MURC

コラム

「外国人材」との協働に向けた企業の取り組みについて

2019 年11 月5 日

コンサルティング事業本部組織人事ビジネスユニット組織人事戦略部

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社

コンサルタント後藤 健之

 我が国においては、少子高齢化により、人口の減少、特に生産活動の中核をなす労働力となりうる15歳以上65歳未満の年齢に該当する人口(以下、生産年齢人口 という)の不足が深刻化しており、対応策の一つとして、外国人材の受け入れについて議論がなされてきた。 これに関して、政府は出入国管理法を改正し新たな在留資格を設け、外国人材の受け入れを一段と推進する方針を示している。 企業においても、労働力不足への対応のみならず、グローバル展開における即戦力としての活躍を期待する等の理由で、外国人材を雇用する事業所は年々増えている。 実際、我々の日常生活においても、飲食店やコンビニエンスストア等で働く外国人の方を目にする機会が非常に多くなった。
 一方、外国人材の受け入れにあたって、企業は制度面、運用面の両方で様々な課題に直面している。 そのような課題の発生を懸念し、外国人材の受け入れをためらう企業もあるだろう。 とはいえ、労働力確保のために将来的に外国人材の受け入れを考える企業は多く、コンサルティングの現場でも外国人材との協働に向けた悩みをよく耳にする。
 そこで本稿では、「外国人材の中長期的な確保に向けて、受け入れ企業として外国人材が働きやすい職場環境づくりや生活支援をどのように目指すか」についてヒントを得ていただくため、「外国人材の受け入れの好事例」としていくつかの企業の取り組みを紹介する。


1. 「外国人材」に関する現状

 本章では、国内の生産年齢人口の減少、外国人材の労働市場の状況について具体的な統計値をもとに説明した後に、外国人材との協働における課題について、「募集・採用」、「配属・評価」、「職場環境の整備」、「教育・育成」、「生活支援等」の5つの視点で整理する。


(1)国内の状況
 国内の生産年齢人口は減少傾向にあり、人手不足の深刻化が訪れようとしている。 国立社会保障・人口問題研究所が公表している将来推計*1では、総人口は2015年時点では12,709万人、2040年に11,092万人、2060年には9,284万人になるとされている。 このうち、生産年齢人口については、2015年には総人口の60.8%を占めていたが、2060年頃にはおよそ51%近くまで下がる見込みである。

(2)外国人材の市況
 前述の状況の下、我が国においては、新たな働き手として外国人材の受け入れ拡大に取り組んできた。 直近では、2019年4月1日より改正出入国管理法が施行され、新たな在留資格が設けられたことで、単純労働分野における外国人材の受け入れの動きが加速しつつある。
 厚生労働省の公表*2によると、平成30年10月末時点で、外国人材の数は約146万人。 これを国籍別に見ると、中国が最も多く389,117人(外国人材の全体の26.6%)、次いでベトナム316,840人(同21.7%)、フィリピン164,006人(同11.2%)となっている。 外国人材を雇用する事業所数も、216,348か所と、2014年以降、毎年約2万事業所ベースで増加している。

(3)外国人材の受け入れにおける課題
  外国人材の受け入れにより、人的資源の強化、海外に関わる業務の成果の拡大、日本人社員に対する良い刺激の提供といったメリットがある一方で、企業を中心に外国人材に自社で働いてもらう際に様々な課題が発生している。以下に、例を示す。


表1.外国人材を受け入れる上での課題の例
視点 課題の例
募集・採用
  • 外国人材についての情報がない
  • 外国人材の募集や採用の方法が分からない
  • キャリアパスに対する外国人材と企業側のミスマッチが多く、帰国、転職をするなど、定着率が低い
  • 在留資格等の申請手続きが煩雑であり、処理コストがかかる
  • 採用部署と人材開発部署の連携が難しい
配属・評価
  • 仕事のやり方や考え方に違いがある
  • 在留資格による職務や配置に制限がある
  • 外国人材の処遇や人事管理の方法が分からない
職場環境の整備
  • 配属先の現場での受け入れ体制、サポート体制が整っていない
  • 休日・休暇、労働時間の管理が十分になされていない
  • 指示の出し方、仕事の進め方に違いがある
教育・育成
  • 外国人材の受け入れに対する日本人社員の理解が不十分
  • 日本語能力に問題がある
  • 日本人社員とのコミュニケーションに不安がある
生活支援等
  • 外国人が住居を借りる際に断られることが多く、住宅探しにサポートを要する
  • 家族の日本語能力が低いことへのサポートが不十分
  • 在留資格の更新の手続きへのサポートが不十分

(出所) 内閣府「企業の外国人雇用に関する分析 取り組みと課題について」(2020年9月)、 厚生労働省「高度外国人材にとって魅力ある就労環境を整備するために 雇用管理改善に役立つ好事例集」(平成30年3月)、 厚生労働省「高度外国人受け入れのための実践マニュアル」(平成23年2月) を基にMURC作成


 課題については、「募集・採用」、「配属・評価」、「職場環境の整備」、「教育・育成」、「生活支援等」の5つの視点で整理した。 外国人材に対する情報不足、採用時の手続きの煩雑さへの対応、そもそもの外国人材の人事管理の方法といった、仕組みを整備するために会社の管理部門が直面する課題が多くみられる。 また、外国人に対する日本人社員の理解が不足や職場コミュニケーションへの不安、受け入れ体制が十分に整っていない、といった現場の社員が直面する課題もある。 さらに、住居探しや日本語能力の向上等、日常生活を送る上で本人やその家族が直面する課題があることが分かる。

*1(出所)国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」(平成29年推計)
*2(出所)厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況」(平成30年10月末現在)


2. 日本企業による外国人材の受け入れのための施策例

 1章(3)でまとめた課題を解決するヒントを得るうえで、実際に外国人材の受け入れに取り組んだ企業事例を3つ紹介する。


表2.外国人材の受け入れに向けた企業の取り組みの好事例
企業名 取り組みの概要
カシオ計算機株式会社

1. 入社後のキャリアプランがイメージしやすい職種別採用を実施

  • 特定の分野に対して高い専門性や気概を持った優秀な学生を確保できる
  • 採用時に入社後のキャリアプランを明示することは、結果としてミスマッチによる入社後の早期退職やモチベーション低下の防止も期待できる
  • 相対的にキャリアアップ志向の強い外国人を募集する際の、大きなPRポイントのひとつにもなっている

2. イスラム教徒である外国人社員のためにお祈り部屋を設置するなど宗教に配慮

  • お祈りできない不安を解消し、仕事に集中してほしいという考え方により設置
  • 社員食堂では、例えば宗教上の理由で豚肉が食べられない人に配慮するため、豚肉を使用した料理であることをわかるよう工夫している

3. 休暇目的を明確にすることで、外国人社員の帰郷のための長期休暇取得を促進

  • 休暇目的を明確化した「母国帰国休暇」を制度として創設し、入社3年経過後から、以降3年に1度のペースで、特別休暇として外国人社員のみに付与する仕組みとした

4. 外国人社員の日本語能力向上のためにビジネス日本語能力テストの受験料を補助し、円滑なコミュニケーションを促進

  • 会社が費用を補助することで、外国人社員がビジネス日本語を学ぼうとするきっかけとなり、日本人社員やお客様とのコミュニケーションの円滑化が図られる
日本特殊陶業株式会社

1. 座学研修では、高度外国人材が分からないことがあると日本人社員が高度外国人材に説明するなどサポートを行う

  • 新入社員研修の約2ヶ月間、新入社員である高度外国人材に同期入社の日本人新入社員をバディとしてペアを組ませ、高度外国人材が分からない事や不自由することがあれば、日本人新入社員がフォロー
  • バディ役となる日本人社員は募集制で、英語力は不問だが、海外留学を経験していたり、英語を得意とする者からの応募が多い。本取り組みは、高度外国人材にとって大きな助けとなる他、日本人新入社員にとっても英語力の更なる向上につながる

2. 高度外国人材1人に対し、日本人社員複数人が交代制でペアを組む

  • 新入社員の人数比としては、外国人より日本人の方が多いため、日本人新入社員の中から立候補の形でバディ役を募集
  • 2017年度は、新入社員である高度外国人材4人に対し、日本人新入社員13人がバディに応募してきたため、高度外国人材1人に対して日本人新入社員3人(人によっては4人)が日替わりでバディを組むように
  • ペアはできるだけ同性同士の新入社員で組むように配慮(社員寮に住む場合には、1部屋を数人でシェアすることとなるため、ペアを組む者同士が社員寮でも同部屋となるようにし、より緊密なコミュニケーションができるように配慮した)
HENNGE株式会社(旧:株式会社HDE)

1. 「昇段制度」は、無段から4段までの5段階あり、職務ごとに細分化して必要な能力(コンピテンシー)を制定

  • 「昇段制度」は、無段から4段までの5段階あり、職務とその段位ごとに、どのような業務をどのようなレベルで行うのか、必要なコンピテンシーを策定
  • 高度外国人材の採用を開始してからは、「英語コンピテンシー」を追加したり、より職務を細分化し、それぞれ必要な能力の定義の明確化を行い、新たなコンピテンシーを加えつつ運用
  • この職能資格制度は、全社員共通で必要な能力を規定する「共通職段要件」と、職務単位(職科)の職段ごとに必要な能力を規定する「職科ごとの職段要件」の2つの制度を規定し、社員の職務ごとに必要な能力を定義、社員のキャリア開発のためのモチベーションを喚起している

2. 段位ごとに想定年収レンジが決まっており、昇段にあたっては自らの「昇段申請」による評価プロセスを行う

  • 「昇段制度」では、段位ごとに想定年収レンジが決まっている。昇段にあたっては、社員自らで昇段の意志を申請し、規定されている能力(コンピテンシー)を満たしている理由を自身より上段の社員に発表する「昇段会議」を行い、それをもとに部門長による承認(一次評価)、最終役員による承認(最終評価)を経て昇段可否が決定
  • 昇給は、原則年1回の考課・査定(著しい能力アップがある社員は半期での特別昇給がある場合もあり)により決定される。考課・査定においては、部門評価(絶対評価)、全社評価(相対評価)のプロセスを経る。また、その昇給額は、自らの持つ段位の想定年収レンジの範囲内で決定

(出所)厚生労働省「外国人の採用や雇用管理を考える事業主・人事担当者の方々へ 外国人の受け入れ好事例集~外国人と上手く協働していくために~」(平成29年3月)を基にMURC作成
(出所)厚生労働省「高度外国人材にとって魅力ある就労環境を整備するために 雇用管理改善に役立つ好事例集」(平成30年3月)を基にMURC作成


 3社の事例を参考にすると、外国人材の受け入れを円滑に進めるポイントとして、以下の3点が重要であると考えられる。

POINT1
外国人材に対して求める人物像や期待する役割を明確にしたうえで、適切な募集・採用経路を選択し、外国人材が中長期的なキャリア形成を支援できる体制を整えること
POINT2
現場の日本人社員が積極的に相互理解に努めること。そして、外国人材が職場で疎外感を持たないよう、職場での業務運営方法の見直しを継続すること
POINT3
日本人社員と外国人材の双方が互いの違い(宗教、文化、生活スタイル)を発信し合い、外国人材本人とその家族が生活しやすい環境づくりを支援すること

3. 今後の展望

 国内においては、今後、単純労働分野を中心とした外国人材の活用への取り組みがより一層加速するだろう。 また、事業の海外展開、商品開発や新たなビジネスモデルの開発など、単純労働以外においても外国人材が活躍する場面が増えていくことは想像に難くない。 すると必然的に、より多くの企業が外国人材との協働に向けて取り組んでいく必要が高まってくる。
 外国人材の受け入れを進めるには、まず、トップマネジメントの発信により外国人材との協働の目的、必要性および重要性を社員に浸透させることが不可欠である。次に外国人材を受け入れる上での課題を事前に把握・共有すること。 そして、人事制度や労働時間管理の仕組みなどの諸制度を整備することだ。その上で、異文化に対する理解を深めるための取り組みを継続することが重要である。
 企業としてのハード面の整備、社員一人ひとりのソフト面の準備の双方が必要なのは、繰り返し述べてきたところだが、これは外国人材の受け入れに限ったことではない。 文化や習慣に対する先入観や固定観念にとらわれず、一人の個人として向き合いコミュニケーションをとる姿勢は、言うまでもなく日本人の間でも大切なことだ。 きっかけは外国人材の受け入れであったとしても、目指すべきは個を尊重しあう企業づくりであり、それは全ての社員にとって働きやすい企業になることに繋がるはずである。