社労士

コラム

働き方改革のカギは「生産性の向上」

2019 年4 月2 日

働き方改革のカギは「生産性の向上」

「生産性の向上」がカギ

 昨年成立した「働き方改革関連法」の主な柱は、長時間労働の抑制と正規・非正規間の処遇格差の是正(「同一労働・同一賃金」)です。人手不足の中、労働時間を短縮させたり、人件費を増額させ非正規社員の処遇を改善することは、企業経営、とりわけ中小企業にとってはとても厳しいことです。政府はこれらを法律で規制すると同時に、様々な助成金の給付等支援策を打ち出すとともに、「働き方改革」の実現の鍵は「生産性」の向上であると主張しています。労働時間の短縮は、一人一人の生産性を向上させないと実現するのは難しいと言えます。単に今までの業務を時間内に終わらせろと指示して実現するのであれば、今までの各自の仕事の仕方が問われることにもなります。また、やればできるはずだと具体的対応策を示すことなく指示するだけの「精神論」では決して実現できません。効率よく「働く」意識を徹底させることは当然ですが、少しでもムダを省いて業務効率を上げるための仕事全体のプロセスの見直しは必要です。

「IT技術」の活用

 昨今の生産性向上のための業務プロセスの見直しに関する様々な議論の中で、概ね共通しているのは「IT技術」の活用です。一人当たりのIT投資の差は、生産性の差として表れていることが実証的に示されています。現在業務効率を改善させるには、IT投資は避けて通れないと言えます。ただし、ITに投資するとしても、導入コスト・ランニングコストがかかることから、当面最も効率を改善する対象と、中長期的に見て改善が期待されるもの等の見極めも必要で、やみくもにIT投資をすればいいとは言えません。
 生産性向上のポイントは、働く者の意識改革、業務効率を上げる、業務プロセスの見直しの一つの有効な手段としてのIT技術の活用です

付加価値額の引き上げ

 「生産性の向上」には一人一人の「労働生産性」の向上は不可欠で、先に示した方法で、時間当たりの労働生産性を引き上げることは必要なことです。もう一つの有効な「生産性向上」の方法は、一人一人が生産する付加価値額を引き上げることです。先程の業務効率を上げる方法に対し、提供する「商品・サービス」に有効な付加価値をつけて「商品・サービス」を提供することで「生産性」を上げる方法です。付加価値をつけることで同じ「労働時間」でも単位時間当たりの「売上げ」を伸ばすことで収益改善をすることです。収益改善することは、非正規社員の処遇改善の実現に有効な手段と言えます。
従来「非正規社員」に対する教育訓練はあまり重要視されていませんでしたが、雇用労働者の4割が非正規労働者で占められている以上、非正規社員を教育訓練し、業務効率の向上、付加価値の向上に非正規社員を巻き込んでいくことが不可欠です。こうした「生産性向上」に取り組んで、労働時間短縮、処遇格差の是正を進めましょう。


メトロコマース高裁判決~契約社員の退職金格差は違法~(東京高裁H31.2.20)

 東京メトロの売店で働く契約社員ら4人が正社員との待遇格差を不当として訴えた件で、東京高裁は、退職金については「長年の勤務に対する功労報償の性格を有する退職金すら一切支給しないことは不合理」として、正社員と同様に算定した額の少なくとも25%は支払われるべきだとしました。また、住宅手当、勤続褒賞、早出残業手当の割増率についても違法な格差であると判断しました。1審の東京地裁判決では、早出残業手当の格差のみを不合理としていました。非正規社員に対して「退職金」を支給しないことは「不合理」との判断は初めてで、今後最高裁での結果が注目されます。


年5日の年次有給休暇の取得

 2019年4月から全ての企業において年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者(管理監督者を含む)に対して、年5日の年次有給休暇を取得させることが義務付けられます。

  1. 所定労働時間が週30時間未満で、かつ、所定労働日数が週4日以下または年間216日以下の労働者は、年次有給休暇が比例付与されますが、この場合でも年10日以上付与される労働者は同様に対象となります
  2. 使用者は付与した日(基準日)から1年以内に5日について、取得時季を指定して年次有給休暇を取得させなければなりません。
  3. 使用者は時季指定に当たっては、労働者の意見を聴取しなければなりません。また、できる限り労働者の希望に沿った取得時季になるよう、聴取した意見を尊重するよう努めなければなりません。
  4. 既に5日以上の年次有給休暇を請求・取得している労働者に対しては、使用者による時季指定をする必要はなく、また、することもできません。
  5. 使用者は労働者ごとに年次有給休暇管理簿を作成し、3年間保存しなければなりません。
  6. 使用者による年次有給休暇の時季指定を実施する場合は、時季指定の対象となる労働者の範囲及び時季指定の方法等について就業規則に記載しなければなりません
  7. 上記②および⑥に違反した場合は罰則が科されることがあります。

時間外労働の上限規制

 大企業は2019年4月、中小企業は1年猶予され2020年4月施行予定で時間外労働の上限が設定されます。今回の法改正では、これまでの限度基準告示による時間外労働の上限だけでなく、休日労働も含んだ1か月当たり及び複数月の平均時間数にも上限が設けられました。このため、企業においては、これまでとは異なる方法での労働時間管理が必要となります。


労働時間の管理において必要なポイント

  1. 「1日」「1か月」「1年」のそれぞれの時間外労働が、36協定で定めた時間を超えないこと
  2. 休日労働の回数・時間が、36協定で定めた回数・時間を超えないこと
  3. 特別条項の回数(=時間外労働が限度時間を超える回数)が、36協定で定めた回数を超えないこと
  4. 月の時間外労働と休日労働の合計が、毎月100時間以上にならないこと
  5. 月の時間外労働と休日労働の合計について、どの2~6か月の平均をとっても、1月当たり80時間を超えないこと

特に④、⑤のポイントは、今回の改正で初めて導入される規制となり、時間外労働と休日労働を合計するという新たな管理が必要となりますのでご注意下さい。

その他の注意点

●法違反の有無は「所定外労働時間」でなく、「法定外労働時間」の超過時間で判断されます。
●中小企業に対しては上限規制の適用は1年間猶予されます。
※中小企業の範囲:日本標準産業分類の業種の種類ごとに「資本金の額または出資の総額」と「常時使用する労働者の数」のいずれかの基準により、事業場単位ではなく、企業単位で判断されます。
●施行に当たっては経過措置が設けられており、2019年4月1日(中小企業は2020年4月1日)以後の期間のみを定めた36協定に対して上限規制が適用されます。
※2019年3月31日を含む期間について定めた36協定については、その協定の初日から1年間は引き続き有効となり、上限規制は適用されません。

改正内容の詳細や新様式の36協定記載例は厚生労働省のホームページをご参照下さい。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000148322_00001.html


「外国人材の受入拡大」2019年4月1日施行の法改正に基づいて

改正入管法施行に伴い、外国人の単純労働者受入を認める新たな在留資格「特定技能」が創設されます。

  • 特定技能外国人(特定技能1号或いは特定技能2号の在留資格を持つ外国人の総称)
    ・1号特定技能外国人(「特定技能1号」で在留する外国人)
    特定産業分野に属する相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格。在留期間は通算して最長5年であり、同一資格での延長は認められません。
    雇用する際は「1号特定技能外国人支援計画」を作成・実施しなければなりません(詳細は下記URL参照)。
    ・2号特定技能外国人(「特定技能2号」で在留する外国人)
    特定産業分野のうち「建設業」及び「造船・舶用工業」に属する熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格。在留期間の制限はなく、家族帯同も認められます。
  • 特定産業分野(下記1から14の分野)
    「人材確保が困難な状況にあるため外国人により不足する人材の確保を図るべき産業上の分野」を指します。
    1.介護業、2.ビルクリーニング業、3.素形材産業、4.産業機械製造業、5.電気・電子情報関連産業、6.建設業、
    7.造船・舶用工業、8.自動車整備業、9.航空業、10.宿泊業、11.農業、12.漁業、13.飲食料品製造業、14.外食業
  • 特定技能外国人の雇用形態
    特定技能外国人の所属する機関は一つに限られ、原則としてフルタイム、直接雇用(農業、漁業で一部限定された例外があります。)となります。報酬額は日本人労働者と同等以上であり各種社会保険の適用対象となります。
《参考URL》

新たな外国人材受入れ(在留資格「特定技能」の創設等) – 法務省
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri01_00127.html

新たな外国人材受入れ制度について - 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/12602000/000467984.pdf


職業紹介における求人の不受理

 ハローワークや職業紹介事業者等において、一定の労働関係法令違反の求人者等による求人を受理しないことが可能になります。(2020年3月30日より施行。)

《不受理の対象とする違反の程度》 《不受理の対象とする期間》
1)労働基準法および最低賃金法のうち、賃金や労働時間等に関する規定
① 過去1年間に2回以上同一条項の違反について是正指導を受けている場合 ❶ 法違反が是正されるまでの期間に加え、その後更に違反を重ねないことを確認する期間として、是正後6か月が経過するまで
② 対象条項違反により送検され、公表された場合 ❷ 法違反に関し、送検され、公表されたケースについては、送検後1年間は不受理とする。ただし、その時点で是正後6か月を経過していない時は、是正後6か月時点まで
③ その他、労働者の職場への定着に重大な影響を及ぼすおそれがある場合(社会的影響が大きいケースとして公表された場合等) ❸ 法違反が是正されるまでの期間に加え、その後更に違反を重ねないことを確認する期間として、是正後6か月が経過するまで
2)職業安定法、男女雇用機会均等法及び育児介護休業法に関する規定
① 法違反の是正を求める勧告に従わず、公表された場合 ❶ 法違反が是正されるまでの期間に加え、その後更に違反を重ねないことを確認する期間として、是正後6か月が経過するまで

日・フィンランド社会保障協定(仮称)交渉における実質合意

 日・フィンランド両国政府は、日・フィンランド社会保障協定の政府間交渉を実施し、今般実質合意に至りました。今後、両国は本協定の署名に向けた協定案文の確定等の必要な作業及び調整を行います。現在、日・フィンランド両国からそれぞれ相手国に派遣される企業駐在員等について、日・フィンランド双方の社会保障制度への加入が義務付けられる等の課題が生じていますが、本協定の締結により、これらの課題が解決され、両国間の人的交流及び経済交流がさらに促進されることが期待されます。


雇用保険・労災保険の再計算後の額による支給の実施について

 毎月勤労統計調査の一部抽出調査に係る雇用保険・労災保険等の追加支給について再計算を実施し、以下の通り追加給付が開始されることが予定されています。(過去に受給したことが有り、現在は受給が終わっているものも対象)

  • 雇用保険関係
    ・雇用保険給付及び就職促進手当を現に受給中の方は、3月中に、再計算した金額で支給が開始される予定です。
  • 労災保険関係
    ・今後新たに支給が行われる分について、支給額の計算結果、支給額が多くなる方には、労災年金については、4・5月分から(6月支払)、休業(補償)給付については4月分の休業から支給が開始される予定です。
  • 事業主向け助成金
    ・雇用調整助成金について、現に支給期間中の事業主については3月中に、その日以降の支給決定については再計算した金額で支給が開始される予定です。

全国健康保険協会 健康保険 保険料率の改定について

 平成31年度の全国健康保険協会の健康保険料率・介護保険料率は、本年3月分(4月納付分)より一部支部を除き改定されます。

都道府県支部 平成30年度 平成31年度
全体 労使折半
埼玉県 9.85% 9.79% 4.895%
千葉県 9.89% 9.81% 4.905%
神奈川県 9.93% 9.91% 4.955%

◎東京都は保険料率変更なし

(旧)介護保険料率(全国一律) (新)介護保険料率(全国一律)
1.57%(0.785%) 1.73%(0.865%)

※組合管掌健康保険の料率は組合ごとに異なります。