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コラム

「同一労働・同一賃金 最高裁判決について(3)」人事労務関連レポート2021年1月号

2021 年1 月6 日

三菱総研DCS、社労士事務所による人事労務市場の「今」を解説。今日から業務に役立つ情報から今後の法改正などの情報までトータルでお届けいたします。

トピックス

同一労働・同一賃金 最高裁判決について(3)

改正後の「同一労働・同一賃金」の不合理性の判断基準

 法改正前後も労働条件(待遇)の「不合理な相違」を禁止していますが、旧労働契約法20条では「職務内容、職務内容及び配置の変更範囲、その他の事情」という諸事情を考慮して不合理性を判断することのみを定め、その他の事情をどのように考慮するか明確に示されていませんでした。改正された「短時間・有期雇用労働法8条」では「①個々の待遇ごとに(「それぞれについて」)不合理性を判断することを明確にしたこと、②当該待遇の性質・目的を考慮すること(「当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして」)を明示したこと、そして③考慮する事情を当該待遇の性質・目的という観点から限定し、当該待遇の性質・目的に照らして不合理性を判断する、すなわち、当該待遇の性質・目的と実質的に関連しない事情は考慮しないことを示した」として、今回の「賞与」「退職金」の判決は、旧労働契約法20条に対するもので、改正法およびそれに基づくガイドラインの考え方(賞与に関して)とは異なると明確に指摘されています。従って人材確保論による事情は考慮されない可能性もあります。さらに改正法14条で待遇の相違の内容と理由に関する説明義務を使用者に課しています。このことによって十分説明したかどうかも踏まえ「不合理性」が判断されることも留意すべきと指摘されています。従って今後皆様の会社で賃金制度等改正される場合、上述した今回の判決の特徴を踏まえ、改正法と一体となって施行されたガイドラインを参考に検討していくことが求められます。
 尚、次号は同一労働・同一賃金に関する賃金制度等改正をする場合の留意すべきポイントについて考えてみることにします。


障害者雇用率引上げ時期の変更

 障害者の雇用について、令和3年1月1日から障害者雇用率を現在の2 . 2パーセントから2 . 3パーセントに変更することが決まっていましたが、8月および9月の労働政策審議会障害者雇用分科会において、現在の新型コロナウィルスによる雇用情勢の悪化への使用者側への配慮等も含め、引き上げ時期を令和3年3月1日に後倒しにすることが決定しました。
 この決定は、公益・労働者・使用者・障害者に係る「代表者」から、

  • 障害者雇用は障害者ではない労働者の雇用の補完的位置づけであるべきではなく、景気状況に左右されるべきではない
  • テレワーク等働き方が大きく変わっており障害者の業務の在り方も変わる可能性がある中で、その対応可能な業務を整理する時間を確保してから引き上げをする必要あるのではないか
  • 年度を超えて開始時期を後倒しにすることは、障害者雇用を促進していくという機運を大きく損なうのではないか等様々な意見が出された上で決定されたと言われています。

 たしかに新型コロナによる景気の減退により雇用率引上げを安易に繰り延べることは、障害者雇用は二の次であるという誤ったイメージを付与してしまう恐れもありますし、テレワーク等働き方が大きく変わろうとしている中、新たな障害者の雇用イメージを共有できないうちに雇用率だけ上げるというのも、ただ単に障害者の雇用を増やせばよい、という誤ったイメージを付与することにもなりかねません。今回の決定には、障害者の持つ能力を有効に発揮し職業の安定を図るという法の目的に則し雇用を促進していかなければいけない、というメッセージも含まれているように思えます。
 SDGsについて、最近ではテレビでも見かけることが多くなりました。昨年の9月号および10月号にも記載しましたが、弊社でも国連グローバルコンパクトに署名するなど、主に目標8の実現に向けて取り組みを進めております。すべての労働者が働きがいをもって働きながら経済成長を目指す。この視点をもって、今回のニュースを見ると、ただ単に景気が減退しているから繰り延べられた、というわけでもないように見えますね。


押印・署名が廃止されます(令和3年4月1日施行予定)

 労働基準法、最低賃金法の規定に基づき使用者に提出を求めている届出などについて、押印または署名を求めないことが決定されました。令和3年4月1日施行予定です。
 事業所の労働者の過半数で組織する労働組合または労働者の過半を代表とする者の記載のあるものについては、チェックボックスを設けて確認する方法をとるようです。


雇用調整助成金 ~今後の見通し~

 新型コロナウイルス感染症に係る雇用調整助成金の特例対応につき、現在の雇用情勢・感染の増加傾向に伴い、以下のように延長されることとなりました。

特例措置の緊急対応期間:令和3年2月末まで延長
昨今の雇用情勢に鑑み、いったんは令和2年12月31日まで延長された特例対応ですが、11月27日の閣議の後、更に令和3年2月末まで延長することが発表されました。尚、3月以降については、雇用情勢が大きく悪化しない限り段階的に縮減が図られる見通しです。
特例水準:現行水準の維持
利用可能な特例措置の内容については、高助成率や要件緩和などすべて引き続き令和2年12月31日まで延長となっております。また、現時点では報道での発表のみとなりますが、令和3年2月末までは現行水準が維持される見通しです。

令和3年3月より、保険証の代わりにマイナンバーカードが利用できるようになります

 今年8月から、マイナンバーカードの健康保険証利用申し込みが始まっています。
 令和3年3月より順次開始としておりますが、従来どおり保険証の利用も可能です。

マイナンバーカードを保険証利用するメリット
  • 保険証としてずっと利用できるため、保険者が変わっても保険証の切り替えが不要となる
    • 保険者への加入・家族の異動届は従来通り必要です
  • オンラインによる医療保険資格の確認により、限度額認定のための書類の持参が不要になる
  • 健康管理や医療の質の向上が期待できる
    • マイナポータルで2021年3月(予定)から自身の特定健診情報を、2021年10月(予定)から自身の薬剤情報を確認できるようになります
  • 医療費控除が便利になる
    • マイナポータル経由で医療費を取得し、手続きができるようになります

    ※マイナポータル:政府が運営するオンラインサービス。マイナンバーを使ってアカウント登録することで、子育てや介護をはじめとする行政手続がワンストップでできたり、行政機関からのお知らせを確認できたりする。

マイナンバーカードを保険証として利用するには
  • マイナポータルのウェブページから保険証利用登録する
    • 医療機関によっては、マイナンバーカードの使用ができない施設もあるため、受診する前に確認が必要です。
    https://myna.go.jp/html/hokenshoriyou_top.html
    健康保険証利用申込のお問い合わせ

令和3年の労災保険率について~令和2年分より変更はありません~

 労災保険率については、原則として3年ごとに改定しており、通常であれば次回は令和3年4月に改定予定となっておりましたが、改定を見送ることとされました。これにより、令和3年度も現行の労災保険率、特別加入保険料率及び労務費率のままとなります。詳細の保険率は下記をご確認ください。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/rousai/rousaihoken06/rousai_hokenritsu_kaitei.html


雇用保険失業認定日の限定的な特例措置について

 今般、高齢(60歳以上)であること、基礎疾患を有すること及び妊娠中である受給者の方についてのみ、引き続き、当面の間、郵送による失業認定手続きを実施することとされました。なお、指定されている失業認定日に来所いただき失業認定手続きを行うことも可能です。

※上記の方以外については、ハローワークへ来所のうえ、失業認定を受ける必要があります。

【認定日の限定的特例措置期間】
 令和2年10月1日から当面の間
【郵送による証明認定】
 指定されている失業認定日当日から7日以内に「雇用保険受給資格者証」と「失業認定申告書」・「本人宛返信用封筒」等必要書類をハローワークに郵送し失業の認定を受けてください。

※失業認定申告書の備考欄に「高齢であることから/基礎疾患を有することから/妊娠中であることから、新型コロナウィルス感染防止のため安定所に来所困難」と必ず記載してください。

健康保険・厚生年金保険料の標準報酬月額の特例改定が延長されます

 令和2年4月から7月までの間に新型コロナウイルス感染症の影響による休業によって、報酬等が著しく下がった方で、一定の条件に該当する場合に対象となる標準報酬月額の特例改定が設けられていましたが、この度その対象期間が延長され、2020年12月の休業まで適用されることになりました。
 その他、令和2年4月または5月に休業により著しく報酬が下がり、すでに特例改定を受けている方については、8月に支払われた報酬の総額が、9月の定時決定で決定された標準報酬月額に比べて2等級以上低い場合は、8月の報酬で定時決定が可能となる新たな措置も講じられました。これら特例改定の延長等の詳しい内容については、年金事務所のリーフレットに記載されています。
https://www.nenkin.go.jp/oshirase/topics/2020/0930.files/leaflet.pdf