社労士

コラム

働き方改革の実現に向けた労務管理

2019 年6 月4 日

働き方改革の実現に向けた労務管理~社会保険労務士法施行50周年記念講演より~

 2018年12月2日に社会保険労務士法は施行50周年を迎え、去る1月31日に記念式典が開かれました。式典では筑波大学大学院、医学博士・精神科医の松崎一葉教授により「働き方改革の実現に向けた労務管理~組織のレジリエンス向上をめざして」と題した記念講演が行われました。ここでその内容の一部をご紹介いたします。

「働き方改革」に対する「レジリエンス」という考え方

 昨今の職場のメンタルヘルス問題は3つあります。まず、「働き方改革の実現」、次いで「ハラスメント問題」、そして最後は「大人の発達障がい」です。
 働き方改革では、働く時間は短くしても業績は上げろ、人員は削減しても品質は上げろ、多様性が大事としながら社是は一体感が重要と、明らかに相反したもので、今どきの一流企業ではこれ以上にスリム化できないほど業務改善が図られているのが現実です。
 それで何が起こっているか。その軋みが中間管理職のプレッシャーになっています。上からは相反した要求をされ、下にはサービス残業や不正改ざんを強要せねばならず、真面目な部下も疲弊していきます。本来であれば、素晴らしいはずの働き方改革が軋みとなって様々なところに現れてきています。ストレスをためた管理職が部下にハラスメントしたり、あるいは自身がうつ病になったりしています。それではこうした状況をどう突破すればいいのでしょうか。

 ストレス問題を議論するにあたり、アメリカ人医療社会学者が提唱した「健康生成論」という一番新しい考え方があります。ナチスドイツ占領下のアウシュビッツに多くのユダヤ人が幽閉されていましたが、第2次世界大戦の終結と共に解放され、故郷のポーランドに帰っていきました。明日には死ぬかもしれないという究極のストレス下に一定期間置かれた人は、老化の進行が速く、生還者の多くは数年で亡くなっています。しかし生還後もまったく病気もせず、平均年齢80歳以上まで健康に生きたある一群があり、その人たちの健康を保つことができた要因を調べて、たどり着いたのが「健康生成論」です。
 今、多くの企業では働き方改革の相反する要求の中で、ストレッサーを取り除けない状況があり、社員は無理だと諦めてしまっています。そこを諦めさせないで、どう突破するかがとても大事なわけです。そのためには、健康の獲得・維持を可能にするサリュタリーファクター(健康になるための要因)を特定し、それを強めていくような労務管理・安全衛生の理論を健康経営の中に取り入れていくことです。想定外のことが多い不確実な時代ですから、疾病生成論に加えて健康生成論の考え方を取り入れていく、それがレジリエンスという考え方です。

※レジリエンス:「さまざまな環境・状況に対しても適応し、生き延びる力」

 では、具体的にどうすれば社員のレジリエンスが形成されるのでしょうか。企業においてレジリエンスを高めるためには、企業・組織の公正性を高めることが重要です。所属組織が公正で安定的な構造となっており、社員の身分と経済的な安定が保証されていることが大事になります。滅私奉公で過重労働までして一生懸命働いて、万が一うつ病になった場合でもきちっと面倒をみてくれる、そういう態勢が整っているからこそ安心して働けるわけです。ブラック企業では、うつ病になったような社員は復職させなくていいから、早く辞めさせてくないかという。そんな企業で誰が一生懸命働くでしょうか。まず、組織の公正性が非常に大事で、自分は支援されているという組織のコンプライアンスと企業の持続可能性があってこそ、社員のレジリエンスは高まるわけです。

イノベーションを潰す「パワハラ」

 次にパワーハラスメント(パワハラ)についてです。すごく仕事ができるけど、パワハラもすごいクラッシャーと呼ばれる人がいます。抜群に営業成績が良いため、会社の上層部も左遷させられず、部下をどんどん潰しながらでも役員になるような人です。
 一流企業のパワハラには、単純ないじめのようなものはほとんどありません。本人は会社のため、部下のために正しいことをやっていると思っています。実際、そのコンテンツ、指導内容そのものは間違っていないというのが日本のパワハラですから、なくならないわけです。この点を理解した上でパワハラには対応する必要があります。

 クラッシャー上司は、承認欲求が強く、自己愛が歪んでいるけれど、レジリエンスは極めて高く、どんな逆境にもめげません。ただコンプライアンス意識が希薄で、ともかく成果を出せばいいとプロセスを無視します。でも業績は良いため会社はそんな人を左遷させられず、本人が潰れることもなく、周囲が潰れていきます。イノベーションを潰す古い体質の人ですから、想定外のことが起こる今の時代においてその人のコピーのような部下を作り出していては、短期的には業績を上げられても、中長期的には組織と人材が劣化し、会社が時代遅れになってしまいます。

 このようなパワハラがイノベーションを潰してしまい、若者の成長の芽を摘んでしまっては会社の成長は見込めず、部下を潰すパワハラをはびこらせておくような会社に将来はないのです。
 それでは、パワハラで人事処分を行う際にはどのように対処すればよいのでしょう。彼らには、懲戒だけではなく、部下への指導方法の教育も併せて施さなければなりません。パワハラを止めさせるだけの指導を行うと、今度は部下の育て方が分からず、営業成績が落ちることになります。彼らの指導内容、コンテンツは間違っていないことから、どのようにすればこれまでの素晴らしい知識・経験を部下に継承できるのか、言葉選びや声のトーンにも留意し、笑顔も交えながら相手にリラックスさせ、相手のペースに合わせて話しを行う方法を教育していくことが重要になるのです。

 最後に、ハラスメントは、された側の主観ですので、本人が嫌な感じを受けたらハラスメントになります。同じことを言われたり、されたりしても、この人であれば仕方がないとなれば、ハラスメントにはなりません。スポーツを例にすると、指導者と選手が同じ目標を目指して「一緒に頑張ろう」と共感的に練習に取り組んでいる場合には、仮に指導者が暴言を吐いたとしてもハラスメントという気持ちは沸きません。しかし、何らかの理由で共感的な関係が成立しなくなった場合に、ハラスメントが生じる状態になるのです。会社においては、上司と部下との間に共感的関係がないとハラスメントが生じる可能性が内在することになります。以上のように、ハラスメントには分岐点があるということをご認識下さい。

~社労士TOKYO 2019年4月号より抜粋~

日・スウェーデン社会保障協定の署名が行われました

 4月11日(現地時間同日)、スウェーデンのストックホルムにおいて、「社会保障に関する日本国とスウェーデン王国との間の協定」(日・スウェーデン社会保障協定)の署名が、廣木重之駐スウェーデン大使とアンニカ・ストランドヘル・スウェーデン社会保障大臣(H.E.Ms. Annika Strandhäll, Minister of Social Security of the Kingdom of Sweden)との間で行われました。
現在、日・スウェーデン両国からそれぞれ相手国に派遣される企業駐在員等については、日・スウェーデン双方の年金制度に二重に加入を義務付けられる等の問題が生じています。日・スウェーデン社会保障協定は、これらの問題を解決することを目的としており、この協定の規定により、派遣期間が5年以内の一時派遣被用者等は、原則として、派遣元国の年金制度にのみ加入することとなります。また、両国での保険期間を通算して年金の受給権を確立できることとなります。
 この協定の締結により、企業及び駐在員等の負担が軽減され、日・スウェーデン間の人的交流及び経済交流の一層の促進が期待されます。

平成31年度両立支援等助成金が一部改訂されました

 厚生労働省は4月1日、雇用保険法施行規則等の一部を改正し、両立支援等助成金やキャリアアップ助成金を見直しました。下記に抜粋してご紹介します。

    【介護離職防止支援コース】
  1. 対象を中小企業事業主に限定し、支給限度を1年度5人までに拡充。
  2. 【再雇用者評価処遇コース】
  3. 支給要件となる離職理由に「配偶者の転勤等」を追加
  4. 【キャリアアップ助成金】
  5. 「選択的適用拡大導入時処遇改善コース」や「短時間労働者労働時間延長コース」を拡充。

1事業所あたり上限人数を45人まで引き上げ支給額も増額する。
詳しくはこちら(https://www.mhlw.go.jp/content/11909500/000493061.pdf)の資料をご覧ください。


平成30年障害者雇用状況の集計結果

 厚生労働省より民間企業における平成30年の「障害者雇用状況」集計結果が公表されました。
 雇用数や実雇用率は昨年より上昇しており、多くの企業が障害者雇用を推進している様子がうかがえる一方、実雇用率は法定雇用率である2.2%を下回っており、雇用率達成割合も半数に満たない状況です。
 今後 法定雇用率は2021年3月末までに2.3%に上昇することが決まっており、雇用が進んでいない業種や従業員数が少ない中小企業での雇用をどのように促進していくかが課題となっています。

【民間企業】(法定雇用率2.2%)
  1. 雇用障害者数、実雇用率ともに過去最高を更新。
    1. 雇用障害者数は53万4,769.5人、対前年7.9%(3万8,974.5人)増加
    2. 実雇用率2.05%、対前年比0.08ポイント上昇
  2. 法定雇用率達成企業の割合は45.9%(対前年比4.1ポイント減少)

介護補償給付の最高限度額等の改定

 厚生労働省は4月1日、労働者災害補償保険法施行規則等の一部を改正する省令を施行し、労災保険の介護(補償)給付における常時介護を要する者の最高限度額を16万5,150円(変更前10万5,290円)、最低保障額を7万790円(同5万7,190円)に見直しました。随時介護を要する者の最高限度額・最低保障額は、その半額となります。
 同省の実態調査によると、常時介護を要する者の約4割が現行の最高限度額では介護費用をまかなえないことが判明していたため、実態に即して額を大幅に引上げました。具体的には、これまで「臨時職員を採用する際の政府統一単価」を基に算定していた最高限度額は、「特別養護老人ホームの介護職員の平均基本給」を基に算定するよう改め、同じく「女性のパート労働者の平均賃金」を基にしていた最低保障額は、「最低賃金の全国加重平均」を基に算定するよう改められました。