社労士

コラム

労務管理上の新型コロナウイルス感染症対応について

2020 年7 月2 日

テレワークについて

 日本経済新聞社の新型コロナウイルスに関しての上場企業百社の社長に対するアンケート調査によると、今後もコロナ禍では企業活動の制限は継続するとし、経営のニューノーマル(新状態)を探っていると指摘しています。
 労務管理上の具体的内容では、テレワークを実施している企業の9割は引き続き継続するとし、約6割の企業は全従業員の5割以上を対象とすると回答されています。従業員の大半がデスクワークであるとすれば可能かもしれません。ただしテレワークを常態化させるのか、事業所へ出勤する形態を併用させるかについては定かではありません。
 テレワークで生産性が向上したという報告もされていますが、職場で行われたOJTによる教育訓練が行われないため、習熟を自己啓発に委ねることにより従業員の成長にバラツキが生じる等の懸念点についても指摘されています。今後は、以前から労務管理の課題として指摘されているテレワークにおける時間管理や成果・評価の在り方等を各テレワーク実施企業で検討していくことになります。
 今回テレワークは従業員の移動を制限し健康を確保しながら企業活動を停滞させない手法として広く普及しましたが、企業の危機管理対応の手法としても重要な働き方だと再度認識させられました。ただし、業務上どうしても事業所に出社しなければならない事情がある場合は、次善の策として時差出勤・シフト制勤務・フレックスタイム制等を実施し、通勤による密回避をとる企業も多く、テレワーク導入企業とほぼ同様の9割を占めています。今後雇用形態に関わらず多様な働き方が定着していきそうです。このため、従来の定時就労を前提とした労務管理の手法を全体的に見直す必要があります。従来の時間軸から仕事の質・量を軸とするジョブ型に育成や評価が変わらざるを得ないと言えます。


非正規雇用の待遇差の禁止(同一労働同一賃金)

 本年4月から法改正により正規雇用者と非正規雇用者の不合理な待遇差の禁止措置、いわゆる「同一労働同一賃金」が施行されました。雇用労働者全体で約4割を占める非正規雇用者の格差を是正させることを趣旨としたものです。人手不足の中で、この課題は喫緊な政策課題として取り上げられました。新型コロナウイルス禍はこれらの流れに水を差すような動きにもなっています。リーマンショック時と同様に非正規雇用者、特に派遣及び有期雇用の労働者、新卒等の採用者が雇用調整の対象として解雇または「雇止め」となっており、賃金などの労働条件の改善どころか、当面雇用確保が最大の課題となっています。
 また、定年延長も高齢者の就労を促す必要から重要な政策として取り組まれてきましたが、新型コロナは高齢者が重篤になりやすいことから、高齢者に対する求人の減少や自ら「働き止め」するなど就労変化が生じています。このように新型コロナ禍が長期化すれば、企業の非正規雇用労働者に対する労務管理も複雑な対応が求められそうです。

 当事務所としては、皆様にこうした内容の情報提供を積極的に実行するとともに、職場の新型コロナに対する労務管理対応に役に立つよう努力して参ります。何か質問等があれば遠慮なくお申し出ください。


年金改革法が成立

 2020年5月29日の参院本会議にて次の2つを柱とする年金改革関連法が成立されました。

  1. 年金の加入対象となるパートらの範囲拡大
     パートなど短時間労働者が厚生年金および健康保険に加入するには、企業規模の基準が「従業員501人以上」などの要件を満たす必要がありましたが、改正法はこの企業規模の要件を2022年10月に「101人以上」、2024年10月に「51人以上」と段階的に引き下げることとしました。
     厚生年金が適用される人は約65万人増える見込みで、短時間労働者らは国民年金だけでなく、厚生年金も上乗せできるようになり、将来の年金が増えることが期待されます。
     しかし一方で、企業側には社会保険料の負担が生じることになり、新型コロナウイルスで業績が大打撃を受けた業界では負担増を懸念する声も出てきています。
  2. 年金の受給開始年齢を75歳までに繰り下げ可能に
    年金を受け取り始める年齢の選択肢の幅は、現在60歳~70歳ですが、これを2020年4月以降は60歳~75歳まで幅を広げることとされました。75歳で受給を始めた場合は、65歳からの受給開始より年金金額が84%増えることになります。また受給開始年齢の繰り下げと同時に、働く高齢者の年金を一部減らす在職老齢年金においても見直しが行われ、今後の高齢者の就労を後押しする狙いがあります。


リモートワークに関するハラスメントに注意

 パワーハラスメント(以下、パワハラ)については、先月号でも記載したとおり2020年6月から改正労働施策総合推進法が施行され、職場におけるパワハラ防止の為に雇用管理上必要な措置を講じることが事業主の義務(中小企業については2022年3月31日までは努力義務)となりました。そのような中、新型コロナウイルス対策の為、緊急事態宣言後にリモートワーク(テレワーク)を実施する企業が増えている一方で、リモートワークにおけるハラスメント「リモハラ」が話題になっています。

«リモートハラスメントが懸念される場面»
  • メールやチャットで連絡を行う場面
    文字だけの業務指示は強圧的な印象を与えやすくなり、上司のちょっとした言動や軽く書いたつもりのメール文章でもパワハラだと受け止められてしまうことがあります。
     (頻繁に仕事の進捗状況を聞く、感情がわからない文章など)
  • テレビ電話で会議を行う場面
    在宅勤務で垣間見える私生活への言及は相手に不快感を与えてしまう恐れがあります。(Web会議でのカメラ映り、自宅や服装等プライベートへの言及など)

パワハラさらにはその他のハラスメントを含め、一般にハラスメントとは、特定の言動を受けた個人が、その意に反して当該言動を受けたことにより「嫌な・不愉快な思いをした」といった気持ちを指しているものであり、個人の主観や感受性に大きく左右される性質の問題です。リモートワークでは、これまで顔を合わせていた部下との直接的なコミュニケーションが、メールなどの文章中心になり、指導の意図が文面だけではうまく伝わらない場合もあり、より相手への配慮が必要となります。リモートワークが緊急対応として広がっている企業も多いため、今後のリモートワークの定着へルールやマナーの整備が求められます。



雇用調整助成金の申請手続・算定方法が一部変更されました

  1. 小規模事業主(常時雇用する労働者が概ね20人以下の事業主)について、「実際に支払った休業手当合計額」×「助成率」で助成額を算定できるようになりました。
  2. 緊急対応期間中(4月1日から6月30日まで)の特例措置として、休業等計画届は初回から提出が不要となりました。計画届と合わせて提出する他の書類は、支給申請時と一緒に提出することになります。
  3. 支給申請の際に用いる「平均賃金額」について、判定基礎期間の初日が属する年度または前年度の任意の月に提出した給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書の支給額を人員及び月間所定労働日数で割った額に、休業手当の支払い率をかけた額でも算出できるようになりました。
  4. 支給申請の際に用いる「所定労働日数」について、以下の方法でも算出できるようになりました。
    確定保険料申告書を使う場合 所得税徴収高計算書を使う場合
    週休2日(祝日出勤) 261日 月22日
    週休2日(祝日休み) 240日 月20日
    雇用形態ごとに所定労働日数が異なる 雇用形態ごとの加重平均 雇用形態ごとの加重平均
  5. 判定基礎期間の初日が令和2年1月24日~5月31日までの休業の申請期限は、令和2年8月31日までとなりました。


新型コロナウイルス感染症に関連する助成金・支援制度について

 令和2年度第2次補正予算が国会で成立すると、以下のような変更・新規制度の創設が見込まれます。

  1. 新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金の変更点
    • 対象となる有給休暇の期限の延長:令和2年6月30日まで⇒9月30日まで
    • 支給額の上限額の引上げ:1日当たり8,330円⇒15,000円(4月1日以降の休暇に限る)
    • 申請期間の延長:令和2年9月30日まで⇒12月28日まで
  2. 以下のような助成や支援金の支給が実施される見通しです。
    名称(仮) 内容
    新型コロナウイルス感染症に関する母性健康管理措置により休業する妊婦のための助成制度 新型コロナウイルス感染症に関する母性健康管理措置として休業が必要な妊娠中の労働者のために、有給の休暇制度を設けて取得させる事業主を支援するもの
    新型コロナウイルス感染症対応休業支援金 新型コロナウイルス感染症及びそのまん延防止のための措置の影響により事業主が休業させ、休業期間中の賃金の支払いを受けることができなかった中小企業の労働者に対し、当該労働者の申請により支給するもの
    家賃支援給付金 緊急事態宣言の延長等により売り上げの急減に直面する事業者の事業継続を下支えするため、地代・家賃の負担を軽減することを目的として、テナント事業者に対して支給するもの



賃金請求権の消滅時効期間と同様に記録の保存期間の延長

 平成29年5月に成立した民法の一部を改正する法律(令和2年4月1日施行)を契機とし、労働基準法における賃金請求権の消滅時効期間が延長されたとともに賃金台帳等の記録の保存期間も延長されました。(施行期日:令和2年4月1日)

«記録の保存期間等の延長»
  • 賃金台帳等の記録の保存期間について、賃金請求権の消滅時効期間と同様に5年に延長
  • 割増賃金未払い等に係る付加金の請求期間について、賃金請求権の消滅時効期間と同様に5年に延長
※経過措置
 時効期間を民法と同じ5年に延長し労働者の権利を拡充することは労働基準法においても望ましいこであるものの、その場合に企業実務に支障がでることも懸念され、当分の間は3年への延長に留める経過措置が設けられています。



雇用保険の一部改正、被保険者期間の算入方法を見直し

 現行、基本手当をはじめとする失業等給付の受給資格の判定に当たっての基礎となる被保険者期間については、「賃金支払の基礎となる日数が11日以上」である月を算入することとしています。その後の雇用保険適用拡大により現在では、「週の所定労働時間が20時間以上であって継続して31日以上の雇用が見込まれること」で被保険者となるため、働き方次第では被保険者資格を満たしながらも失業給付の受給のため被保険者期間が足りずに給付を受けられないケースも起こり得る状態となっています。
 そのため、今回の改正により、被保険者期間の算入に当たっては、日数だけでなく労働時間による基準も補完的に設定するよう見直すこととされました。「賃金支払の基礎となる日数が11日以上」の条件が満たない場合でも、「賃金支払の基礎となる時間数が80時間以上」であることを満たす場合には被保険者期間として算入できることとされます。(施行期日:令和2年8月1日)



受動喫煙対策、求人票への明示義務化へ

 令和2年4月より改正健康増進法が全面施行となり、「受動喫煙防止の義務化」が各事業者に求められています。これに伴い、職業安定法施行規則の一部が改正され、求人票にも「受動喫煙防止のための取り組み」について明記をしなくてはいけなくなったことはご存知でしょうか。
4月1日以降、各事業者は各事業場の施設類型をもとに次の3点を記載する必要があります。

①受動喫煙対策の有無
②その対策方法
③その他特記事項
これにより、職場選びの段階で求職者は「受動喫煙にさらされるリスクのある職場を選ばない」ということが可能になります。今回の法改正を機に、たばこを吸う側も吸わない側も双方が納得して、心地よい職場環境実現に向けて一度取り組みを見直してみても良いかもしれません。