社労士

コラム

新型コロナウイルスの感染拡大による業績が悪化した企業に対し『雇用調整助成金』の対象を拡大

2020 年4 月2 日

 昨年12月に中国武漢で発生した新型コロナウイルスによる肺炎は、日本国内でも感染が広がっており、行政だけでなく企業も対策に追われています。
 厚生労働省からは経済団体に対して、職場における新型コロナウイルス感染症の拡大防止に向けた取組に関する要請が行われております。
具体的には、

  • 労働者が発熱等の風邪症状が見られる際に、休みやすい環境の整備
  • 労働者が安心して休むことができるよう収入に配慮した病気休暇制度の整備
  • 感染リスクを減らす観点からのテレワークや時差通勤の積極的な活用の促進
などの取組が求められています。
企業は、社員、取引先、顧客等への安全対策は当然行わなければなりませんが、一方で事業の持続的存続も求められ、難しい局面に立たされています。
 労働者が感染者や接触者となり休業させるケースや、家族の看病や子供の学校の休校により出勤ができなくなることが考えられるため、事前に想定される人事労務上の課題について検討しておく必要があります(休業時の給与の取り扱い、基礎疾患のある者や高齢者への配慮、通勤への配慮等)。また、今後新型コロナウイルスの感染がさらに拡大した場合、企業内での蔓延を防止するために業務を一時中断(自粛)しなければならない事態も予測されるので、事業への影響を最小限に抑えるために、中断すべき業務と継続すべき重要業務についてそれぞれの業務をランク付けしておくことで状況の変化にも対応することができます。


【テレワーク、時差出勤の前倒し実施】

 新型コロナウイルスは、現時点では、飛沫感染と接触感染の2つが考えられており、混雑する時間帯の電車などによる通勤は感染リスクが高くなります。
 東京オリンピックに向けて交通機関の混雑緩和対策として以前から推進してきたテレワークや時差出勤の取組が、新型コロナウイルスの感染拡大防止にも有効であることから、小池知事は、前倒しして実施することを企業に呼びかけています。また、感染症予防を契機としてテレワークの推進を一気に加速させるために、都の補正予算案では、テレワーク導入を進める従業員1千人未満の中小企業を対象に関連機器等の経費を250万円までは100%補助することを盛り込みました。
 テレワークは事業継続性の確保にも有効であり、今回のような感染症発生時の他に、地震、台風、大雪などの自然災害の発生時にも在宅勤務により事業継続が可能となります。現実的には、接客や工場勤務などテレワークが難しい業務も多くありますが、その場合は営業時間や稼働時間を調整することで時差出勤を可能にし、満員電車を回避するという対策も考えられます。
 グローバル化が進んだことにより、国外で発生した感染症が瞬く間に拡大して国内に持ち込まれるようになってしまいました。多様で柔軟な働き方を実現することは、感染症や災害への備えになるだけでなく、従業員の育児や介護による離職の防止や遠隔地の優秀な人材の獲得にも繋がるため、従来からの課題である人手不足への対策にもなります。このピンチをチャンスに変えて働き方改革を進めましょう。
 また、次ページ以降では、新型コロナウイルスの感染拡大による『雇用調整助成金』の対象拡大や、厚生労働省が公表している『新型コロナウイルスに関するQ&A』について簡単に触れましたので参考にしてください。



新型コロナウイルスの感染拡大による業績が悪化した企業に対し『雇用調整助成金』の対象を拡大

 厚生労働者は新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ、雇用調整助成金の特例を実施することを発表しました。
<特例の対象となる事業主>
新型コロナウイルスの影響を受ける事業主が対象です。
<「影響を受ける」事業主の例>
  • 取引先が新型コロナウイルス感染症の影響を受けて事業活動を縮小した結果、受注量が減ったために事業活動が縮小してしまった場合。
  • 国や自治体等からの市民活動の自粛要請の影響により、外出等が自粛され客数が減ったために事業活動が縮小してしまった場合。
  • 風評被害により観光客の予約のキャンセルが相次ぎ、これに伴い客数が減ったために事業活動が縮小してしまった場合。

<特例措置の内容>
休業等の初日が、令和2年1月24日から令和2年7月23日までの場合に適用します。
①休業等計画届の事後提出を可能とします。
②生産指標の確認対象期間を3か月から1か月に短縮します。
③最近3か月の雇用指標が対前年比で増加していても助成対象とします。
④事業所設置後1年未満の事業主についても助成対象とします。
助成内容と受給できる金額 大企業 中小企業
休業を実施した場合の休業手当または教育訓練を実施した場合の賃金相当額、出向を行った場合の出向元事業主の負担額に対する助成(率)
※ 対象労働者1人1日当たり 8,335円が上限です。(令和元年8月1日現在)
1/2 2/3
教育訓練を実施したときの加算(額) 1人1日当たり1,200円
支給限度日数 1年間で100日 (3年間で150日)

受給手続き
●事業主が指定した1年間の対象期間について、実際に休業を行う判定基礎期間ごとに計画届を提出することが必要です。
●新型コロナウイルス感染症に伴う休業等の計画届を提出する場合、令和2年5月31日までに提出されたものについて、休業等の前に提出されたものとして取扱います。
●事後提出する休業等については、1度にまとめて提出してください。
●事後提出しない休業等については、初回の計画届を、雇用調整を開始する日の2週間前をめどに、2回目以降については、雇用調整を開始する日の前日までに提出して下さい(最大で3判定基礎期間分の手続きを同時に行うことができます。)。
●事後提出しない休業等の場合の支給申請期間は判定基礎期間終了後、2か月以内です。

※詳細な支給要件等は厚生労働省のホームページでもご確認いただけます。


新型コロナウイルスに関するQ&A

 先月号でも触れましたが、厚生労働省が公表している「新型コロナウイルス感染症に関する企業(労務)の方向けQ&A」が随時更新されております。いくつか公表内容を記載しますので、今後の対応にお役立てください。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html

Q.発熱などの風邪の症状がある方については、どのようにすればよいのでしょうか 。
A.発熱などの風邪の症状があるときは、会社を休んでいただくよう呼びかけております。休んでいただくことはご本人のためにもなりますし、感染拡大の防止にもつながる大切な行動です。そのためには、企業、社会全体における理解が必要です。従業員の方々が休みやすい環境整備が大切ですので、ご協力いただきますようお願いします。

Q.新型コロナウイルスに関連して労働者を休業させる場合、どのようなことに気をつければよいのでしょうか。
A.新型コロナウイルスに関連して労働者を休業させる場合、欠勤中の賃金の取り扱いについては、労使で十分に話し合っていただき、労使が協力して、労働者が安心して休暇を取得できる体制を整えていただくようお願いします。なお、賃金の支払いの必要性の有無などについては、個別事案ごとに諸事情を総合的に勘案するべきですが、労働基準法第26条では、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合には、使用者は、休業期間中の休業手当(平均賃金の100分の60以上)を支払わなければならないとされています。

Q.労働者が発熱などの症状があるため自主的に休んでいます。休業手当の支払いは必要ですか。
A.会社を休んでいただくよう呼びかけをさせていただいているところですが、新型コロナウイルスかどうか分からない時点で、発熱などの症状があるため労働者が自主的に休まれる場合は、通常の病欠と同様に取り扱っていただき、病気休暇制度を活用することなどが考えられます。

一方、例えば発熱などの症状があることのみをもって一律に労働者に休んでいただく措置をとる場合のように、使用者の自主的な判断で休業させる場合は、一般的には「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当てはまり、休業手当を支払う必要があります。


全国健康保険協会 健康保険 保険料率の改定について

 令和2年度の全国健康保険協会の健康保険料率・介護保険料率は、本年3月分(4月納付分)から改定されます。

都道府県支部平成31年度令和2年度
全体労使折半
東京都9.90%9.87%4.935%
埼玉県9.79%9.81%4.905%
神奈川県9.91%9.93%4.965%
千葉県9.81%9.75%4.875%

(旧)介護保険料率(新)介護保険料率
1.73%(0.865%)1.79%(0.895%)
※組合管掌健康保険の料率は組合ごとに異なります。



「特定求職者雇用開発助成金(就職氷河期世代安定雇用コース)」の新設

 いわゆる就職氷河期に就職の機会を逃したことなどにより十分なキャリア形成がなされず、正規雇用労働者としての就業が困難な方を支援し、その就職を促進するため、雇い入れ日において下記①~④のいずれにも当てはまる方をハローワークまたは民間の職業紹介事業者などの紹介で正規雇用労働者として新たに雇用する事業主に対して支給されます。

≪対象となる労働者≫
雇入れ日時点の満年齢が35歳以上55歳未満の方
雇入れの日の前日から起算して過去5年間に正規雇用労働者として雇用された期間を通算した期間が1年以下であり、雇入れの日の前日から起算して過去1年間に正規雇用労働者として雇用されたことがない方
ハローワークなどの紹介の時点で失業している、または非正規雇用労働者である方でかつ、ハローワークなどにおいて、個別支援等の就労に向けた支援を受けている方
正規雇用労働者として雇用されることを希望している方
≪支給額≫
企業規模支給対象期間支給額※支給総額
第1期第2期
大企業1年25万円25万円50万円
中小企業1年30万円30万円60万円
※雇い入れ日から起算した最初の6カ月を第1期、以後の6カ月を第2期といいます。



「業務改善助成金」のご案内 ~一部コースの申請受付を延長しました~

 厚生労働省は、生産性を向上させ、「事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)」の引上げを図る中小企業・小規模事業者を支援する業務改善助成金の平成31年度の申請受付期限を3月31日まで延長することを公表しました。期限延長となるのは、「25円」「60円」「90円」の各コースです。
≪助成金の概要≫
 事業場内最低賃金を一定額以上引き上げ、設備投資(機械設備、コンサルティング導入や人材育成・教育訓練)などを行った場合に、その費用の一部が助成されます。
≪助成額≫
 申請コースごとに定める引上げ額以上、事業場内最低賃金を引き上げた場合、生産性向上のための設備投資等にかかった費用に助成率を乗じて算出した額が助成されます。申請コースごとに、助成対象事業場、引上げ額、助成率、引き上げる労働者数、助成の上限額が定められていますので厚生労働省のホームページをご参照下さい。
 ↓厚生労働省のホームページ
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/shienjigyou/03.html