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コラム

「地方労働行政運営方針」「職場におけるウィズコロナ時代の対応」など人事労務関連レポート2021年6月号

2021 年6 月2 日

三菱総研DCS、社労士事務所による人事労務市場の「今」を解説。今日から業務に役立つ情報から今後の法改正などの情報までトータルでお届けいたします。

トピックス

令和3年度地方労働行政運営方針

今年度の地方労働行政運営方針について

 労働行政の最大の課題として長期化する新型コロナウイルス感染症への対応を掲げています。今後は、緊急的な新型コロナ感染症対応からポストコロナへの政策に重点を置き、監督・指導の点では感染症による大量解雇に関する情報収集と関係部局間での情報共有に努め、法違反が認められた場合には、自主的な改善を促すとしています。また引き続き長時間労働の是正に関する監督指導とともに、また今年度は職場のハラスメントや勤務間インターバル、同一労働同一賃金などについても記載があり、今後の労働基準監督署の調査・指導に関する傾向に注意する必要があります。

ウィズコロナ時代に対応した労働環境の整備、生産性向上の推進

(1)「新たな日常」の下で柔軟な働き方がしやすい環境整備
「新しい働き方」に対応した良質な雇用型テレワークの導入・定着促進
(2)ウィズコロナ時代に安全で健康に働くことができる職場づくり
働き方改革の実現に向けた取組について
・勤務間インターバル制度の導入促進 ・長時間労働の抑制に向けた監督指導等 ・長時間労働につながる取引環境の見直し ・年次有給休暇の取得促進等による休み方改革の推進
(3)労働条件の確保・改善対策
①新型コロナウイルス感染症の影響による大量整理解雇等に関する情報収集及び関係部局間での情報共有に努め、関係部局と連携を図り、適切な労務管理がなされるよう啓発指導を実施する。
②「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」に基づいて労働時間管理が行われているか確認し、賃金不払残業が認められた場合には、重大・悪質な事案に対しては、司法処分も含め厳正に対処する。

最低賃金、賃金引上げに向けた生産性向上等の推進、同一労働同一賃金など

(1)経済動向及び地域の実情(新型コロナウイルス感染症による影響を含む。)を踏まえ、最低賃金額の改定等については、使用者団体、労働者団体及び地方公共団体等の協力を得て、周知徹底を図るとともに、最低賃金の履行確保上問題があると考えられる業種等を重点とした監督指導等を行う。
(2)雇用形態に関わらない公正な待遇の確保
短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律が令和3年4月1日より中小企業等に適用されたことから、雇用形態に関わらない公正な待遇の確保(同一労働同一賃金)に向けて、非正規雇用労働者の処遇改善や正社員転換を強力に推し進めていく。

総合的なハラスメント対策の推進

(1)職場におけるハラスメント撲滅対策の全国集中実施
事業主向け周知啓発の実施、ハラスメント防止措置を実施するよう事業主に助言、指導を行う。またハラスメント被害を受けた労働者からの相談に迅速に対応するとともに、紛争解決援助制度等を活用し、丁寧な対応を行う。
(2)中小企業へのハラスメント対策取組支援
令和4年4月1日より、中小企業においてもパワーハラスメント防止措置が義務化されることから、中小企業向けの説明会等の開催や委託する専門家による中小企業への個別訪問等によるハラスメント防止対 策への取組支援の活用を促すため周知を行う。

職場におけるハラスメント対策強化へ

 昨年6月に大企業に義務化されたハラスメント防止対策は来年4月より中小企業も義務化の対象となります。
埼玉労働局では、すでに義務化されている大企業への個別訪問に加えて、過去に相談事例のあった中小企業も対象とし、来年度の防止措置適用に向けてハラスメント対策強化の周知徹底を図っていくとしています。

職場におけるパワーハラスメントの防止のために講ずべき措置
  • 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
  • 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
  • 職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
  • そのほか併せて講ずべき措置
    相談者・行為者のプライバシー保護
    相談したこと等を理由とした解雇その他不利益取扱いをされない旨の定めと労働者への周知・啓発

職場におけるワクチン接種への対応について

 新型コロナウイルス感染症対策の大きな柱とされているワクチン接種について、その接種率を上げることは政府や自治体、医療機関だけでなく、企業にも求められています。
 一方で政府は新型コロナウイルスワクチンの接種に応じない労働者への不利益取扱いは不適切とする内容の答弁書を閣議決定しています。ワクチン接種はあくまでも国民が自らの判断で受けるべきとし、接種に応じないことを理由とした解雇、減給、配置転換などの不利益取扱いや、面接時に接種の有無を確認すること、取引先に接種証明の提出を求めることなどの接種勧奨は不適切としています。
 このような状況の中で企業は社員のワクチン接種への理解と接種に対する意識を高めるとともに、社員が接種時間を確保しやすく、また副反応が出た場合にも柔軟に調整できる環境整備に取り組んでいくことが求められています。企業活動に影響を及ぼさないためにも早めに対応方針を決定していく必要があります。

新型コロナワクチン接種時の勤怠取扱の概要 (内容は確認時点となります)

企業名ワクチン接種当日ワクチン接種翌日以降
三井倉庫ホールディングス株式会社
  • 就業時間中の接種は就業免除。
  • 付き添いが必要な家族の接種の際の付き添いを認め、その時間を就業免除。
  • 副反応が発生した場合、特別休暇(有給)の取得が可能。
  • 家族に副反応が発生し、看護が必要な場合、特別休暇(有給)の取得が可能。
ヤフー株式会社
  • 就業時間中の接種は、就業免除。
  • 家族のワクチン接種に付き添ったり、副反応が起きて看病する場合、積立有給休暇取得の事由として認める。
  • 接種後の副反応で就業が難しくなった場合は、特別有給休暇が取得可能。
日本生命保険相互会社
  • 就業時間中に接種可能(勤務免除)
  • 副反応を理由に休む場合に、接種翌日なら休暇を認め、「傷病欠勤」扱いにしない。
コカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社
  • 就業時間中のワクチン接種を認める。
    副反応が出て働くのが難しい場合は、その日を特別有休にできる。
  • 翌日以降に体調不良になれば、特別有休を1日取得できる。

育休促進へ「男性版産休」新設…育児・介護休業法改正案が閣議決定

 政府は、4月26日、出産・育児等による離職防止及び仕事と育児の両立を図るため、子の出生直後における柔軟な育児休業の創設等を盛り込んだ改正案を閣議決定しました。改正案の概要は以下の通りです。

No項目内容施行期日
1 男性の育児休業取得促進のための子の出生直後の時期における柔軟な育児休業の枠組みの創設 子の出生後8週間以内に4週間まで取得可能な育児休業を創設
①休業申出期限は、原則休業の2週間前まで(現行の育児休業(1か月前)より短縮)
②分割取得できる回数は2回まで
③労使協定締結及び労働者との個別合意により、事前調整の上、休業中に就業することも可能
公布日から1年6月を超えない範囲内で政令で定める日
2 育児休業を取得しやすい雇用環境整備及び妊娠・出産の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置の義務付け 次の措置を講ずることを事業主に義務付け
①育児休業の申出・取得を円滑にする雇用環境の整備
②妊娠・出産(本人又は配偶者)の申し出をした労働者に対して、事業主から個別の制度周知及び休業取得意向の確認
令和4年4月1日
3 育児休業の分割取得 育児休業(1の休業を除く)について、分割して2回まで取得することが可能 公布日から1年6月を超えない範囲内で政令で定める日
4 育児休業の取得状況の公表を義務付け 常時雇用労働者数が1,000人超の事業主に、育児休業の取得状況について公表を義務付け 令和5年4月1日
5 有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和 有期雇用労働者の育児休業及び介護休業の取得要件のうち「事業主に引き続き雇用された期間が1年以上である者」という要件廃止(労使協定締結により、雇用された期間が1年未満の者を除外することは可能) 令和4年4月1日
6 育児休業給付に関する所要の規定の整備 ①1及び3の改正を踏まえ、育児休業給付についても所要の規定を整備
②出産日のタイミングによって受給要件を満たさなくなるケースを解消するため、被保険者期間の計算の起算点に関する特例あり
公布日から1年6月(*)を超えない範囲内で政令で定める日(②は公布日から3月)

健康保険・厚生年金保険料の標準報酬月額の特例改定が延長されます

 令和2年4月から令和3年3月までの間に新型コロナウイルス感染症の影響による休業により報酬が下がった方について、標準報酬月額を特例により翌月から改定可能とする措置が講じられてきましたが、この度、令和3年4月から令和3年7月までの間に新型コロナウイルス感染症の影響により休業に伴い報酬が急減した方についても、特例改定の対象となりました。詳細については、年金機構のリーフレットをご参照ください。
https://www.nenkin.go.jp/oshirase/topics/2020/0930.files/leaflet.pdf

新たな履歴書の様式例を参考にして、公正な採用選考を

 厚生労働省において、公正な採用選考確保の観点から、JIS規格様式例(従来の履歴書の様式例)から新たな履歴書様式例の検討を行い、事業主の皆様に広く参考にしていただくための様式例が作成され、労働政策審議会職業安定分科会に報告されました。事業主の皆様におかれましても、新たな様式例を参考にしつつ、公正な採用選考が求められます。

具体的な相違点

  • 性別欄は男・女の選択ではなく任意記載欄となっています。なお、未記載とすることも可能。
  • 「通勤時間」「扶養家族数(配偶者を除く)」「配偶者」「配偶者の扶養義務」の各項目は設けられていません。

中小組合、有期・短時間・契約等労働者の「賃上げの流れ」続く
~2021春季生活闘争第5回回答集計結果について~

 連合2021 春季生活闘争につきまして、5月6 日(木)午前10 時時点で第5回回答集計が行われました。

概要

〇賃上げ要求組合、妥結組合ともに昨年同時期を上回る。
月例賃金改善を要求した5,361組合(昨年同時期比688組合増)のうち、3,111組合(同175組合増)が妥結し、賃上げ要求・妥結ともに昨年同時期を上回った。妥結内容が確認できる2,006組合のうち48.6%が賃金改善分を獲得し、98.6%が定昇相当分を確保した。
〇賃上げ額が明確に分かる中小組合の賃上げ率は、今次闘争最高に。
平均賃金方式で回答を引き出し、賃上げ分が明確に分かる1,213組合のうち、組合員数300人未満の中小組合(763組合)の賃上げ分は1,379円・0.57%で昨年同時期と同等、かつ、率は全体(0.56%)を超えるととも に、今次闘争では最も高い結果となった。
〇有期・短時間・契約等労働者の賃上げは、一貫して一般組合員を上回る。
加重平均で、賃上げ額は時給21.88円・月給4,442円、引上げ率は概算でそれぞれ2.13%・2.03%となり、今次闘争では一貫して一般組合員(平均賃金方式)を上回っている。
〇「働き方の見直し」は多岐にわたる項目で回答引き出し。
長時間労働是正、有期・短時間・契約等労働者の雇用安定や処遇改善、65歳までの定年引き上げなど、多岐にわたる項目で回答が引き出されている。

キャリアアップ助成金 令和3年度より変更

 「キャリアアップ助成金」は、非正規雇用労働者の方の企業内でのキャリアアップを促進するため、正社員化などの取り組みを実施した事業主に対して助成金を支給する制度です。変更内容の一部(正社員コース)をご紹介します。

〇支給要件の変更
正規雇用等へ転換等した際、転換等前の6か月と転換等後の 6か月の賃金(※)を比較して3%以上増額していること。※ 基本給および定額で支給されている諸手当を含む賃金の総額であり、賞与は含めないこととします。
〇加算措置の変更
  • 若者雇用促進法に基づく認定事業主が35歳未満の者を転換等した場合。(廃止)
  • 勤務地、職務限定正社員制度を新たに規定し、有期雇用労働者等を当該雇用区分に転換または直接雇用した場合
    <1事業所当たり1回のみ> ※対象として新たに短時間正社員制度を(追加)

 変更は、正社員コース、障害者正社員コース、健康診断制度コース、諸手当制度等共通化コース、選択的適用拡大導入時処遇改善コース、短時間労働者労働時間延長コースの各コースそれぞれあります。

 詳細については下記リンクをご参照ください。
https://www.mhlw.go.jp/content/11650000/000761985.pdf