社労士

コラム

「同一労働同一賃金」「新型コロナウイルス対応」など人事労務関連レポート2021年3月号

2021 年3 月2 日

三菱総研DCS、社労士事務所による人事労務市場の「今」を解説。今日から業務に役立つ情報から今後の法改正などの情報までトータルでお届けいたします。

トピックス




「同一労働同一賃金」と日本型雇用システム①

賞与・退職金の最高裁判断

 過去のレポートで「大阪医科薬科大学事件」「メトロコマース事件」「日本郵便3事件」の最高裁の判決について紹介してきました。
 先の2つの事件で争われた最大の焦点は「賞与」「退職金」を非正規(有期契約)雇用労働者に支給しないことは不合理と認められるかどうかについてで、最高裁は不合理とは言えないと判示しました。
 不合理性の判断要素としてあげられている3要素「職務の内容」「変更の範囲」「その他の事情」のうち「その他の事情」として「正職員として職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図る目的」から「賞与」・「退職金」を正職員に支給し、非正規雇用労働者には支給しないとしても不合理と言えないと判示しました。この「正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図る目的」とする制度は「(有為)人材確保論」と言われており、日本型雇用システム(メンバーシップ型雇用システム)の代表的な考え方です。最高裁はこの日本型雇用システムを不合理性の判断基準の「その他の事情」として容認したと言われています。

日本型雇用システム

 バブル崩壊以降、経団連(日経連)が推奨してきた「企業の基幹的業務を担うのは無期契約の正社員を活用し、定型的・単純な業務を担うのは景気の調整弁としても活用できる有期雇用労働者を活用する」とした日本型雇用システムにより、非正規雇用労働者が労働者の約4割にも達し、賃金水準が正規雇用労働者の約6割の水準という格差となり大きな社会的問題となりました。平成24年に非正規雇用の増加や格差を是正するための施策として労働契約法の改正に至りました。今回その格差をめぐって争われたわけですが、終身雇用、年功的賃金(定期昇給)という日本型雇用システム(メンバーシップ制)に守られた正社員に対し、不安定な有期雇用労働者の賃金のうち、賞与、退職金の不支給が容認されたことは、格差是正の立法趣旨に沿うものとは、言い難いと考えます。「正社員としての職務を遂行し得る人材」とは、職務・勤務地等を限定されず、使用者の業務上の指示により配置転換を原則受け入れ、必要に応じて長時間労働する者で、一般的に職務(ジョブ型)に基づき採用される非正規雇用労働者とは働き方は相違するのは当然です。働き方に相違点があっても格差を是正するには、ヨーロッパ並みの正規、非正規間の均等待遇とまでは望めませんが、2事件の高裁判決のような均衡待遇(退職金の一定割合の支給、賞与不支給は不合理)の考え方が妥当と思われます。しかし、最高裁は不合理性を認めず均衡論を採用しませんでした。




新型コロナウイルス対応(在宅勤務に関する留意点)

 在宅勤務の方法が労働法規に適合しているか、就業規則と矛盾がないか、十分な労務管理や情報管理ができるかという問題が生じることが考えられます。そこで厚生労働省は「テレワークガイドライン」を公表しておりガイドラインも踏まえながら在宅勤務の制度設計を行う必要があるとしています。

労働時間管理

 在宅勤務であっても、労働者の労働時間について適正に把握する義務があります。自宅は会社の事業場外であることから、在宅勤務に「事業場外みなし労働時間」制度を適用し、実際の労働時間にかかわらず、所定労働時間労働したものとみなすことができるかが問題となります。事業場外みなし労働時間制度は「労働時間を算定し難いとき」にのみ適用できます。「労働時間を算定し難いとき」であるというためには、次の要件をいずれも満たす必要があります。
①情報通信機器を通じた使用者の指示に即応する義務がない状態であること
②随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと

 また在宅勤務は、過重労働の歯止めが利かなくなる可能性があるため、時間外労働や休日労働は原則として禁止する等も考えられます。

情報管理

 在宅勤務の場合、直接管理ができないため、情報漏えいのリスクは会社での勤務に比べて高くなるものと思われます。したがって、秘密情報を持つ従業員に対して在宅勤務を命じる(認める)際には、情報管理がなされうる社内体制が構築されていること等の情報漏えいリスクが低減されていることを確認することが必要と考えられます。



雇用調整助成金についてのお知らせ

特に業況が厳しい大企業への雇用調整助成金の助成率引上げ

 緊急事態宣言の発出に伴い、緊急事態宣言対象地域の知事の要請を受けて営業時間の短縮等に協力する飲食店等に対しては、雇用調整助成金に係る大企業の助成率を最大10/10に引き上げることとしています。これに該当する大企業および中小企業の全ての事業所を対象として、令和3年1月8日以降緊急事態宣言解除月の翌月末までの休業等については、雇用維持要件の緩和も予定されています。
 これに加え、生産指標(売上等)が前年又は前々年同期と比べ、最近3か月の月平均値で30%以上減少した全国の大企業に関して、当該宣言が全国で解除された月の翌月末まで、雇用調整助成金の助成率を最大10/10に引き上げます。

助成率(解雇等がある場合)助成率(解雇等がない場合)
大企業 2/3 ⇒ 4/5 3/4 ⇒ 10/10
中小企業 4/5 10/10

※特例措置以外の場合は、大企業は1/2、中小企業は2/3

雇用調整助成金の受給期間の延長

 通常、雇用調整助成金は、1年間の期間(対象期間)内に実施した休業等について受給することができますが、新型コロナウイルス感染症にかかる雇用調整助成金の特例措置延長に伴い、1年を超えて引き続き受給することができるようになりました。

 ※1年を超えて引き続き受給できる期限は令和3年6月30日までとなります。

雇用調整助成金の特例措置

 雇用調整助成金等については、緊急事態宣言が全国で解除された月の翌月末まで現行の特例措置を延長することになりました。その後は、助成率や上限額の特例が徐々に縮減されることが想定されています。最新情報をご確認ください。




在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQを公表/国税庁

 新型コロナウイルス感染防止の一環として、在宅勤務を実施する企業が増えています。また、必要な費用として在宅勤務手当を支給する企業も増えている中、国税庁は「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)」を公表し、企業が従業員に手当を支給した場合や費用負担を行う場合の課税関係の取扱いを示しています。

在宅勤務手当

 在宅勤務に通常必要な費用の実費相当額を精算する方法により支給した場合は、課税する必要はありません。一方で、例えば毎月5,000円を渡切りで支給するなど、業務に使用しなかった場合でも返還の必要がないものを支給した場合は、課税する必要があります。

通信費に係る業務使用部分の計算方法

 業務のために使用した基本使用料や通信料等=[従業員が負担した1か月の基本使用料や通信料等]×[その従業員の1か月の在宅勤務日数/該当月の日数]×1/2
 通話明細等で業務使用分を確認できる「通話料」や上記算式で算出したものを支給する場合には、課税しなくて差し支えありません。

電気料金に係る業務使用部分の計算方法

 業務のために使用した基本料金や電気使用料=[従業員が負担した1か月の基本料金や電気使用料] ×[業務のために使用した部屋の床面積/自宅の床面積]×[その従業員の1か月の在宅勤務日数/該当月の日数]×1/2
上記算式で算出したものを支給する場合には、課税しなくて差し支えありません。
 詳細は、こちらです。https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0020012-080.pdf




年金手続きおよび労災保険請求等の押印原則廃止

 令和2年12月25日より、年金手続きの申請・届出様式の一部を除き、押印が原則廃止されました。令和2年12月25日以降も、押印欄のある旧様式は使用いただけます。また、旧様式により提出される場合も、押印は必要ありません。

(※)引き続き押印が必要な届書は次のとおりです。
  • 国民年金保険料口座振替納付(変更)申出書
  • 国民年金保険料口座振替辞退申出書
  • 委任状(年金分割の合意書請求用)
  • 公的年金等の受給者の扶養親族等申告書
  • 健康保険・厚生年金保険 保険料口座振替納付(変更)申出書
  • 健康保険・厚生年金保険 保険料預金口座振替辞退(取消)通知書
(※)引き続き押印が必要な届書は次のとおりです。
  • 国民年金保険料口座振替納付(変更)申出書
  • 国民年金保険料口座振替辞退申出書
  • 委任状(年金分割の合意書請求用)
  • 公的年金等の受給者の扶養親族等申告書
  • 健康保険・厚生年金保険 保険料口座振替納付(変更)申出書
  • 健康保険・厚生年金保険 保険料預金口座振替辞退(取消)通知書

 また、労災保険の請求等についても、すべての書類において押印は不要となります。請求人等の記名について、全て同一の筆跡と思われる場合や全て情報通信機器を使用した印字である等、記名の信ぴょう性につき疑義が生じた場合については、電話照会等により確認が行われることがありますのでご留意ください。