社労士

コラム

パワーハラスメントに関する報道について

2020 年2 月4 日

パワーハラスメントに関する報道について

 職場でのパワーハラスメントが原因で従業員が自殺するといった痛ましいニュースが昨今、多く報道されています。報道内容を参考として、パワーハラスメントに対応するポイントを整理してみましょう。
●事例
【 例1 大手自動車メーカー 】

  • 2015年4月入社。約1年間の研修を経て2016年3月から車両設計を担う部署に配属。
  • 配属後、直属の上司に「ばか」「やる気ないの」「死んだ方がいい」などと暴言を浴びせられるようになり、同7月に休職。病院で適応障害と診断された。
  • 同10月、通院をやめて別のグループに復職。ただし、席は前述の上司の斜め向かいだった。
  • 2017年10月、男性は社員寮で自殺。2019年3月、労災申請し、同9月に労災認定。
【 例2 大手電機メーカー 】
  • 2019年4月入社し、同7月からシステム開発などを担う部署に配属され教育主任の指導を受ける。
  • 配属後、教育主任に「自殺しろ」「殺すからな」などと日常的に暴言を浴びせられるようになり社員寮で自殺。
  • 同11月、自殺教唆容疑で教育主任を書類送検。現在、労災申請中。会社への損害賠償請求訴訟も準備中。

●ポイント
 必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返すことや人格を否定するような言動を行うことは、「精神的な攻撃」としてパワハラに該当します。また、他の労働者の面前で大声で威圧的に叱責を繰り返すこともパワハラと認定される可能性が高いです。パワハラをする側にとっては必要な範囲内での対応であっても、パワハラを受ける側にとっては度を越えた対応であると見なされることは多くあります。相談窓口を適切に設置し周知することや、研修等を通じてパワハラを許さない職場風土を根付かせていくことが大切です。
 また、例1では、復職後にパワハラ行為者と被害者を近くの席に配置させていますが、これは会社として復職にあたって適切な配慮がなされていないと見なされる恐れがあります。復職時の対応についても注意が必要です。


未払い賃金に関する報道について

 大手小売業のS社が、残業手当の一部について2012年3月以降、約3万人、少なくとも計約4憶9000万を支払っていなかったことが、労働基準監督署の指摘で発覚したとの報道がありました。S社の社長は報酬の10%を3ヶ月返上し、残業手当の未払いについても過去にさかのぼって確認し、全額を払う方針です。過去にも残業手当の計算方法が間違っていると労働基準監督署から指摘されていましたが、修正した際に、設定する数値を誤っていたようです。
 厚生労働省では、引き続き賃金不払残業の解消に向け、監督指導を徹底して行っていますのでご注意ください。

100万円以上の割増賃金の遡及支払状況


女性活躍推進法の改正に伴う対応が必要となります

 女性活躍推進法等の一部が改正され、2019年6月5日の交付後、3年以内に施行予定となります。2020年6月1日には、常時雇用者が301人以上の事業主の女性活躍に関する情報公表の変更(職業生活に関する機会の提供に関する実績と、職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備に関する実績それぞれから1項目以上の公表)や、特に優良な事業主に対する特例認定制度(プラチナえるぼし(仮称))の創設が行われます。また、2022年4月1日には、常時雇用する労働者が101人以上300人以下の事業主について、女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画の策定、届出が必要となります(現行は301人以上)。


特定技能在留外国人数が公表されました

 法務省は、「特定技能1号」で日本に在留する外国人が、2019年9月末時点で、219人だったと発表しました。政府は、初年度受入れ見込みを約4万人と想定していましたが、大幅に想定を下回る結果となりました。
 2019年4月に創設された「特定技能」の在留資格は、特に人手不足が顕著である14業種での業務に従事する外国人のうち、一定の専門性・技能を有する即戦力となる外国人の就労を認めるものです。
 政府は、今後5年間の特定技能による外国人受け入れを最大34万5150人と見込んでおり、受け入れが思うように進んでいない状況が露呈する結果となりました。

2020年3月~ 外国人雇用状況の届出に在留カード番号が必要となります

2020年3月1日以降に雇入れまたは離職をした外国人について、ハローワークへの外国人雇用状況の届出において、在留カード番号(在留カード右上の12桁の番号)の記載が必要となります。外国人雇用状況届出における届出方法は、雇用保険被保険者の場合とそれ以外の場合で、届出方法が異なりますのでご注意ください。
 なお、2020年2月29日以前に雇い入れた外国人が離職した場合については、2020年3月1日以降も経過措置として、在留カード番号の記載がなくても申請が可能となります。
 (参考)https://www.mhlw.go.jp/content/000592090.pdf(厚生労働省)

「高年齢者の雇用状況」集計結果が公表されました

 厚生労働省は、2019年11月22日、高年齢者を65歳まで雇用するための「高年齢者雇用確保措置」の実施状況などを集計した、「令和元年高年齢者の雇用状況(6月1日現在)」を公表しました。66歳、70歳以上も働ける制度のある企業が着実に増えてきていることがわかります。

~集計結果の主なポイント~
◆65歳までの高年齢者雇用確保措置のある企業の状況
  • 65歳までの雇用確保措置のある企業→99.8%
  • 65歳定年企業→17.2%[1.1ポイント増加]
◆66歳以上働ける企業の状況
  • 66歳以上働ける制度のある企業→30.8%[3.2ポイント増加
  • 70歳以上働ける制度のある企業→28.9%[3.1ポイント増加
  • 定年制の廃止企業→2.7%[0.1ポイント増加]
※集計対象
中小企業:144,571社 (うち31~50人規模:55,404社、51~300人規模:89,167社)
大企業 : 16,807社  (301人以上規模)



ダブルワークしている方 副業の労働時間や賃金も労災認定の対象に

 昨年12月23日、厚生労働省の労働政策審議会の労働条件分科会労災保険部会において、仕事を掛け持ちしている、いわゆるダブルワークしている方について、本業と副業の労働時間を合計して残業時間を計算し労災認定を行うよう見直すことで合意しました。これにより過労死などが労災認定されやすくなります。厚生労働省は、来年の通常国会に労災保険法の改正案を提出し、早ければ2020年度中にも施行される見通しです。
 今回の改正案では、労働時間が本業と副業で合算されるほか、労災の給付額を算出する際の基礎となる平均賃金も本業と副業で合算されるよう改めます。これにより、労災の給付額が増額されることになります。さらに、職場でのパワーハラスメントなどの心理的ストレスについても、本業と副業の両方で受けたストレスを総合的に考慮して労災かどうか判断されることになります。
 なお、事業主の立場からすると、副業先の労働時間や賃金、心理的ストレスを、どう把握して過労等を防ぐか等、労務管理上の課題点が生じることになります。この点については、厚生労働省で引き続き検討が進められており、今後の議論の行方を注視しておく必要があります。



賃金請求権の消滅時効期間が2年から3年に(2020年4月施行予定)

 2019年8月のレポートでも取り上げた賃金請求権の消滅時効期間についてですが、昨年12月27日、厚生労働省の労働政策審議会の労働条件分科会において、賃金請求権は当面の間3年とすることで合意しました。施行は、民法改正と同時の2020年4月1日となる見込みです。
 2020年4月の民法改正後、一般債権の消滅時効が5年となることから、賃金請求権原則も原則5年とするものの、直ちに長期間の消滅時効期間を定めることは労使の権利関係を不安定化させる恐れがあるとし、現行労基法第109条に規定する記録の保存期間にあわせて、当面は3年とすることで決着させました。なお、施行から5年経過後、見直しの検討を行うことも合意されています。
 また、賃金請求権以外の年次有給休暇請求権や災害補償補償請求権は、現行の2年を維持することで合意されています。



雇用保険・自己都合退職の給付制限の見直しを検討

 雇用保険制度の見直しを巡り、厚生労働省は2019年12月13日、「職業安定分科会雇用保険部会(第136回)」を開催し、自己都合退職者に対する基本手当の給付制限期間について見直す内容等が盛り込まれた報告書案を資料として公開しました。
 報告書によりますと特定受給資格者及び特定理由離職者以外の一般の受給資格者のうち、自己都合により離職した者に対しては、昭和59年から現在に至るまで、3箇月間の給付制限期間が設定されていますがこれについて、安易な離職を防止するという給付制限の趣旨に留意しつつ、転職を試みる労働者が安心して再就職活動を行うことができるよう支援する観点から、その給付制限期間を5年間のうち2回までに限り2箇月に短縮する措置を試行することとし、その効果等を施行後2年を目途として検証するべきであると纏められています。
 また、被保険者期間の算入に当たっても、日数だけでなく労働時間による基準も補完的に設定するよう見直すこととし、具体的には、従来の「賃金支払の基礎となった日数が11日以上である月」の条件が満たせない場合でも、「当該月における労働時間が80時間以上」であることを満たす場合には算入できるようにするべきであると纏められています。まだ検討段階ですが、政府は多様な働き方を推進しており、もし実現されたならば労働者にとっては転職しやすい環境整備となることが予想されます。