社労士

コラム

同一労働・同一賃金 最高裁判決

2020 年11 月4 日

裁判の争点

 旧労働契約法第20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止、〔平成25年4月1日施行〕)に基づく訴訟で注目されていた最高裁判決が10月13日及び15日に出されました。一昨年6月1日に長澤運輸事件・ハマキョウレックス事件に続いての非正規社員の労働条件の格差を巡る最高裁判決です。


【旧労働契約法第20条の訴訟~最高裁判決~】

13日第三小法廷 大阪医科薬科大学事件 賞与不支給 不合理といえない
  • 職務の内容及び配置の変更の範囲にも一定の相違があったことが否定できない。
  • その他の事情
(注)裁判官の反対意見、補足意見有
私傷病の欠勤中の賃金不支給
メトロコマース事件 退職金不支給(注) 不合理といえない
住宅手当及び褒賞不支給 不合理
15日第一小法廷 日本郵便事件 年末年始勤務手当不支給 不合理(一部差し戻し及び上告棄却)
  • 職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があることを考慮しても」「不合理と認められる」
※裁判官全員一致
祝日給不支給
扶養手当不支給
私傷病休暇無給
(正社員は有給)
 現在は「パート・有期雇用労働法」第8条として不合理な待遇の禁止としてその趣旨が「同一労働・同一賃金」として法改正されており、最高裁の判決が注目されていたところです。旧労働契約法第20条の、不合理とみなされる場合の解釈基準としてガイドライン案(現在ガイドライン)が示されており、具体的な諸手当、例えば賞与・役職手当・通勤手当等は例示されていましたが、扶養手当、住宅手当や退職金等については示されていませんでした。
 この間、非正規社員から労働条件特に非正規社員に支給されていない手当についての訴訟が各地で起こされており、最高裁で判断がされるのが今回で2回目です。旧労働契約法20条を巡って一審、二審で判決が異なるケースも多く、一昨年の最高裁の判決後、手当不支給が不合理とする傾向が見られていました。ただし、その範囲も一部のレベルを認めるもの、全面的に同一の条件を認める場合等判断もレベルもまちまちで、どう最高裁が判断されるか注目されていました。


大阪医科薬科大学・メトロコマース事件

 企業にとって「同一労働・同一賃金」に基づく賃金制度を設計するとして、賞与、退職金、扶養手当等をどうするかは大きな課題で、程度感も手探り状態でした。
 ガイドラインやこの間の裁判の傾向から、「職務内容」に直接関係するもの、例えば「基本給」等は、「職務内容」に相違があれば待遇が異なっても「不合理」といえないが、今回判示されたように「扶養手当」等のように「職務内容」に関係しない手当は「不合理」と判断される可能性は指摘されていました。
 今回13日の判決では、賞与、退職金の不支給については、職務内容の相違とその他の事情を考慮して不合理とまではいえないと判示されました。だたし、判事全員一致の日本郵便事件判決と異なり、退職金不支給に対するメトロコマース事件の判事の中に、不支給を不合理とする意見、補足意見として退職金が功労褒賞の性格を有すること、改正「パート・有期労働法」の趣旨も踏まえるなら、在職期間に応じて何らかの措置を講ずることも検討すべきと示唆されていることから、必ずしも退職金不支給が今後絶対容認される先例とは限らないと言えます。

 賞与については、非正規労働者に厳しい判決で、年収ベースで55%程度の水準であっても支給しないことが不合理でないと判示しています。この点今後色々な議論が出されることが想定されますが、ガイドラインで示されているように、賞与が貢献度に応じて支給されているなら、非正規社員に対しても貢献度に応じて支給する方向で検討しておくことが、非正規社員の定着、モチベーションの維持に良いと考えます。



日本郵便事件

 日本郵便事件の判決は、13日の判決と違って、ほぼ労働者側の主張を認めた判決となっており、使用者側にきわめて厳しい判決となっています。先のメトロコマース事件で10年余勤続しても「退職金」を不支給とする「事情」には考慮されませんでしたが、日本郵便事件で会社側が正社員に支給している扶養手当は長期雇用を前提としているという主張に対し、更新している実績と継続的勤務が見込まれるのであれば、扶養手当を支給することは妥当と労働者側の主張を容認しており、「その他の事情」の解釈の温度差に少し戸惑いを感じざるを得ません。私傷病時の賃金の補償についても第1小法廷と第3小法廷では考え方に温度差が見受けられます。



今後の取り組みについて

 先の最高裁の判決でほぼ確立し今回決定的になったことは、賃金体系や収入レベルは当然検討されますが、相違が見られる待遇(手当等)ごと、その趣旨等から検討されるということです。そのため、今後は待遇(手当)ごとの相違に十分に注意して賃金・人事制度の検討を早急にする必要があります。主に内部労働市場性に基づく正社員の人事・賃金制度と外部労働市場性の影響の強い非正規労働者の賃金制度を短期にプラットフォームを共通化し整備するのは非常に難しい取り組み課題といえます。今回最高裁で55%の年収の格差があっても賞与不支給は不合理と言えないと判示されましたが、非正規社員の定着・モチベーションの維持のため、早急に何らかの是正策を取り組む必要があると思います。