社労士

コラム

「働き方改革」関連法施行元年

2019 年3 月4 日

「働き方改革」関連法施行元年

 いよいよ昨年成立した働き方改革関連法の実質的施行が4月1日より始まります。主な制度の施行日は、下表のとおりです。

制 度 大企業 施行日 中小企業 施行日
有給休暇5日の時季指定 2019/4/1 2019/4/1
時間外労働の上限規制 2019/4/1 2020/4/1
同一労働同一賃金 2020/4/1 2021/4/1

有給休暇の時季指定については、法施行が4月1日のため当初4月1日以降の新たに付与される年次有給休暇を消化の対象とするという指導が一部なされてはいましたが、繰り越した分の年次有給休暇の消化でよいという見解に落ちつきました。実運用で様々な疑問がまだまだ出てきそうなため、リーフレットに記載されているQ&A以外にも、別途Q&Aが追加される予定です。

■年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説―厚労省リーフレット■(https://www.mhlw.go.jp/content/000463186.pdf)


時間外労働の上限規制の運用は36協定が前提となりますが、36協定の締結時の従業員の過半数代表者の選出について留意しておく必要があります。確実に過半数の代表として「民主的」に選出されたというプロセスが十分検証されるようにしておきましょう。


 2020年4月1日(中小企業は2021年4月1日)より非正規雇用労働者(パートタイム労働者・有期雇用労働者・派遣労働者)の格差是正のための「同一労働同一賃金」が施行されます。 現行法でも、労働契約法及びパート労働法で不合理な待遇差は禁止されています。本ニュースでも紹介した「長澤運輸事件」「ハマキョウレックス事件」で、この待遇差を巡って初めて最高裁判決が出されました。 この最高裁判決後、注目されていた「日本郵便事件」の東京高裁判決が昨年12月13日にありました。東京地裁では、非正規社員に住居手当、年末年始手当が支給されないのは不合理と判断したものの、正社員との差額全額を認めず、6割、8割の差額の支払いを命ずる判断が出されていましたが、高裁では不合理性について同様の判断をした上で、正社員との差分の10割を損害と認め、一審で命じられた92万円の賠償を75万円増額して167万円の支払いを命じました。
 今回の判決も「賃金総額だけでなく、手当の内容を個別に検討する」とした最高裁の判決が踏襲されました。 ただし、同一労働同一賃金「ガイドライン案」「指針(平成30年12月28日)」では、賞与の不支給について不合理性の判断例を示していますが、「長澤運輸事件」同様、今回の判決においても「職務内容が相違すること」から賞与の不支給については「不合理」とは認められませんでした。 この判決については双方不服として、最高裁で争われることになる予定で、成り行きが注目されます。来年「同一労働同一賃金」の法改正が施行されるとしても、現行法の不合理性の判断のうち「その他の事情」の明記を少し変えたもので、法趣旨を変更されたものではないので、賃金制度の設計において、こうした訴訟の動向は現行法上の解釈として注目しておく必要があります。(次頁も参照ください。)


パートタイム・有期雇用労働法 取組手順書公開

 2020年4月1日よりパートタイム・有期雇用労働法が施行されます。厚生労働省より対応のための取組手順書が公開されましたので、手順書に沿って社内の制度の点検を行いましょう。

■厚生労働省 同一労働同一賃金特集■(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000144972.html)

図表1:パートタイム・有期雇用労働法取り扱い手順書
手順書

厚生労働省「毎月勤労統計調査」問題の対応について

 厚生労働省の「毎月勤労統計調査」方法に問題があり、各種給付の基準となる統計上の賃金額が低く設定され給付額に影響が生じていると発表がありました。2004年8月以降に支給された雇用保険・労災保険の各種給付に追加給付がある可能性があります。 対象となる方には4月以降に厚生労働省よりご案内がありますが、詳細について確認される場合は専用ダイヤルが開設されていますので、下記までお問い合わせください。

  • 雇用保険関係専用ダイヤル : 0120-952-807
  • 労災保険関係専用ダイヤル : 0120-952-824
  • 受付時間  平日8:30~20:00 土日祝8:30~17:15

裁量労働制の不適正な運用が認められた企業への指導及び公表制度について

 厚生労働省では、2018年12月28日に閣議決定された「労働施策基本方針」を踏まえ、監督指導に対する企業の納得性を高め、労働基準法等関係法令の遵守に向けた企業の主体的な取組を促すため、裁量労働制の不適正な運用が複数の事業場で認められた企業の経営トップに対する都道府県労働局長による指導の実施及び企業名の公表を行う場合の手続を定めました。これまでも労働基準監督署における監督の結果、事案の態様が、法の趣旨を大きく逸脱しており、これを放置することが全国的な遵法状況に悪影響を及ぼすと認められるものについて、都道府県労働局長が企業の幹部に対して特別に指導を行い、行政の対応を明らかにすることにより、同種事案の防止を図る観点から、その事実を明らかにしてきたところであり、今般制度の手続きが明確化されました。

■裁量労働制に係る指導・公表制度について■(https://www.mhlw.go.jp/content/11202000/000473546.pdf)


外国人労働者146万人 最多更新、10年で3倍

 厚生労働省は2019年1月25日、2018年10月時点の外国人労働者が146万463人に達し、2007年に外国人雇用状況の届出が義務化されて以降、過去最高を更新したと発表しました。前年より14.2%(前年同期比181,793人)が増加し、2008年の約49万人が、10年間で3倍に増加しました。少子高齢化の影響で働き手の中心となる15~64歳の生産年齢人口が急減し、景気の回復傾向も背景に深刻な人手不足が続いており、企業が外国人を積極的に受け入れていることが要因とみられています。今年4月には外国人労働者の受け入れを単純労働分野にも拡大する新制度が始まり、政府は5年間で最大約34万人を見込んでいます。しかし、現状の外国人技能実習制度においては、賃金未払いや違法な長時間労働等がたびたび問題となっています。法務省と厚生労働省は同日、三菱自動車(東京都港区)が、岡崎製作所(愛知県岡崎市)で受け入れていた外国人技能実習生を、技能実習計画とは異なる業務に従事させていたとして、実習生27人の計画の認定を取り消しました。労働基準法違反があったパナソニック(大阪府門真市)など3社の実習生の計画認定も取り消されました。同措置は2017年11月に施行された技能実習適正化法に基づくものであり、4社は5年間、実習生の受け入れができなくなります。今年4月の受け入れに向けて、労働環境の改善や企業への指導強化が求められるといわれています。


外国人の健康保険扶養親族、国内居住限定 健康保険法改正案提出へ

 外国人労働者の増加に対応するため、厚生労働省は健康保険を使える扶養親族について、2020年4月から原則として国内居住者に限定する方針を固めました。外国人による公的医療保険の不正利用を防止する狙いがあるといわれています。健康保険法を含む医療保険制度関連法案改正案が、1月28日召集の通常国会に提出される見込みです。現行法では、海外に住む扶養親族も健康保険を使えます。外国人労働者の増加が見込まれる中、血縁関係の確認が難しい海外在住者を対象外とすることで、公的保険の利用を厳格化する方針のようです。


平成31年度の年金額改定について

 1月18日に、総務省から「平成30年平均の全国消費者物価指数」が公表されました。これを踏まえ、平成31年度の年金額は、法律の規定により、平成30年度から0.1%プラスで改定されています。

平成30年度月額 平成31年度月額
国民年金(老齢基礎年金(満額):1人分) 64,941 円 65,008 円
(+67 )
厚生年金(夫婦2人分の老齢基礎年金を含む標準的な年金額) 221,277 円 221,504 円
(+227 )

※厚生年金は、夫が平均的収入(平均標準報酬(賞与含む月額換算)42.8 万円)で 40 年間就業し、妻がその期間すべて専業主婦であった世帯が年金を受け取り始める場合の給付水準です。


在職老齢年金の減額基準額の引き上げ

 在職中に老齢厚生年金(在職老齢年金)を受給されている方の年金額は、受給されている老齢厚生年金の月額と総報酬月額相当額により、年金額が調整されます。

※【総報酬月額相当額】=(その月の標準報酬月額)+(直近1年間の標準賞与額の合計)÷12

厚生労働省は、60歳以降も会社などで働いている人の厚生年金を賃金収入に応じて調整する減額基準額の引き上げを発表しました。

平成30年度月額 平成31年度月額
60 歳台前半(60 歳~64 歳)の支給停止調整開始額 28万円 28万円
60 歳台前半(60 歳~64 歳)の支給停止調整変更額 46万円 47万円
60 歳台後半(65 歳~69 歳)と70 歳以降の支給停止調整額 46万円 47万円

任意継続被保険者の標準報酬月額の上限変更 ~協会けんぽ~

 平成31年度の協会けんぽの任意継続被保険者の標準報酬月額の上限は、28万円から30万円に変更となります。

全国健康保険協会の任意継続被保険者の標準報酬月額は、健康保険法により以下のうちどちらか少ない額と規定されています。
  • ①資格を喪失したときの標準報酬月額
  • ②前年(1月から3月までの標準報酬月額については、前々年)の9月30日時点における全ての協会けんぽの被保険者の標準報酬月額の平均額を標準報酬月額の基礎となる標準月額とみなしたときの標準報酬月額
このため、毎年度②の額が協会けんぽの任意継続被保険者の標準報酬月額の上限となります。

※平成30年9月30日時点における全ての協会けんぽの被保険者の標準報酬月額の平均額は291,181円となり、標準報酬月額の第22等級:30万円に該当します。