社労士

コラム

働き方改革元年のスタート

2019 年2 月4 日

働き方改革元年のスタート

1. 本年の課題

 さて本年は昨年6月に成立した「働き方改革関連法」の本格的運用が4月1日より開始されます。年休10日以上付与されるものに年5日の時季指定することの義務付け、フレックスタイム制の改正、 高度プロフェッショナル制度の導入、大企業では、「時間外労働の絶対的規制」(中小企業は2020年4月より)および「勤務間インターバル制度」の努力義務化が適用され、更に翌年4月から「同一労働同一賃金」が実施(中小企業は2021年4月1日より)されます。法施行の実施は企業運営に影響を及ぼすのは必至と考えます。 これらの法改正を受けて労働時間関係では、就業規則や36協定の見直しをすることが求められます。更に人手不足に対し入国管理法改正に伴い、介護・宿泊・外食・建設・農業等14分野の「外国人」就労の適用拡大が 見込まれています。介護、育児を理由とする離職防止の制度構築・運用、テレワークの導入等職場での「多様な働き方」を推進することも引き続き求められます。


2. 鍵は生産性の向上

 中でも柱は長時間労働の抑制と非正規雇用労働者の処遇の改善です。現状のままこれらを改善しようとすると企業経営に大きな負担をかけることになるため、政府は法改正の実施にあたり、生産性の向上を強く訴えています。 生産性の向上は、効率的な働き方が鍵となります。「働き方改革」は、まさに「効率的な働き方」が求められているのです。マクロ的には、我が国は米国、中国に次ぐ第三の経済大国ですが、「生産性」(1人あたりのGDP)は先進国中ではフランスやイタリアより低くなっているのが現状です。 要因の一つとして我が国は第三次産業の「サービス産業」がGDPの約7割を占める産業となっていますが、このサービス産業の生産性が低いのです。従って「サービス産業」の生産性をどう向上させるかが政策的課題となっています。

 個別企業にとっても「効率的な働き方」を追求して生産性の向上を図る必要があります。鍵となる一つがIT技術の活用です。人手不足で労働力の確保が難しい小売業では最新のIT技術を使って レジの無人化等が実験的に取り組まれています。また定型的な事務処理を人口知能を備えたソフトウェアのロボット技術により自動化する「RPA」の導入も推進されています。 こうした技術的な取組み以外には、従来から取り組まれているムダの排除、特に組織的な業務プロセス全体の見直し(BPR)をすることも生産性向上の効果的な方法の一つです。

就労条件総合調査の結果

 厚生労働省が10月23日に公表した平成30年就労条件総合調査結果によると、平成29年の年次有給休暇取得率は51.1%になることが分かりました。前年(49.4%)から1.7ポイントの増加で50%台を回復したのは平成11年(50.5%)以来、18年ぶりとなります。 1年間に企業が付与した年次有給休暇の日数は労働者1人当たり平均18.2日で、そのうち労働者が取得した日数は平均9.3日でした。 厚生労働省は来年4月から施行される年5日の時季指定付与義務とともに取得率向上を促し、2020年までに取得率70%とする政府目標の達成につなげたいとしています。

 他方、4月から事業主の努力義務とされる勤務間インターバル制度については、前年(1.4%)から0.4ポイント増えて1.8%の企業が導入しました。導入を予定または検討している企業は前年(5.1%)から4ポイント増の9.1%でした。 制度の導入予定もなく、検討もしていない企業にその理由を聞く(複数回答)と「超過勤務の機会が少なく、当該制度を導入する必要性を感じないため」(45.9%)が最も多く、「当該制度を知らなかったため」(29.9%)が続きました。 政府は昨年7月に改定した「過労死等の防止のための対策に関する大綱」において、2020年までに同制度を知らないと回答する企業比率を20%未満、制度の導入企業を10%以上とする数値目標を掲げていますが、いずれも10ポイント近い開きがあるのが現状となっています。
調査は常用労働者30人以上の企業6,370社を対象に平成30年1月現在の状況等について実施し、3697社から有効回答を得ました(有効回答58.0%)。

勤務間インターバル制度導入に当たっての手順を公表

 「勤務間インターバル」とは、勤務終了後、一定時間以上の「休息時間」を設けることで、働く方の生活時間や睡眠時間を確保するものです。 2018年6月29日に成立した「働き方改革関連法」に基づき「労働時間等設定改善法」が改正され、前日の終業時刻から翌日の始業時刻の間に一定時間の休息を確保することが事業主の努力義務として規定されました(2019年4月1日施行)。 労働者が日々働くにあたり、必ず一定の休息時間を取れるようにするというこの考え方に関心が高まっています。

※制度の導入イメージ
勤務間インターバル制度導入手順

2019年度厚生労働省予算案における重要事項について

 2018年12月に閣議決定された、厚生労働省一般会計予算案は32兆351億円で、2018年度当初予算から2.9%、9,089億円増加して過去最大規模になりました。
そのうち、「働き方改革・生産性向上に取り組む中小企業・小規模事業者に対する支援等」に係る予算については1,245億円が計上されており、2018年度に比べ約28%の増加となっています。

◎働き方改革・生産性向上に取り組む中小企業・小規模事業者に対する支援等の主な内容
  • 2018年4月から順次全国に設置されている「働き方改革推進支援センター」によるワンストップ型の相談支援等を行うための機能・体制強化(76億円、前年度比500%増)
  • 時間外労働の上限設定や賃金の引上げを中小企業への助成金の拡充(1,129億円、22%増)
  • 働き方改革に取り組む中小企業の人材確保を支援する助成金の創設(制度要求、新設)

また、「同一労働同一賃金など雇用形態に関わらない公正な待遇の確保」に係る予算については1,083億円が計上されており、2018年度に比べて約30%の増加の増加となっています。

◎同一労働同一賃金など雇用形態に関わらない公正な待遇の確保の主な内容
  • 同一労働同一賃金の実現など非正規雇用労働者の処遇改善に取り組んだ事業主に対するキャリアップ助成金(1,050億円、24%増)

一括有期事業を行う事業主の事務手続を簡素化します~改正省令を2019年4月1日に施行~

行政手続きの簡素化により事業主の事務負担を軽減する観点から、労働保険に関する法令が改正され、以下の2つの手続きが廃止されます。

  1. 一括有期事業開始届の廃止
    一括有期事業を行う事業主は、それぞれの事業を開始したとき、翌月10日までに一括有期事業開始届を所轄の労働基準監督署長に提出する必要がありますが、2019年4月1日以降に開始する一括有期事業については、「一括有期事業開始届」を提出する必要がなくなります。

  2. 一括有期事業の地域要件の廃止
    一括される有期事業については、地域要件が定められています。このため、定められた地域の範囲外で行われる事業は一括されず、個別に有期事業として成立させる必要が ありましたが、2019年4月1日以降に開始する有期事業については、この地域要件が廃止され、遠隔地で行われるものも含めて一括されます。

※これまで、地域要件によって一括されなかった有期事業が、今回の改正により労働保険料の納付事務を行う事務所で一括されることとなりますが、一括の要件に変更はありません。


大規模な法人は、社会保険手続について電子申請が義務化されます

 厚生労働省は、行政手続の簡素化やコスト削減のため、社会保険の主要手続について電子申請を義務化する省令改正に着手しています。具体的には、下記表の手続について、大規模法人の事業所を対象に、2020年4月から義務化される予定です。  電子申請の義務化については、「日本再興戦略2016(2016年6月20日閣議決定)」の目標である「2020年までの行政手続コスト20%削減」を達成するために行われる、税・社会保険関係事務のIT化の一環によるものです。

手続名 施行期日 義務対象
社会保険 1.算定基礎届 2020年4月1日 (1)大規模法人※
(2)相互会社
(3)投資法人
(4)特定目的会社
2.月額変更届
3.賞与支払届
雇用保険 1.資格取得届
2.資格喪失届
3.転勤届
4.高年齢者雇用継続給付基本給付金
5.育児休業給付金
労働保険 1.概算・確定保険料申告書
2.増加概算保険料申告書

※大規模法人とは、「資本金、出資金の額、又は銀行等保有株式取得機構に納付する拠出金の額が1億円を超える法人」をいいます。


70歳時の厚生年金の手続きが簡素化されます

 厚生労働省は、関連省令を改正し、70歳に達する被保険者の手続きを省略する予定です。70歳到達時に引き続き同一の事業所に使用され続ける被保険者について、 「厚生年金保険70歳以上被用者該当届」と「厚生年金保険被保険者資格喪失届」の提出が不要になります。施行期日は2019年4月1日が予定されています。


雇用保険 2019年度雇用保険料率据え置き

2019年度の雇用保険料率は2018年度の料率を据え置き、2019年4月1日から適用される予定です。

事業の種類 労働者負担 事業主負担 合 計
一般の事業 0.3% 0.6% 0.9%
農林水産・清酒製造業 0.4% 0.7% 1.1%
建設業 0.4% 0.8% 1.2%