社労士

コラム

働き方改革法案の動向について④

2018年8月2日

 梅雨明けと同時に「働き方改革関連法案」が6月29日に成立しました。主要な点については本レポートでも取り上げてきましたが、概要は「~ 働き方改革関連法の概要(各法律の主な改正点) ~」で簡単にまとめていますので参照ください。今回の法律で留意すべき点、以下の課題点の一部について述べます。


 今回の法案は労働基準法をはじめ、8つの法律を改正するもので内容は非常に多岐にわたっています。さらに、法案を審議する過程でいくつかの修正がなされました。
 規制を強化する条項については、特に中小企業の対応に時間的余裕を持たせるため、法施行日の特例を設ける措置が講じられました。労働基準法の改正について言えば、改正の施行日が来年4月1日のところ、時間外の上限規制の施行は2020年4月1日とされ、月60時間超の割増金の見直しは2023年4月1日施行と予定されるなど施行日が先送りされることになりました。正規・非正規の格差是正を目指す、いわゆる「同一労働同一賃金」の実現のための労働契約法、パート労働法の改正も中小企業は施行日を1年先送りの2021年4月1日とされました。
 法施行が来年4月1日以降としても社内規則の改正整備する時間的余裕は約半年しかないので、担当部署としては大変忙しい作業となりそうです。中小企業は施行が1年先送りされましたが、優秀な人材確保をするためにはなるべく早めに法改正の対応を整備する必要があると思います。


 時間外労働の上限規制では、原則の月45時間および年360時間以内、特別条項付の年720時間以内については、休日労働(法定休日分)の時間は従来通り別枠でカウントし、特例の単月100時間未満や複数月の平均80時間以内の時間には、休日労働時間分が含まれるので注意する必要があります。
 時間外労働の上限規制に対応して長時間労働を抑制するには、一般に、要員配置の見直し、効率的な業務推進、労働生産性の向上が必要であるといわれています。
 高度プロフェッショナル制度は本法案の中でも最も与野党で対立したものです。「時間でなく成果で評価される制度」として使用者側が要求し、連合等労働者側が強く反対してきたのは周知のとおりです。対象業務や年収条件を課すなど限定された者に適用されるとされていますが、管理監督者にも深夜割増手当が義務化されているにも関わらず、深夜労働をしても割増手当の対象にはなりません。また、裁量労働対象者には休日労働に対して割増手当の支払いが義務付けられていますが、当然この対象にもならない、まさに労働基準の労働時間・休憩保護規定部分が休日の取得等以外は外されることになりました。
 長時間労働の絶対的規制がようやく開始される反面、労働時間の保護規定の適用除外する制度を新たに創設するという動きは、労働時間に関し相反する条文が成立することを意味します。本ニュースでも再三述べてきた通り、労働時間の保護規定を除外しなくても『時間でなく成果で評価する制度』は導入できると考えられることから、今後法施行されてから労働時間と成果の関係性について注目していく必要があると思います。

 正規・非正規雇用者間における格差の是正は当然必要ですが、前号に触れたように、最高裁は支給された手当ごとにその趣旨を吟味し有期契約であることを理由とする「不合理な労働条件」であるかどうか判断しています。そもそも正規・非正規雇用における格差問題の根本的な原因は多くの労働経済学者、法学者が指摘している通り、正社員は長期雇用を前提とする内部労働市場制の原理で、非正規は主に職務に紐づけ採用される外部労働市場制の原理で雇用されることによって生じたものといえます。したがって、国が賃金のしくみや考え方のモデルを明示して簡単に解決するものではありません。

 格差の不合理性の基準やレベルを判断することは必要ですが、個々の企業の賃金・人事制度に対し国や裁判所が是非を論ずることは、まさに経営状況の変化・責任にまで関わることとなるので、慎重でなければならないと考えます。

~ 働き方改革関連法の概要(各法律の主な改正点) ~

労働基準法 フレックスタイム制の見直し 【2019年4月1日施行】
・フレックスタイム制の「清算期間」の上限を1か月から3か月に延長する
・清算期間が1か月を超える場合のフレックスタイム制の労使協定は、行政官庁に届け出る必要あり
時間外労働の上限規制の導入 【2019年4月1日(中小企業は2020年4月1日)施行】
・[原則]時間外労働の上限について、月45時間、年360時間
・[例外]臨時的な特別な事情がある場合でも、①年720時間以内(時間外労働のみ)、
  ②単月100時間未満【休日労働(法定休日分)含む】
  ③複数月平均80時間以内【休日労働(法定休日分)を含む】
・上記のうち②③に違反した場合には罰則
・一部の業務・業種については、業務等の特殊性から適用猶予・除外の措置が行われる
中小企業における月60時間超の時間外労働に対する割増賃金の見直し【2023年4月1日施行】
月60時間を超える時間外労働に係る割増賃金率(50%以上)について、中小企業への猶予措置を廃止
一定日数の年次有給休暇の確実な取得 【2019年4月1日施行】
使用者は10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、5日について、毎年、時季を指定して与えなければならないこととする(労働者の時季指定や計画的付与により取得された年次有休休暇の日数分については指定の必要はない)
特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)の創設【2019年4月1日施行】
・職務の範囲が明確で一定の年収(少なくとも1,000万円以上)を有する労働者が、高度の専門的知識を必要とする等の業務に従事する場合に、健康確保措置等を講じること、本人の同意や委員会の決議を要件として、労働時間、休日、深夜の割増賃金等の規程を適用除外とする。
・制度の対象者について在社時間等が一定時間を超える場合には、事業主はそのものに必ず医師による面接指導を受けさせなければならないこととする。
・対象労働者の同意の撤回に関する手続を労使委員会の決議事項とする。
労働安全衛生法 産業医・産業保健機能の強化【2019年4月1日施行】
事業者から、産業医に対しその業務を適切に行うために必要な情報を提供することとするなど、産業医・産業保健機能の強化を図る。
労働時間等設定改善法 勤務間インターバル制度の普及促進【2019年4月1日施行】
事業主は、前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息の確保に努めなければならない
労働契約法 不合理な待遇差を解消するための規定の整備【2020年4月1日(中小企業は2021年4月1日)施行】
均衡規定(「不合理と認められる相違の禁止」)をパートタイム労働法に移行
パートタイム労働法 均等・均衡規定の整備、待遇に関する説明義務【2020年4月1日(中小企業は2021年4月1日)施行】
短時間労働者・有期雇用労働者について、正規雇用労働者との待遇差の内容・理由等に関する説明を義務化
労働者派遣法 均等・均衡規定の整備、待遇に関する説明義務【2020年4月1日施行】

平成27年改正労働者派遣法の意見聴取手続きについて

 平成27年の労働者派遣法の改正から、平成30年9月30日で3年が経過します。
この改正で定められた「事業所単位の派遣期間制限」を、派遣先が延長しようとする場合は、事業所の期間制限に抵触する日の1か月前の日までの間(意見聴取期間)に、過半数労働組合等の意見聴取手続きを行う必要があります。

この意見聴取については、以下のように進めるようにしてください。
  • 意見聴取にあたっては、十分な考慮期間を設け、事業所の派遣受入開始時からの派遣労働者数、延長しようとする期間等の参考資料を提供するようにする。
  • 意見聴取において、過半数労働組合等から異議があった場合は、派遣受入可能期間が経過する日の前日までに延長の理由、延長期間、過半数労働組合等からの意見への対応方針を説明する。
  • 派遣受入可能期間を延長した場合は、速やかに派遣元に対して延長後の派遣受入可能期間に抵触する日を通知する。
  • 意見聴取をせずに、派遣受入の可能期間を超えて受け入れた場合は、その派遣社員につき、派遣先から労働契約を申し込まれたものとみなされる(労働契約申込みみなし制度)。
  • 意見聴取をした場合は、聴取事項を書面に記載のうえ、延長前の派遣可能期間が経過した日から3年間保存し、事業所の労働者に周知する。

マイナンバー制度導入に伴う社会保険手続の主な変更点

 今年3月より、マイナンバー制度の導入に伴って日本年金機構の社会保険手続に一部変更がありました。主な変更点(施行済も含む)は下記のとおりになります。

①個人番号を活用した窓口への相談
従来 番号制度導入後(平成29年より実施)
窓口で年金相談や年金の記録照会を行うにあたり、本人確認書類として、「年金手帳」と「本人確認書類(運転免許証)」を提出する必要がありました。 本人確認書類として、「マイナンバーカード」のみの提出で手続ができます。

②住所・氏名変更時の届出が省略されます。
従来(平成30年3月5日前) 番号制度導入後(平成30年3月5日より)
厚生年金の被保険者が転居等をした場合、事業主は、被保険者の申出を受けて住所変更(氏名変更)届を作成・届出が必要でした。 日本年金機構が、登録されたマイナンバーより氏名・住所情報を自動で取得し更新するため、届出そのものが不要になりました。
※住民票住所ではなく、居住地で登録する場合は、別途届出が必要になります。

③採用時の基礎年金番号の確認が不要になります
従来(平成30年3月5日前) 番号制度導入後(平成30年3月5日より)
事業主は、従業員を採用した場合、資格取得の手続きに基礎年金番号が必要であるため、従業員に年金手帳の提出を求める必要がありました。 資格取得の手続きに、基礎年金番号またはマイナンバーのどちらかの記載で手続可能となりました。

厚生労働省 生産性向上の事例集を公表

 厚生労働省は、今年5月、中小企業・小規模事業者の賃金引上げを図るため、生産性向上の取組をまとめた事例集を公表しました。取り上げられている事例は、厚生労働省の助成金「業務改善助成金※」を活用したものもあり、助成金は今年度も活用することが可能です。是非、この機会に助成金を上手く活用し、生産性向上の取組をご検討されてはいかがでしょうか。
※業務改善助成金:中小企業等の生産性向上を支援し、事業場内で最も低い賃金の引上げを図るための助成金


[参考]生産性向上の具体例(事例集より飲食業の事例)

  • スマートフォンで確認できる動画マニュアルによって、作業工程が標準化し、新規アルバイトの育成が5日程度に短縮。
  • 作業工程の標準化や経営分析ソフトの導入によって、営業利益が1%程度増加。

海外にお住いの家族の扶養認定の際にはご注意を

 厚生労働省は、今年3月、海外にお住まいで日本国内に住所を有さない家族の扶養認定にあたっての必要な証明書類について、健康保険組合理事長宛てに、統一的な見解を通知しています。今後、各健康保険組合は、原則、この通知に従って認定作業を行うことになります。これからは下記の添付書類が求められることとなりますが、不足の場合は扶養認定が難しいと思われますので、ご注意ください。

<< 1.現況申立書の作成>>
 ・扶養認定を受ける家族について、被保険者との続柄、収入状況及び仕送り状況等を記載した現況申立書

<< 2.身分関係の確認>>
 ・被保険者との続柄が確認できる公的証明書又はそれに準ずる書類。
 ・被保険者と同居していることが確認できる公的証明書又はそれに準ずる書類※。
 ※扶養認定を受ける家族が、『直系尊属、配偶者、子、孫及び兄弟姉妹以外の三親等内の親族』の場合のみ

<< 3.生計維持関係の確認(被保険者と扶養される方が別居の場合)>>
 ・扶養認定を受ける家族の収入状況がわかる書類
   →(収入がある場合) 公的機関又は勤務先から発行された収入証明書
   →(収入がない場合) 収入がないことを証明する公的証明書又はそれに準ずる書類
 ・被保険者から扶養認定を受ける家族への仕送り額がわかる書類等
   → 送金事実と仕送り額が確認できる書類として、金融 機関発行の振込依頼書又は振込先の通帳の写し
   ※認定には、扶養認定を受ける家族の年間収入が被保険者からの年間仕送り額未満であることが必要です。

<< 4.生計維持関係の確認(被保険者と扶養される方が海外で同居の場合)>>
 ・扶養認定を受ける家族の収入状況がわかる書類
   →(収入がある場合) 公的機関又は勤務先から発行された収入証明書
   →(収入がない場合) 収入がないことを証明する公的証明書又はそれに準ずる書類
 ・被保険者と同居していることが確認できる公的証明書又はそれに準ずる書類

なお、2~4の書類が外国語で作成されている場合は、翻訳者の署名付きの和訳文が併せて必要となります