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コラム

「コロナ下の労働環境の影響と最低賃金の引上げ」「改正育児・介護休業法の成立と課題」など人事労務関連レポート2021年7月号

2021 年7 月5 日

三菱総研DCS、社労士事務所による人事労務市場の「今」を解説。今日から業務に役立つ情報から今後の法改正などの情報までトータルでお届けいたします。

トピックス

コロナ下の労働環境の影響と最低賃金の引上げ

コロナ下における経営意識調査~内閣府の調査内容より~

新型コロナウイルスは経営環境を変えました。密を避けるため、人流の抑制、テレワークの推進・オンライン授業の活用、イベント各種の講演等の開催中止や規模の見直し、飲酒等を伴う飲食店の休業・営業時間の短縮等の措置が、法律上の措置を踏まえ実施されてきました。
こうした措置により、企業、とりわけ中小企業にどのような影響を及ぼしたのかと今年2・3月に内閣府で調査が実施され、5月にその結果が公表されました。調査結果によると、売り上げ減の企業は、感染拡大前(2019年)は全体の23%であったが、感染拡大後(2020年)は70%となり、採算赤字の企業は感染拡大前は22%だったが、感染拡大後は50%の企業が赤字という結果になっています。経営課題としては、当然「コロナ感染拡大による売り上げ減」その他に「材料費や外注費等の仕入れコストの上昇」等が上位の課題として上げられています。
コロナ対策の人流抑制の目的施策として、大きくクローズアップされたのが「テレワーク」ですが、本調査ではテレワークを導入している企業は2割程度で今後取り組みたいとする企業と合わせても3割程度でした。導入しない理由は、「テレワークに適した仕事がない」「業務の進行が難しい」「顧客など外務の対応に支障がある」等が主たるものです。テレワークは、大企業に較べ中小企業の取り組みが進んでいないのが実態です。この傾向は、コロナ以前の実態調査と大きく異なっていません。こうした経営管理下のもとで、注目すべき政策課題が進められようとしています。それは、最低賃金の引上げです。

経済財政諮問会議による最低賃金引上げの提言

5月14日の経済財政諮問会議で地域別最低賃金の全国加重平均(現在は902円)を1,000円に早期に実現することを打ち出しました。この1,000円の実現は、フルに働いても生活保護費に満たない「ワーキングプア」をなくす格差是正策として民主政権時代に打ち出され、引き上げの趣旨・目的が相違しているものの、安倍政権、菅政権に引き継がれ今日に到っています。昨年は、コロナ感染の経済へのマイナスの影響が大きいことから全国平均で1円の増しで結着となりました。今回大幅な最低賃金の引き上げは、低所得者の労働条件の改善はもとより、引き上げた最低賃金を支払うために生産性を向上させたり、就労者を生産性の高い職業に移動させること等も含め、意図されたものです。

コロナ下における最低賃金引上げの問題点

最低賃金の引上げの今注目されている主な論点は、雇用にどのような影響を及ぼすのか、生産性向上に結び付くかどうかです。特にコロナ下のような厳しい経営環境下では、大幅な最低賃金の引き上げは雇用にマイナスの影響が出ることは明らかです。先の内閣府の調査上でも零細経営の多い宿泊業、飲食業では非正規雇用者の削減が進むだけでなく、廃業等退出が加速されることが見込まれます。
労働経済学者の間では、最低賃金と生産性との有意関係は見い出せないとする見解が有力で、最低賃金の引上げ分を生産性向上によって吸収できなければ雇用を減らすと指摘しています。こうした状況を踏まえるなら、現下で政策的課題として進められようとしている大幅な最低賃金の引き上げは、コロナ下で苦労している中小企業、とりわけ宿泊・飲食サービス事業者及びそこに就労している従業員には更なる厳しい困難を強いる可能性が懸念されます。

改正育児・介護休業法の成立と課題

令和3年6月3日に、改正育児・介護休業法案が成立しました。

  • 出生時育児休業制度(通称男性版の産休)を新設。(令和4年10月頃予定)
    出生後8週間以内に4週間まで取得可能(2回まで分割可能)
  • 原則1回の通常の育休を男女ともに2回まで分割可能に(令和4年10月頃予定)
  • パート等非正規雇用での1年以上勤務の取得要件を撤廃(令和4年4月1日施行)
  • 企業から産休や育休制度の説明と意向確認の義務化(男性も含め取得の有無を確認)(令和4年4月1日施行)
  • 大企業(1000人超)は男性育休取得率の公表を義務化(令和5年4月1日施行)

 改正の背景事情には、厚労省が掲げた令和7年度までに男性育休取得率30%に対し、令和元年度で7.48%と1割に満たない現状があります。男性の育休は、職場に言い出しにくい、業務に支障が出てしまう、育休を取得しても短い期間となる傾向がありますが、今回の改正で、企業から男性にも育休取得の確認を義務化し、分割取得や労使合意すれば休業中の就業も可能とした柔軟な制度となりました。
 しかし、日経新聞のアンケートによると、55.4%が「この改正で男性が育休を取得しやすいと思わない」と回答しており、回答意見の中には「上司や同僚が育児休業に否定的」、「育休取得が自身のキャリア形成に不利になる不安」等の環境的要因が目立っており、今回の改正によりその点をカバーし得るかが注目です。

「職場のハラスメントに関する実態調査」~発覚後、約5割が何もせず~

令和2年6月に、大企業におけるセクハラ防止対策強化とパワハラ防止措置が義務化となり、それから4か月後の10月に実施された「職場のハラスメントに関する実態調査」が公表されました。前回のパワーハラスメントに関する実態調査から4年が経過し、ハラスメントの対策に取り組む企業の割合や労働者の状況の変化を改めて把握する為に調査が実施されましたが、その結果、ハラスメントに関する現状の問題点や特徴が見えてきました。

①ハラスメントの発生状況・ハラスメントに関する職場の特徴

過去3年間のハラスメント相談件数の推移についてはほとんどの項目で「件数が変わらない」の割合が多く、ただ、セクハラは「減少している」ようです。回答のあった6,000強の企業のうち、例えばパワハラでは相談件数増加(9.2%)、相談件数が変わらない(14.7%)、相談件数が減少(9.9%)という結果に対し、セクハラでは相談件数増加(3.0%)、相談件数が変わらない(8.6%)、相談件数が減少(8.8%)という割合でした。最も、過去3年間に相談はないと回答した企業はパワハラ(47.9%)、セクハラ(65.5%)という割合です。また、5割~9割の企業では相談ハラスメントに関する職場の特徴として、「上司と部下のコミュニケーションが少ない/ない」「残業が多い/休暇を取りづらい」「失敗が許されない/失敗への許容度が低い」等とハラスメント経験者が感じる割合が未経験者よりも高い傾向にあります。

②ハラスメントの予防・解決のための取組状況、その効果と課題

「パワーハラスメント防止措置」の義務化の影響か、8割以上の企業が「ハラスメントの内容、ハラスメントを行ってはならない旨の方針の明確化と周知・啓発」及び「相談窓口の設置と周知」を実施していました。比例し、ハラスメント予防に積極的に取り組んでいる企業の方がハラスメント経験者の割合が低い傾向となっています。 ただ、相談内容や状況に応じた適切な対応のとれる窓口担当者の割合は4割程度となっており、課題として「ハラスメントかどうかの判断が難しい」「発生状況を把握することが困難」が続いていることから、ハラスメントに対する労働者の関心と理解を深めることがさらに必要と言えます。

③ハラスメントを受けた経験

過去3年での各ハラスメントを一度以上経験した者の割合はパワハラが31.4%、顧客からの著しい迷惑行為が15%、セクハラが10.2%あり、特筆して、就職活動中またはインターンシップ参加中にセクハラを経験した割合が25.5%もありました。

④ハラスメント行為を受けた後の行動、ハラスメントを知った後の勤務先の対応、ハラスメントを受けていることを認識した後の勤務先の対応

「ハラスメント行為を受けた後の行動・ハラスメントを知った後(認識した後)の勤務先の対応」ですが、 労働者の行動としては、パワハラ・セクハラでは「何もしなかった」の割合が最も高く、勤務先の対応においても、パワハラでは最も多い割合(47.1%)、セクハラでは2番目に多い割合(33.7%)が「特に何もしなかった」という対応でした。対照的に、「問題を解決するための相談に乗ってくれた」割合も目立ち、「顧客などからの著しい迷惑行為」と、セクハラでは共に最も高い割合を占めていました。(順に48.6%、34.8%) とはいえこれら2つの対応の割合はほとんど差がありません。

制度が義務化され未だ黎明期であるため、まだ各企業共に手探り状態ではありますが、今回の実態調査により可視化された上記4つの要点を踏まえ、各企業の風土に合わせた、有効な手立てを模索いただければ幸いです。

若者雇用促進法に基づく「事業主等指針」改正(令和3年4月)

 青少年の雇用機会の確保及び職場への定着に関して、近年問題となった留意事項について、事業主等が講ずべき措置について規定した「事業主等指針」が改正され以下の事項が追加されました。

1.募集情報等提供事業者・募集者等における個人情報の管理

事業主は、募集及び採用に当たって遵守すべき事項が適切に履行されるよう、必要な措置を講じることになっていますが、新たに募集情報等提供事業者も、職業安定法に基づく職業紹介事業者等指針第4に基づき、求職者等の個人情報を適切に取り扱うこと。また、募集者等についても同様とすること。

2.就活生等に対するハラスメント問題への対応

事業主は、雇用する労働者が、就職活動中の学生やインターンシップを行っている者等に対する言動について、必要な注意を払うよう配慮すること等が望ましいこと。

事業主は、パワーハラスメント指針等に基づき、職場におけるパワーハラスメント、セクシュアルハラスメント並びに妊娠、出産、育児休業等に関するハラスメントの防止のため、雇用管理上の措置を講ずること。
令和2年10月に実施された『職場のハラスメントに関する実態調査』の結果、就職活動中またはインターンシップ参加中にセクハラ(就活等セクハラ)を経験した者の割合は 25.5% でした 。男女別では、男性の方が高く、就活等セクハラを受けた後の行動としては、「何もしなかった」が最も高く、「大学のキャリアセンターに相談した 」等が続きました。また、正式な採用活動のみならず、OB・OG訪問等の場でもセクハラ等は問題化しています。セクハラ等は行ってはならないものであり厳正な対応を行う旨などを、周知徹底し学生と接する際のルールをあらかじめ定めるなどして、未然の防止に努めましょう。

3.内定辞退等勧奨の防止

採用内定者について、労働契約が成立したと認められる場合には、 当該採用内定者に対して、自由な意思決定を妨げるような内定辞退の勧奨は、違法な権利侵害に当たるおそれがあることから行わないこと。
労働契約が成立したと認められる場合には、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない採用内定取消しは無効とされることに十分に留意し、採用内定取消しを防止するため、最大限の経営努力などを行うこと。また、やむを得ない事情により採用内定取消しなどを行う場合には、就職先の確保について最大限の努力を行うことが求められます。

4.公平・公正な就職機会の提供

採用内定又は採用内々定と引替えに、他の事業主に対する就職活動を取りやめるよう強要すること等の青少年の職業選択の自由を妨げる行為等については、青少年に対する公平・公正な就職機会の提供の観点から行わないこと。

令和3年8月1日から雇用保険継続給付金申請の添付書類が省略されます!

  • 電子申請で行う、育児休業/介護休業/高年齢雇用継続給付金の初回申請時に確認書類として提出していた「通帳等のコピー」が原則不要となります。
  • 高年齢雇用継続給付金の初回申請時に年齢確認書類として提出していた「免許証のコピー等」は、マイナンバーを届出している場合は年齢確認が出来るため、原則不要となります。(マイナンバーが未届けの場合は必要)

新型コロナウイルス感染症の影響により労働保険料の納付が困難な事業主の皆様へ

 令和3年度労働保険の年度更新期間は6月1日(火)~7月12日(月)となっており、保険料の納付期限は下記の通りです。

第1期第2期第3期
通常の納期限 7月12日 11月1日 1月31日
口座振替利用の場合 9月6日 11月15日 2月14日
事務組合委託の場合 事務組合が指定する期限

新型コロナウイルス感染症の影響により労働保険料の納付が困難な場合は、猶予制度が受けられる場合があります。
詳しくは厚生労働省HPをご確認ください。