社労士

コラム

AI導入と働き方

2019 年8 月2 日

AI導入と働き方

1.報告書の概要

 AI活用が本格的に導入されることが社会的関心の広がりを見せる中、厚生労働省労働政策審議会労働政策基本部会が6月27日に「働く人がAI等の新技術を主体的に活かし、豊かな将来を実現するために」と題する報告書を取りまとめました。
 AI等は積極的に活用されると労働生産性を向上させ、人の代わりにAIが労働することで足りない労働力を補い、経済発展の基盤となる事が期待されています。さらに労働者がAI等を主体的に活用できれば自主的に仕事がしやすい職場環境を整えたり、満足のいくワークライフバランスを送れるようになり、労働者一人ひとりの幸福度を高め日本の豊かな将来につながるものと考えられています。
 一方でAI等に代替されると仕事を失う人が出てくることや、新しい技術に対応するスキルや能力に対する取り組みなど、個人の仕事やキャリアアップに対する課題も考えられると報告書は指摘しています。

2.AI導入の課題

人生100年時代において就業期間が長くなるとキャリアチェンジをする機会が多くなる可能性があるため、希望者がスキルアップ・キャリアチェンジに向けた支援を受けられるようにする事が求められます。非正規雇用で働く労働者についてはAI等が導入されると置き換えられるリスクが高いと言われている為、希望する者が正規雇用に就けるようにするため引続き就業支援や環境整備が求められます。
 また、AI等の進展への対応に困難を来す労働者等をライフステージの各段階を通じて社会全体で支えていくため、自立支援や生活保障といったセーフティーネットの今後の技術の進展に応じた在り方について、議論が深められることが期待されると報告書ではまとめられています。

3.AI導入に関して

 AI等が導入されると日本の仕事の約50%はいずれ自動化される可能性があると予測し、自動化が普及することにより仕事が無くなり、やむなく低スキル低賃金の仕事に就く人達が出てくると言われ貧困層を生むことになることを懸念する意見もあります。
 一方で、日本は少子高齢化が進んでいる為、人手不足分野ではAI等が仕事を担うことにより労働力不足解消が期待されています。また、AI等導入により反復的な作業が減少し、複雑な問題への対応時間が増えることにより業務の質の向上が期待でき、仕事に対するやりがいや心の健康改善されるなどプラスの影響が生まれることも期待できるという意見もあります。
 AI導入に関して雇用の不安定化も考慮すべきと主張する意見と、それほど雇用に影響を及ぼすことは考慮しなくても良いというふうに多少意見が異なっています。ただし、AI等の活用が進む事により、AI等に対応できない労働者を労働市場から排除するのではなく教育訓練機会を与えたり社会的セーフティネットで見守る必要があるという点では共通しています。
 今後「AI」技術を避けて通れない時代となりますが、上記の通り様々な課題があることを十分踏まえた導入を考えていく必要があります。


賃金請求権の消滅時効期間を延長する可能性が示されました

 令和2年4月施行民法改正の影響を受け、令和元年7月1日、厚生労働省は、『賃金等請求権の消滅時効の在り方について(論点の整理)』を公表し、賃金請求権の消滅時効期間を延長する方向で一定の見直しが必要であるとの見解を示しました。

 労働基準法で定められた賃金等請求権の消滅時効『2年』は、現行民法の使用人の給与債権が1年(短期消滅債権)であることをベースに決められた経緯がありました。今般、一般債権の消滅時効を5年又は10年に整理した改正民法が令和2年4月に施行されることを受けたことを踏まえての見直しになります。
 『論点の整理』によると、賃金等請求権を「2年のまま維持する合理性は乏しく、労働者の権利を拡充する方向で一定の見直しが必要」と、延長する方向で検討するよう見解は示されたものの、労使の意見に隔たりが大きい現状等を踏まえ、具体的な消滅時効期間は示されませんでした。

 また、同時に課題となっていた年次有給休暇の消滅時効については、現行の2年を維持する見通しです。そもそも年休権は、発生した年の中で取得することを想定したものであり、消滅時効の延長は、制度の趣旨にそぐわず、また、年次有給休暇の取得率の向上という政策の方向性に逆行する恐れがあるとの理由によるものです。

 企業側にとっては、消滅時効の長期化によって、紛争の増加、労務管理コストの上昇など、企業側の負担増となる可能性が指摘されており、例えば、賃金台帳などの記録保存義務期間は、現行制度では3年(労基法第109条)ですが、見直し後は少なくとも消滅時効を迎えるまでは保存する必要が生じます。
 今後は、具体的に消滅時効期間を何年にするか、いつから延長するか、といった内容について、労働政策審議会で議論されることになりますが、見直しは、早ければ改正民法の施行期日(令和2年4月)と同時に行われる可能性もあり、議論の行方には注意が必要です。

改正民法(2020年4月)

障害者雇用の状況について 平成30年度の就職件数が最多に。障害者雇用促進法の一部改正

 厚生労働省の「平成30年度障害者の職業紹介等状況」によると、障害者の就職件数が10年連続で増加し、過去最多となり、対前年度比4.6%増加しました。平成30年4月1日に法定雇用率が引上げられたこと(民間企業 2.0%→2.2%)による影響が大きいと考えられます。法定雇用率は、令和3年4月までに、さらに0.1%引上げられることが決定しており、障害者の就職件数が今後も増加していくと見込まれます。
 また、令和元年6月7日、「障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律案」が成立しました。今改正は、中央省庁による障害者雇用の水増し問題を受け、行政機関への厚生労働省の監督機能強化を柱とする内容となりますが、一部、企業に対する雇用促進策も盛り込まれております。

~民間の事業主に対する措置(令和2年4月1日施行)~

  • 短時間労働者のうち週所定労働時間が一定の範囲内にある者(週20時間未満)を雇用する事業主に対して、障害者雇用納付金制度に基づく特例給付金を支給する仕組みを創設
  • 障害者の雇用の促進等に関する取り組みに関し、その実施状況が優良なものであること等の基準に適合する中小企業主(常用労働者300人以下)を認定する制度を新設

建設業担い手確保へ3法改正

 設業における働き方改革の促進や生産性などを目的とした建設業法および公共工事入札契約適正化法一括改正案と公共工事品質確保改正案が今通常国会で可決、成立しました。
「新・担い手3法」と位置づけられています。なかでも、改正建設業法と公共工事入札契約適正化法一括改正案では働き方改革の促進、建設業の生産性向上、持続的な事業環境の確保の3つの観点から制度改正が行われました。
 働き方改革促進に向けては現場の処遇改善を図るため、建設業許可の基準が見直され、社会保険への加入が要件化されました。さらに、下請けへの代金支払いについて、労務費相当分を現金で支払うよう配慮が義務付けられました。
 長時間労働を是正するため、注文者に対し、通常必要と認められる期間に比べて著しく短い工期による請負契約の締結を禁止し、違反者に対し国土交通大臣などが勧告を行えるようになりました。勧告に従わない場合には企業名が公表され、中央建設業審議会が工期の基準を作成し、実施を勧告します。
 公共工事の発注者に対しては、必要な工期の確保と施行時期の標準化のための方策を講じることが努力義務化されました。


中小企業向けの時間外労働等改善助成金のご案内

 大企業には平成31年4月1日より既に適用されていますが、翌年の令和2年4月1日より、中小企業にも時間外労働の上限規制が適用されます。(時間外労働は年720時間以内、時間外労働+休日労働は月100時間未満、2~6か月平均80時間以内、月45時間を超えることができるのは年6か月まで、となります。)

これに向け、長時間労働の見直しに取り組む中小企業の事業主(※1)への助成金があります。平成29・30年度において、36協定を結んでいる、且つ、実際に時間外労働が複数月発生している(または複数人発生している)事業主が対象となりますが、削減のための取り組みをし、目標を達成することで、助成金を受けられる可能性があります。助成金を受けるためには、労働者に対する研修や人材確保に向けた取り組みなどを行い、具体的な時間削減の成果目標を設定する(令和元年・2年度の36協定の延長時間を削減し、労働基準監督署に提出する※2)必要がありますが、中小企業の皆様には上限適用まで1年をきっていますので、助成金を活用しながら、前もって取り組みされることをお勧めいたします。


時間外労働等改善助成金(時間外労働上限設定コース)の手続き概略】

  • 改善に向けた取り組み+労使協定の見直し、届出 ⇒ 交付申請書を提出(令和元年11月29日締切
  • ⇒ 提出した計画に沿って、改善の取り組みを実施 ⇒ 支給申請(令和2年2月28日締切
※1 中小企業主の範囲
AまたはBの要件を満たす企業が中小企業になります。
中小企業

※ 2 36協定の削減内容

  • ①時間外労働時間数で月45時間以下かつ、年間360時間以下に設定
  • ②時間外労働時間数で月45時間を超え月60時間以下かつ、年間720時間以下に設定
  • ③時間外労働時間数で月60時間を超え、時間外労働時間数及び法定休日における労働時間数の合計で月80時間以下かつ、時間外労働時間数で年間720時間以下に設定

賃金不払いが大幅に増加しています ー 東京労働局の処理状況まとめによる ー

 東京労働局は、平成30年度の司法処理状況を明らかにしました。東京地検への送検件数は78件で、前年度に比べて21件増加しており、賃金・退職金不払いや労働時間・休日の違反などが増加しています

 労働基準法・最低賃金法関係の送検件数は46件に上り、前年度の27件から19件増と大幅に増えました。違反内容は、『賃金・退職金不払い』が最も多く前年度比9件増の20件、36協定で定めた上限を超えて時間外労働に従事させる『労働時間・休日』は3件増の10件、『割増賃金不払い』が2件増の6件となりました。業種別では、小売業と接客娯楽業がともに9件で最多であり、これらの業種は最低賃金の引上げに対応できていないケースが多いと言われています。

 労働安全衛生法関係の送検件数は32件であり、前年度より2件増でした。違反内容は、危険防止措置が24件で最も多く、以下順に労災かくし6件、就業制限1件などとなりました。

賃金不払い

不妊治療と仕事両立支援 ー 厚生労働省が企業向け手引策定へ ー

不妊治療と仕事を両立できずに離職したり、逆に治療を諦めたりする人が多いことを受け、厚生労働省は、両立を支援するための企業向けマニュアルを初めて策定する方針を固めました。不妊治療は通院回数の多さや、精神的負担の大きさから仕事との両立が難しいと言われている面もありますが、マニュアルは、両立を支援する休暇制度や柔軟な労働時間制度などの導入を促すねらいや、先進的な企業の両立支援制度や取組を紹介しています。

※詳しくはこちら→https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/30.html


労災死傷者増え10年ぶり1万人 ー 平成30年 東京労働局 ー

 東京労働局は、平成30年の労働災害発生状況を明らかにしました。死亡災害が前年比3人減る一方、休業4日以上の死傷災害は前年比649人増の1万486人に上り、1万141人だった平成20年以来10年ぶりに1万人を上回りました。

 災害類型をみると、「転倒」が26.3%で最も多く、「動作の反動・無理な動作」が16.4%で続いています。 死傷者数は、平成27年から3年連続で増えており、第三次産業で増加が目立っています。東京労働局は、増加率が著しい接客娯楽業(15.8%)、製造業(15.0%)、商業(11.7%)、保健衛生業(10.9%)など災害多発企業に対する指導を実施するほか、多店舗展開企業における全社的な災害防止対策推進などに取り組む方針です。