社労士

コラム

Consultant report

働き方改革法案の動向について③

2018年7月3日

非正規雇用者処遇格差をめぐる最高裁判決内容について

 働き方改革法案のなかで労働時間規制と同様に注目されているのが非正規雇用者の格差是正「同一労働同一賃金」です。今回の判決はこの法案の行方に大きな影響を与えるものとしても注目されていました。同一労働同一賃金については厚生労働省が平成28年12月に「同一労働同一賃金ガイドライン案」として発表しており、法案はこのガイドライン案に法的根拠を与えるものとして準備されたものです。今回の判決は政府が進めるこの格差是正策の考えと概ね一致するという意味で妥当な判決が出されたと言えます。

 争われた2訴訟は本レポートで再三取り上げた「長澤運輸事件」「ハマキョウレックス事件」で両事件ともドライバーの正規雇用者と非正規雇用者の賃金格差について労働契約法20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)違反として争われたものです。「長澤運輸事件」では正社員が定年後再雇用制度により職務は基本的に同一にもかかわらず年収が2割程度引き下げられたこと、「ハマキョウレックス事件」では職務が基本的に同一にもかかわらず非正規雇用者には「諸手当」が支払われていないことが主に争われました。両判決とも高裁の判決を基本的には認容し一部差し戻した形となりました。

長澤運輸事件

 定年後再雇用者の賃金の引き下げが、労契法第20条が不合理な処遇の格差を禁止していることに違反しているかどうかについて、とりわけ法文上の「その他の事情を考慮して」の「その他の事情」に「定年再雇用制度」の運用が該当するかが重要な争点となりました。判決は、不合理と認められるかどうかについて、定年後の再雇用者が「一定の要件を満たせば老齢厚生年金の支給も受けることも予定されている」等から「その他の事情」に該当するとし、高裁の「退職前より2割前後減額されたことをもって直ちに不合理であるとはいえず」「労働契約法第20条に違反するということはできない」という判旨を是認しました。ただし、「賃金の総額を比較することのみによるのではなく」「当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきもの」として正社員に支給されていて、再雇用された嘱託社員に支給されていない諸手当を労働契約法第20条に違反するか手当ごとに検討し、精勤手当及び超勤手当(時間外手当)は違反するとしてこの部分を高裁に差し戻しました。

 本事件では、長期雇用を前提に年功的要素のある正社員と短期的雇用を前提に年金受給の可能性のある再雇用者との賃金総額の一定割合の減額は「不合理とは言えない」と判示したことは今後再雇用者の処遇を考えるうえで「参考」になると考えられます。基本的には職務内容、配置の変更の範囲と「その他の事情」を総合的に考慮して不合理であるか否かを判断する必要があります。

ハマキョウレックス事件

 正社員に対して支給されていて、契約社員(有期契約)には就業規則に定められず支給されていない無事故手当、作業手当、給食手当、住居手当、皆勤手当について大阪高裁は住宅手当、皆勤手当以外はトラック運転手としての業務内容に相違がないことから労働契約法違反として労働者側の訴えをほぼ認める内容の判決でした。

 最高裁は転勤のない契約社員に住居手当を不支給としたことについて大阪高裁が「不合理とはいえない」と判断したことは是認されるとしましたが、高裁が棄却した皆勤手当については「不合理である」と指摘し、再審理するよう大阪高裁に差し戻しました。

 業務内容が同一の場合、正規雇用者に支給されていて非正規雇用者に支給されていない手当については、その事由が契約期間の定めによるものでないことを明確に主張できないと「不合理でない」となかなか認められないという、使用者側にとって極めて厳しい判断が示されました。

両判決の共通した考え方

 今回の判決では、有期契約労働者の労働条件が労働契約法に違反したと判断されたとき、違反とされた労働条件が即無期契約社員(正社員)と同一となるものではなく、不法行為として損害賠償の対象となる考え方が示されました。違反した場合の効力については、労働契約法では明確に示されていなかったので、例えば違反した場合は直律効的に無期契約労働者と同一となる等、様々な解釈が議論されていましたが、今回の最高裁の判決により、この考え方が有力な見解として今後定着するものと考えられます。

 賃金総額や賃金体系に相違があった場合で「その他の事情」を考慮して相違が全体として「不合理でない」と判断されたとしても、同一労働同一賃金ガイドライン案に沿うように、相違のある賃金項目ごとに「不合理であるか」否か検討する必要があることを最高裁が判断しました。

 今回の働き方改革法案では、抽象的な「その他の事情」をより具体的に示すことと、正規・非正規雇用間に労働条件に格差がある場合は使用者にその格差について説明義務を課すこととされており、各企業は今後速やかにこのことについて対応することが迫られるでしょう。多くの企業が当面の格差対応と中長期的な視点で今後の賃金制度のあり方を再検討する必要があるでしょう。

 限られた賃金原資のなか、すでに一部の企業では正社員の手当を廃止し非正社員との処遇差をなくす動きが出ています。この動きは、格差是正の法の趣旨に反するもので、生産性の向上等により待遇改善を図り均衡の取れることが望ましいと指摘されています。社員のモチベーションの維持を考えると指摘内容は妥当と考えられます。

外国人雇用の環境が大きく変化しています

<新在留資格の創設>

 6月5日に開かれた経済財政諮問会議において、現状の日本の労働力不足の解消を図るために、より一層の外国人労働者の活用を検討していく目的で、2019年4月を目標に新たな在留資格「特定技能(仮称)」の創設が提言されました。これは、主に農業・介護・建設・宿泊など、IT技術を用いても人員不足の解消が困難とされている領域に対し、現状の技能実習制度とは異なる枠組みで外国人労働者の受け入れを拡大するというものです。

 
現状想定されている主なポイントとしては、
  ・単純労働の受け入れは認めず、一定程度の技術および日本語能力の保持を要件とする
  ・帯同家族は認めない 
  ・報酬額は日本人と同等以上の金額とする
等があげられています。 

 人口減少や肉体労働に対する国内労働者の意識の変化などにより、慢性的な労働力不足に悩まされている業種において、問題解決策のひとつとなることが期待されていますが、門戸を広く開放することにより、労働環境や在留期限の管理を適正に行えるのかどうか等の懸念もあがっています。今後の動向に注視する必要があります。

<不法就労等外国人対策の強化>

 上記の外国人労働者の活用の拡大の流れと相反する形で、警察庁・法務省・厚生労働省の三省庁が連携することにより、不法就労等外国人の取締りを強化していく方針が今年4月において示されました。

 外国人旅行者数は毎年記録を更新し続け、昨年は2,800万人を超える等、人的な交流が活発化していますが、これに比例する形で不法就労者が増加している点が問題視されており、今後不法就労者への対応が強まることが予想されます。

 実際に、最近不法就労を黙認していたということで、飲食店経営会社が書類送検されたニュースもありましたし、人事担当者としては、自社の外国人労働者の、在留資格・在留期限・就労制限のある者に係る限度時間の管理等を以前にも増して行うことにより、当該トラブルを避ける必要があると思います。

平成30年10月から年間平均による随時改定が可能となります

 厚生労働省は3月1日に定時決定(算定)と同様に随時改定(月額変更)においても、年平均による保険者算定を可能とする通知を公表しました。(「健康保険法及び厚生年金保険法における標準報酬月額の定時決定及び随時改定の取扱いについて」の一部改正について)

 対象となるのは随時改定による報酬の月平均額と、年間の報酬の月平均額とが著しく乖離する場合ですが、具体的には以下のとおりとなります。
通常の随時改定と同様に、3か月間の報酬の平均から算出した標準報酬月額(A)と従前の標準報酬月額に2等級以上の差があった場合において、(A)と昇給または降給月以後の継続した3か月の間に受けた固定的賃金の月平均額に、昇給または降給月前の継続した9か月および昇給または降給月以後の継続した3か月の間に受けた非固定的賃金の月平均額を加えた額から算出した標準報酬月額(B)との間に2等級以上の差があり、当該差が業務の性質上、例年発生することが見込まれる場合に保険者算定の対象となります。

 この取り扱いは例年特定の時期に残業が多い等、繁忙期となる一定期間のみ報酬が高くなる場合に、固定的賃金が増加して随時改定に該当するようなケースについて措置をするものであり、単に固定的賃金が大きく増減し、その結果随時改定に該当する場合は対象とはなりません。手続をする場合は、事業主が被保険者の同意書を添付した保険者算定の申立書を日本年金機構および健康保険組合に提出し、年金機構および健康保険組合で要件に該当するか確認がされることになります。

チェコ、フィリピンとの社会保障協定が発効します(平成30年8月1日)

 5月16日、日・チェコ社会保障協定改正議定書(平成29年2月1日署名)の効力発生のための外交上の公文の交換がプラハで行われました。これにより、この改正議定書は本年8月1日に発効します。

 この改正議定書は,平成21年に発効した現行協定の一部を改正するものであり、一時派遣被用者(企業駐在員等)の範囲を明確化することにより、保険料の二重払いの解消を強化するとともに,日本の被用者年金一元化法を踏まえた改正を行うものです。

 また、5月25日、日・フィリピン社会保障協定(平成27年11月19日署名)の効力発生のための外交上の公文の交換が、マニラで行われました。
現在、日・フィリピン両国の企業等からそれぞれ相手国に一時的に派遣される被用者等(企業駐在員など)には、日・フィリピン両国で年金制度への加入が義務付けられているため、社会保険料の二重払いの問題が生じています。
この協定の規定により、日・チェコ間、日・フィリピン間の派遣期間が5年以内の一時派遣被用者等は、原則として、派遣元国の年金制度にのみ加入することとなります。また、両国での保険期間を通算してそれぞれの国における年金の受給権を確立できることとなります。