社労士

コラム

労働時間に関する制度の見直しについて(2)

2018 年12 月4 日

労働時間に関する制度の見直しについて(2)

1. 高度プロフェッショナル制度

 先の国会で成立した働き方改革関連法の労働基準法関係で、「高度プロフェッショナル制度」が新設されます。この制度は、4週4日以上の休日(年間104日以上)を与えることや、インターバル確保・深夜業制限などを課しますが、 対象労働者が時間外労働・休日労働や深夜労働に従事しても割増手当を支払う必要のない制度で、労働時間と賃金の関係がリンクしない新たな制度です。現在来年4月1日の法施行にあたり決めておくべき省令内容として、 対象業務・年収要件の算定方法及び額などが検討されています。


2. 労働時間と賃金

 前レポートで、「労働時間」には所定労働時間のように労働契約上「労働する義務のある時間」と、労働基準法上の解釈として「客観的に使用者の指揮命令下に置かれたものとされる時間」があることについて述べました。今回、労働時間と賃金との関係を述べます。

「大星ビル管理事件」(最高裁、平14・2・28)で、最高裁は「労働契約は労働者の労務の提供と使用者の賃金支払に基礎を置く有償双務契約」で「労基法上の労働時間に該当すれば、通常は労働契約上の賃金支払の対象となる時間としているものと解するのが相当である」としながら、 「労働基準法上の労働時間に該当すると当然に賃金請求権が発生するのではなく、「労働契約(就業規則)においていかなる賃金を支払うと合意しているかによる」と判事しています。具体的には、労働者が会社に対して、 「仮眠時間が労働基準法上の労働時間であること、労働時間だとすると就業規則上の時間外勤務手当、深夜就業手当の支払いを求めたものです。最高裁は仮眠時間を労基法上の労働時間と認定したうえで、労働契約上「仮眠時間に対する対価として泊まり勤務手当を支給し、 仮眠時間中に実作業に従事した場合にはこれに加えて時間外勤務手当等を支給するが、不活動仮眠時間には泊まり勤務手当以外に支給しないものとされていた」として、「上告人(労働者)らが本件仮眠時間につき、労働契約の定めに基づいて所定の時間外勤務手当及び深夜就業手当を請求することができない」とした 高裁判決を是認しています。この最高裁判決以前に出された「ふどき事件」(大阪地、平9・11・12)でも明確に「労働基準法は、第11条で賃金を「労働の対償」と規定するが」「使用者が労働者に対して賃金をいかにして支払うかは、基本的には労働契約その他の使用者と労働者の合意によって決せられる」と判示しています。 このことは、労働基準法や最低賃金法等の法令に違反しない限り労働基準法上の労働時間だとしても、賃金をどのように払うかは労使合意によることを明示しています。

 そもそも、完全月給制の場合は欠勤日があっても月額で定められている賃金が保障されて支払われること、日給月給制の場合でも月によって所定労働日数・所定労働時間が異なっても月額で定められている基本給等の賃金が同一の額で支払われていることから、労働時間が労働基準法上の労働時間如何に関わらず、所定の労働に対して就業規則等で定めて賃金が支払われています。このように、いかなる労働にいかなる賃金を払うかは労働基準法でなく労働契約上の合意すべき労働条件の範疇といえます。そうすると、現状裁量労働制等みなし労働時間制があるなか、あえて「高度プロフェッショナル制度」を設けて労働基準法の労働時間保護規制外の労働者の制度を設ける必要性があるのか少し疑問を持たざるをえません。

年次有給休暇の時季指定義務

 年次有給休暇は、原則として労働者が請求する時季に与えることとされていますが、取得率においては低調な現状にあり、年次有給休暇の取得促進が課題となっています。 このため、労働基準法が改正され、2019年(平成31年)4月から、全ての企業において、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、年次有給休暇の日数のうち年5日については、使用者が時季を指定して取得させることが必要となりました。

時季指定義務のポイント
  1. ◆対象者は、年次有給休暇が10日以上付与される労働者(管理監督者を含む)に限ります。
  2. ◆労働者ごとに、年次有給休暇を付与した日(基準日)から1年以内に5日について、使用者が取得時季を指定して与える必要があります。
  3. ◆既に5日以上取得済みの労働者に対しては、時季指定は不要です。
  4. ◆労使協定による年次有給休暇の計画付与制度に基づき計画付与される日数分は時季指定義務が履行されたとみなされるので、5日間計画付与をすれば指定義務はありません
  1. (注意)
  2. ・使用者は、時季指定にあたっては労働者の意見を聴取し、その意見を尊重するよう努めなければならない。
  3. ・使用者は、労働者ごとに年次有給休暇管理簿を作成し、3年間保存しなければならない。

あなたの職場は大丈夫?パワーハラスメントの定義について

 職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、 精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいいます。また具体的なパワーハラスメントの行為としては、以前からまとめられている型として 次の6類型があげられます。※これらはパワハラに該当する全てを網羅したものではなく、これら以外は問題ないということではありません。


  1. 「身体的な攻撃」…上司が部下に対して、殴打、足蹴りをする
  2. 「精神的な攻撃」…上司が部下に対して、人格を否定するような発言をする
  3. 「人間関係からの切り離し」…自身の意に沿わない社員に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりする
  4. 「過大な要求」…上司が部下に対して、長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命ずる
  5. 「過小な要求」…上司が管理職である部下を退職させるため、誰でも遂行可能な受付業務を行わせる
  6. 「個の侵害」…思想・信条を理由とし、集団で同僚1人に対して、職場内外で継続的に監視したり、他の従業員に接触しないよう働きかけたり、私物の写真撮影をしたりする

厚生労働省ではパワーハラスメント対策のためのWebサイトを開設しています。こちらを参考に会社のパワハラ問題を見直されてみてはいかがでしょうか。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html

働き方改革関連法

~労働安全衛生法の一部改正~

労働安全衛生法関係では、産業医・産業保健機能の強化と、医師の面接指導の対象拡大を柱とした改正が平成31年4月から施行されます。


≪産業医・産業保健機能の強化≫
1.事業者による産業医に対する情報提供 産業医を選任した事業者は健康管理に必要な情報を産業医に提供する義務を負います。
2.産業医による勧告と事業者の対応 産業医は労働者の健康を確保する必要があると認められる際、事業者に対して必要な勧告を行う権限が与えられています
3.産業医の業務内容を労働者へ周知 産業医を選任した事業者は、産業医の業務の内容、その他の産業医の業務に関する事項で厚生労働省令で定める事項について、労働者に周知する義務が新しく設けられます。
≪長時間労働者に対する医師による面接指導の強化≫
1.長時間労働の医師の面接指導 長時間労働の医師の面接指導の条件が、「時間外・休日労働時間100時間超え」から「時間外・休日労働時間80時間以上」に変更される予定です。
2.「新たな技術、商品又は役務の研究開発に係る業務につく労働者」の医師の面接指導の義務化 省令で定める時間を超えて労働する労働者に対して事業者は、医師の面接指導を行うことが義務づけられます。省令で定める時間については「時間外・休日労働時間が100時間超え」が条件とされる予定です。行わなかった場合は罰則の対象となります。
3.「特定高度専門業務・成果型労働制の対象労働者」の医師の面接指導義務化 省令で定める時間を超えて労働する労働者に対して事業者は、医師の面接指導を行うことが義務づけられます。省令で定める時間については「健康管理時間について、1週間当たり40時間を超えた場合のその超えた時間が一月当たり100時間を超え」が条件とされる予定です。行わなかった場合は罰則の対象となります。
≪労働者の心身の情報に関する取り扱い≫
労働者の健康情報を収集・保管・使用にあたり事業者は、「労働者の健康の確保に必要な範囲内で労働者の心身の状態に関する情報を収集し、並びに当該収集の目的の範囲内でこれを保管し、及び使用しなければならない」とされました。

雇用保険継続給付:同意書によって被保険者署名・押印が省略可能に

 雇用保険継続給付の手続きにあたり、2018年10月1日以降、申請内容等を事業主が被保険者に確認し、被保険者合意のもと「記載内容に関する確認書・申請書等に関する同意書 (以下同意書)」を作成し保存することで、申請書への被保険者署名・捺印が省略できます。その場合、申請書の申請者氏名・署名欄には、「申請について同意済」と記載します。  なお、本手続きが認められる要件は、事業主が被保険者に同意書を提出させており、これを事業主が保存(保存期間:完結の日から4年間)していることであり、 必要に応じて事業所管轄安定所より同意書の提出が求められることもありますのでご留意下さい。

社会保険の標準報酬額上の「賞与」の取り扱いが明確化(平成31年1月4日適用)

 賞与とは、その名称を問わず労働者が労働の対償として受けるもののうち、年3回以下の支給のものをいい、年4回以上支給されるものは標準報酬月額の対象とされていますが、 今まで取り扱いが明確にされていなかったことにより取り扱いにバラつきが認められていたため、取り扱いの明確化・徹底を図ります。

  ・諸手当等の名称如何に関わらず、 規定又は賃金台帳から同一の性質を有すると認められるもの毎に判別します。
  ・諸手当を新設した場合のような支給実績のないときには、次期の決定・改定(翌7月1日)までの間は「賞与」として取り扱います。

高齢者雇用70歳へ~多様な働き方へ政府検討~

 政府は未来投資会議を開き、現在は原則65歳まで働けるよう企業に義務付けている継続雇用年齢を70歳に引き上げる検討を始めました。早ければ高齢者雇用安定法の改正案を2020年の通常国会に提出する方針です。少子高齢化や人口減少社会を見据え、多様な働き方を後押しする狙いで、まずは企業の努力義務とする方向で調整します。

11月は「過労死等防止啓発月間」です

 厚生労働省は「平成30年度版か労使等防止対策白書」をまとめ、過労死が多発しているIT産業等の発生要因を明らかにしました。 システムエンジニアとプログラマーで脳・心臓疾患による労災支給決定した22人の長時間労働の要因は、「厳しい納期」が36. 4%「顧客対応」18. 2%等となっています。 ITエンジニアのアンケート調査でも、ストレス・悩みで一番多いのは「納期のプレッシャー」となっています。IT技術者の過重労働防止対策は自らの努力だけでは難しく、 顧客の理解・協力が必要であることが明らかに示されました。また、厚生労働省では、「過労死等防止対策推進法」に基づき、過労死等を防止することの重要性について 国民に自覚を促し、関心と理解を深めるため、11月を「過労死等防止啓発月間」と定め、「過労死等防止対策推進シンポジウム」や「過重労働解消キャンペーン」などの 取組みを行います。