MURC

コラム

キャリア採用のミドル世代への展開に伴う人事諸制度整備の取り組み

2019 年 2 月4 日

コンサルティング事業本部組織人事ビジネスユニット組織人事戦略部 兼 外国人活躍推進室

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社

コンサルタント平山 央

 人手不足が社会的課題となっている昨今、様々な属性(性別・年齢・国籍・経験など)の社員を採用・活用する動きが拡がっている。そういった中で、これまで新卒採用中心だった企業もキャリア採用の割合を 拡大しているケースもみられる。本稿ではミドル世代に拡大しているキャリア採用の状況を今一度概観した上で、ミドル世代の定着に向けた人事諸制度整備の取り組みについて紹介する。
 なお、本稿でミドル世代と表現するのは、一般的な企業において役職者としてキャリア採用されるであろう30歳後半から50歳代前半くらいの層を想定している。

1. ミドル世代に拡がるキャリア採用の状況

 厚生労働省の調査によると、2006年から2015年の9年間で25~34歳の転職割合が減少し、35歳以降の転職割合が増加している状況となっている。また、総務省の調査では、年齢階層別の転職者数も2012年から2017年の5年間で45~54歳で特に増加傾向にあり、転職市場の重心がミドル世代にまで拡がっている状況が見て取れる。

図表1:転職者に占める年齢構成の変化
(出所):厚生労働省・平成18年及び平成27年「転職者実態調査」を元にMURC作成
図表2:年齢階級別・転職者数の変化
(出所):総務省・平成25年~平成29年「労働力調査」を元にMURC作成

 また、同厚生労働省調査では、ミドル世代が転職を決めた理由について、20~29歳と比較すると、「自分の技能・能力が活かせるから」「賃金が高いから」「会社に将来性があるから」といった項目に違いが現れている。
 あくまで推測ではあるが、ミドル世代にとっての転職は「居住地や家族の状況などプライベートライフを踏まえたうえでの適職探し」という側面があり、また、これまで培った経験の延長線上にあるキャリアを考えているのではないか、と言える。

図表3:年齢階層別 現在の勤め先を選んだ一番の理由
(出所):厚生労働省・平成27年「転職者実態調査」を元にMURC作成

 次に、企業側の視点でキャリア採用を見た場合、「必要な職種に応募してくる人が少ない」という採用活動そのものに対する問題意識のほか、「採用時の賃金水準や処遇の決め方」や「応募者の能力評価に関する客観的な基準がないこと」など 採用者を定着・活用させるための問題意識が挙げられている。この結果から、転職市場の活況とは裏腹に、企業の求める人材と転職者の間でミスマッチが発生しているといった状況が推察される。
 ミドル世代の転職者の関心及び企業の問題意識から考えられることとして、ミドル世代を確保しようとする企業は、転職者の技能・能力をより正当に評価することや生活水準の維持・向上につながる賃金水準を設定することを、より重視する必要があるとも言える。

図表4:転職者を採用する際の問題
(出所):厚生労働省・平成 27年「転職者実態調査」を元にMURC作成

2. ミドル世代の採用に苦戦する企業の傾向

 実際にコンサルティングの現場において、クライアントの皆さまから寄せられる意見には、「ミドル世代のキャリア採用をしたいが、条件に合う人がなかなかいない」「条件に合う場合でも、当社の同年齢者との比較からなかなか高い賃金をオファーすることが難しい」といった話を伺うことが多い。
 これらの企業に共通することとして、大きく2つの傾向がある。一つ目の傾向は、各ポジションにおける期待・要件、達成すべき目標水準などが具体的に定まっていないことである。

 新卒採用が多く、雇用の流動性が低い企業では、長年の役割分担の積み重ねにより、組織の業務が属人化していることがある。また、各期にそれぞれの部署に課せられる目標や個々人の役割が「あうんの呼吸」によって定められているため、目標による管理が浸透していない、あるいは形骸化していることがある。ミドル世代の転職者にとって、自身の役割や期待水準が不明確な状態というのは、適切な能力発揮・成果創出の妨げとなりかねない。
 二つ目の傾向として、年齢と給与の関連性が高い、いわゆる年功的な賃金制度となっていることが挙げられる。年功的な制度そのものは、長期勤続を奨励する意味などから有効な手段であることに異論はないが、今後ミドル世代の経験者採用をする場合には、必ずしも社内の同年齢者と同等の能力発揮・期待値が担保できない中で、適切な賃金を設定しにくいことがある。

 また、年功的な賃金制度においては、役割・成果に応じた上方・下方修正のしやすさがなくなってしまうため、採用後の本人の活躍度合いによる処遇の見直しが難しいことも課題となる。こうした課題に対しては、例えば本人の成果や役割に応じた賃金制度の導入を検討することや、キャリア採用後数年間の賃金設定のルールを明確化することが対策として考えられる。


3. 最後に

 昨今の人手不足を鑑みるに人材の確保は経営上の重要課題であり、特に即戦力のミドル世代を採用し定着させることは企業の競争力向上に重要な意味を持つ。一方で、キャリア採用に苦戦している企業は、期待要件が曖昧であったり、年功的な人事制度であるために、キャリア採用者の活躍を促す基盤が整っていない傾向がある。
 今後、ミドル世代の採用を強化したいと考える企業においては、採用活動そのものに対する取り組みはもちろんとして、採用した人材の定着を見据えた評価・報酬・育成のインフラ整備についても併せて実施することが重要となる。