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コラム

経団連が2020年春季交渉指針 日本型雇用制度を見直し

2020 年3 月3 日

経団連が2020年春季交渉指針 日本型雇用制度を見直し

 1月23日、経団連が2020年春季労使交渉の経営側の指針を大筋でまとめました。経済のデジタル化などに対応できない現在の雇用制度について、経団連の中西宏明会長は「強い危機感」があると表現。戦後一貫して採られてきた新卒一括採用、年功序列型賃金、終身雇用の3つを柱とするいわゆる「日本型雇用制度」は、当事者間の信頼関係を重視し、日本の国際的競争力を支える源泉となってきましたが、他の先進国に比べ、雇用の流動性が低く、現代社会に対応できないとの指摘もあります。経団連は23日の会見では、「日本型雇用制度の見直しを重点課題に掲げ、経団連として課題を提起し、社員の意欲を高められる会員企業を後押しする」との指針を示しました。


中途採用、通年採用の拡充 「ジョブ型雇用」の導入

 経団連は日本型雇用制度を前提に企業経営を考えると、時代に合わないケースが増えていると指摘しています。日本では一括して新規学卒者を採用し、企業の内部で長期的に人材を育成してきましたが、経済のデジタル化により企業の競争環境は変化し、先行きの不確実性が高まり、人材の内部育成が困難になりつつあります。経団連中西会長は、短期集中の新卒一括採用では能力を十分に確認できないと発言しており、経団連と大学関係者からなる産学協議会がまとめた中間報告では、専門的なスキルを見る通年型の「ジョブ型」採用導入など多様な採用形態への移行を提言しました。その「ジョブ型雇用」の導入は1月28日に事実上スタートした春季交渉指針でもキーワードとなり、あらかじめ職務を明確にする「ジョブ型雇用」の拡張を経団連が提案しています。これに対し連合は「職務を明確にするジョブ型雇用の拡充は、人材育成など日本型雇用のよい部分を失いかねない。」と懸念を示しました。


脱一律

 賃上げについて、経団連は「一律ではなく、自社の実情に応じて前向きに検討することが基本」と言及したうえで、「春闘が主導してきた同じ業種で横並びの集団的賃金交渉は実態に合わなくなっている」と指摘しています。これに対し、労働者側の代表である連合は、基幹労連を中心にベースアップを統一要求としているが、最終的に横並びの回答が出るとは限らないと、一律の賃上げを求める姿勢を示しつつも、「脱一律への余地を残しています。具体的にはトヨタ自動車労働組合が、基本給を底上げするベースアップ(ベア)の一律の引き上げをやめ、ベアに用いてきた賃上げの原資を個人の評価に応じ配分する制度を検討しており、賃上げの新たな仕組みを提案することが注目されています。
 さらに、経団連は「現在日本において年功序列的賃金が主流となっているが、優秀な人材の意欲を引き出すためには、自らの仕事が社会に貢献していると実感させ、高い給与などで報いる仕組みが欠かせない」との考えを示しており、年功序列的賃金の見直しも加速するとみられます。
 今国会において政府は「全世代型社会保障改革」を掲げ、その政策の一つとして「70歳現役社会」(70歳までの就業機会の確保を努力義務とする)を見据えた法整備を進め始めています。意欲のある人が長く働ける環境を整える狙いですが、企業の人件費増加につながる懸念もあり、このことからも前述の年功型賃金など雇用慣行の見直しは欠かせなくなります。労働生産性を高めながら実情に合った雇用制度への見直しや改革は、春季交渉だけでは難しく、将来的に内容をさらに深めた議論が求められるでしょう。日本の雇用制度の見直しについては引き続き注目する必要があります。


70歳までの就業機会確保 閣議決定

 政府は2月4日、企業に対し希望する従業員が70歳まで働き続けられるよう、就業機会の確保を企業の努力義務とすることを柱とした高年齢者雇用安定法などの改正案を閣議決定しました。少子高齢化が加速する中、働く意欲と能力のある高齢者の労働参加を促し、社会保障の支え手拡大を図ることを目的としたもので、現行の仕組み(定年延長、定年廃止、継続雇用制度の導入)に加え、独立して働くフリーランスへの業務委託や、社会貢献事業への従事などが企業の新たな選択肢となります。今通常国会で成立すれば2021年4月から実施される見通しです。
 関連法は、高齢化や副業・兼業の増加など働き方の変化に合わせた改正として、高年齢者雇用安定法や雇用保険法など6本の改正案を束ねたものとなっています。高齢者の就業機会確保としては、以下の方法で希望者の就業に努めることになります。
(1)定年延長  (2)定年廃止  (3)継続雇用制度の導入
(4)起業やフリーランスを希望する人への業務委託
(5)自社が実施・団体に委託する等の社会貢献事業に従事させる など
 上記に加え、継続雇用制度では、自社やグループ企業で雇い続けるだけでなく、他社に転職させることも新たに認めており、この場合は転職先との間で企業間契約を結ぶ必要があります。起業する人への業務委託や社会貢献活動に従事させる等の創業支援等措置については、労使で同意した上で導入する必要があります。


フリーランス等の雇用類似の働き方

 厚生労働省では、自営型(非雇用型)テレワークやフリーランスといった、特定の会社と雇用契約は結んでいないが実態として雇用されているのと同様の働き方をしている個人事業主などを「雇用類似の働き方の者(雇用類似就業者)」と定義し、企業側がこうした働き手に対して不利益な労働契約や、安全や健康を害することのないよう保護すべき対象者として検討会を開催しています。
 1月20日の検討会では、雇用類似就業者について、募集・契約時に就業条件をあらかじめ明示すること、継続的に業務を委託している相手との契約を解除・打ち切る際にはあらかじめ解除を予告すること、解約の理由を説明することなどについて、企業に対応を求めることが議論されました。
 また、雇用類似就業者として保護すべき対象についても議論されました。対象者の大枠を示すべきだとの考え方でおおむね一致していますが、細かな要件や、個人事業主が法人化した場合の保護の在り方などについては、今後も議論するとされています。



新型コロナウイルスに関するQ&A

新型コロナウイルスに関して、厚生労働省からQ&Aが出され、随時更新されています。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html



派遣労働者の「同一労働同一賃金」(派遣先の対応)

 労働者派遣法が改正され、派遣労働者に関してもいわゆる「同一労働同一賃金」の対象となります。派遣労働者の待遇は、派遣先の通常の労働者(正社員等)との均等・均衡待遇を図る「派遣先均等・均衡方式」、派遣元において締結する労使協定に基づく「労使協定方式」のいずれかの方式で決定されることになります(4月1日を含む契約から)。派遣先においては、以下の対応が必要になります。

  • 派遣元がどちらの方式をとるか、HP等で情報収集をした上で派遣を依頼します。
  • 派遣元に対して、自社の待遇情報を提供します。派遣先均等・均衡方式の場合は、比較対象労働者(職務内容、職務内容・配置変更の範囲が最も近い労働者)の賃金等全ての待遇の情報、労使協定方式の場合は業務の遂行に必要な能力を付与するための教育訓練および給食施設・休憩室・更衣室の情報のみが対象となります。
    情報提供がない場合は、労働者派遣契約を締結することができません。
  • 派遣料金について、派遣元が均等・均衡を確保し、または労使協定に定める賃金水準を確保できるように配慮しなければなりません。



障害者雇用に対する特例給付金の新設

 改正障害者雇用促進法に基づき、短時間であれば就労可能な障害者である労働者を雇用する事業主に対し、「特例給付金」が支給されることになりました。(令和2年度雇用分から
【対象障害者】
①障害者手帳等を保持する障害者 ②1年を超えて雇用される障害者(見込みを含む)
③週所定労働時間が10時間以上20時間未満の障害者

【支給額要件・支給額】
事業主区分 支給対象の雇用障害者 支給額 支給上限人数
100人超 週10時間以上20時間未満 7,000円/人月(≒調整金@27,000円*1/4) 週20時間以上の雇用障害者数(人月)
100人以下 5,000円/人月(≒報奨金@21,000円*1/4)

【申請要領・支給額】
申請対象(雇用)期間:申請年度の前年度の4月1日から翌年の3月31日まで
申請:100人超事業主(納付金対象)⇒申請年度の4月1日から5月15日まで(納付金申告と同時)
100人以下事業主(納付金対象外)⇒申請年度の4月1日から7月31日まで
支給:申請年度の10月1日から12月31日までの間に実施
※詳細な支給要件等はこちらをご確認ください。
http://www.jeed.or.jp/disability/koyounoufu/tokureikyuufu.html



東京都就労支援とソーシャルファーム創設に係る条例

 東京都議会では、就労を希望しながらも様々な事由により就労することが困難である方などの就労支援と、障がいのある人や労働市場で不利な立場にある人々の雇用に積極的に取組んでいる企業(ソーシャルファーム)の創設に係る条例が成立し、施行されました。
 東京都ではソーシャルファームの創設および活動を支援するため、支援対象となるソーシャルファームの認証制度を定め、就労支援に係る施策等を推進するために必要な財政上の措置を講ずるよう努めるとしています。また、支援策・認証基準等を取りまとめた指針等を策定するとしています。



「同一労働同一賃金」への取組は進んでいますか?

 「同一労働同一賃金」に関する法律(パートタイム・有期雇用労働法)が今年4月1日に施行されます(中小企業は来年4月1日から)。「正規」と「非正規」の待遇差の点検・検討は時間を要することから、計画的に進める必要があります。取組の際、厚生労働省から公開されているマニュアルおよびその中のワークシートをご活用ください。(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_03984.html



身元保証書に極度額の記載が必要になります

 今年4月の民法改正により、個人の根保証に関する規定が変更となり、極度額(限度額)の定めが必要となりました。入社時等に提出を求める身元保証書についても、極度額を定めることが求められます。今回の改正を契機に、今後も身元保証書の提出を求めるかどうかや身元保証人に求めるものの精査など、再検討されてもよいかもしれません。



令和2年度の年金額改定について

 2020年1月24 日、総務省より「2019 年平均の全国消費者物価指数」が公表されました。これを踏まえ、令和2年度の年金額は、法律の規定により、令和元年度から0.2%プラスで改定されます。

令和元年度(月額) 令和2年度(月額)
国民年金(老齢基礎年金(満額):1人分) 65,008 円 65,141 円(+133 円)
厚生年金(夫婦2人分の老齢基礎年金を含む標準的な年金額) 220,266 円 220,724 円(+458 円)
※平均的な収入(平均標準報酬(賞与含む月額換算)43.9 万円)で40 年間就業した場合に受け取り始める年金(老齢厚生年金と2人分の老齢基礎年金(満額))の給付水準です。



2020年限定の祝日移動について

 2020年に限り、「海の日」を7月23日、「スポーツの日(現行:体育の日)」を7月24日、「山の日」を8月10日に移動します。開会式や閉会式の前後に祝日をあてて首都圏の通勤・通学者を減らすことで、渋滞を緩和するねらいです。勤務カレンダーを作成している場合などは注意が必要です。

祝日名 例年 2020年のみ
海の日 7月の第3月曜日 7月23日(木曜日)【オリンピック開会式前日】
スポーツの日(体育の日) 10月の第2月曜日 7月24日(金曜日)【オリンピック開会式当日】
山の日 8月11日 8月10日(月曜日)【オリンピック閉会式翌日】