社労士

コラム

新型コロナウイルスに関する労働関係の課題

2020 年6 月2 日

雇用調整助成金について

 新型コロナウイルスにより、経済活動が著しく制約を受け、多くの企業は業績の悪化を免れなくなっています。政府は事業の継続と雇用維持のため様々な経済対策を行っています。しかしながら、休業を要請されている業界では事業規模を維持して存続することは厳しい状況となっています。
 現在事務所に一番多く質問を受けているのが、事業縮小や休業する事業所において従業員を解雇せず休業手当を支払って雇用維持する場合、事業主に国が雇用調整助成金を給付する制度についてです。
 上限額が8,330円と少ないことや、手続きが簡素化されたといえど一定の書類を揃える必要があること、また申請してから入金まで2ヵ月程度要する等使い勝手が悪いと多くの指摘があり、上限額の上積み、オンライン申請の導入、申請から給付まで1ヵ月程度にすること等検討が進められています。これらについて逐次皆様に情報提供を致します。この手続の内容について、細かいところでは2~3日に1度変更がなされているので細心の注意が必要です。ただし、いかに手続きが簡単になっても、勤怠の実態のもととなる出勤簿や休業手当の支払いが明確に示せる賃金台帳等の整備は、法律的に求められるものなので留意下さい。


労働契約の解除・見直しについて

 次に多いのが、重い課題となる労働契約に関するものです。事業を継続させるため、事業規模を縮小せざるを得ず、労働契約の解除(解雇)や労働条件の見直し(賃金の引下げ、フレックスタイム制の導入等働き方・労働時間等の見直し)等の相談です。
 既存従業員の解雇、またマスコミ等で取り上げられている内定取消も解雇といえます。直近のリーマン・ショック時にも予測しない急激な経済変動による経営悪化で、非正規雇用労働者の解雇等が社会的問題になりました。最近ではタクシー会社による乗務員の全員解雇問題が大きく取り上げられました。(組合との話し合いにより解雇は一旦撤回されました。)
 経営悪化の事情による解雇は内定取り消しも含め、単純に正当化されるものではありません。
 基本的には、整理解雇の4要件(人員削減の必要性、解雇回避努力、人選の合理性、手続の妥当性)を満たすことが求められます。経営悪化は人員削減の必要性は満たしますが、他の要件に対する努力を全くせず一方的に「解雇」をすすめ、裁判で争うと解雇権濫用として解雇が認められないこともあるので、慎重に進める必要があります。
 内定取消とは違い、内定者の就労開始日を後日に変更する場合も一方的に行うことはできません。その場合ずらした間の期間少なくとも休業手当を支払う必要があります。ただし、事前に事情を説明し、新たに契約の変更を「合意」すれば、この限りではありません。
 労働条件のとりわけ賃金の見直し等(引下げ)についても、一方的に実施することのないよう、慎重に進めていくことが必要です。大原則は「合意」に基づいて進めていく必要があります。困難な状況がいろいろあると思いますが、急いては事を仕損じることになります。


新型コロナウイルス感染症への対応拡充へ

〜厚労省「令和2年度地方労動行政運営方針」を策定〜

 厚生労働省は毎年度、「地方労働行政運営方針」を策定していますが、先日令和2年度版を策定し、公表しました。各都道府県労働局においては、この運営方針を踏まえつつ、各局内の管内事情に即した重点課題・対応方針などを盛り込んだ行政運営方針を策定し、計画的な行政運営を進めて行くこととされています。

令和2年度の運営方針として示されている事項は、次のとおりです。

  1. 新型コロナウイルス感染症拡大に対する対応
  2. 働き方改革による労働環境の整備、生産性向上の推進
    1. (1)働き方改革による労働環境の整備、生産性向上の推進等
    2. (2)雇用形態に関わらない公正な待遇の確保
    3. (3)総合的なハラスメント対策の推進
  3. 就職氷河期世代、女性、高齢者等の多様な人材の活躍促進人材投資の強化
    1. (1)就職氷河期世代支援プログラムに基づく施策の推進等
    2. (2)女性活躍の推進
 今回の新型コロナウイルス感染症の対応として急速に広がりつつあるテレワークのような働き方について、『新たにテレワークを導入し、又は特別休暇の規定を整備した中小企業事業主を支援するため、新設した時間外労働等改善助成金(テレワークコース及び職場意識改善コース)の特例コースについて、引き続き利用促進に努める』としています。また東京都は事業継続緊急対策(テレワーク)助成金を実施しています(申請受付締切:6月1日)。新型コロナウイルス対策だけではなく、社員の多様な働き方を支援するためにも活用されているテレワークの導入をこの機会に検討されてみてはいかがでしょうか。

 さらに、働き方改革の対策として、時間外労働の上限規制の導入、年次有給休暇取得の一部義務化等が既に開始されていますが、今年度の地方労働行政運営方針でもその点に重点が置かれています。特に長時間労働の是正については「働き方改革推進支援センター」の活用による企業へのコンサルタントを行うとともに、労働基準監督署による監督指導も強化されることになります。長時間労働の改善は企業側の対策だけではなく、労働者側の意識の変革も必要となり時間のかかる問題です。今一度現在の社員の労働時間の把握をして、早めの対策が必要となります。

 その他、働き方改革による労働環境の整備、生産性向上の推進として、長時間労働の是正について
  • 勤務間インターバル制度の導入促進
  • 年次有給休暇の取得促進等による休み方改革の推進
といった取り組みが定められ、今後一層の長時間労働の是正について企業に対する対応が求められることになると思われます。

 新型コロナウイルスをきっかけに、生活様式の見直しが叫ばれていますが、労働環境についても今後新しい形が見直される時期となってきているようです。


新型コロナウィルス感染症に伴う緊急支援策

給付対象者 給付額 申請期間
働き方改革推進支援助成金(テレワークコース) 時間外労働の制限その他の労働時間等の設定の改善及び仕事と生活の調和の推進のため、在宅又はサテライトオフィスにおいて就業するテレワークに取り組む中小企業事業主 支給対象となる取組の実施に要した経費の一部を、目標達成状況に応じて支給
1企業当たりの上限額300万円
令和2年
12月1日
テレワーク相談センター 0120-91-6479 (平日9:00~17:00)
小学校休業等対応助成金 新型コロナウイルス感染症に係る小学校等の臨時休業等により仕事を休まざるをえなくなった労働者(正規・非正規問わず)に対して有給休暇を与えた事業主 有給休暇を取得した対象労働者に支払った賃金相当額
上限8,330円
令和2年
3月18日~6月30日
学校等休業助成金・支援金等相談コールセンター 0120-60-3999 (9:00~21:00土日・祝日含む)
雇用環境整備促進奨励金 新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた特例措置による「雇用調整助成金」や「新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金」を利用し、非常時における勤務体制づくりなど職場環境整備に取り組む中小企業(東京労働局管内) 1事業所につき、
1回限り、10万円
令和2年
3月27日~11月30日
東京都産業労働局雇用就業部労働環境課 雇用環境整備促進窓口 03-6205-6703 (8:15~17:15)
持続化給付金 新型コロナウィルス感染症の影響によりひと月の売上が前年同月比で50%以上減少している中小事業者 200万円(中小法人等) 令和2年
5月1日~令和3年1月15日
持続化給付金事業コールセンター 0120ー115ー570 (8:30~19:00土日・祝日含む)
東京都感染拡大防止協力金 新型コロナウイルス感染拡大防止のため、都の要請や協力依頼に応じて、施設の使用停止や営業時間の短縮に全面的に協力している中小事業者 50万円
(2事業所以上で休業等に取り組む事業者は100万円
令和2年
4月22日~6月15日
東京都緊急事態措置等・感染拡大防止協力金相談センター 03-5388-0567 (9:00~19:00土日・祝日含む)



新型コロナウイルス感染症に関する母性健康管理措置について

 新型コロナウイルス感染症の感染が拡大する中、働く妊婦の方は、職場の作業内容等によって、新型コロナウイルス感染症への感染について不安やストレスを抱える場合があります。こうした方の母性健康管理を適切に図ることができるよう、男女雇用機会均等法に基づく母性健康管理上の措置として、新型コロナウイルス感染症に関する措置を新たに規定しました。
【内容】
 妊娠中の女性労働者が、保健指導・健康診査を受けた結果、その作業等における新型コロナウイルス感染症に感染するおそれに関する心理的なストレスが母体又は胎児の健康保持に影響があるとして、医師又は助産師から指導を受け、それを事業主に申し出た場合には、事業主は、この指導に基づき、作業の制限、出勤の制限(在宅勤務又は休業をいう)等の必要な措置を講じるものとする。
【適用期間】
令和2年5月7日(木)~令和3年1月31日(日)まで
 なお、主治医等から指導があった場合、指導事項を的確に伝えるため主治医等に母健連絡カード(母性健康管理指導事項連絡カード)を書いてもらい、ご本人様より事業主に提出していただくようにお願い致します。


労働保険の年度更新期間 2020年8月31日まで延長

 労働保険の年度更新は、毎年6月1日~7月10日までですが、新型コロナウイルスの影響を踏まえ、今年度は6月1日~8月31日に延長することとなりました。
新型コロナ税特法による納付猶予の手続きも年度更新手続きと併せて行うことができます。



新型コロナウイルス感染症に係る雇用調整助成金の更なる拡充について

<拡充1>休業手当の支払率60%超の部分の助成率を特例的に10/10とする

  • 中小企業が解雇等を行わず雇用を維持し、60%を超えて休業手当を支給する場合、60%を超える部分に係る助成率を特例的に10/10とする。
<拡充2>1のうち一定要件を満たす場合、休業手当全体の助成率を特例的に10/10とする
  • 特別措置法に基づき都道府県により業務の休業・短縮等を求められた事業主が、これに協力し行っていること
  • 100%の休業手当を支払っている、もしくは上限(8,330円)以上の休業手当を支払っていること(支給率は60%以上である場合に限る)
※教育訓練を行わせた場合も同様
→但し・・・対象労働者1人1日当たり8,330円が上限
※ 雇調金に関しては、日々取扱いが変わっていますので、最新の情報を注視されることをお勧めします。



パワハラ防止対策が義務になります!

 パワーハラスメント(以下パワハラ)対策を明記した改正労働施策総合推進法が来る6月1日に施行されます(中小企業は令和4年4月1日から)。これによってパワハラに対する事業主の雇用管理上の措置が義務となり、適正な対応が求められるようになります。施行に先立ち1月には具体的な措置義務の内容を定めた指針が公表されました。
 具体的に事業主が講ずべき措置の内容としては、以下の通りです。

  • ①事業の方針等の明確化及びその周知・啓発
  • ②相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
  • ③職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
  • ④上記1~3までの措置と合わせて講ずべき措置
    (プライバシーを保護するための必要な措置を講ずること、相談をしたこと等を理由として解雇その他不利益な取り扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること)
また、義務ではなく望ましい取組の内容として以下の措置が挙げられています。
  • 相談窓口をあらかじめ設置し、受け付けることのできる内容として、パワハラのみならずセクシュアルハラスメント(以下セクハラ)等も明示し、パワハラの相談窓口がセクハラ等の相談窓口を兼ねること
  • パワハラの原因や背景となる要因を解消するための、コミュニケーションの活性化や円滑化のために研修等の必要な取組を行うこと
  • 適正な業務目標の設定等の職場環境の改善に向けた取組(衛生委員会の活用等)を行うこと
★詳細についてはこちらをご参照ください。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html