社労士

コラム

労働法改正の現状と動向について③

2020 年10 月2 日

労働法改正の現状と動向について③

 令和2年の労働法改正に関し、本レポートでは最も重要と思われる「労働契約法」等の改正、4月1日施行されたいわゆる「同一労働同一賃金」の大企業への適用については昨年から解説をしてきたところです。同様に大企業において6月1日より施行された「パワハラ防止法」についても複数回概要をお知らせしてきました。中小企業は同一労働同一賃金は2021年4月、パワハラ防止は2022年4月から適用されますから、今からその対策の準備を進めていくことが求められます。これらの法改正以外に重要な法改正として、8月のレポートで70歳までの継続雇用制度の努力義務化、複数就業者等のセーフティーネットの整備、9月のレポートで社会保険(厚生年金・健康保険)のパートタイムへの適用拡大等について紹介してきました。
 当然これらの法改正は新型コロナウイルス発生前に成立したもので、アベノミクスの「一億総活躍社会の実現」「働き方改革」の重要な施策の一環で労働力の確保策であり、社会保険とりわけ年金制度を支える担い手不足に対する確保策でもあります。「少子高齢化」が急速に進行するなか、高齢者、主婦層の働ける環境の整備と、長期に渡る景気回復傾向のなか取り残された層、とりわけ非正規雇用労働者の格差是正を促すものです。
 中期的にみてこれら重要な法改正も、喫緊のコロナ対応が最重要な取り組み課題のため影が薄くなっていますが、将来のことを考えると着実に推し進めなければなりません。


今後の労働施策の注目すべき動向

 コロナ対応で各企業が3密を避けて事業を継続させるために実施したものの中で最も注目されたのは「テレワーク」です。もともと本年開催される予定であったオリンピック開催時に積極的に活用することが想定されていたもので、今回職場の「密」を避けるための主要な役割を担いました。結果、生産性が上がったとか、コミュニケーション不足によりチーム業務や育成には弊害もあるとか、いろいろ指摘されています。今後この「テレワーク」について厚労省は、テレワークを実施した企業に対しアンケートを行い、新たな働き方としてテレワークの実態と課題を整理していくこととしています。
 その他の動向で注目されるのは、「改正労働契約法」等で非正規雇用労働者の具体的な待遇のあり方に影響するものとして、最高裁で今月弁論が開かれる「日本郵便事件」「メトロコマース事件」「大阪医科薬科大学事件」の動向です。高裁判決が変更される可能性があり、来月15日に判決が言い渡される予定で注目されます。改正前の非正規雇用労働者に対する旧労契法第20条の「不合理な労働条件の禁止」に対する最高裁の判断の内容は、当然「改正労働契約法」の具体的な事例の解釈に影響を及ぼすものです。
特に「住宅手当」「賞与」「退職金」「特別休暇」等にどのような判断がなされるか、今後各企業で制度を改正するにあたり注目すべき動向といえます


障害者雇用に関する優良な取り組みを行う中小事業主への認定制度を始めました!

 「障害者雇用に関する優良な中小事業主に対する認定制度」は、厚生労働大臣が障害者の雇用の促進や安定に関する取り組みなどの優良な中小企業を認定する制度です。

認定事業主となることのメリット
~ 企業の社会的認知度を高めることができるとともに、地域で認定を受けた事業主が障害者雇用の身近なロールモデルとして認知されることが期待できます。 ~

  1. 障害者雇用優良中小事業主認定マークの使用ができます。
    ●自社の商品・サービス・広告などのほか、ハローワークの求人票に表示可能です。

  2. 厚生労働省・都道府県労働局・ハローワークによる周知広報の対象となります。
    ●厚生労働省・都道府県労働局のホームページに掲載され、社会的認知度を高めることができます。
  3. 日本政策金融公庫の低利融資対象となります。
    ●「働き方改革推進支援資金」の低利融資の対象となり、障害者雇用の取り組みに必要な設備資金や長期運転資金に使用できます。
  4. 公共調達などの加点評価を受けられる場合があります。
障害者雇用優良中小事業主認定マーク
この認定制度を通じて、地域全体の障害者雇用の取り組みが一層推進されることが期待できます。詳しい認定基準については下記URLをご参照ください。
(URL)https://www.mhlw.go.jp/stf/monisu.html



職場における新型コロナウイルス感染症への感染予防、健康管理の強化について

 厚生労働省が、職場における新型コロナウイルス感染症への感染予防、健康管理の強化について、経済団体などに再度協力を依頼しました。

 厚生労働省は、2020年8月7日付で労使団体や業種別事業主団体などの経済団体に対し、改訂された「職場における新型コロナウイルス感染症の拡大を防止するためのチェックリスト」などを活用し職場における感染予防、健康管理の強化を図ることを傘下団体などに向け周知するよう、再度協力を依頼しました。
 4月17日、5月14日に引き続き3回目となる今回の協力依頼は、新型コロナウイルス感染症対策分科会での提案を踏まえたものです。新型コロナウイルス感染症の新規感染者数は全国的に増加傾向にあり、一部地域では感染拡大のスピードが増しています。このため、新型コロナウイルス感染症対策分科会において、新規感染者数を減少させるための迅速な対応として、事業者に対して、①集団感染(クラスター)の早期封じ込め、②基本的な感染予防の徹底が提案されました。詳細につきましては下記URLをご参照ください。
(URL)https://www.mhlw.go.jp/content/11302000/000657471.pdf



労働者災害補償保険法が改正されました

 令和2年9月1日以降に、けがをした労働者の方や病気になった労働者の方、お亡くなりになった労働者のご遺族の方が対象となります。
 ※対象となる給付は、休業(補償)給付、遺族(補償)給付や障害(補償)給付などです。

労働者災害補償保険法が改正されました


 休業(補償)等給付については、これまで給付基礎日額を労働災害が発生した事業場の賃金額を基礎として算定していました。今回の改正により、複数の事業場で働いている場合等については、全ての事業場等の賃金額を合算した額を基礎として給付基礎日額が算定されます。また、これまでは1つの事業場のみの業務上の負荷(労働時間やストレス等)を評価して労災認定の判断をしていましたが、今回の改正によって1つの事業場のみでは労災認定されない場合は、複数の事業場の業務上の負荷を総合的に評価して、労災認定の判断をするようになります。
※労働者の方だけでなく、特別加入者の方についても今回の制度改正の対象となります。
※今回の制度改正については業務災害が発生していない事業場のメリット制には影響せず、業務災害が発生した事業場の賃金に相当する保険給付額のみがメリット制に影響します。


労災請求が増加に ~脳・心臓疾患と精神障害~

 厚生労働省は、令和元年度の「過労死等の労災補償状況」を取りまとめ、公表しました。過労死等に関する請求件数は2,996件で、前年度比299件の増、また、支給決定件数は725件で前年度比22件の増となり、うち死亡(自殺未遂を含む。)件数は前年度比16件増の174件となっています。概要は、次のとおりです。

1 脳・心臓疾患に関する事案の労災補償状況
(1)請求件数は936件で、前年度比59件の増となりました。
(2)支給決定件数は216件で前年度比22件の減となり、うち死亡件数は前年度比4件増の86件でした。
2 精神障害に関する事案の労災補償状況
(1)請求件数は2,060件で前年度比240件の増となり、うち未遂を含む自殺件数は前年度比2件増の202件でした。
(2)支給決定件数は509件で前年度比44件の増となり、うち未遂を含む自殺の件数は前年度比12件増の88件でした。
3 裁量労働制対象者に関する労災補償状況
令和元年度の裁量労働制対象者に関する脳・心臓疾患の支給決定件数は2件で、すべて専門業務型裁量労働制対象者に関する支給決定でした。また、精神障害の支給決定件数は7件で、すべて専門業務型裁量労働制対象者に関する支給決定でした。



失業等給付の「被保険者期間」の算定方法が変わります

 失業等給付を受ける為には退職日以前の2年間の中で「被保険者期間」が合計12か月以上(特定受給資格者または特定理由離職者は退職日以前の1年間の中で「被保険者期間」が合計6か月以上)必要です。
令和2年8月1日以降は「1か月」の定義が、これまでの日数だけではなく、補完として一定時間数以上でも認められる事になりました。

★改正前
賃金支払いの基礎となる日数が11日以上ある月を1か月として計算を行う。
★改正後
賃金支払いの基礎となる日数が11日以上ある月、又は賃金支払いの基礎となる労働時間が80時間以上あった月を1か月として計算を行う。


雇用保険基本手当日額の変更

 令和2年8月1日(土)から雇用保険の「基本手当日額」が変更になりました。この変更は「高年齢雇用継続給付」、「育児休業給付」、「介護休業給付」に影響を及ぼします。

★具体的には
 ◆「基本手当日額」最高額の引上げ(以下①~④の範囲は退職時の年齢)
①60歳以上65歳未満
 7,150円   →   7,186円(36円の引上げ)
②45歳以上60歳未満
 8,330円   →   8,370円(40円の引上げ)
③30歳以上45歳未満
 7,570円   →   7,605円(35円の引上げ)
④30歳未満
 6,815円   →   6,850円(35円の引上げ)
 ◆「基本手当日額」最低額の引上げ
 7,150円   →   7,186円(59円の引上げ)



厚生年金保険上限の標準報酬月額の上限改定

 厚生年金保険のこれまでの標準報酬月額の上限等級は「31級・62万円」でしたが、令和2年9月より「32級・65万円」が追加されます。
 この上限改定に伴い、該当被保険者がいる事業主には令和2年9月下旬以降に日本年金機構より「標準報酬改定通知書」が届きます。尚、今回の改定に際し、事業主からの届出は必要ありません。