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コラム

「新型コロナウイルス感染症の感染拡大が雇用・労働に及ぼした影響と対策」など人事労務関連レポート2021年9月号

2021 年9 月2 日

三菱総研DCS、社労士事務所による人事労務市場の「今」を解説。今日から業務に役立つ情報から今後の法改正などの情報までトータルでお届けいたします。

トピックス

新型コロナウイルス感染症の感染拡大が雇用・労働に及ぼした影響と対策

厚生労働省は7月16日、「令和3年版労働経済の分析」(以下、「労働経済白書」)を公表しました。労働経済白書は、一般経済や雇用、労働時間などの現状や課題について、統計データを活用して分析する報告書であり、今年は新型コロナウイルス感染症が雇用・労働に及ぼした影響を分析しています。

雇用維持の動き

企業が用いた雇用調整等の方法をみると、2020年には、雇用調整等を実施した事業所のうち「残業規制」「休日・休暇の増加等」「配置転換」等の人員・賃金削減以外の方法を実施した事業所の割合が上昇し、多く実施されていることが分かります。これはリーマンショック期と同様の傾向といえます。一方、人員・賃金削減による雇用調整等(「派遣労働者の削減」「中途採用の削減・停止」「賃金等労働費用の削減」等)を実施した事業所の割合は、リーマンショック期よりも低い水準にとどまっています。

雇用維持の動き

この背景には、2020年における社会経済活動の抑制が、感染拡大防止を目的とした緊急的・一時的な措置であったことや、労働市場において人手不足基調の状態が続いていたこと、また、過去に例のない政策の下支えがあったことなどがあると考えられます。

雇用調整助成金・緊急雇用安定助成金

雇用調整助成金・緊急雇用安定助成金

感染拡大下における雇用維持・継続に向けた支援として、雇用調整助成金について助成額の日額上限や助成率の引上げ、雇用保険被保険者以外の労働者を対象とした緊急雇用安定助成金の実施等、緊急対応期間(2020年4月1日~)における大幅な特例措置が講じられました。雇用調整助成金等の月別の支給決定額の推移をみると、月別の最大額、額の増加ペースともに、リーマンショック期を上回っており、経済的ショック発生から7か月が経過した2020年8月の支給決定額は約5,700億円に達し、2020年12月までの支給決定累積額は約2.5兆円を超えています。
このように、多くの企業が雇用調整助成金の特例措置を活用し、雇用の維持や労働者の賃金の底支えをしたことがうかがえます。

緊急雇用対策が及ぼす影響

雇用調整助成金等をはじめとした様々な雇用対策等が実施されてきました。雇用・失業情勢には依然として厳しさがみられるものの、今回の経済的ショック前の労働市場が人手不足基調にあったこと等もあり、完全失業率の上昇が緩やかなものにとどまっていることなどをみると、こうした雇用対策が労働者の雇用や生活を守ることに大きな役割を果たしたものと考えられます。
他方で、「より良い条件の仕事を探すため」を理由とした転職者の減少等により、転職者数が大幅に減少していることを確認できますが、雇用調整助成金等については、助成金を支給しなくても事業主が雇用を維持するつもりだった場合に、助成金の支給が失業件数の削減効果にはつながらない(死荷重(deadweight))といった指摘や、景気が回復しても助成金なしでは存続が難しい仕事が助成金で維持される場合に、成長分野への労働移動等、円滑な産業調整を遅らせることになる(置換効果(displacement effects))といった指摘があります。また、長期間にわたり休業による雇用維持を図り続けることについては、働き手の能力が十分に発揮されず、経済社会の中での活躍の機会が得られない等の懸念もあります。
さらに、雇用調整助成金等による多額の支出により、財源である雇用安定資金の残高や、財源として同資金に貸し出している失業等給付に係る積立金の残高は著しく減少しており、雇用保険財政はひっ迫しつつあります。こうした負担の在り方が今後の課題とされています。
今後は、雇用調整助成金等により雇用維持を支援するとともに、労働移動への支援の充実が求められます。

2021年度最低賃金過去最高の引き上げ

2021年度の最低賃金(時給)について、全国平均28円を目安に引き上げ、930円とすることが中央最低賃金審議会により決定されました。目安通りに改定されれば、最低賃金の全国平均は930円(現在は902円)となり、上昇率は3.1%となっています。
最低賃金を巡っては、コロナ禍前の安倍前政権が、毎年3%ずつ引き上げて全国平均を1,000円にするという目標を設定し、実際に2016~19年度は3%程度の引き上げとなり、2019年度には東京、神奈川で1,000円を超えました。しかし、コロナ禍に見舞われた2020年度は、企業への打撃を考慮し、リーマン・ショックの影響が出た2009年度以来、11年ぶりとなる「目安を示さない」という結論となりました。実際の引き上げ額も、全国平均で1円(0.1%増)にとどまっていましたが、2021年度はコロナ禍前の大幅な引き上げ水準に戻った形となります。目安28円の引き上げは、最低賃金を時給で示すようになった2002年度以降で最高額となっています。コロナ禍の非常に厳しい経営環境の中、最低賃金の大幅な引上げは、労働集約型のサービス業、とりわけ中小企業において、多大な影響が生じないか懸念されます。

全国加重平均と引き上げ額の推移

実際の引き上げ額は今後、この目安をもとに各都道府県で審議し決定されます。現在、最低賃金が700円台の地域は秋田など16県ありますが、目安通りに引き上げられれば、全都道府県で最低賃金が800円を超え、最高額は東京都の1,041円となります。
今回決定された目安を参考に都道府県毎に審議・決定された後、新たな最低賃金として10月頃から適用される見通しとなっています。

雇用調整助成金(新型コロナ特例)年内延長へ

政府は7/21、新型コロナウイルス禍に伴い、雇用調整助成金の特例措置(助成率引き上げ等)を年内中まで延長する方針を固めました。
現行の特例の内容として、コロナ禍で業績が悪化した企業の支援策として、助成の日額上限を約8,300円から15,000円に引き上げられています。中小企業向けの助成率も通常の3分の2から、最大10分の9以上の高水準が年末まで維持されることとなりました。
特例措置の期限は現在9月末までであり、10月以降は「雇用情勢を踏まえて判断する」とされていました。また、10月より予定されている最低賃金の引上げを考慮し、時給を一定額以上引き上げる中小企業を対象に支給条件の一部が緩和される予定になっています。
先行きの見えないコロナ禍により休業を余儀なくされた事業主に対し「事業の存続」「雇用の維持」の面で雇用調整金は効果を上げてきましたが、同時にアフターコロナの時代へ向け、雇用吸収力のある業界、成長産業への失業なき労働移動へ向けた施策の打ち出しなどが今後期待されます。

◇ 厚労省HP内資料(特例措置の延長について)
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000783159.pdf

裁量労働制の制度改善についての検討会が始まりました

厚生労働省が、裁量労働制の適用業務拡大や運用改善についての検討会を7月26日に始めました。裁量労働制とは、時間配分や仕事の進め方を労働者の裁量にゆだねることで、自律的・創造的に働くことを可能にし、労働者の能力を有効に発揮できるようにするための制度です。
検討会では、厚生労働省が令和元年10月から11月に実施した、裁量労働制についての統計調査で把握した実態を踏まえ、裁量労働制の制度改善や裁量労働制以外の労働時間制度についての検討が進められます。
今回行われた調査結果によると、大半の労働者は業務の遂行方法や時間配分等において裁量を与えられていることが見られ、裁量労働制が適用されていることに総合的に好評価な労働者は全体の約8割にのぼります。一方、制度の見直しについて、事業所からは対象となる労働者の範囲が狭く、法に規定された業務内容だけではなく、業務遂行の手段や時間配分について使用者が具体的な指示をしない場合や、労使間で合意された労働者については適用対象者とし認めるべきといった意見が多くあがっています。また、労働者からは労働者の健康やワークライフバランスに配慮されるようにすべきとの意見が多くあがっています。
今回の統計調査結果では、裁量労働制が適用された労働者とそうでない労働者とでは、適用されている労働者が全体的に労働時間が長い傾向が出てきています。検討会の方向性次第で、より柔軟な働き方へシフトすることへの期待と、労働者の健康管理についての懸念が高まるなど、今後の動向に注目が必要です。

<裁量労働制実態調査の結果について(概要)>
https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/000809289.pdf

雇用保険料引き上げ検討

厚生労働省が雇用保険料引き上げの検討に入ることが7月28日に分かりました。
新型コロナウイルス感染拡大で、雇用調整助成金の給付決定額が1年半足らずで4兆円を超え、財源が逼迫しているためです。具体的な保険料率は今後、厚生労働省の諮問機関である労働政策審議会で議論し、早ければ来年度から変更の可能性があります。
雇用保険は、労働者が仕事を失った際に生活に困らないように給付される失業者向けと、雇用調整助成金など雇用安定や能力開発の事業に大きく分けられます。保険料は労働者と使用者が支払っており、一部事業には国費も投入されています。
労働政策審議会では、特例で現在は労働者が賃金の0.3%、企業が0.6%となっている保険料率の引き上げのほか、国費投入の在り方についても議論する予定です。
雇用調整助成金は休業手当を払って雇用を守った企業に対し、国が休業手当の一部を助成する制度ですが、新型コロナウイルス感染拡大を受けて昨年、日額上限を約8,300円から15,000円まで引き上げ、助成率を最大まで拡充しています。
一方で財源不足は深刻化しており、雇用調整助成金の原資となる雇用安定資金は2019年度末時点で1兆5,410億円でしたが、本年度末に864億円まで減るとの試算が出ています。本来失業者向けの事業に充てる積立金から借り入れるなどして対応していますが、こちらも2019年度末は約4兆5千億円あった積立金が、本年度末には約1,700億円まで減る見通しとなっております。

健康保持計画で最大10万円助成

労働者健康安全機構は、今年度から新たに始める健康保持増進計画助成金の手引きを公表しました。同助成金は、事業場が生活習慣病の予防に向けた健康保持計画を作成し、計画に基づき健康指導などの取組みを実施した場合、最大10万円を助成します。令和3年度中に実施した取組みが対象で、申請期間は令和4年6月30日までとなっています。助成対象となる取組みは健康測定、健康指導、研修等で、健康測定は健康指導を行うために実施する疾病の早期発見に重点を置いた健康診断を指します。健康指導は測定結果を踏まえて実施する運動指導などをいいます。研修等は事業場内の推進スタッフに向け実施したものが対象となります。この助成金は、厚生労働省の産業保健活動総合支援事業の一環として行われています。

詳細は労働者健康安全機構の下記URLをご参照ください。
https://www.johas.go.jp/sangyouhoken/tabid/1944/Default.aspx

業務改善助成金の特例的な要件の緩和・拡充

厚生労働省は中小企業・小規模事業者の生産性向上を支援し、事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)の引き上げを図るため、「業務改善助成金」制度を設けています。生産性向上のための設備投資(機械設備、POSシステム等の導入)などを行い、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げた場合、その設備投資などにかかった費用の一部を助成します。今回、新型コロナウイルス感染症の影響により特に業況が厳しい事業者に対して、8月1日から対象人数の拡大や助成上限額を最大600万円に引上げを行いました。また、助成対象となる設備投資の範囲の拡大や、45円コースの新設・同一年度内の複数回申請を可能にするなど、使い勝手の向上を図ります。

詳細は厚生労働省の下記URLをご参照ください。
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/shienjigyou/03.html

両立支援等助成金 介護離職防止支援コース コロナ対応特例

新型コロナウイルス感染症への対応として、介護のための有給の休暇制度を設け、ご家族の介護を行う労働者が休みやすい環境を整備した中小企業事業主を支援する特例制度が設けられました。休暇の取得日数合計が5日以上で、最大35万円が支給されます。主な支給要件は、①新型コロナウイルス感染症への対応として利用できる介護のための有給の休暇制度※1を設け、当該制度を含め仕事と介護の両立支援制度の内容を社内に周知すること、②新型コロナウイルス感染症の影響により対象家族の介護のために仕事を休まざるを得ない労働者が、①の休暇を合計5日以上取得※2すること、です。

※1所定労働日の20日以上取得できる制度で、法定の介護休業、介護休暇、年次有給休暇とは別の休暇制度であることが必要です。
※2対象となる休暇の取得期間は、令和3年4月1日から令和4年3月31日までとなり、過去に年次有給休暇や欠勤により休んだ日について事後的に①の休暇を取得したこととして振り替えた場合も、労働者本人に説明の上同意を得た場合は対象となります。
1中小企業事業主あたり5人まで申請可能となり、申請期限は、支給要件を満たした翌日から起算して2ケ月以内となります。

対象となる労働者、その他詳細につきましては、下記の厚生労働省・都道府県労働局が発行しておりますリーフレットをご参照ください。
https://www.mhlw.go.jp/content/000806011.pdf