社労士

コラム

オリンピック開催時に向けて テレワークと時差出勤の活用

2019 年9 月3 日

オリンピック開催時に向けて テレワークと時差出勤の活用

1.東京五輪に向けた取組み

 2020年夏に開催される東京五輪・パラリンピックに向け混雑緩和に向けた取り組みとしてテレワーク(在宅勤務)や時差出勤に対する関心が高まる中、東京五輪開催1年前となる今年、東京都庁では五輪期間に相当する7月22日から8月2日と、パラリンピック期間の8月19日~30日の計20日間、本庁勤務の職員約1万人を対象に以下のようなテレワーク及び時差出勤の実験に取り組みました。

  • 上記期間のうち4日間都庁第一、第二庁舎及び議会棟で働く職員の数を3分の1に減らす
  • 7月22日~26日には、午前8時~午前10時に電車・バスといった公共交通機関を使用しない

 加えて、テレワークを推進するため持ち運び可能なパソコンの配布を行い、配布済の約2,800人が一斉に都庁以外で働く日を設けることも予定されているほか、多摩地域の市役所内などに臨時のサテライトオフィスを設置し、そこでの勤務を推奨することも予定されています。
 テレワーク・時差出勤といった取組みは、多様で柔軟な働き方を目指す働き方改革を実現する上で整備すべき有効な制度と考えられることから、東京五輪を意識しながら取り組まれることをお勧めします。

2.テレワーク制度導入のためのガイドライン

 テレワークなどの制度を活用することで、場所にとらわれない働き方をすることができ、より効率的に働くことが可能となる一方で、働く場所の自由を認めることにより、企業として今までと異なる労務管理の方法が求められる点についてあらかじめ留意する必要があります。厚生労働省から「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」が公表され、テレワーク実施に際しての労働諸法令の適用に関する留意点が以下のように明示されています。

  • 労働者が労働から離れ、自由利用が保障されている場合、休憩時間や時間単位の年次有給休暇として取扱うことが可能であること
  • 使用者が移動することを労働者に命ずることなく、単に労働者自らの都合により就業場所間を移動し、自由利用が保障されている場合は、労働時間に該当しないこと
  • テレワークもフレックスタイム制を活用可能だが、労働時間の把握は必要となること

また、労働者の裁量が大きくなる中で長時間労働を招かないための対策として、①メール送付の抑制、②システムへのアクセス制限、③ テレワークを行う際の時間外・休日・深夜労働の原則禁止等、④長時間労働等を行う者への 注意喚起等の手法が推奨されています。本ガイドラインを参考としつつ、多様なニーズに応えられる働き方を提案していくことが必要となります。

3.テレワーク制度に関する助成金制度 

 厚生労働省では、テレワーク普及促進関連事業として「時間外労働等改善助成金(テレワークコース)」を設け、在宅又はサテライトオフィスにおいて就業するテレワーク制度の導入に取り組む中小企業事業主に対し、取組みに必要となる機器の導入・運用や就業規則・労使協定等の作成・変更等に要した費用の一部を助成しています。

 支給額は対象となる取組みの実施に要した費用のうち、「対象経費」に該当するものについて、成果目標の達成状況に応じて、1人当たり20万円(上限額)、1企業当たり150万円(上限額)が助成されます。※1人当たりの上限額×対象労働者数又は、1企業当たりの上限額のいずれか低い方の額が支給されます。

■時間外労働等改善助成金(テレワークコース)■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/jikan/syokubaisikitelework.html


井関松山ファクトリー事件・井関松山製造所事件  ~諸手当の格差は不合理、賞与の格差は不合理認めず/高松高裁 令和元年7月8日~

 正社員と同じ業務を行っているのに手当や賞与に格差があるのは労働契約法に違反するとして、農業機械メーカー井関農機の子会社2社の契約社員5人が、会社に差額の支給を求めた訴訟で、高松高等裁判所は一審を支持し、諸手当の格差を不合理としたものの、賞与の格差は認める判決を下しました。

 裁判では、職制に就いていない正社員を比較対象として、契約社員との間で職務内容に大きな相違はないが、人材活用の仕組みに関しては、正社員のみが職制に就いたり、通信教育が用意されている点から相違があるとしています。

 最高裁の判例を踏襲し、各手当の主旨を個別に考慮するとした上で、正社員のみに支給される、家族手当、住宅手当、精勤手当、物価手当については、年齢、出勤日数、家族の人数など決められた基準で一定額が支給される要件が規定されていることから、職務内容の差異に基づくとは認めがたいとして、契約社員との理由での不支給は不合理であり、労働契約法第20条で禁止している「不合理な待遇格差」に当たるとして、会社に対して5人分の合計約300万円の支払いを命じています。

 一方、賞与に関しては、正社員賃金規程の「会社の業績に応じて賞与額を決定する。ただし業績不振の場合はこの限りではない」などの記載内容から、賞与配分における会社の広範な裁量を前提としているとして、個人の業績を中心としているとは言い難く、労務の対価の後払いや有為な人材の定着を目的とした性格を持つことなどを理由に挙げ、賞与の格差については違法とはいえないとしました。 原告側は、「賞与の格差についての違法性が認められるように、闘いたい」と上告する意向を示しており、賞与に関する争点は最高裁に持ち越されそうです。


副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関する検討会/厚労省

 厚生労働省では「働き方改革実行計画」を踏まえ、副業・兼業の普及促進を図っていますが、制度的な課題が多いこともあり、働き方の変化等を踏まえた実効性のある労働時間管理について検討を進めるため、「副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関する検討会」を立ち上げ、労働時間法制の変遷、企業や労使団体へのヒアリング、諸外国の視察結果等を踏まえ、報告書(案)をまとめました。

 検討会では、複数の事業場の労働時間を厳密に把握することは実務上かなり難しく、使用者は法違反を回避するため副業・兼業を認めること自体に慎重になるのではないかとみています。

 こうした状況を踏まえ、時間外上限規制については、①労働者の自己申告を前提に、あらかじめ副業・兼業が可能な上限時間を月単位などで設定し、その範囲内で認める ②適切な健康確保措置を講ずることを条件に、事業主ごとに上限規制を適用する という選択肢を例示し、その他、労働者自身が月の総労働時間をカウントし、上限時間に近くなった時に各事業主に申告すること等も考えられるとしています。また、割増賃金の支払い方法についても、①労働者の自己申告を前提に、週や月単位などの所定労働時間のみを通算して支払う ②各事業主の下で法定労働時間を超えた場合のみ支払う とした選択肢を例示、割増賃金の支払いについて、日々計算するのではなく、計算・申告を簡易化すること等も考えられるとされています。

 連合事務局長は、労働時間の通算を行わず事業主ごとに適用させる選択肢については、労働者保護に欠けると懸念を示しており、厚生労働省も慎重に判断する姿勢を示していますが、今後は労働政策審議会において、引き続き検討されます。


令和元年8月1日からの基本手当日額等の適用について

 毎月勤労統計の平均定期給与額の増減に伴う雇用保険の基本日額の限度額変更について、令和元年は、毎月勤労統計調査の全件調査を一部抽出調査としていたことによる改定額(平成31年3月18日より変更)が引き続き適用されます。

  • 年齢区分に応じた賃金日額・基本手当日額の上限額
  • 年齢区分に応じた賃金日額・基本手当日額の上限額
  • 賃金日額・基本手当日額の下限額
  • 基本手当日額の下限額は、年齢に関係なく、1,984円になります。
    ※賃金日額・基本手当日額の下限額については、変更ありません。

  • 高年齢雇用継続給付(平成 31 年3月 18 日以後の支給対象期間から変更)
  • 支給限度額 359,899円 → 360,169円(+270円)
    最低限度額 1,984円 ※最低限度額については、変更ありません。

  • 60 歳到達時等の賃金月額
  • 上限額 472,200円 → 472,500円(+300円)
    下限額 74,400円 ※下限額については、変更ありません。

  • 育児休業給付(初日が平成 31 年3月 18 日以後の支給対象期間から変更)
  • 支給限度額 上限額(支給率 67%)301,299円 → 301,701円(+402円)
    上限額(支給率 50%)224,850円 → 225,150円(+300円)

  • 介護休業給付(初日が平成 31 年3月 18 日以後の支給対象期間から変更)
  • 支給限度額 上限額 331,650円 → 332,052円(+402円)

【雇用保険等の追加給付について】
毎月勤労統計調査を一部抽出調査としていたことによる雇用保険・労災保険等の給付に不足額がある方を対象に追加給付が行われます

現に給付を受けている方 給付 お知らせ開始時期 お支払い開始時期
雇用保険(過去分) 3月18日~ 概ね支払い完了
労災保険
(過去分の労災年金)
5月23日~ 6月14日~
労災保険
(過去分の休業補償)
6月26日~ 7月5日~


過去に給付を受けている方 給付 お知らせ開始時期 お支払い開始時期
雇用保険(育児休業給付) 8月8日~ 11月頃~
雇用保険(それ以外) 10月頃~ 11月頃~
労災保険(労災年金) 9月頃~ 10月頃~
労災保険(休業補償) 8月頃~(一部の方は11月頃~) 9月頃~(一部の方は12月頃~)
追加給付についての準備状況などは逐次更新されますので、以下のリンクをご確認ください。

■毎月勤労統計に係る雇用保険・労災保険の追加給付について■
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_03463.html#toiawase


パワハラ・嫌がらせに関する相談が増えています

 厚生労働省より、平成30年度の個別労働紛争解決制度の実施状況が発表されました。総合労働相談が11年連続で100万件を超えており、民事上の個別労働紛争の相談内容(266,535件)では「いじめ・嫌がらせ」が昨年より14.9%増え、7年連続でトップとなっています。また、日本労働組合総連合会より「なんでも労働相談ダイヤル」2019年6月分集計結果(1,639件)が発表され、「パワハラ・嫌がらせ」(297件・18.1%)が最多となっています。


地域別最低賃金の改定額が答申されました

 中央最低賃金審議会(厚生労働大臣の諮問機関)の小委員会は、2019年度の全国の最低賃金の目安を27円引き上げて時給901円にする方針を決めました。三大都市圏はそれぞれ28円上がり、東京都は1,013円に、神奈川県1,011円となり、いずれも全国で初めて時間額が1,000円を超え、大阪府は964円となり、引き上げ額は過去最大となっています。

最高額(東京都)の1,013円(28円引き上げ)と最低額(15県)790円(26円から29円引き上げ)の金額差は223円(昨年度は224円)となり、03年以降16年ぶりに改善されました。

 最低賃金については、「働き方改革実行計画」において、「年率3%程度を目途として、名目GDP成長率にも配慮しつつ引き上げていき、全国加重平均が1,000円になることを目指す。このような最低賃金の引き上げに向けて、中小企業、小規模事業者の生産性向上等のための支援や取引条件の改善を図る。」とされています。厚生労働省では、最低賃金の引上げに向けて中小企業・小規模事業者対する生産性向上等の支援を行っています。


中災防リスクアセスメント集中運動を展開

 中央労働災害防止協会が、労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS)の国際規格ISO(JIS Q)45001、JIS Q45100の本格的普及を念頭に置き、7月1日~10月31日を期間とする「リスクアセスメントキャンペーン」を実施しています。期間中は各地でISO(JIS Q)45001、JIS Q 45100及びリスクアセスメントに係る研修が集中的に実施されるほか、労働安全衛生マネジメントシステムを効果的に進めていくための情報提供と技術支援が取り組まれています。

1.リスクアセスメントとは

 リスクアセスメントとは、職場の潜在的な危険性又は有害性を見つけ出し、これを除去、低減するため手法のことです。従来の労働災害防止対策は、発生した労働災害の原因を調査し、類似災害の再発防止対策を確立し、各職場に徹底していくという手法が基本でした。しかし、災害が発生していない職場であっても潜在的な危険性や有害性は存在しており、これが放置されると、いつかは労働災害が発生する可能性があります。

 これからの安全衛生対策は、自主的に職場の潜在的な危険性や有害性を見つけ出し、事前に的確な対策を講ずることが不可欠です。これに対処するための手法が職場のリスクアセスメントであり、リスクアセスメントを主軸とした労働安全衛生管理の仕組みが労働安全衛生マネジメントです。