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コラム

「同一労働・同一賃金 最高裁判決について(2)」人事労務関連レポート2020年12月号

2020 年12 月2 日

三菱総研DCS、社労士事務所による人事労務市場の「今」を解説。今日から業務に役立つ情報から今後の法改正などの情報までトータルでお届けいたします。

トピックス

同一労働・同一賃金 最高裁判決について(2)

日経記事・暗雲広がる同一労働同一賃金

 前回に続き、10月13日、15日に下された最高裁判決関連について取り扱うこととします。この判決を受けて日本経済新聞11月4日の朝刊の「中外時評」でセンセーショナルな見出しの「暗雲広がる同一労働同一賃金」という論説が掲載されていました。論説の主旨は、13日の大阪医科薬科大学事件のアルバイトの賞与無、メトロコマース事件の退職金無とする判決は、非正規従業員に対する不合理な格差を是正させることに寄与するのではなく、正規・非正規の格差の二極化構造を温存させないか懸念することと、判決理由として賞与・退職金の支給には「正職員・正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的」とした「有為人材論」により、非正規従業員に支給しないとする会社側の措置が不合理でないとしたことは、日本型雇用システムにお墨付きを与えた格好で、職能給制度や年功賃金から成る日本型雇用システムを維持しようとすればするほど、非正規の処遇向上が妨げられる構造になるというものです。
 結局、最高裁判決は従来型の「日本型雇用システム」をとっている企業では非正規従業員に対し賞与や退職金を不支給としても不合理とはならないが、ジョブ型雇用では不合理と判断される可能性があるとし、「日本企業の大半は職能給制度を持ち、賞与や退職金を勤続年数に連動させている。」ので、これらの企業において非正規従業員の格差是正を図るための「同一労働同一賃金」の施策の先行きに「最高裁判決は暗雲を広げる。」とまで述べています。
 反面「デジタル化とグローバル化で企業の人事・賃金制度は変革期にある。」「年功制や順送り人事を廃止し、職務ごとに社内外から最適な人材を起用するジョブ型雇用を広げていくことは、格差是正の地ならしの意味も出てくる。最高裁判決は雇用の構造変化を念頭におきながら読み解く必要がある」と述べています。
 賞与不支給のアルバイトと正職員とに、「職務内容」と「職務内容及び配置の変更範囲」に一定の相異があり、アルバイト職員の正社員への登用制度の「その他の事情」を考慮すると、新規採用の正職員の基本給+賞与の合計額と比較して55%程度(アルバイトの賃金)の水準にとどまることを斟酌しても、不支給は不合理であるとはいえないとする最高裁の判決は、非正規(有期雇用)労働者に対する不合理な労働条件の禁止を法制定し、格差を是正させることの趣旨に対する衝撃的な判決で、論説の筆者同様違和感を感じざるを得ません。

同一労働同一賃金ガイドラインの賞与について

 有期雇用者に対する不合理な労働条件を禁止する旧労働契約法第20条の制定の前提は、非正規雇用が雇用全体の約4割に達し、賃金水準が正規雇用に対し約6割で、このまま放置すれば社会不安定の要因になるため、社会的課題として格差を是正するための施策の一環であったはずです。そうするとその立法趣旨と今回出された「有為人材論」を基本とする法解釈論は果たして整合性がとれているか疑問で、これから様々なところで議論がかわされると思います。
 非正規雇用に対する「賞与不支給」は他の事件や今回の最高裁判決後の直近の判決でも「不合理でない」 とする判決があり、傾向として不支給を容認する傾向です。ただし、「同一労働同一賃金ガイドライン」に 示されているように、賞与が賞与査定期間の貢献度に対して支払われるのであれば、そのレベルに応じて評 価し支払うような均衡待遇をすることが妥当と考えます。


社会保障給付費が過去最高の121兆円台に

 令和2年10月16日に国立社会保障・人口問題研究所は平成30年度の社会保障給付費が121兆5408億円と発表しました。平成29年度と比較すると合計で1兆3391億円も増加しており、過去最高額を更新する形となりました。
 部門別に内訳をみると、多い順に「年金」が55兆2581円(45.5%、0.8%増)「医療」が39兆7445億円(32.7%、0.8%増)、「福祉その他」が26兆5382億円(21.8%、2.3%増)となっています。昨年度の同データと比べると全ての部門で増加しています。
 過去最高額となった背景としては、高齢化の進展や医療の高度化に加え、育児休業などの子育て支援の充実が原因と言われています、今後もこうした傾向は続くと予測されています。
 社会保障給付費は年金、医療、介護などにかかる金額(自己負担分を除いたもの)を指します。個人や企業が負担する社会保険料と税金を財源としており、平成12年(2000年)度の社会保障給付費が約78兆4000億円であることを踏まえると、非常に大きく増加しており、今後、社会保険料の負担がさらに増える可能性も予測されます。


子の看護休暇・介護休暇が時間単位で取得可能になります(令和3年1月1日施行)

 育児や介護を行う労働者が子の看護休暇や介護休暇を柔軟に取得することができるよう、育児・介護休業法施行規則等が改正され、時間単位で取得できるようになります。

改正のポイント

※時間単位取得が困難な業務がある場合は、労使協定を締結することにより、その業務に従事する労働者を対象労働者から除外することが可能となります。
※育児休業規程(就業規則)の見直しも必要です。詳しくは、下記をご参照ください。
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000582033.pdf

「令和2年分」の年末調整が大幅に変わります!

 「平成30年度税制改正大綱」の影響を受け、2020年1月から源泉所得税の改正が行われました。これにより、今年の年末調整は新たな制度の導入や、それに伴う申告書の様式の変更など盛りだくさんです。
 昨年の年末調整からの変更点は以下の通りです。



①給与所得控除の引き下げ

 給与所得控除とは、所得税などを計算する際に年収から差し引かれる控除額のことです。2020年の年末調整からは、一律で10万円が引き下げられることになりました。また、給所得控除の上限額が220万円から195万円に引き下げられるため、年収が850万円を超える人は10万円以上の引き下げとなります。

①給与所得控除の引き下げ


②基礎控除の引き上げ

 基礎控除は、全ての納税者に対して適用されるもので、これまでは収入に関係なく、一律38万円が控除されていました。改正後は最大48万円に引き上げられますが、合計所得金額2,400万円を超えると所得に応じて減っていきます。2,500万円超では控除額がゼロとなり、基礎控除は適用されません。
 給与所得控除の10万円引き下げ、基礎控除の10万円引き上げにより、年収850万円以下の場合は今回の改正による影響はありません。年収850万円を超える場合は今回の改正による増税となります。

②基礎控除の引き上げ


③所得金額調整控除の創設

上記①②のように年収850万を超える場合増税となりますが、年収850万円超で以下のいずれかに該当する従業員は、年末調整で給与所得から調整控除されます。(=給与所得が下がり税負担が減る)
「本人が特別障害者」「23歳未満の扶養親族がいる」「特別障害者である同一生計配偶者または扶養親族がいる」


④配偶者・扶養親族等の合計所得金額要件等の見直し

 給与所得控除の見直しにあわせて、同一生計配偶者、扶養親族、源泉控除対象配偶者、配偶者特別控除の対象となる配偶者及び勤労学生の合計所得金額要件がそれぞれ10万円引き上げられ、表のとおり改正されました。給与所得控除の10万円引き下げ、合計所得要件の10万円引き上げにより、給与所得だけの場合の扶養要件は例年通りとなります。

④配偶者・扶養親族等の合計所得金額要件等の見直し


⑤ひとり親控除の新設

 これまで寡婦(夫)控除は、離婚や死別によって配偶者がいなくなった人のみに適用されていましたが、今回の改正により、婚姻歴・性別によらず、すべてのひとり親に対してひとり親控除が適用されます。


健康保険組合向けの電子申請が今月から開始

 令和2年4月から特定法人(資本金等の額が1億円を超える法人等)について、社会保険の一部手続きについて電子申請が義務化されていますが、11月より健康保険組合に対してもGビズIDを利用した電子申請が順次開始されることになっています。当面のところ、開始されるのは算定基礎届、月額変更届、賞与支払届の3つの手続となります。(対象手続の範囲は健康保険組合によって異なる場合があります。)


中途採用比率の公表義務化(2021年4月施行)

 雇用制度改革の一環として、「労働政策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(労働施策総合推進法)が改正され、2021年4月1日から従業員301人以上の大企業を対象として正社員に占める中途採用の比率を公表することが義務付けられます。
 公表の対象は直近3事業年度となる見込みで、企業のホームページ等の利用によって、求職者が容易に閲覧できる方法が予定されています。


70歳までの就業機会確保(改正高年齢者雇用安定法)

 令和3年4月から改正高年齢者雇用安定法が施行され、65歳から70歳までの高年齢者就業確保措置を推進するため、以下の5つの選択肢において制度化する努力義務が設けられます。

①70歳までの定年引上げ
②70歳までの継続雇用制度の導入
③定年廃止
④高年齢者が希望するときは、70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
⑤高年齢者が希望するときは、70歳まで継続的に社会貢献事業(事業者が自ら実施するもの、または事業者が委託、出資等する団体が行うもの)に従事できる制度の導入


協会けんぽの保険証の記載事項が変わります(令和2年10月19日以降)

 令和3年3月よりオンライン資格確認(※)が開始される予定となっています。
 これに伴い、保険証の記号・番号を個人単位化する必要があることから、令和2年10月19日以降、新たに発行される保険証の記号・番号に2桁の枝番が印字されることになりました。(すでに発行されている保険証の更新(差し替え)はありません)
 ※マイナンバーカードのICチップまたは保険証の記号番号等により医療機関等がオンラインで資格情報の確認ができること