に至らなかった場合も、これに近い時間外労働を行った場合には、労働時間以外の負荷要因の状況も十分に考慮し、業務と発症との関連が強いと評価できることを明確にしました。

    業務と発症との関連性が強いと評価


  2. 長期間の過重業務、短期間の過重業務の労働時間以外の負荷要因を見直し
    労働時間以外の負荷要因 勤務時間の不規則性 拘束時間の長い勤務
    休日のない連続勤務
    勤務間インターバルが短い勤務
    不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務
    事業場外における移動を伴う業務 出張の多い業務
    その他事業場外における移動を伴う業務
    心理的負荷を伴う業務
    身体的負荷を伴う業務
    作業環境 温度環境
    騒音
  3. 短期間の過重業務、異常な出来事の業務と発症との関連性が強いと判断できる場合を明確化
  4. 対象疾病に「重篤な心不全」を新たに追加

新型コロナウイルスに関するQ&A

厚生労働省は、「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」を更新し、新型コロナウイルスワクチン接種に係る下記3問を公表しました。

Q 新型コロナウイルスワクチンの接種を拒否した労働者を、解雇、雇止めすることはできますか。
A 新型コロナウイルスワクチンの接種を拒否したことのみを理由として解雇、雇止めを行うことは許されるものではありません。

Q 新型コロナウイルスワクチンを接種していない労働者を、人と接することのない業務に配置転換することはできますか。
A 個別契約や就業規則等において転勤や配置転換を命ずることのできる旨の定めがある場合であっても、不当な動機・目的がある場合や、業務上の必要性とその命令がもたらす労働者の不利益とを比較衡量した結果、配置転換命令が権利濫用に当たると判断される場合があります。
新型コロナウイルスの感染防止のために配置転換を実施するにあたっては、その目的、業務上の必要性、労働者への不利益の程度に加え、配置転換以外の感染防止対策で代替可能か否かについて慎重な検討を行うとともに、配置転換について労働者の理解を深めることに努めてください。

Q 採用時に新型コロナウイルスワクチン接種を条件とすることはできますか。
A 新型コロナウイルスワクチンの接種を受けていることを採用条件とすることを禁じる法令はありませんが、その理由が合理的であるかどうかについて、求人者において十分に判断するとともに、その理由を応募者にあらかじめ示して募集を行うことが望ましいといえます。

詳細は厚生労働省の下記URLをご参照ください。
<新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)>
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html

事業者向けマイナンバーガイドラインの改正 令和3年9月施行

令和3年5月19日に公布されたデジタル社会形成整備法による番号法の一部改正に伴い、マイナンバーの取り扱いに関するガイドラインが改正されました。労働者の同意を前提に、企業間での労働者のマイナンバー提供を可能にする規定が新設され、令和3年9月1日に施行されています。
提供可能な情報の範囲は、マイナンバー関係の事務処理に必要な範囲に限定されます。具体的には、労働者の氏名、住所、生年月日や前職の賃金などが該当します。前職の離職理由については、原則提供は認められません。労働者の同意の取得時期について、出向・転籍・再就職先が決定した後に、具体的な提供先を明らかにし、同意を取得する必要があるとしています。同意の取得方法は、口頭のほか、書面、メール、確認欄へのチェックなどが挙げられています。

マイナカードの保険証利用 令和3年10月から本格運用

マイナンバーカードを健康保険証として利用できる「オンライン資格確認システム」の本格運用が令和3年10月20日から始まります。マイナンバーカードの個人向けサイト「マイナポータル」を通じて、自身の薬の処方履歴や特定健康診査の結果も閲覧できるようになります。本格運用では全国の医療機関・薬局の約5%に当たる約1万3000施設でマイナンバーカードが使えるようになる見込みです。

新型コロナウィルスに係る施策に変更があります

①健康保険・厚生年金保険料の標準報酬月額の特例改定の期間が令和4年2月28日(必着)に延長されます
令和3年8月から令和3年12月までの間に新型コロナウイルスの影響により休業して、報酬等が著しく下がった方が一定の条件に該当する場合は、健康保険・厚生年金保険の標準報酬月額を特例により翌月から改定することができます。すでに特例改定を受けた方でも、一定の条件に該当すれば令和3年9月から適用された定時決定を変更可能です。対象となるのは、休業により報酬等が著しく下がった月の翌月以降の保険料です。

②雇用調整助成金の助成額算定方法が変更になりました
9月から、歩合給がある場合の雇用調整助成金の助成額算定方法が変更になりました。助成額が実際に支払われた休業手当の額に応じた金額になるようにするのが狙いです。対象となるのは、給与に歩合給(出来高払)が含まれている労働者を休業等させた場合で、判定基礎期間の初日が令和3年9月1日以降のものです。
【変更点】

③新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金の対象となる休業期間及び申請期限が延長されます
新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金の対象となる休業期間が本年11月まで延長されることとなりました。それに併せて、申請期限も右記のとおり延長されます。
休業していた時期から申請までの期間が長くなると事実確認等が困難になりますので、できる限り早く申請するようにご注意ください。

派遣労働者の同一労働同一賃金

厚生労働省は、派遣労働者の同一労働同一賃金推進の前提となる「労使協定方式」に適用する同種の業務に従事する一般労働者の平均的な賃金額について、都道府県労働局長に通達しました。派遣労働者の同一労働同一賃金については、派遣元事業主に対し派遣先均等・均衡方式又は労使協定方式のいずれかの待遇決定方式による公正な待遇の確保を義務付けていますが、労使協定方式に定める賃金は、「一般労働者の賃金(一般賃金)額と同等以上」とする必要があるため、統計調査などによる一般賃金額を局長通達で示しました。
令和4年度に適用する一般賃金水準決定に当たっては、新型コロナウィルス感染症拡大の影響を受けた令和2年度の統計調査などを原則通り用いるとしました。それによると、能力・経験調整指数の1年目は114.3(前年116.8)~勤続20年188.6(同196.8)に、学歴計初任給の調整は12.7%(同12.6%)、一般通勤手当は71円(同74円)へ変更され、賞与指数は0.02、退職金割合は6%でいずれも前年と変更なしとなっています。

自殺トヨタ社員の労災認める 過密業務とパワハラ原因

2010年にトヨタ自動車社員の男性=当時(40)が自殺したのは過密な業務と上司のパワハラでうつ病を発症したのが原因として、男性の妻(50)が国に労災認定を求めた訴訟の控訴審判決が16日、名古屋高裁でありました。古久保正人裁判長は「発病させる程度の精神的負荷を受けたと認められる」としてパワハラなどが原因で自殺の原因と判断。請求を棄却した一審名古屋地裁判決取り消し、労災認定としました。
古久保裁判長は「男性が海外に関わる業務で困難な課題を課せられ、他の社員の面前で、上司2人から大声で威圧的に叱責されることが反復継続されたため、うつ病の症状を悪化させた」と指摘しました。こうしたパワハラについて「許容範囲を超える精神的な攻撃と評価するのが相当」とし、業務と自殺との因果関係を認めました。名古屋地裁は昨年7月、上司からの叱責などについて「発病させるほどの負荷だったとまでは認められない」としていました。判決によると、男性はエンジン動力をタイヤに伝える製品の生産ラインを構築する業務などに携わっていましたが、09年10月頃にうつ病を発症し、10年1月に自殺しました。妻は遺族補償年金を請求していましたが、豊田労働基準監督署は労災と認めず不支給処分としていました。

認定の要件に情報開示追加 ホワイト500 健康経営優良法人

経済産業省は、健康経営に積極的な企業を選定・認定する「健康経営銘柄2022」と「健康経営優良法人2022」の申請受付を開始しました。同優良法人(大規模企業部門)のうちの上位法人である「ホワイト500」の要件として新たに、経産省が行う健康経営度調査の評価結果などの情報開示を追加しています。同調査では、健康経営に関する方針の社内外への発信状況や取組み計画、健康診断の実施状況、従業員の教育状況のほか、健診受診率や喫煙率、高ストレス者比率などの情報開示状況を確認し、健康経営の実践が従業員の業務パフォーマンスにどのような影響を与えているかといった効果の測定の有無や測定手法についても調査するとされています。さらに、取引先の健康経営の取組みに対する支援状況も把握するようです。