社労士

コラム

労働法改正の現状と動向について

2020 年8 月4 日

労働法改正の現状と動向について

 労務管理上必要な法改正の情報について、重要なものは本レポートで度々ご紹介してきました。特に直近では大企業で先行的に施行されるもので、4月1日から施行された「同一労働同一賃金」、6月1日から施行された「パワハラ防止法(略表記)」等について取り上げてきました。これらは中小企業も来年以降に順次施行されるため、今から準備しておかなければなりません。
 当面、労務管理上の課題は、新型コロナウイルス感染症対策が中心とならざるを得ませんが、直接コロナに関連しないものの労務管理上関連する重要な法改正にも注目しておく必要があります。
 法改正事項について、今月以降の各レポートで紹介していきますが、今回は、雇用保険法を取り上げます。

◎雇用保険法等の改正(令和2年3月31日公布)
 先の通常国会で成立した雇用保険法等の改正であり、主な内容は、「高齢者、複数就業者等に対応したセーフティーネットの整備」、「就業機会の確保等を図ること」、「育児休業給付を失業給付から独立させ、経理を明確にし、育児休業給付資金を創設する」等となります。


1.高齢者の就業機会の確保及び就業の促進

①65歳から70歳までの定年延長等の制度(含:労使で同意した上での雇用以外の措置(継続的に業務委託契約する制度、社会貢献活動に継続的に従事できる制度))努力義務化(令和3年4月施行)
②65歳までの高年齢雇用継続給付の縮小化(令和7年4月施行)
→少子高齢化が進む中で、労働力不足が懸念されていますが、高齢者活用生涯現役構想を法的に推進するための整備と言えます。


2.複数就業者等に関するセーフティーネットの整備

複数就業者の労災給付について、複数就業先の賃金に基づく給付基礎日額の算定や給付の対象範囲の拡充等の見直しを行う。(施行は令和2年9月30日までに政令で決定)
※ 従来は労災事故の発生した就業先の賃金のみに基づく算定のため、休業補償等の給付は十分でなかった。
複数の事業主に雇用される65歳以上の労働者について雇用保険を適用する。(令和4年1月施行)
※ 65歳未満の労働者の雇用保険の適用については今回は見送られた。
③勤務日数が少ないものでも適切に雇用保険の給付を受けられるよう、日数だけでなく、労働時間による基準も補完的に設定する。(令和2年8月施行)
④大企業に対し、中途採用比率の公表を義務付ける。(令和3年4月施行)
→いわゆる副業・兼業といった複数の就業先をもつ労働者の時間管理や労働時間の通算方法が問題となっていましたが、6月16日の未来投資会議において、政府は、副業・兼業の促進に向け、新たに労働時間の申告制度を設ける方針を明らかにしました。申告に虚偽等があった場合は、兼業先で超過労働により時間外労働の上限を超えても本業企業の責任は問われず、一定の条件で本業企業で発生した時間外労働のみの割増賃金を支払うルールとするものです。今後は、労働政策審議会で議論が進められることとなります。


新型コロナウイルス感染症の影響に伴う休業で著しく報酬が下がった場合に健康保険・厚生年金保険料の標準報酬月額を翌月から改定することが可能になりました

新型コロナウイルス感染症の影響により休業した方で、休業により報酬が著しく下がった方について、一定の条件に該当する場合は、健康保険・厚生年金保険料の標準報酬月額を、通常の随時改定(4か月目に改定)によらず、特例により翌月から改定可能となります。

新型コロナウイルス感染症の影響に伴う休業で著しく報酬が下がった場合に健康保険・厚生年金保険料の標準報酬月額を翌月から改定することが可能になりました


新型コロナウイルス感染症対応休業支援金が新設されました

 先月号でもお知らせをしております令和2年度第2次補正予算が去る6月12日に成立しました。それに伴い今回新型コロナウイルス感染症対応休業支援金の内容が以下のように決定しております。

対象者 令和2年4月1日~令和2年9月30日までの間に事業主の指示を受けて休業(休業手当の支払いは無し)をした中小企業の労働者
支援金額の算定方法 休業前の1日当たりの平均賃金×80% × (各月の日数 – 就労した又は労働者の事情で休んだ日数)
手続き内容 ①申請方法: 郵送(オンライン申請も順次開始予定)
労働者本人から、もしくは事業主を通じてまとめて申請も可能
②必要書類: 1、申請書 2、支給要件確認書 3、本人確認書類
4、振込先口座確認書類
5、休業開始前賃金及び休業期間中の給与が証明できるもの
実施体制
その他
各都道府県労働局における集中処理
問い合わせ用コールセンターの設置あり

制度の詳細確認及び支給申請書、支給要件確認書等様式の印刷は厚生労働省のホームページより可能です。
【新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金】
https://www.mhlw.go.jp/stf/kyugyoshienkin.html



新型コロナの影響に対応 雇用保険法の臨時特例

新型コロナウィルスの影響に対応するため、雇用保険の基本手当(いわゆる失業手当)の受給者について、給付日数を60日(一部30日)に延長する特例措置が設けられました。

新型コロナの影響に対応 雇用保険法の臨時特例


確定給付企業年金の支給開始70歳可能に

 厚生労働省は、確定給付企業年金(DB)について、給付の支給開始時期を60歳から70歳の間で選択できるよう改定しました。これまでは労使合意に基づく規約において、60歳~65歳までの間で支給開始時期を設定することとなっていましたが、より柔軟な制度運営を可能とするために、70歳まで拡大されることとなります。
 また、確定拠出年金(DC)についても、支給開始時期と加入可能年齢の変更が予定されています。支給開始時期については、企業型確定拠出年金、個人型確定拠出年金(iDeCo)ともに、現状では60歳から70歳の間で個人が選択できるようになっていますが、75歳まで選択できるようになります(令和4年4月施行)。加入可能年齢については、企業型確定拠出年金は厚生年金被保険者(70歳未満)であること、個人型確定拠出年金は国民年金被保険者であることで、加入が可能となります(令和4年5月施行)。公的年金の受給開始時期の選択肢の拡大に合わせ、企業の高齢者雇用の状況に応じた柔軟な制度運営や、個人の資産形成を活性していくことを目的とした動きとなります。

確定給付企業年金の支給開始70歳可能に



令和2年度「全国安全週間」を7月に実施

今年で93回目となる全国安全週間は、労働災害を防止するために産業界での自主的な活動の推進と、職場での安全に対する意識を高め、安全を維持する活動の定着を目的としています。労働災害防止対策の展開によって、労働災害による被災者数は長期的には減少しており、令和元年については、「死亡者数」、「休業4日以上の死傷者数」は、共に前年を下回る見込みですが、死傷者数のうち、60歳以上の労働者が占める割合は増加傾向にあり、更なる取組が求められています。厚生労働省では、近年増加している高年齢労働者の労働災害を防止するため、高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドラインを策定するとともに、中小企業を支援する補助金を創設し、職場改善の取組を促すこととしています。



令和2年度の熱中症予防行動について

新型コロナウイルス感染症対策専門家会議において「新型コロナウイルスを想定した『新しい生活様式』」が示されました。新型コロナウイルスによって、今後は、感染防止の3つの基本である①身体的距離の確保、②マスクの着用、③手洗いや、「3密(密集、密接、密閉)」を避ける等の対策をこれまで以上に取り入れた生活様式を実践することが求められています。また、熱中症により受診者が増加した場合、新型コロナウイルス感染症の対応を行っている医療機関に負荷がかかってしまうことが考えられるため、熱中症予防を一層徹底する必要があります。今年の夏は、これまでとは異なる生活環境下であることから、例年以上に熱中症に気をつけることが重要です。



安衛法上の検診10月まで実施を

厚生労働省は緊急事態宣言の解除を受け、実施の延期を認めていた労働安全衛生法の健康診断について、10月末までに行うことを原則とする内容の通達を出しました。対象となるものは、6月末までに実施義務がある雇入れ時健診と定期健診です。一方で、特殊健康診断については、原則として延期はせず、いわゆる三密を避け、十分な感染防止対策を講じた上で実施することになりました。ただし、特殊健康診断についても、十分な感染防止対策ができない場合は、6月末までに実施義務があるものに限り、10月末までに行えば良いことになります。なお、緊急事態宣言が再度出た場合についても、6月末までに実施義務があるもののみが延期を認められることになっています。



厚生年金保険法の標準報酬月額の等級区分の改定等に関する政令案(仮称)の概要

①改正の趣旨

厚生年金保険法の規定に基づき、令和2年9月1日から適用する標準報酬月額の等級区分について、現在の最高等級の上にさらに1等級を加えるための必要な読替えを行うとともに、 同日から適用する標準賞与額の最高限度額を定めるものです。

②改正の内容
  1. 現行の最高等級「第31級62万円」を「第32級:65万円」に引き上げます。等級上限の引き上げにより、現在、標準報酬月額60万5000円以上で一律第31級とされているところを、新たに標準報酬月額63万5000円以上から第32級として扱うことになります。
  2. 標準賞与額の最高限度額については、最高限度額を 150 万円(現行と同額)と定めます。
③公布日・施行期日
公布日:
令和2年8月下旬(予定)
施行期日:
令和2年9月1日(予定)