社労士

コラム

労働時間に関する制度の見直しについて(1)

2018 年11 月2 日

労働時間に関する制度の見直しについて(1)

法改正と臨検

 成立した働き方改革関連法の中で、労基法改正内容は重要な部分です。中でも労働時間に関する改正は日々の働き方に直結することですので、施行前に改正内容を正確に把握し準備しておかなければなりません。 また、近年は事業所に対し労働時間の管理について監督署の指導が細かくなっているように感じます。これは、長時間労働の抑制策として、一部の適用除外の業種(自動車運転業務、建設業、医師等)を除いて 2019年4月1日(中小企業では2020年4月1日)より時間外労働の規制が施行されること、さらに休日の取得等一定の条件を設けたうえで使用者側の長年の要求であった賃金の関連性を除いた 労働時間規制の対象外の働き方を認める高度プロフェッショナル制度の導入が意識されているようにも思えます。


労働時間について

 ところで、日常的に使っている労働時間とは、労働契約上の時間、すなわち就業規則で定める始業から終業までの労働契約上の「労働する義務のある時間」をイメージされていると思いますが、 労基法上の労働時間のとらえ方は観点が異なります。実は労基法には労働時間に関する定義はありません。法律上労基法第32条に「一週間について40時間を超えて」「一日8時間を超えて、労働させてはならない。」と 規定されているのみなのです。この「労働させ」の解釈・労働時間をめぐり様々な見解が出されています。行政解釈上では、「一般的に、使用者の指揮監督のもとにあることいい、必ずしも現実に精神又は肉体を活動させていることを要件とはせず」 (昭23・4・7基収1196号)としていましたが、平成12年3月9日三菱重工業長崎造船所事件の最高裁判決で概ね実務上の解釈として定着する判決が出されました。 判決は「労働基準法32条の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、 労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものでないと解するのが相当である」と判示しています。指揮命令下にあり客観的に定まる、すなわち実労働時間を対象とする解釈です。(この「指揮命令下」の解釈には所説あります)

 労働基準監督官が事業場で労働時間が労基法上適正に運営されているか判断するときは、自己申告制の労働時間や時間外の事前許可制に基づいて運営している(就業規則・内規よる管理)としても、その時間が客観的な労働時間が正しく反映しているか調査確認し、 申告・申請時間が実態と乖離していれば是正指導をします。当然、裁判で労働時間を争ってもこの判例や行政解釈の基本的考え方は変わりません。解釈をめぐって相違があるとしたら、黙示の義務とみられる業務、更衣等の準備時間、研修等の時間などがあります。 労基法の労働時間の改正にあたり、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を参考に適正な労働時間の把握に努めて下さい。
 上記でも述べたように、労働時間には他の側面から検討すべき点があります。賃金と労働時間の関係については次回記載したいと思います。   

同一労働同一賃金ガイドラインのたたき台(短時間・有期雇用労働者に関する部分)

 厚生労働省から、平成30年8月30日に開催された「第9回労働政策審議会 職業安定分科会/雇用・環境均等分科会/同一労働同一賃金部会」の資料が公表され、「同一労働同一賃金ガイドライン」のたたき台が提示されました。
 このたたき台は、平成28年12月に公表された「同一労働同一賃金ガイドライン案」を基に、一部表現を変更したり、先に成立した働き方改革関連法や参議院の附帯決議内容、平成30年6月の長澤運輸事件の最高裁判決の内容を受けた項目が追加されています。今回その一部を紹介いたします。


参議院での附帯決議を受けて

 法改正で非正規雇用労働者の格差是正のため不合理な待遇の相違等の解消が求められます。付帯決議では「低処遇の通常の労働者(無期雇用フルタイム労働者)に関する雇用管理区分を新設したり職務分離等を行ったりした場合でも、非正規雇用労働者と通常の労働者との不合理な待遇の 禁止規定や差別的取扱いの禁止規定を回避することはできないものである」とする趣旨が、同一労働同一賃金のたたき台の「目的」の中に、労働法の専門家でないと理解が難しい表現で明記されています。
 同様に付帯決議で「同一労働同一賃金は、非正規雇用労働者の待遇改善によって実現すべきであり、各社の労使による合意なき通常の労働者の待遇引き下げは、基本的に三法(パートタイム労働法、労働契約法、労働者派遣法)改正の趣旨に反するとともに、 労働条件の不利益変更法理にも抵触する可能性がある」趣旨即ち通常の労働者の待遇引き下げによる格差是正は「望ましい対応とは言えない」とたたき台では明記されています。


長澤運輸事件最高裁判決を受けて

 定年後継続雇用される有期雇用労働者の定年前との待遇の相違は、老齢厚生年金の支給を受けることが予定されること等から法律上の「その他」の事情として考慮されることが明記されています。この趣旨は法改正の2020年4月施行でなく現行の労働契約法20条の解釈として出されたものなので 本旨について検討を先送りすることがないよう留意すべきです。本事件では職務内容が同一の労働者を対象に争われましたが、職務の内容、職務の内容及び配置の変更範囲に相違がある場合は、その相違に応じた賃金の相違は許容されるとたたき台では明記されています。
 たたき台なので、変更の可能性はありますが、この内容をベースにガイドラインが出来上がっていくことが予想されるので、注目しておく必要があります。

「時間外労働・休日労働に関する協定届(36協定)」の新様式が公表されました

 厚生労働省が、平成31年4月から施行される改正労基法による「時間外労働の上限規制」に伴い「時間外労働・休日労働に関する協定届(36協定)」の新様式と留意すべき指針について公表しました。

□「時間外労働の上限規制」について

原則 1週40時間 1日8時間以内
36協定 月45時間以内 かつ 年間360時間以内
36協定(特別条項付) ・年間720時間以内(時間外労働のみ)
休日労働を含め月100時間未満
休日労働を含め2か月~6か月平均で月80時間以内
・原則である月45時間(1年単位の変形労働時間制の場合は42時間)を超える回数は、年6回まで
適用除外 ① 自動車の運転の業務 ② 建設事業 ③ 医師
④ 新技術・新商品等の研究開発業務
⑤ 鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業 

36協定の新様式に関する主な変更点は、以下のとおりとなります。


(1) 「36協定で定める時間数にかかわらず、時間外労働および休日労働を合算した時間数は、1箇月について100時間未満でなければならず、かつ2箇月から6箇月までを平均して80時間を超過しないこと。」とするチェック欄が設けられ、チェックのない場合は有効な協定にはなりません。

(2) 一般条項の場合と特別条項付の場合とで様式が異なり、特別条項を設ける場合は、限度時間までの協定届に加えて、特別条項にかかる部分を定めた2枚目の様式が必要となります。

(3) 特別条項を設ける場合に、「限度時間を超えて労働させる場合における手続」と「限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康および福祉を確保するための措置」の記入が必要となりますので下枠内の例示を参照ください。


  1. □「時間外労働・休日労働に関する指針案」について
  2. ■特例による延長時間をできる限り短くする努力義務
  3.  ■休日労働もできる限り抑制する努力義務
  4.  ■特例に関わる割増賃金率を法定基準を超える率とする努力義務
  5.  ■労働時間を延長する必要のある業務の区分を細分化すること
  6.  ■特例の場合に原則の上限を超えて労働した労働者に講ずる健康確保措置として望ましい内容
  7. (例示)⇒(1)医師による面接指導 (2)深夜業の回数制限
  8.      (3)終業から始業までの休息時間の確保(勤務間インターバル)
  9.      (4)代償休日・特別な休暇の付与 (5)健康診断
  10.      (6)連続休暇の取得 (7)心とからだの相談窓口の設置
  11.      (8)配慮転換 (9)産業医等による助言・指導や保健指導

給与所得者の配偶者控除等申告書の改正

 平成29年分の「給与所得者の配偶者特別控除申告書」が平成30年分からは「給与所得者の配偶者控除等申告書」に改められました。
 これに伴い、平成29年分の「給与所得者の保険料控除申告書 兼 給与所得者の配偶者特別控除申告書」(兼用様式)については、平成30年分は、「給与所得者の保険料控除申告書」「給与所得者の配偶者控除等申告書」2種類の様式とされました。
 平成30年分の年末調整において、配偶者控除又は配偶者特別控除の適用を受けるためには、「平成30年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の「源泉控除対象配偶者」欄への記載の有無にかかわらず、「平成30年分 給与所得者の配偶者控除等申告書」を給与の支払者に提出する必要があります。

10月は「年次有給休暇取得促進期間」です

 厚生労働省では、年次有給休暇を取得しやすい環境整備を促進するため、10 月を「年次有給休暇取得促進期間」 としています。
「働き方改革関連法」成立により労働基準法が改正され、平成31年4月から、10日以上の年次有給休暇が付与される全ての労働者に対して、毎年5日※1、時季を指定して有給休暇を与える必要があります。
  ※1「労働者が時季を指定して取得した有休」及び「計画年休※2」はこの5日から控除することができます。
  ※2 年次有給休暇のうち、5日を除いた日数については、労使協定を結ぶことで計画的に年休を割り振ることができます。
年休取得を呼びかける等、取得しやすい雰囲気づくりの促進とともに、来年度の業務計画において、従業員の確実な年休取得への考慮が求められます。

全国労働衛生週間 ~こころとからだの健康づくり みんなで進める働き方改革~

 働く人の健康の確保・増進を図り、快適に働くことができる職場づくりに取り組むため、10月1日~10月7日に「全国労働衛生週間」が実施されました。この機会に自主的な労働衛生管理活動を見直し、積極的に職場の健康づくりに取り組んでみましょう。

<労働衛生活動の重点事項>
(1) 過重労働対策
(2) メンタルヘルス対策
(3) 治療と仕事の両立支援対策
(4) 化学物質による健康障害防止対策
(5) 石綿による健康障害防止対策
(6) その他の重点事項(腰痛予防対策、受動喫煙防止対策)