MURC

コラム

働き手のキャリアデザインを
効果的に進める3つのポイント

2024 年4 月9 日

福田 潤也(ふくだ じゅんや)

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社

コンサルティング事業本部組織人事ビジネスユニット

HR第4部 コンサルタント福田 潤也

新卒で精神科クリニックに入職し、うつ病や依存症の方々のケアに従事。
その後EAP機関にて組織の健康維持増進に取り組む他、国家検定キャリアコンサルタント養成講座の講師を担当。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社に入社後は主に組織人事領域のプロジェクトに参画。

 キャリアデザインとは、自身にとっての「ありたい姿」を目指し、強みを活かしながら組織内外で自分らしい働き方や職業人生を選択・形成していくことである。その中核はありたい姿を明確にするための「自己理解」であり、「何のために働くのか?」「働くことを通してどんな幸福を実現したいのか?」等との問いと向き合う中で自分なりの答えを見出していくことにある。ありたい姿が具体化することで、働き手とっては自律的・主体的に行動できるようになり、組織にとってはエンゲージメントの高まりと共に組織の目標達成への貢献につながれば、理想的な状態といえるだろう。
 一方で、キャリアデザインの概念はまだ十分に浸透しているとは言い難く、進め方を間違えると働き手の自律的・主体的な行動につながらないだけではなく取り組みへの不信感や抵抗感を生む懸念もある。本コラムではキャリアデザインを効果的に進めるために押さえておきたい3つのポイントを解説する。

担当者の足並みを揃える

 まず最も重要な点は、「キャリアデザインを推進する担当者が取り組みへの共通認識を持つこと」である。担当者間で認識にズレがあると、働き手に対するアプローチに差が生まれてしまい混乱を招きかねない。混乱の中で進む取り組みは、例え中身が素晴らしいものであっても、目的を見失う等取り組みが形骸化してしまい、多忙な働き手の負荷増大につながる恐れがある。
 そのため、はじめに推進担当者の間で「キャリアデザインの理解」「何のための取り組みか?」「どう進めるか?」などについての共通認識をもつことが大切だ。そのために、担当者間でディスカッションを重ねることの他、「担当者自身でキャリアデザイン(個別相談や研修など)を体験すること」が効果的である。キャリアデザイン支援をしていると、「担当者が、自身のキャリアを自律的・主体的にデザインしていない」というケースを見ることがある。担当者自身にとって腹に落ちない取り組みは、効果を引き出すことが難しいだろう。取り組みが「自分事」となるよう、体験と共に感じたことを踏まえてディスカッションを重ねることが真に効果を発揮するプログラムの設計につながるだろう。

働き手の理解を得る

 推進担当者間で足並みが揃った後は、働き手にキャリアデザインの意義や目的を繰り返し発信していくことが重要である。キャリアデザイン研修などを行う際、働き手の方から「この研修は退職勧奨に近いものなのでしょうか?」と質問を受けることがある。また、「自分のキャリアは組織に支援してもらうものではないのでは?」「この取り組みは転職者を増やすのでは?」「この忙しい時になぜ実施するの?」との疑問を抱えながらプログラムに参加する方も少なくない。懸念や不安がある状態では取り組みの効果は半減してしまうため、メールや掲示板での情報共有だけではなく、働き手側の意見を直接ヒアリングする機会を設けながら、疑問の解消と目的の浸透に注力し、働き手の理解を促進することが重要である。

継続的なキャリアデザイン支援を行う

 キャリアデザイン支援を実施したとしても、1回の支援で「自身の幸福実現の具体的イメージや自分らしい働き方」が明確に見えるようになるだろうか。キャリアデザインは生きる意味を問うほどの人生における重要課題ともいえるため、その答えにたどり着くことは容易ではない。また、自分のありたい姿への理解を深めていくことは、理想と現実のギャップや過去の体験の振り返りから、迷い、葛藤、苦しみなどの負担感を伴うことも多い。そのため、働き手から「難しかったです」「もやもやしました」とコメントがあったとしても「自己理解が進んでいるからこその感想である」と捉える視点を持っておくことが必要である。
 キャリアデザインは、自己理解と行動化を繰り返す中で体験と共に時間をかけて自分らしい生き方を形成していくことであるため、取り組み直後の働き手の「満足度や理解度」などに引っ張られすぎないよう、成果を焦らずタネまく感覚で取り組む姿勢が求められる。

【図表1】キャリアデザインの進み方

【図表1】キャリアデザインの進み方

(図はMURCにて作成)

まとめ

 キャリアデザインは、働き手の幸福と組織の活性化の両立を実現できる取り組みである。働き手の自分らしい生き方を支援する過程では、組織活性化に向けた課題も多く拾えるほか、従業員の定着率促進やイノベーション促進など、取り組みによる波及効果は大きいといえる。組織全体にキャリアデザインの意義や目的を浸透させ、働き手が納得感を持ってキャリアデザインに取り組めることが重要である。

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社

コンサルティング事業本部
組織人事ビジネスユニット

HR第4部 コンサルタント福田 潤也(ふくだ じゅんや)

  • 経歴

    新卒で精神科クリニックに入職し、うつ病や依存症の方々のケアに従事。
    その後EAP機関にて組織の健康維持増進に取り組む他、国家検定キャリアコンサルタント養成講座の講師を担当。
    三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社に入社後は主に組織人事領域のプロジェクトに参画。

  • プロジェクト実績

    キャリアデザイン支援
    女性活躍・ダイバーシティ&インクルージョン推進支援
    自律型人材育成支援

    メンタルヘルス支援
    階層別研修担当(新入社員、中堅社員、主任・係長クラスなど)

  • 専門領域

    産業保健領域全般、キャリアコンサルティング領域全般、組織人事領域全般。
    現在は、特に「キャリアデザイン支援」「自律型人材育成」「組織風土改革」に注力。
    保有資格:1級キャリアコンサルティング技能士、臨床心理士、精神保健福祉士