社労士

コラム

「パワハラ関連法案」が成立

2019 年7 月2 日

「パワハラ関連法案」が成立

1.法案の成立

 働き方改革の施策の一つである女性の活躍推進を実現していくためには、職場において男女問わず全ての労働者の人権が尊重されること、そのためにパワーハラスメント(以下「パワハラ」とします)やセクシャルハラスメントなどの様々なハラスメントの防止対策を実行していくことが非常に重要となります。中でもパワハラ対策についてはこれまで企業の自主的な対応に委ねられてきていましたが、今回、始めての法制化されました。
 パワハラ防止対策においては、まずパワハラの定義・考え方等を明確にしておく必要があるため、政府は事業主に対してパワハラ防止措置を義務付けることなどを盛り込んだ「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律案」(労働施策総合推進法)を国会に提出し、5月29日に可決成立しました。
 パワハラ関連法案については、以前にお伝えしておりますが、法案成立により、パワハラが法的にきちんと定義されることになりました。

パワハラの定義は以下の3つの要素と満たすものとし、その防止策をとることが会社に義務づけられます。

  1. 優越的な関係に基づく
  2. 業務上必要かつ相当な範囲を越えた言動により
  3. 労働者の就業環境を害すること

 会社には、①従業員へのパワハラ防止に係る啓発、②相談窓口の設置、③相談者等のプライバシーの保護等が義務付けられ、違反者は企業名公表の対象になりうるとされています。大企業は2020年4月1日、中小企業は2022年4月1日から施行されることになるので、大企業については早めの対応が必要になります。中小企業においても法の適用までは努力義務とはされていますが、時流からすると何かしらの対策を先行して施すのがよいと思われます。具体的に何をしたらパワハラになりうるのか、という点については、改めて示される指針(2019年秋頃の発表を予定)において詳述されることになっています。

2.今後の課題

 職場内だけでなく、取引先等からのパワハラや顧客等からの迷惑行為等も、労働者に大きなストレスを与えるものですが、どこまでが相当範囲で、どこからがそれを超える行為であるかは非常に判断が難しいところです。今回の法改正では明記は見送られた形ですが、昨年の労働政策審議会では、そういった事案についても、パワハラに類するものとして、労働者からの相談対応を行う等の企業として望ましい取組みを明確化し、周知・啓発を図ることが適当との報告書が出されています。
 また、今回の改正法には、「適正な指導との境界が曖昧」という理由から、罰則規定は盛り込まれませんでした。職場のパワハラやセクハラの行為者に対して刑事罰を科すことや、損害賠償請求の根拠を新たに法律で設けることについては、民法等との関係の整理や、違法行為の明確化等、様々な課題があるとされているので、その必要性も含め中長期的な検討を要すると考えられています。

多様化する働き方(副業・兼業)について

 政府の規制改革推進会議は6月6日に、副業や兼業の拡大に向け、複数の職場で働く人の労働時間の管理に関する制度の見直しの提言等を盛り込んだ規制改革の答申を、安倍晋三⾸相に提出しました。
 副業・兼業は、本人の持つ技能の活用を通じた収入増や転職の可能性を広げるとともに、人手不足経済では労働資源の効率的な配分を図る上で効果的な手段ですが、まだ多くの企業が副業・兼業を原則禁止としています。
 この背景として本業と副業・兼業についての労働時間を通算することが労働基準法上、使用者に義務付けられている点があります。しかし、実際には、本業の使用者が副業・兼業先での労働時間を把握し、通算することは、実務上、相当の困難が伴います。また、現行制度では、法定時間外労働は「後から結ばれた労働契約」で発生するという解釈に基づき、主に副業の使用者が、時間外労働に対する割増賃金支払義務を負うとともに、時間外労働時間の上限規制の遵守の義務を負うこととなります。

 こうした点が、副業・兼業の普及の⾜かせになっていると指摘したうえで、時間外労働に対する使用者の割増賃金支払義務は、同一の使用者が過度に時間外労働に依存することの防止にあると考えるべきであり、労働者の自由な選択に基づく副業・兼業についての現行の通達の解釈は適切ではないとし、労働者の健康確保の重要性には十分留意しつつも、労働者にとって大きな利点のある副業・兼業の促進の視点から、労働時間の通算に関する現行制度の解釈・運用を適切に見直すことについて、労働政策審議会において議論を開始し、速やかに結論を得ることを提⾔し、現在、通算の労働時間と割増賃金の算出を分離する方向で見直しが進められています。

副業・兼業のメリットデメリット

企業のメリット

  1. 労働者が社内で得られない知識・スキルを獲得することができる。
  2. 労働者の自律性・自主性を促すことができる。
  3. 優秀な人材の獲得・流出の防止ができ、競争力が向上する。
  4. 労働者が社外から新たな知識・情報や人脈を入れることで、事業機会の拡大につながる。

企業のデメリット

  1. 必要な就業時間の把握・管理や健康管理への対応、職務専念義務、秘密保持義務、競業避止義務をどう確保するかという懸念への対応が必要である。

労働者のメリット

  1. 本業を離職せずに別の仕事ができ、スキルや経験値を得ることで労働者が主体的にキャリア形成することができる。
  2. 所得が増加する。
  3. 本業を続けつつ、よりリスクを抑えて将来の起業・転職の準備や試行ができる。

労働者のデメリット

  1. 終業時間が長くなる可能性があるため、自身による就業時間や健康の管理も必要である。
  2. 休業(補償)給付は、災害が発生した事業所からの平均賃金だけを基に計算された額になるためもう一方の事業所の賃金は計算に含まれない。
  3. 一週間の労働時間が短い業務を複数行う場合は、雇用保険等の適用がない場合がある。

日中社会保障協定 9月1日発効となります

 海を隔てた隣国である中国とは、近世では、中国が改革開放路線に舵を切ってからゆるやかに経済交流が始まりました。1989年の天安門事件により、一度は日系企業の対中投資熱は冷えきったものの、その後、1992年以降は多くの日系企業が中国に進出するようになり、今に至っております。

 そうした中、2011年7月、中国において「社会保険法」が施行され、中国で働く外国人も社会保険制度の加入対象となりました。更に同年10月には「中国国内で就業する外国人の社会保険加入暫定弁法」が施行されることで加入対象者が具体的に示され、現在、地域差はあるものの、基本的には中国に赴任する日本人は中国の社会保険制度に加入するようになっております。
 日・中社会保障協定締結にむけての政府間交渉は、上記の社会保険加入暫定弁法が施行される直前の2011年10月13日に、日本側が北京に訪問する形で開始され、ようやく昨年、2018年5月9日に両国外相による署名が実現しました。
 こうして生まれた日・中社会保障協定は、年金保険料の二重負担の防止を目的としています。イギリス、韓国、イタリアと同様に中国の社会保障協定については、年金加入期間の通算に関する合意はありませんが、中国への一時派遣に伴う保険料の負担が軽減されるだけでも、中国で事業展開する日系企業にとっては大きなメリットがあるといえるでしょう。

その日・中社会保障協定が、いよいよ2019年9月1日に発効となります。中国の年金制度への加入が免除されるためには、「適用証明書」の交付を受ける必要があります。日本年金機構のホームページによりますと、6月下旬に事務手続きの詳細が周知される予定で、8月1日には、適用証明書交付申請の受付が開始される予定です。順調に進めば、協定発効日である9月1日以降、「適用証明書」が順次発送される予定となっています。
尚、当然ながら、この協定は日本に派遣される中国人に対しても効力を有します。もし日本で働いている中国の方が、日本の社会保険制度への加入を免れたい場合には、中国において手続きを行います。実施機関は、人的資源社会保障部社会保険管理センターその他人的資源社会保障部が指定する機関とされております。


健康保険法等の一部改正する法律が公布されました

 「医療保険制度の適正かつ効率的な運営を図るための健康保険法等の一部を改正する法律」が5月15日に国会で可決・成立し、同月22日に公布されました。
主な改正点は①「オンライン資格確認」の導入 ②被保険者番号の告知要求制限 ③被扶養者要件の見直し 等です。

①の「オンライン資格確認」とは、医療機関等での受診に際し、マイナンバーカードあるいは保険証を用いてオンラインで被保険者資格の照会をおこなうものです。(被保険者番号は現行の世帯単位から個人単位に変更されます。)被保険者情報を一元管理し、かつ即時照会できるため、資格喪失後の保険証使用による受診や、加入していない健保組合等への過誤請求を未然に防ぐことが可能になります。マイナンバーカードによるオンライン資格確認は2021年3月開始予定、保険証による資格確認は2021年5月開始予定です。

②は、オンライン資格確認開始に伴い個人単位化した被保険者番号について、個人情報保護の観点から、健康保険事業とこれに関連する事務以外で、被保険者番号を本人に尋ねることを制限するものです。

③は、健康保険の被扶養者の認定について、原則として「日本国内に住所を有する」という要件が追加されます。この改正により、いわゆる「医療滞在ビザ」等で来日して国内に居住する者は被扶養者の対象から除外されます。ただし、留学や海外赴任する家族に同行する者等、これまで日本で生活しており今後再び日本で生活するであろうと認められる場合には、例外的に被扶養者として認定されます。(詳細は厚生労働省令で規定されます。)
2020年4月1日施行予定です。詳しくはこちらの資料をご参照ください。

・第117回社会保障審議会医療保険部会(平成31年1月17日)資料
https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000469066.pdf


70歳雇用へ企業に努力義務

 政府は、働きたい高齢者に対し70歳までの雇用確保を企業に求める具体的な方針を示しました。企業の選択肢として7項目を挙げており、70歳まで定年を延長するだけでなく、他企業への再就職の実現や起業支援も促す内容となっております。今回は65歳までの現行制度の義務を維持しつつ、雇用確保期間を70歳まで引き上げるよう、強制力のない努力義務が設けられます。違反した場合、65歳までは企業名が公表されるのに対し、新たに引き上げる70歳までについては当面、非公表とされます。

70歳雇用へ

 また政府は雇用制度と併せて年金制度も見直す方針で働く意欲のある高齢者を増やすのが狙いとなっていますが、対照的に高齢者の労災が増えているのも現状です。厚生労働省が発表した2018年の労災発生件数は前年比5.7%増の12万7329人でこのうち60歳以上は3万3246人と全体の26.1%に達しています。
70歳雇用を目指すには労災を予防する等の高齢者が安心して働ける環境づくりが企業側に求められます。


7月1日から7月7日は全国安全週間です

 厚生労働省では7月1日から1週間、「全国安全週間」を実施します。
労働災害の防止のために、国、事業者、労働者などの関係者が重点的に取り組む事項を定めた「第13次労働災害防止計画」が、平成30年度を初年度として新たに展開されており、それぞれの事業場で一人の被災者も出さないという理念の下、日々の仕事が安全で健康的なものとなるよう、不断の努力が必要です。また、平成30年9月には、企業での自主的な安全衛生管理のための取組を体系的かつ継続的に実施するための仕組みである労働安全衛生マネジメントシステムの国際規格(ISO45001)をもとに日本規格(JISQ45100)が制定されました。

 このような状況を踏まえて、令和元年度全国安全週間のスローガン「新たな時代に PDCA みんなで築こう ゼロ災職場」では、労働災害防止のために、事業者が労働者の協力の下に、マネジメントシステムの基本をなす「計画(Plan)-実施(Do)-評価(Check)-改善(Act)」という一連の過程を確立し、事業場での自主的な安全衛生管理をより一層推進するとともに、安全な職場環境を形成するよう呼びかけています。