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コラム

サーベイ結果活用の高度化

2020 年11 月4 日

松井 有沙

コンサルティング事業本部組織人事ビジネスユニットヒューマンキャピタル部

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社

コンサルタント松井 有沙

 ストレスチェックの義務化(対象:常時使用する労働者50人以上の事業場)や、従業員満足度・エンゲージメントに対する意識の高まりを背景に、社員に対して定期的に何らかのサーベイを行っている会社は多くあるだろう。一方で、その結果を組織づくりに十分活かせているかといえば、自信を持って「YES!」と答えられるケースは少ないのではないだろうか。本コラムでは、人事部門としてサーベイ結果を活用していくためのポイントと分析のプロセスをご紹介したい。

1. サーベイ結果は埋もれやすい

 サーベイ結果は分かりやすいレポートとしてまとめられ、現場に共有しているにもかかわらず、いつの間にか忘れられてしまっていることはないだろうか。せっかく自組織を見つめ直す貴重な機会でありながら、多くの会社において結果を有効活用できない理由は、以下の3つと考えられる。

人事としての方針・戦略が不明確
「何のためにサーベイを実施するか」「より良い組織に向けて何をKPIとするか」「何を測定すべきか」といった観点が不明確だと、サーベイ実施自体が目的化してしまい、レポートを各組織の管理者に返却することで、目的が達成されたと誤認してしまう。本来であれば、組織を客観的に見るツールとして活用し、各組織をフォローしていくことが望ましいが、これではレポート返却後のアクションにはつながらない
レポートと自組織とのミスマッチ
専門業者が作成するレポートでは、コメントは汎用的な表現となる場合が多いため、組織の改善に活かすには、自社・自組織の特徴に沿った「読み替え」が必要となり負担が大きい。また、サーベイそのものが自社に合っていない場合もあり、例えば「見たい観点が測定できない」「受検者によって質問の受け取り方が異なり、結果の信頼性がない」といった状況であれば、結果そのものが活用できない可能性がある
結果に対する認知のバイアス
レポートでは、結果が数字で表されているため、その良し悪しが注目されやすい。しかも、総合的な結果が強く印象づけられるため、多少スコアが低い項目があっても看過されやすく、かつ何が作用してその結果になったのかという観点が希薄になりやすい。その結果、レポートの内容は深掘りされることなく放置されてしまう

2. データから示唆を見つけ、現場にフィードバックする

 前章で述べた①のように、サーベイ実施の方針や戦略が不明確な場合には、早急に明確化していただくことをお勧めする。また、②で紹介したサーベイ自体が自社に合っていないと思われる場合は、価格だけを選定基準とせず、自社の目的や仮説に基づいたサーベイ選定を推奨する。
 その上で、②や③の課題を解決し、サーベイ結果を有効活用していくための方法として、データ分析・活用の手順の一例を紹介したい。汎用のレポートだけに依存せず、独自のデータの読み解きを通じて、各組織にとって使いやすい情報へと変換していく作業だ。手間はかかるが、事業部門をサポートする立場として、より大きな貢献につながるものである。
 分析にあたっては、表計算ソフトだけでも十分可能であるが、統計分析ソフトの活用により、より高度な分析が可能となる(オンラインでは初心者用の解説動画が多数あるため、苦手意識を持っている方には、絶好の学習機会となるだろう)。

サーベイ結果に影響を与えている項目を特定する
人事がKPIとしている指標(この場合、サーベイの特定の項目)に対して、サーベイの各種ある項目のうち、全社傾向としてどの項目が特に影響しているのか(スコアとしての相関性が大きいか)を特定する。これにより、施策として結果に直結しやすいものを浮き彫りにする。例えばKPIを「従業員満足度」とし、「上司からのサポート」の項目との相関性が高いと判明した場合には、従業員満足度は上司からのサポートによって高まりやすいと仮説を立てられる
サーベイ結果から、良い/悪い組織を抽出
サーベイ結果に基づき、上位20%を目安に状態が良い組織、下位20%を目安に状態が悪い組織としてフラグを立てる
属性ごとにグループ化し、特徴を把握
営業、技術といった組織属性やサーベイの回答傾向等から、全社を複数グループに分割する(サーベイの回答傾向によるグループ化は、統計分析ソフト等を利用して実施が可能)。そして、グループ間の比較や、各グループにおける組織状態が良い/悪い組織(②で抽出)の共通点の明確化を通じて、各グループ特性に合致した課題・打ち手の仮説を立てる
仮説検証(現場へのインタビュー)
データだけを結論とするのではなく、③で区分したグループの代表的な組織に対して、インタビューを実施する。どういう原因で組織状態が悪化しやすいのか、従業員のモチベーションが高まりやすいのかについて、人事としての仮説を検証する
レポートとして現場に共有し、フォローする
②~④の結果を管理職と共有し、各組織の実情に合った打ち手の方向性や注意すべき項目を話し合う。レポート共有後も、管理職との定期的な情報共有等を通じて組織状態をモニタリングし、必要に応じて人事部門からサポートを行う

3. 最後に

 人事領域でもデータ活用が叫ばれるようになって久しいが、人事業務の実態としては、「カン」や「コツ」がものを言う場面が多くあることだろう。
 確かにデータだけで、配置や育成等の人事的な意思決定を行うのは難しい。データはあくまでも、意思決定を行うための参考情報だ。ただし、どのような状況でも公正な判断ができるとは限らないし、生き字引のようなベテラン人事担当者もいつかは退職する。人事データの分析・活用は、このような状況にこそ価値を発揮する。なぜなら、それは意思決定の精度を上げるだけでなく、データの蓄積と分析の記録によって、言語化されなかった「カン」や「コツ」を形式知として次代に伝え、自社の人事機能を高める可能性を秘めているからだ。ぜひデータ活用の第一歩として、サーベイ結果を分析してみることから始めてみてはいかがだろうか。