社労士

コラム

「持続可能な開発目標(SDGs)」について②

2019 年11 月5 日

SDGsの前提要件

 人間、地球及び繁栄のための行動計画であるSDGs(持続可能な開発目標)の採択された宣言の前文で「我々は、恐怖及び暴力から自由であり、平和的・公正かつ包摂的な社会を育んでいくことを決意する。 平和なくしては持続可能な開発は有り得ず、持続可能な開発なくして平和もあり得ない」として「平和」が、また、「人の尊厳、法の支配、正義、平等及び差別のないことに対して普遍的な尊重がなされる世界を目指すべき」とし、「人権」の尊重も重要な前提条件として述べられています。
 人権のなかでもSDGsの目標5に掲げられている「ジェンダ平等の実現と女性・女児の能力強化は、すべての目標とターゲットにおける進展において死活的に重要な貢献するものである」と位置付けされています。


SDGsの目標

 個々の目標の中で、地球規模の課題として「貧困層および脆弱層をはじめ、すべての男性及び女性が、基礎的サービスへのアクセス、土地及びその他の形態の財産に対する所有権と管理権限、相続財産、天然資源、適切な新技術、マイクロファイナンスを含む金融サービスに加え、 経済的資源についても平等な権利を持つことができるように確保する」等、「あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる」ことや、気候変動の特徴を踏まえ、世界の温室効果ガス排出削減を加速し、気候変動による負荷の影響に対する適応を促進するための可能な限り広い国際協力が求められるとして、 「環境」に関する複数の目標が掲げられています。


「労働」に関する第8の目標

 各企業の皆様に直接関係する目標としては、「労働」に関する第8の目標です。 「包摂的で持続可能な経済成長の継続は、繁栄のために不可欠である」と同時に「すべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する」とし、 以下具体的ターゲット内容の一部を紹介します。

 ◆「若者や障害者を含むすべての男性及び女性の、完全かつ生産的な雇用及び働きがいのある人間らしい仕事、ならびに同一労働同一賃金を達成する。」
 ◆「強制労働を根絶し、現代の奴隷制、人身売買を終わらせるための緊急かつ効果的な措置の実施、最悪な形態の児童労働の禁止及び撲滅を確保する。
 ◆「移住労働者、特に女性の移住労働者や不安定な雇用状態にある労働者など、すべての労働者の権利を保護し、安全・安心な労働環境を促進する」

 これらSDGsの目標達成は、単に政府や国連を始めとする公的機関のみで達せられません。 市民社会、民間セクター等を集結させ、「あらゆる利用可能な資源を動員」することが求められています。
  (次回は、上述の「労働」分野の「現代の奴隷制」について述べます。)

パワハラ指針の骨子案が公表されました

 来る9月18日、厚生労働省で「第18回労働政策審議会雇用環境・均等分科会」が開催され、「職場におけるパワーハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針の骨子(案)」が提示されました。 骨子案のため、内容はシンプルなものとなっています。

◆職場におけるパワーハラスメントの内容

  • 職場におけるパワーハラスメントの定義
    (職場において行われる ①優越的な関係を背景とした言動であって、 ②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、 ③労働者の就業環境が害されるもの)
  • 客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しないこと。
  • 「職場」とは、事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所を指し、当該労働者が通常就業している場所以外の場所であっても、当該労働者が業務を遂行する場所については、「職場」に含まれること。
  • 「労働者」の範囲(派遣労働者の取扱い)
  • 「優越的な関係を背景とした」言動の考え方
  • 「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動の考え方
  • 「就業環境を害すること」の考え方(「平均的な労働者の感じ方」を基準とすべきであることなど)
  • 職場におけるパワーハラスメントの代表的な言動の類型、典型的に職場におけるパワーハラスメントに該当し、又は該当しないと考えられる例

◆事業主等の責務 事業主の責務、労働者の責務

◆事業主が雇用管理上講ずべき措置の内容

  1. 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
  2. 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
  3. 職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応(迅速・正確な事実確認、被害者への配慮措置、加害者への措置、再発防止)
  4. 上記の措置と併せて講ずべき措置(相談者・行為者等のプライバシー保護、相談等を理由とした不利益取扱いの禁止)

◆事業主が他の事業主の雇用する労働者等からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為に関し行うことが望ましい取組の内容(相談対応等)

 今後、検討が進められることになりますが、パワハラ等は受ける側の意識によりますので、職場のコミュケーションの状況によりパワハラだとされる、されないといった差がでることも事実です。 ささいな事でもパワハラだとされないためにも、日頃のコミュケーションが大切だという認識を従業員にもたせることも必要ではないかと思われます。


高齢者の就業者数、過去最多

 総務省によると、2018年の高齢(65歳以上)就業者数は、2004年以降、15年連続で前年に比べ増加し、862万人と過去最多となっており、15歳以上の就業者総数に占める高齢就業者の割合は、12.9%と過去最高となっています。 高齢就業者数を主な産業別にみると、「卸売業,小売業」が127万人と最も多く、次いで「農業,林業」、「サービス業」となっています。 高齢就業者を雇用形態別にみると、高齢雇用者の4人に3人は非正規の職員・従業員であり、高齢者の非正規の職員・従業員は、10年間で200万人以上増加しています。 非正規の職員・従業員についた主な理由は、男女とも「自分の都合のよい時間に働きたいから」が最多となっています。 主要国における高齢者の就業率は、各国とも上昇している状況にありますが、2018年の日本の高齢者の就業率は24.3%となっており、主要国の中でも高い水準にあります。


全国の最低賃金の改定額が答申されました

 各都道府県労働局に設置されているすべての地方最低賃金審議会が、令和元年度の地域別最低賃金の改定額(以下「改定額」)を答申しました。

都道府県 最低賃金額(増加額) 都道府県 最低賃金額(増加額)
東京 1013円(28円増) 千葉 923円(28円増)
神奈川 1011円(28円増) 埼玉 926円(28円増)

東京、神奈川で全国初の時間額1,000円超え、全国加重平均額は901円~

【令和元年度地方最低賃金審議会の答申のポイント】
  • 全国加重平均額27円の引上げは、昭和53年度に目安制度が始まって以降で最高額
  • 最高額(1,013円)と最低額(790円)の金額差は、223円(昨年度は224円)となり、平成15年以降16年ぶりの改善。また、最高額に対する最低額の比率は、78.0%(昨年度は77.3%)と、5年連続の改善
  • 東北、九州などを中心に全国で中央最低賃金審議会の目安額を超える引上げ額が19県(昨年度は23県。目安額を3円上回る引上げ(鹿児島県)は、6年ぶり。)

判例(HIV感染で内定取り消しは違法)

周囲に感染する危険は小さく、感染の事実を告げる義務はない/札幌地裁 令和元年9月17日

 エイズを引き起こすウイルス、HIVへの感染を告げなかったことを理由に就職の内定を不当に取り消しされたとして、北海道の男性が内定先だった社会福祉法人を訴えた裁判で、札幌地方裁判所は「周囲に感染する危険は小さく、感染の事実を告げる義務はない」と認め、法人に165万円の賠償を命じました。 さらに、病院側が過去のカルテをもとに男性の感染の事実を把握した点についても、医療情報の目的外利用でプライバシーの侵害にあたると指摘し、社会福祉法人に165万円の賠償命令を命じました。 国のガイドラインは、HIV感染を理由として、労務管理上不利益に扱うことを禁止しております。 https://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/05/s0527-3b.html(厚生労働省)


「日・フィンランド社会保障協定の署名が行われました」

 9月23日(現地時間同日)、フィンランドのヘルシンキにおいて、日・フィンランド社会保障協定の署名が行われました。 現在、日・フィンランド両国からそれぞれ相手国に一時的に派遣される企業駐在員等については、日・フィンランド両国の年金制度及び雇用保険制度に二重に加入することが義務付けられていますが、 協定が発効されることで、派遣期間5年以内の企業駐在員等は、原則として、派遣元国の年金制度及び雇用保険制度のみに加入する事になります。 今後は、両締約国が当該協定の効力発生に必要な憲法上の要件が満たされた旨を相互に通告した後に正式に発効されます。
 9月23日現在、我が国との社会保障協定の締結状況としては、協定発効済み20か国、署名済み3か国、政府間交渉中1か国、予備協議中2か国となっています。


「令和2年分」の年末調整が大幅に変わります!

「平成30年度税制改正大綱」の影響を受け、2020年1月から源泉所得税の改正が行われます。 これにより、2020年度の年末調整において、一部手続きに影響が出ることが明らかになりました。 2020年1月から改正される改正点のうち、年末調整に影響するものとして挙げられるのは以下の4点です。

給与所得控除の引き下げ 所得金額調整控除の創設
基礎控除の引き上げ 配偶者・扶養親族等の合計所得金額要件等の見直し

 また、令和2年10月以降の年末調整において、従業員が給与の支払い者に提出する控除申告書に、従来は書面で添付していた保険料控除証明書に代えて、保険会社等から交付を受けた控除証明書等の電子データを添付して提出することが可能になります。 従来、行っていた控除申告書の記載内容と保険料控除証明書等との突合、確認事務が不要となるなど、より簡便な書類作成が可能になります。

10月は「年次有給休暇取得促進期間」です

 厚生労働省では、年次有給休暇を取得しやすい環境整備を促進するため、次年度の年次有給休暇の計画的付与について労使で話し合いを始める前の10月を「年次有給休暇取得促進期間」として、集中的な広報活動を行っています。 年休について、2020年(令和2年)までに、その取得率を70%とすることが目標とされていましたが、2017年(平成29年)には51.1%と18年ぶりに50%を超えたものの、目標の70%とは大きな乖離があります。 このような中で、労働基準法が改正され、今年4月より、使用者は、法定の年次有給休暇付与日数が10日以上のすべての労働者に対し、毎年5日間、年次有給休暇を確実に取得させることが必要となりました。 労使一体となって計画的な年次有給休暇の取得を図ることで、年次有給休暇の取得を促進させるとともに、労働基準法の遵守にも大きく寄与することとなります。