コラム
パワーハラスメント防止対策の法案提出される
2019 年5 月9 日
パワーハラスメント防止対策の法案提出される
パワハラ防止策法案の概要
現在開期中の通常国会に3月8日パワーハラスメント・セクシュアルハラスメント等の防止策を推進するための法案が提出されました。法案は昨年3月にまとめられた「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」報告書や同じく昨年成立した「働き方改革法」の附帯決議の「パワーハラスメント(以下「パワハラ」と略)法制化の検討」等の一連の流れを踏まえたものです。パワハラ防止策は「労働施策総合推進法」、セクハラ防止策は「男女雇用機会均等法」の改正案として一括して審議されます。
基本的な内容は、事業主に対してパワハラ防止のための雇用管理上の措置義務(相談体制の整備等)を新設、措置の適切・有効な実施を図るための指針の根拠規定を整備すること、また、パワハラに関する労使紛争の解決援助等の規定の整備等となっています。
パワハラ防止策の指針
法案ではパワハラの定義として、以下の3つの要素を満たすものとされています。
- 優越的な関係に基づく
- 業務上必要かつ相当な範囲を越えた言動により
- 労働者の就業環境を害すること
この3つの要素の具体的内容の考え方、具体例は「指針」で定められることになっています。「職場」とは、通常就業している場所以外の場所であっても業務を遂行する場所については「職場」に含まれることや業務上の適正な範囲内の指導についてはパワハラに当たらないことも明記される予定です。
事業主が講ずべき措置については、就業規則等にパワハラに対するパワハラ行為が認められた場合の対処(処分等)を規定することやパワハラについての周知・啓発の実施等が予定されています。
従業員側の努力義務として事業主のこれらの措置に対して、理解を深め協力することや、他の従業員に対しパワハラ行為を発生させないよう必要な注意をすることが求められます。 また、取引先等からのパワハラや顧客等からの著しい迷惑行為について、相談対応等の望ましい取組を明確にすることも指針で明記される予定です。
パワハラ防止は職場環境改善策としての取組
パワハラは被害者の心身を傷つけるだけでなく、職場環境を悪化させ生産性を低下させたり、人材の流出や企業のイノベーションを阻害させるなど企業経営に影響を及ぼします。こうしたことから、パワハラ防止策が法制化された場合単に順守するという視点からのみでなく、「職場環境の改善」という視点から積極的に取り組むことが必要です。
女性活躍推進法改正案概要
今回のパワハラ関連法の一括審議の中に、女性活躍の推進として「女性活躍推進法」の改正案も審議されます。主な内容としては一般事業主行動計画の策定義務の対象拡大です。現在は常用労働者が301人以上から101人以上の事業主に拡大します。さらに、301人以上の事業主には育児休業、有給休暇取得率等の情報の公開項目を拡大して求める等です。
平成31年度施行 労働関係・社会保険改正チェックポイント
「年5日の年次有給休暇の確実な取得について」
平成31年3月に厚生労働省から「改正労働基準法に関するQ&A」が公表されています。このQ&Aは、2019年4月1日から順次施行される「働き方改革関連法による労働基準法の改正」について、素朴な疑問から、専門的で細かな内容まで、Q&A形式で重要事項がまとめられています。
その中の一部をご紹介いたします。
☆年始有給休暇の管理簿の作成について
2019年4月より、使用者は労働者ごとに年次有給休暇管理簿を作成し、3年間保存しなければならなくなりました。その年次有給休暇管理簿について、時季、日数及び基準日(第一基準日及び第二基準日を含む。)を労働者ごとに明らかになっていれば、使用者は、年次有給休暇管理簿、労働者名簿又は賃金台帳をあわせて調製することができるとされています。
一方で、労働者名簿に「入社日」、賃金台帳に「時季」と「日数」、就業規則に雇入れ後6か月経過日が「基準日」となる旨の記載をする方法では、労働者名簿と賃金台帳だけでは労働者ごとの基準日を直ちに確認することができないため、それらをもって年次有給休暇管理簿を作成したものとして認められないとされています。
☆年次有給休暇に上乗せして付与される休暇の考え方について
毎年、年間を通じて労働者が自由に取得することができ、その要件や効果について、当該休暇の付与日(※)からの1年間において法定の年次有給休暇の日数を上乗せするものであれば、当該休暇を取得した日数分については、使用者が時季指定すべき年5日の年次有給休暇の日数から控除して差し支えないとされています。 (※当該休暇の付与日は、法定の年次有給休暇の基準日と必ずしも一致している必要はありません。)
詳しくは、改正労働基準法に関するQ&A (2019/3掲載)をご参照ください。
「労働時間の状況の把握、労働者へ労働時間に関する情報の通知、医師による面接指導等」
労働安全衛生法の改正は、長時間労働者に対して、医師による面接指導の履行確保を図ることを目的としています。管理監督者やみなし労働時間制が適用される労働者も対象です。
- 労働時間の状況の把握
- 労働者への労働時間に関する情報の通知
- 医師による面接指導
労働時間の状況の把握方法としては、①タイムカードによる記録、②パーソナルコンピューター等の使用時間の記録等、③その他の適切な方法が挙げられます。
「その他の適切な方法」としては、例えば、労働者が事業場外において行う業務に直行又は直帰する場合で、事業者の現認を含めて労働時間の状況を客観的に把握する手段がない場合に該当し、その方法としては労働者の自己申告による把握が考えられます。この場合、単に直行又は直帰であることのみを理由として、労働者の自己申告により把握することは認められず、事業者は労働者及び労働時間を管理する者に対する十分な説明、実態調査と必要に応じた時間補正、労働者の適正な申告を阻害する要因の排除等を行う必要があります。
対象者としては、高度プロフェッショナル制度の適用者を除き、①研究開発従事者、②事業場外労働のみなし労働時間制の適用者、③裁量労働制の適用者、④管理監督者、⑤派遣労働者、⑥短時間労働者、⑦有期契約労働者を含めたすべての労働者です。
事業者は、時間外・休日労働時間が1か月80時間を超えた労働者に対して、当該超えた時間の算定後、速やかに(おおむね2週間以内)に通知する必要があります。また研究開発業務従事者に対しては1か月100時間を超えた場合、面接指導の案内と合わせて通知する必要があります。なお高度プロフェッショナル制度対象者であって、医師による面接指導を実施する必要がある者については、通知の対象外です。
通知の方法としては、書面や電子メール等により通知する方法が適当です。なお、給与明細に時間外・休日労働時間数が記載されている場合、これをもって労働時間に関する情報の通知としても差し支えありません。
当該通知は、疲労の蓄積が認められる労働者からの面接指導の申出を促すことを目的としており、面接指導の実施方法・時間等の案内等も併せて行うことが望ましいです。
研究開発業務従事者は時間外・休日労働時間数が月100時間超の場合、高度プロフェッショナル制度対象者は週40時間超の健康管理時間が月100時間超の場合、労働者からの申出の有無を問わず、医師による面接指導を実施する必要があります。
上記以外については、時間外・休日労働時間数が月80時間超、かつ、疲労の蓄積が認められる者について、労働者自身からの申出に基づき実施する必要があります。
事業者は、面接指導の事後措置として、①就業場所の変更、作業の転換、②労働時間の短縮、深夜業の回数の減少、③衛生委員会等への報告等を講じるように努める必要があります。
「その他改正事項」
関係法規 | 項目 | 施行日 | 備考 |
---|---|---|---|
労働保険徴収法 | 一括有期事業の事務手続きの簡素化 | H31.4.1 | 手続き廃止 |
働き方改革関連法 | 時間外労働の上限規制 | 36協定締結時 | |
勤務間インターバル | 努力義務 | ||
年5日の年次有休休暇の確実な取得 | |||
労働時間の状況の把握 | 管理監督者も対象 | ||
フレックスタイム制の拡充 | 労使協定届出要 | ||
高度プロフェッショナル制度創設 | 労使委員会決議事前届出要 | ||
産業医・産業保健機能の強化 | |||
労働安全衛生法 | 労働者死傷病報告の書式変更 | H31.1.8 | 国籍地域等追加 |
厚生年金保険法 | 70歳以上被用者該当届および 70歳到達時の資格喪失届の省略 |
H31.4.1 |
「従業員満足規格JSA-S1001」が発行されました
2019年3月25日、半導体半導体製造装置メーカー・株式会社ディスコが、日本規格協会(JSA)の規格制度のもと、従業員満足規格JSA-S1001「ヒューマンリソースマネジメント -従業員満足- 組織における行動規範のための指針」を発行しました。この規格は、従業員の働きがい、働きやすさ及び健康を重視することを「従業員満足志向(Employee Satisfaction Oriented:ESO)」と称し、ESOに基づく組織経営のための指針をまとめています。従業員満足に特化した規格は世界に例がなく、個別企業の提案で開発・発行された日本規格協会規格(JSA-S)として初の事例になります。
従業員満足度・生産性向上の事例 ~ディスコの社内制度~
「従業員満足規格JSA-S1001」を発行したディスコは、働きやすい職場づくりに向けて、さまざまな独自の取組を実施しています。
- 社内通貨Will(ウィル)
- 業務プロセス改善(PIM=Performance Innovation Management)活動
- 労働時間削減の仕掛け
ディスコでは、社内のあらゆる仕事や物事にWillを用いた金額設定がされており、仕事をすればその分のWillが収入として、社内リソースを使用すればその分のWillが支出として計上されます。Willは社内経費として利用できるほか、賞与にも連動しています。
Willの活用例として、仕事内容を確認した上で担当したい仕事を落札する「社内オークション」制度があります。「社内オークション」とある通り、人気がある仕事は価格が低くてもやりたい人が多いので価格は下がっていき、逆に人気がない仕事は価格を上げないと落札してもらえない仕組みです。すべての業務が社内オークションで決まるわけではありませんが、すべての業務に対して価格が設定されています。
また、子育て中のママ社員が同僚に仕事のサポートを依頼する際、自分のWillを同僚に支払い、互いに納得した形で依頼しやすいといった事例もあります。Willという名のとおり、個々人の意志でWillを活用することにより、自分らしい働き方を実現しています。
ディスコは、業務プロセス改善活動を形骸化させない仕掛けとして、
ディスコでは、月45時間までの時間外労働における割増率を35%に引き上げ、月45-60時間の割増率(30%)を上回るように設計しています。長時間残業の割増率が相対的に下がるとともに、Willにおいては自分の人件費がマイナス計上されることで、ダラダラ残業の抑制を図っています。
ディスコはこうした取組みを従業員の「働きがい」実現につなげ、真の「働き方改革」の成功のためにさらなる工夫や努力を重ねた結果、厚生労働省より第1回「働きやすく生産性の高い企業・職場表彰」最優秀賞を受賞するなど、高い評価を得る結果となりました。
「働き方改革」の施策により、働きやすさの向上に一定の成果をあげる企業が増えてきています。働き方改革の改正対応と併せて、「働きやすい職場」に向けた制度設計が今後ますます求められるものと考えられます。