社労士

コラム

働き方改革法案の動向について①

2018 年5 月2 日

働き方改革法案の動向

 今国会で議論されている「働き方改革法案」の趣旨は、正規雇用と非正規雇用との処遇格差の是正を図るもので、労働契約法第20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)・パート労働法第8条(短時間労働者の待遇の原則)・労働者派遣法第30条の3(均衡を考慮した待遇の確保)を改正整備するものです。

 現行法でも主に有期契約雇用労働者・パート労働者と正規雇用労働者の処遇の格差の是正については、「不合理な労働条件」の禁止が明記されていますが、法文上の明記されている不合理とする判断基準が抽象的で分かりづらく裁判で争われるようになっていることから、法律上明確にしていくことが改正の重要なポイントです。

不合理と判断する考慮要素
現行法 改正案
  • 職務内容(業務の内容及びそれに伴う責任の程度)
  • 職務内容及び配置の変更の範囲
同左
  • その他の事情
その他の事情に、「職務の成果」「能力」「経験」「労使交渉の経緯」等を明示し、判断基準をより具体的にする。

 また、格差是正を推進するために既に平成28年末に「同一労働同一賃金ガイドライン案」が厚労省より発表されており、不合理性は基本的に個々の待遇の性質・目的に対応する考慮要素で判断されるべきとしています(例:諸手当・賞与)。改正案は、このガイドライン案に法的根拠を与える狙いもあります。そして、同一労働同一賃金を実現するには、雇用形態に関わらず職務・能力等の評価基準を明確にして運用することが望ましいとしています。

 こうした法改正の動向に、一部の労働法学者・労働経済学者からは職務給の賃金体系が確立していない日本において「法整備」で同一労働同一賃金制度が機能するか疑問の声が上がっています。

 そもそも正社員は、職務・勤務地無限定の長期雇用を前提(メンバーシップ制)で処遇モデルを運用(=内部労働市場型)し、非正規雇用は労働力の調整弁としての役割(=外部労働市場型)として活用する処遇(ジョブシップ制)しています。もともとこのように処遇制度が異なっているので、簡単に同一労働同一賃金を実現するのは難しく、法的な整備のみならず、労働者側の関与を図りながら労使による格差是正の取組みが必要ということも指摘されています。

 また、こうした動向に大きな影響を与えそうな最高裁の判決(正規・非正規雇用の処遇の格差を巡って争われている「長澤運輸事件」「ハマキョウレックス事件」)が、早ければ6月に出される見込みです。裁判結果は、法整備はもちろん、これからの人事制度に大きな影響を持つものとして注目されます。

働き方改革の実現に向けた平成30年度の取組

政府は、同一労働同一賃金ガイドライン案に基づく処遇改善(賃金制度や就業規則の見直し等)を支援するため、各都道府県に「非正規雇用労働者処遇改善支援センター」を設置し、社会保険労務士等の専門家による改善計画の提案等のコンサルティング業務を無料で行っておりましたが、平成30年度はさらに、働き方改革の実現に向けて、中小企業や小規模事業者が抱えるさまざまな課題に対応するため、ワンストップ相談窓口として、「働き方改革推進支援センター」を、順次、全国に開設していくとしています。

また、4月1日からは全国の労働基準監督署に、働く方々の労働条件の確保・改善を目的とした「労働時間改善指導・援助チーム」が編成されました。

今後、より一層の長時間労働を是正する動きが強まると予想されます。

開設・設置 主な取り組み
働き方改革推進支援センター」を全国に開設 就業規則の作成方法や賃金規定の見直し、労働関係助成金の活用などを含めたアドバイスを無料で実施
労働時間改善指導・援助チーム」を労働基準監督署に設置
  1. 主に中小企業の事業主の方に対し、法令に関する知識や労務管理体制についての相談への対応や支援
  2. 長時間労働を是正するための監督指導

過労自殺に対する行政対応及び裁判例

裁量労働制の乱用による(長時間労働)過労自殺-野村不動産社員

 裁量労働制を不当に適用し、労働基準監督署から是正勧告を受けていた野村不動産で、50代の男性社員が、不当な裁量労働制の適用による長時間労働が原因で自殺しました。勤務記録などを労基署が調べたところ、自殺前の1ヶ月の残業時間が180時間を超え、長時間労働による過労が原因と判断し労災認定されました。

 裁量労働制は労働者の裁量で勤務時間などが柔軟に決められ、1日8時間の上限が適用されません。デザイナーや編集者など専門性が高く時間管理が難しい業務が対象となりますが、野村不動産は営業活動を担当する社員に不当に適用していました。

 加藤勝信厚生労働相は10日の閣議後会見でも、裁量労働制を乱用したことによる過労死があったことを公に認めました。

長時間労働による(うつ病発症)過労自殺-調理師

 調理師の男性=当時(34)=が自殺したのは長時間労働でうつ病を発症したからだとして、母親が勤務先の飲食店運営会社(大阪市中央区)などに約8,000万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が3月1日、大阪地裁であり、北川清裁判長は、長時間労働との因果関係を認め、会社側に計約6,900万円の支払いを命じました。判決によると、男性は調理師として働いていた2008年9月ごろにうつ病を発症し、12月に休職。09年4月に自殺しました。

 北川裁判長は、男性を診察した医師の記録に「3カ月休みなく働いた」との記載があることなどから、08年7月末まで82日間連続勤務したと認定し、心理的負荷は強かったと指摘。月100時間以上の残業が3カ月連続するという国の労災認定基準に当てはまるとして、会社が安全配慮義務に違反したと判断したものです。

「時間外労働等改善助成金」が支給されます

 2019年度から残業時間の上限規制を導入するのを見据え、残業時間の削減や休日を増加させた中小企業に対して以下助成されます。

時間外労働等改善助成金 【労働局】
I 時間外労働上限設定コース
時間外労働の上限設定を行うことを目的として、外部専門家によるコンサルティング、労務管理用機器等の導入等を実施し、改善の成果を上げた事業主に対して、その経費の一部を助成
  1. 助成率
    3/4(事業規模30名以下かつ労働能率の増進に資する設備・機器等の経費が30万円を超える場合は4/5を助成)
  2. 上限額
    対象となる事業主が平成30年度(又は平成31年度)に有効な36協定において、時間外労働の上限を月45時間以下、年間360時間以下に設定した場合は、上限額150万円など
II 勤務間インターバル導入コース
勤務間インターバル制度を導入することを目的として、外部専門家によるコンサルティング、労務管理用機器等の導入等を実施し、改善の成果を上げた事業主に対して、その経費の一部を助成
  1. 助成率
    3/4(事業規模30名以下かつ労働能率の増進に資する設備・機器等の経費が30万円を超える場合は4/5を助成)
  2. 上限額
    インターバル時間数等に応じて、
    1. 9時間以上11時間未満40万円
    2. 11時間以上50万円
    など
III 職場意識改善コース
所定労働時間の削減、年次有給休暇取得促進に取り組むこと等を目的として、外部専門家によるコンサルティング、労務管理用機器等の導入等を実施し、改善の成果を上げた事業主に対して、その経費の一部を助成
  1. 助成率
    3/4(事業規模30名以下かつ労働能率の増進に資する設備・機器等の経費が30万円を超える場合は4/5を助成)
  2. 上限額
    【年次有給休暇の取得促進、所定外労働時間の削減を取組む場合】
    1. 労働者の年次有給休暇の年間平均取得日数(年次取得日数)を4日以上増加
    2. 労働者の月間平均所定外労働時間数(所定外労働時間数)を5時間以上削減100万円 ※年次有給休暇の平均取得日数を12日以上増加させた場合は上限額50万円を加算する。
    【特例措置対象事業主が週所定労働時間を40時間以下とする場合】50万円
IV 団体推進コース
3社以上で組織する中小企業の事業主団体において、傘下企業の労働時間短縮や賃金引上げに向けた生産性向上に資する取組に対して、その経費を助成
  1. 助成率
    定額
  2. 上限額
    500万円
    都道府県又はブロック単位で構成する中小企業の事業主団体(傘下企業数が10社以上)の場合は上限額1,000万円
V テレワークコース 【テレワーク相談センター】
在宅またはサテライトオフィスにおいて就業するテレワークに取り組む中小企業事業主に対してその経費を助成 ※成果目標については別途要件があります。
  1. 助成率
    成果目標をすべて達成した場合 3/4
    成果目標を達成しなかった場合 1/2
  2. 上限額
    1. 事業の対象労働者1人あたりの上限額
      成果目標をすべて達成した場合 20万円
      成果目標を達成しなかった場合 10万円
    2. 1企業あたりの上限額
      成果目標をすべて達成した場合 150万円
      成果目標を達成しなかった場合 100万円

「65歳超雇用促進助成金」の支給要件が変更

 65歳超雇用推進助成金は、65歳以上への定年引上げや高年齢者の雇用環境の整備、高年齢の有期契約労働者の無期雇用への転換を行う事業主に対しての助成金です。

 平成30年4月1日から、助成額や支給要件の一部が変更される予定となっております。

65歳超継続雇用促進コース
助成額の変更 60歳以上の被保険者数(1~2人)➡助成額(10万~20万)
60歳以上の被保険者数(10人以上)➡助成額(30万~160万)
支給要件の変更
(要件追加)
高年齢者雇用推進員の選任及び次の(a)から(g)までの高年齢者雇用管理に関する措置を1つ以上実施している事業主であること。
  1. 職業能力の開発及び向上のための教育訓練の実施等
  2. 作業施設・方法の改善
  3. 健康管理、安全衛生の配慮
  4. 職域の拡大
  5. 知識、経験等を活用できる配置、処遇の改善
  6. 賃金体系の見直し
  7. 勤務時間制度の弾力化
高年齢者雇用環境整備支援コース
支給要件の変更
  1. 「雇用環境整備計画書」を提出し認定を受けて措置を実施し、計画終了後6ヶ月の使用・運用状況を明らかにする書類を提出すること。
  2. 雇用環境整備計画終了日の翌日から6ヶ月以上継続雇用され、かつ支給申請日の前日において1年以上継続雇用されている60歳以上の雇用保険被保険者がいること。
高年齢者無期雇用転換コース
支給要件の変更
(要件追加)
無期雇用転換日において64歳以上の労働者は当コースの支給対象外となる。

労災の介護(補償)給付の最高限度額・最低補償額の改定~H30.4.1施行~

最高限度額 最低補償額
常時介護を要する者 (新)105,290 ← (旧)105,130 (新)57,190 ← (旧)57,110
随時介護を要する者 (新)52,650 ← (旧)52,570 (新)28,600 ← (旧)28,560
介護(補償)給付とは・・・

 労働者災害補償保険法では、業務上の事由又は通勤による負傷等により、一定の障害を負って介護を要する状態となった労働者に対して、介護に要した費用を介護(補償)給付として支給しています。

雇用保険手続の際、マイナンバーの記載が必須

 平成28年1月より始まった雇用保険のマイナンバー記載について、今まで記載がなくても手続きが可能でしたが、平成30年5月以降厳しくなり、記載がない場合、返戻される可能性がございますので、ご注意ください。

マイナンバーの記載が必要な届出
  1. 雇用保険被保険者資格取得届
  2. 雇用保険被保険者資格喪失届
  3. 高年齢雇用継続給付支給申請(初回のみ)
  4. 育児休業給付支給申請(初回のみ)
  5. 介護休業給付支給申請