社労士

コラム

「日本型雇用システム」「同一労働同一賃金」など人事労務関連レポート2021年5月号

2021 年5 月11 日

三菱総研DCS、社労士事務所による人事労務市場の「今」を解説。今日から業務に役立つ情報から今後の法改正などの情報までトータルでお届けいたします。

トピックス

「同一労働同一賃金」と日本型雇用システム③

最高裁判例を踏まえた扶養(家族)手当と住宅手当の扱いについて

 厚労省から指針として示されている「同一労働同一賃金ガイドライン」において、待遇差の不合理性の判断を例示として明示されていない手当のうち、各企業が検討を余儀なくされているものの代表的な手当として「扶養手当」「住宅手当」があります。
 両手当とも正社員には支給しているが、非正規社員には支給していないケースが多く見受けられます。「有為な人材の獲得・定着を図り、長期にわたって会社に貢献してもらうという効果を期待して支給される」ものとして、正社員に支給して非正規社員には支給されなくても不合理といえないとする、前号までで紹介した日本型雇用システムのロジックが適用されるかについて、引き続き最高裁の判決内容をもとに検討しましょう。

住宅(住居)手当について

 住宅手当の有期雇用社員への不支給の不合理性について、2018年6月1日のハマキョウレックス事件の最高裁判決と2020年10月15日の日本郵便事件の最高裁判決は、結果的には全く逆の判決となりました。ハマキョウレックス事件では正社員には配置転換があり、配置転換がない契約社員に比べ住宅費用の負担がかかることから、契約社員に不支給ということに不合理性はないと判示しました。一方、日本郵便の場合は、転居に伴う配置転換がない正社員(新一般職)に住宅手当が支給されて、契約社員には支給されないのは不合理であると判示しました。
 このように判決が異なりましたが、判断の相違は転居に伴う住宅費用の補助的要素としての目的があれば不合理性は否定される反面、両者に転居を伴う配置転換制度がない場合で支給に相違があるなら不合理と判断するという最高裁の考え方が示されたと言えます。
 事業場が複数ない中小企業等においては転居を伴う配置転換がないので、正社員のみに住宅手当を支給するとしていれば、対応を至急検討することが求められます。(不利益変更の検討をする必要がありますが手当の廃止か契約社員にも支給する等)
 特殊なケースとして、同じ最高裁の判決で長澤運輸事件では、正社員を定年退職した嘱託社員(有期契約)に対する住宅手当の不支給は、老齢厚生年金の支給、調整給の支給等「その他の事情」を考慮して、職務内容及び変更の範囲が同一であっても不合理といえないと判示しています。

扶養(家族)手当について

 最高裁は、日本郵便事件において扶養手当の判断に冒頭示した「有為人材確保論」を採用せず、長期にわたり継続して勤務することを期待して一定の生活保障をする目的で支給するのであれば、継続的な勤務が見込まれる契約社員に扶養手当を支給しないのは不合理と判示しました。
 本事件で争った契約社員の場合、有期契約(半年~1年)を繰り返し更新しており、そのことが「相応に継続的な勤務が見込まれる」と判断されたものです。
 注意する点は扶養手当を契約社員に支給しないことが不合理と判断された訳でなく、継続的な勤務が見込まれるかどうかで判断された点です。日本郵便事件の契約社員は基幹業務を担う有期で更新を繰り返す特殊なケースでの判決で、一般的な事例に適用されるものでないと経営側に関わる弁護士は指摘しています。
 実務対応策としては、有期契約の更新の上限の措置(回数、更新限度、年数)がとられているかが重要なポイントになるといえます。

テレワークのガイドラインの改定について ~ 厚生労働省 2021年3月25日公表 ~

 「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」(テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン、通称「テレワークガイドライン」)が、労働政策審議会雇用環境・均等分科会で改定最終案が審議され、3月25日に公表されました。今回の改定では、テレワークの推進を図るためのガイドラインであることを明示的に示す観点から、ガイドラインのタイトルを「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」に改定し、目次も4項目から11項目へ大幅に増えています。これまで議論されてきた「テレワークの対象業務」「テレワークの対象者等」「テレワークに要する費用負担の取扱い」「テレワークにおける労働時間管理の考え方」など、テレワーク導入にあたり、検討事項が網羅的にまとめられていますのでご確認ください。

障害者差別解消法の改正案が閣議決定されました

 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の一部を改正する法律案が3月上旬に閣議決定され、今国会中での成立が目指されています。改正案では、国及び地方公共団体に対し、障害者差別解消に必要な施策の実施促進と適切な役割分担、相互に連携を取ることが求められるとともに、企業に対しても障害者にとっての社会的障壁の除去の実施に必要かつ合理的な配慮の提供について、現行の努力義務から義務へと改めることとしています。改正案の施行は公布日から3年を超えない日とされています。
 合理的配慮は障害の特性や具体的場面、状況に応じて異なり、多様かつ個別性の高いものとされていますが、たとえば内閣府が作成した障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針においては、次のような例が挙げられています。

  • 車椅子利用者のために段差に携帯スロープを渡す、高い所に陳列された商品を取って渡すなどの物理的環境への配慮
  • 筆談、読み上げ、手話などによるコミュニケーション、分かりやすい表現を使って説明をするなどの意思疎通の配慮
  • 障害の特性に応じた休憩時間の調整などのルール・慣行の柔軟な変更

 企業側の過重な負担とならないよう、代替措置の選択も含めた企業と障害者の建設的な対話を通じて、必要かつ合理的な範囲で柔軟に対応がされることが求められることとなります。

令和3年3月1日から障害者の法定雇用率が引上げになりました

 従業員が一定数以上の規模の事業主は、法定雇用率以上の割合で障害者を雇用する義務があります。この法定雇用率が以下の通り変更となりました。

事業主区分現行令和3年3月1日以降
民間企業2.2%2.3%
国、地方公共団体等2.5%2.6%
都道府県等の教育委員会2.4%2.5%

雇用率のカウント

週の所定労働時間30時間以上20時間以上30時間未満
身体障害者0.5
重度(身体)
知的障害者0.5
重度(知的)
精神障害者0.5

高年齢雇用継続給付の見直し

 現在、企業が定年年齢を設定する場合60歳以上とされ、定年後も希望する労働者には65歳到達までの継続雇用(再雇用含む)が義務づけられています。しかし再雇用後の賃金は、定年前に比べて低下するのが一般的です。そこで、雇用保険の被保険者期間が5年以上の労働者が、原則60歳時点の賃金の75%未満に低下した場合、60歳から65歳到達までの間、賃金の低下率に応じて、雇用保険から高年齢雇用継続給付金が給付(61%以下で最大支給率15%)されます。 この給付を高年齢雇用継続給付といいますが、令和7年度から新たに60歳となる労働者への高年齢雇用継続給付の給付率が10%に減少されます。(令和7年4月1日施行)

高年齢雇用継続給付の給付率が10%に減少されます。

高年齢労働者処遇改善促進助成金(仮称)

雇用保険適用事業所であって、

  • 60歳から64歳までの高年齢労働者の賃金規定等を改定し、6ヶ月以上雇用している
  • 当該事業所に雇用される労働者に係る高年齢雇用継続基本給付金の受給額が一定割合(賃金規定等改定前後を比較して95%)以上減少している

上記いずれも満たす事業主は、高年齢労働者処遇改善促進助成金(仮称)を受給することができます。助成の内容は、当該事業所に雇用される労働者(申請対象期間の初日において雇用されている者に限ります)に係る、賃金規定等改定前後を比較した高年齢雇用継続給付金の減少額に、以下の助成率を乗じた額が支給されます。

大企業:2/3 中小企業:4/5
※助成率は令和4年度までの率。令和5、6年度については、大企業:1/2、中小企業:2/3となる予定。
※1回の申請対象期間は6ヶ月とし、最大4回(2年間)まで申請可能。2回目以降も、初回の申請時に適用された助成率を適用。

就職お祝い金が禁止されます

 令和3年4月1日から職業安定法に基づく指針が一部改正され、職業紹介事業者が「就職お祝い金」などの名目で、求職者に社会通念上相当と認められる程度を超えて金銭等を提供して求職の申込の勧奨を行うことが禁止されました。職業紹介事業者が手数料収入を得ることを目的に、就職お祝い金提供を持ちかけて転職を勧奨するなどといった事例があるため、このような行為は労働市場における需給調整機能を歪め、労働者の雇用の安定を阻害するものであり行ってはならないとされました。

入国後講習の特例措置に係る技能実習法施行規則(一部)の改正について

 新型コロナウィルス感染拡大の状況を踏まえ、入国後講習にかかる特例措置を講ずる「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律施行規則の一部を改正する省令」が2021年2月26日に、施行されました。入国後講習とは、外国人技能実習生が入国後の実習開始前に行われるものです。

《改正点》

 ①原則、入国前講習を過去6ヶ月以内に受講した人は入国後講習の時間を短縮できるとされていたところ、特例で2019年8月1日以降に受講した人も対象とし同日以降に、技能実習生が受講する講習を入国前講習として認めることになりました。
(2021/2/26-2021/7/31に申請がなされた、若しくは、2021/2/26時点で申請がなされ審査が行われている技能実習計画。)

 ②原則、入国後講習の総時間数を第1号技能実習の予定時間全体の6分の1以上から12分の1以上に短縮できるとしているところ、技能実習生が本邦外において、「45日以上の期間かつ240時間以上」の課程を有し、座学により実施される講習を受けているときは、入国後講習の総時間数を第1号技能実習予定時間全体の24分の1以上に短縮することを認めることになりました。

 2021年2月26日以後に申請がなされた技能実習計画、若しくは、2021年2月26日時点で既に申請がなされ、審査が行われている技能実習計画の認定申請について、当分の間適用されます。
 ※特例の適用を受けた場合も、入国前講習と入国後講習の所定時間数の合計は、現行の施行規則に規定されている総時間数と同じになることに留意してください。