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コラム

現代における人事評価の在り方

2020 年9 月7 日

大阪ビジネスユニット組織人事戦略部

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社

コンサルタント朝日 祐輔

 「人事評価の時期が来る度にどうつけていいか困っている」、皆様の会社でそのような声は聞こえてこないだろうか。直近では、新型コロナウイルスの影響もあって、多くの企業でテレワークが急速に導入されており、ますます部下の「働き」が見え辛くなっている。そんな環境だからこそ、企業として今あらためて考えるべき人事評価の在り方とそのポイントについてお伝えする。


1.人事評価に「正しい」は存在しない

 「人事評価」と聞いて、あなたは何が頭に浮かぶだろうか。今期の営業成績が良かった方には「楽しみ」かもしれないし、部下を10人以上抱える管理職の方であれば「半期に一度の憂鬱」かもしれない。人事部の担当者に至っては「現場と経営層とのすり合わせで神経をすり減らす」と思われる方もいらっしゃるだろう。
 筆者はこれまでにクライアント企業の人事評価制度の見直し・設計に多く携わってきたが、多くの方が思うのは「結局、よくわからない」、これではないだろうか。評価者が「評価項目の表現が曖昧で、部下の何を評価すればいいのかわかり辛い」のであれば、部下も「何を評価されたのか、また基準も良くわからず、納得いかない」のは自明だろう。
 では、「企業はその課題に対して何も行動を起こしてこなかったのか」と言うと、そうではない。日々の業務に忙殺されながらも、新しく取り入れるべきものについて日々アンテナを張り、取捨選択・導入検討されたはずだ。優秀社員の行動特性に基づき、会社として具体行動を評価する「コンピテンシー評価」や、直接の上司だけではなく、周囲の同僚や後輩部下にもフィードバックをもらい、自己評価と併せて自身の強みと弱みを明確にする「360度評価(多面評価)」等は、皆様の会社でも検討、もしくは導入されているケースも少なくないのではないだろうか。
 そこまでしても、やはり悩みが尽きないのが「評価」という業務であろう。人が人を評価するということに「絶対に正しい正解」はなく、時代が移ろう中で、社会の動向や企業の内部環境・社員感情に応じて、それこそ都度「調整・適応」していかなければならないものであるからだ。ただし、その中にも「不変の原則」は存在する。キーワードは「観察」だ。


2.「観察」することが管理職の第一歩

 評価業務を行うにあたり評価者が取り組むべきステップとしては、大きく次の4つが考えられる。

ステップ0:会社の評価項目やその判断基準について理解する

ステップ1:部下の働きを「観察」し、事実を収集する

ステップ2:収集した事実を基に、評価項目との結び付けを行う

ステップ3:部下の職務/職能基準のレベルに合わせて、評価判断する

このステップを見て「当たり前だ、そんなのやっている」と思われたかもしれないが、次の結果を見てほしい。リクルートマネジメントソリューションズ社が実施した「人事評価制度に対する意識調査」によると、人事評価制度への不満を感じている社員は全体の47.8%と半数近い結果となり《図表1》、その理由としては、「何を頑張ったら評価されるのかがあいまいだから」が54.4%、「評価基準があいまいだから」が47.6%となっている《図表2》。これは評価者としては無視できない結果ではないだろうか。
図表1 人事評価制度への満足度
(出所)「人事評価制度に対する意識調査」(2016年12月、リクルートマネジメントソリューションズ)※20代~40代の正社員・非管理職を対象に調査

図表2 人事評価制度への満足/不満足の理由(複数回答)
(出所)「人事評価制度に対する意識調査」(2016年12月、リクルートマネジメントソリューションズ)※20代~40代の正社員・非管理職を対象に調査

 ここで共通する「あいまいさ」とは何であろうか。それは、評価者が日々の部下の働きを「観察」できておらず、明確な評価結果の理由を説明できないことに起因するのではないだろうか。収集した事実に基づき、「あの時あなたは△△という行動をしてくれたけど、あなたに求める期待役割から考えると、私は○○までできるようになってほしいと思っている。だから、この項目は3と評価した」といった具合に、「何をもって」「何の基準で」「それをどのように判断したか」が含まれる形で是非伝えてほしい。
 また、結果としてこの「観察」こそがマネジメントに他ならない。「観察」した事実を基に、業務進捗や人員配置、リスクについて検討・判断・調整することが「マネジメント」であり、その事実をもって部下の成長を促すことが「人事評価」である。

3.新しい時代での「観察」とは

 新型コロナウイルスの影響で、我々の働き方は大幅な変更・見直しを余儀なくされた。設備が整っていない中でのWEB会議やテレワークなど、世界の大企業のトップが「今回のパンデミックでデジタル化が加速した」とこぞって発言している通り、日本でも急激な変化への対応に追われた。特にテレワークについては、東京都が調査した「テレワーク導入緊急調査」の結果では、2020年3月から4月の1ヶ月間で、導入企業は24.0%から62.7%に増加している。
都内企業(従業員30人以上)のテレワーク導入率は、3月の時点と比較して大幅に増加
(出所)「テレワーク導入緊急調査」(2020年5月、東京都)

 皆様の会社での導入状況はいかがであろうか。完全テレワーク化されているところもあれば、業務の性質上、一部の部署のみで導入されているケースもあるだろう。その中で、テレワーク導入を躊躇する意見として聞かれるのは、「家でちゃんと仕事をしているか分からない」という声だ。
 ここで考えるべきは、「どうすれば行動を監視できるか」ではなく、「いかにして求める成果を具体行動と結びつけられるか」だ。これは目標管理やアクションプランにて、部下自身が目標を設定することを想定している。部下自身が目標を設定することで、より具体的な行動へのブレイクダウンがイメージしやすいからだ。
 目標を設定する上でポイントとなるのは次の3点である。

ポイント1:目標を基に、それを成すための具体行動に要素分解する
目標例)顧客との信頼関係の維持・向上
手段例)入電もしくは直接訪問等、接点の創出(月1回/社)
各顧客の課題の抽出とそれに対するソリューション提案
ポイント2:達成された状態を想定し、逆算的に大まかなマイルストーンを設置する
例)第一四半期:8割以上の顧客の課題を抽出
第二四半期:会社として提案可能な検討案を作成の上で部長に上申
第三四半期:先方に提案
第四四半期:提案後の結果を受けて次年度に繋げる 等
ポイント3:目標を説明した時に、第三者が理解できる内容で表現する
 
 これらを踏まえれば、直接会う機会が減ったとしても、月一等の定期的な進捗共有の中で、部下の働きを一定レベルで「観察」できるはずだ。当然ながら、評価者へのタスクを工夫し、評価者としても、部下の働きが見えるような目標を一緒に作り上げる必要があるだろう。
 また、今後のDX(デジタルトランスフォメーション)の流れを考えると、「観察」の在り方が変わっていくことは想像に難くない。実際の働きの「観察」から、システム上に管理された情報の「観察」へ、管理職のマネジメントへの考え方を大きく変えるフェーズに来ているのかもしれない。

4.最後にものを言うのは部下との「信頼関係」

 どんなに緻密な制度を作っても、どれだけ言葉を並べても、最後の最後で「でも、あの人には評価されたくない」と思われては元も子もない。ここで、本稿で紹介した内容を今一度思い返してほしい。筆者は、「観察」することがどんな環境下でも重要だという話を繰り返してきた。これは、「観察」が「人事評価」や「マネジメント」に欠かせないものであることは勿論だが、何より「信頼関係」を維持・向上するために、原始的だが最も重要な手段であるからだ。自分に興味を持ってくれない人間の言う事に、あなたは耳を傾けるだろうか?