社労士

コラム

「雇用均等基本調査結果」など 人事労務関連レポート2021年10月号

2021 年10 月5 日

三菱総研DCS、社労士事務所による人事労務市場の「今」を解説。今日から業務に役立つ情報から今後の法改正などの情報までトータルでお届けいたします。

トピックス

「令和2年度雇用均等基本調査」結果について

女性管理職について

課長相当職以上の管理職に占める女性の割合は12.4%と、前回調査より0.5 ポイント上昇しました。規模別には10~29人規模の企業が最も割合が高く、産業別にみると、医療,福祉(49.0%)が突出して高くなっています。女性管理職割合については、政府の当初の目標であった「2020年に社会の指導的地位に占める女性の割合30%」という水準に到達するには、ほど遠い状況といえます。

育児休業取得者の割合について

女性: 81.6% (前年度83.0%)
男性: 12.65% (前年度7.48%)

男性の育休取得者割合は、調査開始以来、過去最高となりました。ただし期間については、「5日未満」の取得者の割合が28.33%と、短期間の休業が多いことが示されています。男性が育児休業を取りやすくなる改正育児介護休業法が、来年度から順次施行されるため、今後の結果が注目されます。

多様な正社員制度について

多様な正社員制度を導入している事業所は 28.6%で、約7割の事業所は導入していません。各制度ごとの導入状況をみると、「短時間正社員制度」16.3%、「勤務地限定正社員制度」17.0%、「職種・職務限定正社員制度」11.0%となっています。

多様な正社員制度の利用者割合(%)

男女計 女性 男性
常用労働者計 利用者 女性常用者計 利用者 男性常用者計 利用者
短時間正社員制度 100.0 3.3
(100.0)
100.0 5.4
(80.3)
100.0 1.3
(19.7)
勤務地限定正社員制度 100.0 8.7
(100.0)
100.0 8.7
(48.3)
100.0 8.7
(51.7)
職種・職務限定正社員制度 100.0 10.4
(100.0)
100.0 8.8
(40.9)
100.0 12.0
(59.1)

それぞれの制度の利用者の男女比をみると、「短時間正社員制度」は女性の比率が高くなっているのに対し、「勤務地限定正社員制度」、「職種・職務限定正社員制度」は男性の比率が高くなっているところが特徴的といえます。多様な正社員制度は、女性の職業生活における活躍推進のために必要だと、一般的に見られがちですが、実績からすると男性の利用率が高く、性別に関わらず、働き方そのものの多様性が進んでいることが、この調査で明らかになっています。今後の人事制度において、多様で柔軟な働き方を推進する上で参考になるデータだと考えます。

長時間労働が疑われる事業場に対する令和2年度の監督指導結果

厚生労働省が令和2年度に、長時間労働が疑われる事業場に対して労働基準監督署が実施した監督指導の結果、対象事業所の24,042事業所のうち17,594事業場(73.2%)で労働基準関係法令違反が認められ法令違反による是正勧告書の交付が行われました。
なお、対象事業所の業種は商業が全体の26.7%、製造業17.9%の順で多くなっています。

【令和2年4月から令和3年3月までの監督指導結果】
(1)監督指導の実施事業場:24,042事業場
(2)主な違反内容[(1)のうち、法令違反があり、是正勧告書を交付した事業場]
  • ①違法な時間外労働があったもの:8,904事業場(37.0%)
    うち、時間外・休日労働の実績が最も長い労働者の時間数が月80 時間を超えるもの:2,982事業場(33.5%)
    うち、月100時間を超えるもの:1,878事業場(21.1%)
    うち、月150時間を超えるもの:419事業場(4.7%)
    うち、月200時間を超えるもの:93事業場(1.0%)
  • ②賃金不払残業があったもの:1,551事業場(6.5%)
  • ③過重労働による健康障害防止措置が未実施のもの:4,628事業場(19.2%)
(3)主な健康障害防止に関する指導の状況[(1)のうち、健康障害防止のため指導票を交付した事業場]
  • ①過重労働による健康障害防止措置が不十分なため改善を指導したもの:9,676事業場(40.2%)
  • ②労働時間の把握が不適正なため指導したもの:4,301事業場(17.9%)

対象事業所:各種情報から時間外・休日労働時間数が1か月当たり80 時間を超えていると考えられる事業場や、長時間にわたる過重な労働による過労死等に係る労災請求が行われた事業場

労災保険の「特別加入」の対象が広がる

労災保険は、労働者が仕事または通勤によって被った災害に対して、補償する制度ですが、労働者以外の方でも、一定の要件を満たす場合に任意加入でき、仕事中や通勤中にケガ、病気、障害または死亡等をした場合、補償を受けることができます。これを「特別加入制度」といい、対象者が広がっています。

令和3年4月1日から対象

  • 芸能関係作業従事者
  • アニメーション制作作業従事者
  • 柔道整復師
  • 創業支援等措置に基づき事業を行う方

令和3年9月1日から対象

  • 自転車を使用して貨物運送事業を行う者
  • ITフリーランス

⇒具体的には、ITコンサルタント、プロジェクトマネージャー、システムエンジニア、プログラマ、ネットワークエンジニア、社内SE、製品開発/研究開発エンジニア、Webデザイナー 等
上記の方に業務を依頼している事業主の皆様は、労災保険に特別加入することを個人事業主等に推奨していただくことが望ましいと考えます。
なお、形式的には請負契約等であっても、業務の遂行にあたり指揮命令を受けていて、実態として労働者と同様と判断された場合、その個人事業主等は労働者として取り扱われるためご注意ください。

「小学校休業等対応助成金・支援金」を再開する予定

新型コロナウイルス感染症に係る小学校等の臨時休業等により仕事を休まざるをえない保護者の皆様を支援するため、令和2年度に実施していた「小学校休業等対応助成金・支援金」制度を再開するとともに新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金の仕組みにより、労働者が直接申請することを可能とする予定です。
※令和3年8月1日以降12月31日までに取得した休暇を対象とする予定です。
※現在実施している「両立支援等助成金 育児休業等支援コース 新型コロナウイルス感染症対応特例」は令和3年7月31日までに取得した休暇が対象の予定です。
詳細については改めて公表の予定です。

「65歳超雇用推進助成金」について

本助成金制度は、65歳以上への定年引上げ等や高年齢者の雇用管理制度の整備等、高年齢の有期契約労働者を無期雇用に転換した事業主に対して助成し、高年齢者の雇用の推進を図ることを目的としています。本助成金はⅠ~Ⅲの3つのコースがあります。

Ⅰ.65歳超継続雇用促進コース
Ⅱ.高年齢者評価制度等雇用管理改善コース
Ⅲ.高年齢者無期雇用転換コース
各コースの詳細については下記の厚生労働省・都道府県労働局が発行しておりますリーフレットをご参照ください。
https://www.mhlw.go.jp/content/000763756.pdf

独立性が認められない子会社間などの「在籍型出向」も産業雇用安定助成金の助成対象になります

「産業雇用安定助成金」は、新型コロナウイルス感染症の影響により事業活動の一時的な縮小を余儀なくされた事業主が、在籍型出向により労働者の雇用を維持する場合に、出向元と出向先の双方の事業主に対して助成を行うものです。
今回新たに下記項目全てを満たす出向が助成金の対象となります。(従前は関係会社間等の出向は対象外)

  • 資本的、経済的、組織的関連性などからみて独立性が認められない事業主間で実施される出向
  • 新型コロナウイルス感染症の影響による雇用維持のために、通常の配置転換の一環として行われる出向と区分して行われる出向
  • 令和3年8月1日以降に新たに開始される出向
    助成率:中小企業2/3 中小企業以外1/2 上限額(出向元・先の計)12,000円/日
    詳細については下記の厚生労働省・都道府県労働局が発行しておりますリーフレットをご参照ください。
    https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000812411.pdf

健康保険証 保険者から被保険者への直接交付が可能に

健康保険証は保険者から事業主に送付し、事業主から被保険者に交付することが義務付けられてきましたが、健康保険法施行規則の改正により、令和3年10月1日以降、保険者が支障がないと認めるときは、保険者から被保険者に直接交付することが可能になります。従来の交付方法に加え、事業主を介さないで交付する選択肢が加わることで、テレワーク普及に応じた効率的な事務処理につながることが期待されます。
なお、高齢受給者証等も直接交付の対象となり、再交付や更新時も直接交付が可能になりますが、資格喪失や扶養削除の際の健康保険証の返納は従来通り事業主を経由する必要があります。

育児休業給付の「被保険者期間」の要件が一部変わります

令和3年9月1日以降に開始される育児休業給付金の「被保険者期間」の要件が変更となり、入社1年程度で産休を開始した場合等で要件を満たさなかったケースでも支給の対象となる可能性が広がります。

改正前

「育児休業開始日」を起算点として、その日前2年間に賃金支払の基礎となった日数が11日以上ある完全月が12か月以上あること。これを満たさない場合、賃金支払の基礎となった時間数が80時間以上の月を1か月として算定することができる(令和2年8月改正)。

改正後(追加)

上記要件を満たさない場合、起算点を「産前休業開始日」「出産日の翌日」「産前休業に先行して母性保護のために休業を開始した日」に読み替えて判定することができる。

雇用継続給付の支給限度額が変更になります

雇用保険の基本手当日額や支給限度額は、毎年8月に毎月勤労統計の平均定期給与額の増減をもとに見直しが行われます。令和3年8月1日からの支給限度額は次のように変更されました。

■高年齢雇用継続給付
支給限度額
365,055円 → 360,584円(-4,471円)
最低限度額
2,059円 → 2,061円(+2円)
60歳到達時等の賃金月額
上限額
479,100円 → 473,100円(-6,000円)
下限額
77,220円 → 77,310円(+90円)
■育児休業給付
上限額(支給率 67%)
305,721円 → 301,902円(-3,819円)
上限額(支給率 50%)
228,150円 → 225,300円(-2,850円)
■介護休業給付
支給限度額 上限額
336,474円 → 332,253円(-4,221円)