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コラム

労働法改正の現状と動向について②

2020 年9 月7 日

労働法改正の現状と動向について②

 先月に引き続き、法改正事項について、今回は年金制度改正を取り上げます。
◎社会保険(厚生年金保険・健康保険)被保険者の適用拡大
 令和2年5月29日、年金機能強化法が成立し、6月5日に公布されました。主な内容は、短時間労働者に対する被用者保険の適用拡大、在職中の年金受給の在り方の見直し、受給開始時期の選択肢の拡大、確定拠出年金の加入可能要件の見直し等です。以下、これらのうち重要と思われるポイントを紹介いたします。


1.被用者保険の適用拡大

 厚生年金保険・健康保険の被保険者は、フルタイムの労働者と、週の所定労働時間が通常の労働者の4分の3以上のパートタイム労働者に加え、2016年10月からは従業員501人以上の企業で週所定労働時間20時間以上、賃金月額8.8万円以上の短時間労働者が対象となっています。2017年4月より500人以下の企業でも労使合意で短時間労働者の適用拡大が導入されています。今回の法改正により、2022年10月から従業員101人以上規模、2024年10月から51人以上規模の企業までに短時間労働者を被保険者として適用拡大されます。短時間被保険者1人に対する事業主の保険料負担は年間およそ24.5万円と試算されており、中小企業にとって大きな負担となりますが、施策的には特段の措置は行わず、中小企業事業主に対して生産性向上に対する各種の助成措置をとるというような間接的な支援策となっています。
 さらに、常時5人以上の個人事業所で、社会保険の強制適用事業所でなかった弁護士、税理士、社労士等、法律・会計事務を取り扱う士業の事業所が強制適用事業所になります。
 また現在厚生年金保険法では「2か月以内の期間を定めて使用される者」は適用除外とされていますが、雇用保険法の規定等も参考にし、雇用契約の期間が2か月以内であっても、実態としてその雇用契約の期間を超えて使用される見込みがあると判断できる場合は、最初の雇用期間を含めて、当初から被用者保険の適用対象となります。(2022年10月施行)


2.その他の改正ポイント

①現在60~64歳の在職老齢年金の支給停止の基準額28万円を65歳以上の在職老齢年金の基準額である47万円に引き上げます。(2022年4月施行)
②繰下げ受給の上限年齢について、現行70歳を75歳に引き上げ、繰下げ増額率はひと月あたり+0.7%(最大+84%)となります。
③確定拠出年金の加入可能年齢を引き上げ、受給開始時期等の選択肢を拡大します。
④短期滞在の外国人に対する脱退一時金の支給上限年数を3年から5年に引き上げます。(具体的な年数は政令で規定)(2021年4月施行)
⑤新たに国民年金被保険者となった者に公布していた国民年金手帳を基礎年金番号通知書の送付に切り替えます。(2022年4月施行)


雇用調整助成金 再申請(追加支給)提出期限のお知らせ

 令和2年6月12日付けの特例措置により、助成金の「上限額の引き上げ」と「助成率の拡充」を令和2年4月1日 にさかのぼって適用されます。既に支給決定を受けている事業主に対しても、上限15,000円まで追加の助成額が支払われます。
 支給申請済のものでも、過去の休業手当を見直し(増額し)、従業員に対し、追加で休業手当の増額分を支給した場合、追加支給申請(再申請)を行うことで追加支給されます。
期限が9月30日までとなっていますので、提出期限にご注意ください。

提出期限:
令和2年9月30日まで
必要書類:
「再申請書(様式)」、「支給要件確認申立書(様式)」、「支給決定通知書の写し」 「増額した休業手当・ 賃金の額がわかる書類」、 「休業させた日や時間がわかる書類(対象労働者を増やした場合)」

詳細は厚生労働省のホームページをご覧ください。
■雇用調整助成金の再申請様式ダウンロード(新型コロナウイルス感染症対策特例措置用)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/index.html



介護離職助成金「新型コロナウイルス感染症対応特例」創設

 新型コロナウイルス感染症への対応として、家族の介護を行う必要がある労働者が育児・介護休業法に基づく介護休業とは別に、有給休暇を取得して介護を行えるような取組を行う中小企業事業主を支援するため、両立支援等助成金(介護離職防止支援コース)に「新型コロナウイルス感染症対応特例」が創設されました。
<支給額・支給要件>

労働者1人当たり 取得した休暇日数が合計5日以上10日未満 20万円
取得した休暇日数が合計10日以上 35万円
令和2年4月1日から令和3年3月31日までの間に取得した休暇が対象
1企業当たり5人分まで支給

詳細は厚生労働省のホームページをご覧ください。
■事業主の方への給付金のご案内
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/shokuba_kosodate/ryouritsu01/index.html



新型コロナウイルスに関する政府支援について

各省庁からの支援策についてもご活用ください。

■経済産業省の支援策
https://www.meti.go.jp/covid-19/index.html
■財務省 新型コロナウイルス感染症の影響を受けている事業者の皆様へ
https://www.mof.go.jp/financial_system/fiscal_finance/coronavirus-jigyousya/cronavirus-jigyousya.html
■農林水産省 新型コロナウイルス感染症について
https://www.maff.go.jp/j/saigai/n_coronavirus/index.html#d200


新型コロナウイルス感染症に係る労災認定について

 厚生労働省によると、新型コロナウイルスに関する労災の申請は7月29日現在、全国で779件にのぼり、このうち232件が労災と認定されました。労災申請の件数を業種別にみると、医療従事者等が655件と全体の84%を占めていますが、医療従事者等以外の業種でも、▼運輸業、郵便業20件、▼社会福祉・介護業19件、▼建設業9件、▼卸売業、小売業8件、▼宿泊業、飲食サービス業5件、などに広がりがみえます。
今年4月の厚生労働省からの関連通達では、医療従事者は業務外で感染したことが明らかである場合を除き、原則として労災の対象とする。医療従事者以外の業種では、感染源が業務にあることが明らかな場合、また、感染経路が特定されていなくても、感染リスクが相対的に高い業務の場合は、個別の事案ごとに調査し、業務起因性と判断される場合には労災認定する方針です。
感染リスクが相対的に高い業務としては、
(ア)複数の感染者が確認された労働環境下での業務
(イ)顧客等との近接や接触の機会が多い労働環境下での業務
が想定されるとし、具体例として小売業の販売業務、バス・タクシー等の運送業務、育児サービス業務などが挙げられています。
 下記、医療従事者以外の業種に着目して事例をご紹介します。
【事例①】飲食店店員
飲食店店員のEさんは、店内での業務に従事していたが、新型コロナウイルス感染者が店舗に来店していたことが確認されたことから、PCR検査を受けたところ新型コロナウイルス感染陽性と判定された。また、Eさん以外にも同時期に複数の同僚労働者の感染が確認され、クラスターが発生したと認められた。以上の経過から、Eさんは新型コロナウイルスに感染しており、感染経路が特定され、感染源が業務に内在していたことが明らかであると判断されたことから、労災認定された。
【事例②】建設作業員
建設作業員のFさんは、勤務中、同僚労働者と作業車に同乗していたところ、後日、作業車に同乗した同僚が新型コロナウイルスに感染していることが確認された。Fさんはその後体調不良となり、PCR検査を受けたところ新型コロナウイルス感染陽性と判定された。Fさんについては当該同僚以外の感染者との接触は確認されなかった。以上の経過から、Fさんは感染経路が特定され、感染源が業務に内在していたことが明らかであると判断されたことから、労災認定された。



休業開始時賃金月額証明書(育児)の作成に当たっての留意事項

 医師等の指導に基づき、新型コロナウイルス感染症に関する母性健康管理措置(以下「新型コロナ母健措置」)として休業が必要とされた妊娠中の女性労働者に対して有給の休暇(年次有給休暇を除き、年次有給休暇について支払われる賃金相当額を下回るものに限る。)を取得している場合、育児休業給付金の休業前賃金日額の算定の特例措置として、当該有給の休暇は賃金支払の算定基礎に含めないこととしました。令和2年5月7日~3年1月31日までの有給休暇が対象となります。従来の取扱いでは、有給休暇中の賃金も算定基礎に含めることになっていましたが、育児休業給付の金額が下がるため、労働者がトータルで受け取る金額が無給の休暇を取らせた場合よりも少なくなる問題がありました。

休業開始時賃金月額証明書(育児)の作成に当たっての留意事項


新型コロナウイルス感染症に伴う給付制限の特例について

 新型コロナウイルス感染症の感染予防を理由として、やむを得ず離職した方は、基本手当の所定給付日数が手厚くなる場合や、給付制限がなくなることがあります。
特定受給資格者となる場合】
 令和2年5月1日以降に、本人の職場で感染者が発生したこと、または本人もしくは同居の家族が基礎疾患を有すること、妊娠中であることもしくは高齢であることを理由に、感染拡大防止や重症化防止の観点から自己都合離職した場合。
*受給資格決定の手続きの際に、診療の明細やお薬手帳、母子手帳等の事情を確認できる書類が必要になります。
①被保険者期間が6か月(離職以前1年間)以上あれば、基本手当の受給資格を得ることができます(通常は、被保険者期間が12か月以上(離職以前2年間)必要です)。
②基本手当の所定給付日数が手厚くなる場合があります(注)。
(注)受給資格に係る離職理由、年齢、被保険者であった期間(加入期間)に基づき基本手当の所定給付日数が決定されます。被保険者であった期間(加入期間)が短い場合など、特定受給資格者以外の通常の離職者と所定給付日数が変わらないこともあります。
特定理由離職者となる場合】
 令和2年2月25日以降に、以下の理由により離職した方は「特定理由離職者」として、雇用保険求職者給付の給付制限を受けません。既に給付制限期間中の方も、給付制限期間が適用されない特例措置があります。
同居の家族が新型コロナウイルス感染症に感染したことなどにより看護または介護が必要となったことから自己都合離職した場合
本人の職場で感染者が発生したこと、または本人もしくは同居の家族が基礎疾患を有すること、妊娠中であることもしくは高齢であることを理由に、感染拡大防止や重症化防止の観点から自己都合離職した場合
新型コロナウイルス感染症の影響で子(小学校、義務教育学校*1、特別支援学校*2、放課後児童クラブ、幼稚園、保育所、認定こども園などに通学、通園するものに限る)の養育が必要となったことから自己都合離職した場合  *1 小学校課程のみ *2 高校まで
また、既に給付制限期間中の方もこの特例措置を受けることができますので、最寄りのハローワークへご相談ください。



外国人在留支援センター(FRESC/フレスク)の開所について

 外国人からの相談対応、外国人を雇用したい企業の支援、外国人支援に取り組む地方公共団体の支援などの取組を行っており、新宿区のJR四ツ谷駅前にある「コモレ四谷」ビルに関係機関が集まり連携して外国人の在留に関する様々な支援施策を実施することにより外国人受入れ環境を整備しています。



外国人技能実習機構が新型コロナウイルスに関するQ&A公表

 当初の予定よりも入国時期を遅らせる際、実習期間と入国日との間が3か月以上空く場合には、「技能実習計画軽微変更届出書」の提出が必要になります。
新型コロナウイルスにより、実習生の受入れや一時帰国、再入国、実習継続などで多くの困難が生じている実習実施企業と管理団体向けの質問と回答が記載されています。
https://www.otit.go.jp/files/user/docs/200803-1.pdf