社労士

コラム

働き方改革法案の動向について②

2018 年6月4日

「働き方改革法案」が上程される

 働き方改革法案が4月6日に国会に提出され、本格的な議論が進められています。国会審議がストップしていたため、今国会で法案が成立するためにはかなり厳しい日程となりそうです。

 最も論戦が繰り広げられると予想されるのが「高度プロフェッショナル制度」です。この制度の対象者はそれほど多くないことから、あまり一括成立にこだわらず、喫緊の課題である時間外労働の規制について優先的に議論を進め成立させ、次に、一定の時間で成果を出すための生産性の向上を計る施策へ議論が進められるべきと考えます。働いた時間でなく成果に応じて賃金を決める仕組みは、労働時間の長短は当然関わりますが、根本的には「いかなる労働」に「いかなる報酬」を支払うかという契約上の問題であり、創意工夫することで時間規制にこだわることなく実現できるはずです。

 また、労働時間の経済分析における山本勲・黒田祥子教授らの実証的研究で、長時間労働は能率が低下し成果とは結びつかないことが指摘されています。

 これら以外の法案で、例えば事業者における労働者の健康確保対策の強化、産業医がより一層効果的な活動を行ないやすい環境の整備等、与野党間で大きく対立するような内容はないと思われます。

その他の働き方改革

 今回の働き方改革法案には含まれていませんが、「働き方改革実行計画」に示されているテレワーク等の柔軟な働き方への環境整備、女性・若者の社会に出てからの学び直しの支援、魅力ある就労環境の整備等すみやかに取り組むべき政策課題が山積しています。これらの内容は、働き方改革法案とは別に法改正や予算を確保して進められています。

 また本年4月に改正施行された労働契約法(有期契約の無期転換)の推進・定着支援も必要な施策です。こうした情況から、上程された法案がすみやかに議論され、労使が納得できるような形で法案が成立することを期待します。

 法律が成立するか否かにかかわらず、各企業はこれらの課題に何らかの取組みが必要です。法律ができたから職場が変わるというより、自らの課題として「働き方改革」に取り組まなければ、少子高齢化が進むなか、求める人材確保が難しくなってきます。

正社員との「労働条件」巡り弁論 ~格差はどこまで認められるか~

 大手物流会社の契約社員が、業務内容が同じなのに正社員と契約社員で賃金や手当に格差があるのは違法だとして格差の是正を求めた訴訟の上告審で4月23日、最高裁第二小法廷で弁論が開かれました(「ハマキョウレックス」事件)。

原告側の弁論

 労働契約法20条の適用について「職務内容という客観的な要素を最も重視すべきで、合理的に説明できない格差は原則無効と解釈すべき」と主張

会社側の弁論

 「人材の獲得や定着のために、正社員に対して手当を支給したり福利厚生を充実させることは、会社の合理的な裁量の範囲内にある」と主張

 労働契約法20条は、格差の合理性について、(1)業務の内容や責任の程度(2)職務内容や配置の変更の範囲(3)その他の事情、の3要素を考慮して判断しますが、具体的にどのような格差が不合理かは解釈の問題となっており、労働契約法20条の解釈を巡り最高裁は初の判断を示すとみられています。どのような労働条件の違いが「不合理」に当たるのか、20日に最高裁弁論が行われた「長澤運輸」事件とあわせて、最高裁の判断に注目が集まっています。判決はいずれも6月1日です。

 格差を是正する「同一労働同一賃金」の実施は働き方改革関連法案の柱の一つです。2件の訴訟で最高裁が示す判断によっては、議論に影響を与える可能性がありそうです。

ICカードなどの電子機器による労働時間の把握について

 2018年4月22日、過労死や過労自殺を防ぐために国がとるべき対策をまとめた「過労死等防止対策大綱」の改定に向けた素案の概要が発表されました。

 労働時間の把握については、自己申告ではなく、原則、ICカードなどの電子機器や使用者による現認などにより、客観的で正確に行なうことを求めるとし、労働実態を正確につかめる仕組み作りを進め、長時間労働の是正を促すとしています。

 また、素案のなかで、労働時間の自己申告制では勤務実態を正確には把握できず、長時間労働を招く恐れがあると指摘しており、企業には正確な労働時間の把握に努めるよう求めるとしています。

 2017年1月20日に策定された「労働時間の適正な把握のために使用者が構ずべき措置に関するガイドライン」においても、使用者が講ずべき措置として、ICカードなどの電子機器により客観的な記録を基礎として確認を行い、また、使用者の現認による確認により適正に記録するよう求めてられています。

 今後、国は、労働時間を正確に把握する仕組みの構築を法令に盛り込むなどして、労働環境の改善に繋げたいとしています。

『平成30年度地方労働行政運営方針』を策定・公表しました~ 厚生労働省 ~

 厚生労働省は先日「平成30年度地方労働行政運営方針」を策定し、その内容を公表しました。各都道府県労働局は、この運営方針を踏まえ、各局の管内事情に則した重点課題・対応方針などを盛り込んだ行政運営方針を策定し、運営していくことになります。今回はこの運営方針の中から、皆様の実務に影響が大きい労働基準担当部署の重点施策から『労働環境の整備・生産性の向上』の項目について取り上げました。

労働基準担当部署の重点施策

「働き方改革」の推進などを通じた労働環境の整備・生産性の向上

   1.長時間労働の抑制及び過重労働による健康障害防止の徹底
   2.労働条件の確保・改善対策

    (ア)労働時間法制の見直しへの対応
    (イ)法定労働条件の確保等
    (ウ)特定の労働分野における労働条件確保対策の推進

      a 外国人労働者、技能実習生
      b 自動車運転者
      c 障害者
      d 介護労働者
      e 派遣労働者
      f 医療機関の労働者
      g パートタイム労働者

     (エ)「労災かくし」の排除に係わる対策の一層の推進

   3.最低賃金の適切な運営(最低賃金額の周知徹底等)

 この運営方針を見ることで、労働基準監督署が今年度、何を重点事項とし、行政活動を展開しようとしているのかがわかるのと、最近の労働問題とその対策の傾向を読み解くこともできますので、皆様の実務対策の検討にもお役立ていただければと思います。

<参考リンク>「平成30年度地方労働行政運営方針」の策定について(厚生労働省)

政府、外国人労働者の新たな在留資格検討〜現行5年から最長10年容認~

 政府は、外国人労働者の受け入れ拡大に向け、新たな在留資格を創設する方向で検討に入りました。最長5年間の技能実習制度の修了者で一定の要件をクリアした人に限り、さらに最長5年間国内での就労を認める考えで計10年間働けることになります。6月ごろにまとめる「骨太方針」に盛り込まれ、今秋の臨時国会にも入管難民法改正案を提出する方針です。

 技能実習制度は技術の海外移転を目的としているため、最長5年の期間が終わると帰国しなければなりませんが、新たな資格を得れば最長で計10年間働き続けられるようになります。

 資格取得の要件は業種に関係なく適用される共通基準と、職種ごとに求められる技能や資格を規定した業種別基準の二段構えで定められる方針です。

日・中社会保障協定の署名が行われました

 平成30年5月9日、「社会保障に関する日本国政府と中華人民共和国政府との間の協定」(日・中社会保障協定)の署名が行われました。この協定が効力を生ずれば、派遣期間が5年以内の一時派遣被用者は、原則として派遣元国の年金制度にのみ加入することとなります。今後、この協定の締結により、企業及び駐在員等の負担が軽減され、日中両国間の人的交流及び経済交流が一層促進されることが期待されます。詳細は次回以降お知らせいたします。

標準報酬月額の随時改定の取り扱いを一部改正

 厚生労働省は3月1日、季節的に報酬が変動することにより、通常の方法で随時改定を行うことが著しく不当であると認められる場合、新たに保険者算定の対象とする改正通知を発出しました。平成30年10月1日から適用予定です。たとえば農産物の加工など、収穫期が繁忙期となる業種では、繁忙期のみ報酬が高くなることが想定されますが、こうした場合に年間の報酬の月平均額で保険者算定をできるようにするとのことです。手続きは事業主が被保険者の同意書を添付した保険者算定の申立書を日本年金機構及び健康保険組合に提出し、要件を確認します。

海外居住親族の扶養認定の手続きが変更となりました

海外居住親族について「健康保険被扶養者(異動)届」を提出する際には次の添付書類が必要となります。
(添付書類が外国語の場合は翻訳者の署名がされた日本語の翻訳文が必要)

  1. 現況申立書     被保険者との続柄、収入状況及び仕送り状況など記載
  2. 身分関係の確認   被保険者との続柄が確認できる公的書類
  3. 生計維持関係の確認 被保険者と被扶養者が別居の場合と、被保険者と被扶養者が海外で同居の場合は要件が異なります。

詳しくは日本年金機構のホームページをご覧ください。

<参考リンク>日本年金機構