社労士

コラム

同一労働 同一賃金指針案

2019 年1 月8 日

同一労働同一賃金指針案

1. 同一労働同一賃金指針案まとめられる

 11月27日 厚生労働省は所管の労働政策審議会の職業安定分科会、雇用環境・均等分科会、同一労働同一賃金部会で「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針案」(以下「指針案」と称す)をとりまとめたと発表しました。
指針案は平成28年12月に発表された「同一労働同一賃金ガイドライン案」(以下「ガイドライン案」と称す)を、本年7月に成立した働き方改革関連法と成立時での国会の付帯決議、6月の長澤運輸事件最高裁判決等踏まえ、修正してまとめられたものです。
指針の適用は、働き方改革関連法で2020年4月1日改正施行される「短時間・有期雇用労働法」、「労働者派遣法」に関係するため、2020年4月1日(中小企業は2021年4月)とされていますが、当然、法施行前に企業が法改正に対応するための準備として賃金制度や就業規則等の見直しを必要とするので、労働政策審議会で承認の上、近々発表される予定です。


2. 同一労働同一賃金ガイドライン案との相違

 ガイドライン案と指針案とを比較し、以下主な留意点を述べます。ガイドライン案では「雇用形態にかかわらない均等・均衡待遇を確保し、同一労働同一賃金の実現に向けて」が指針案では、「公正な待遇を確保し、我が国が目指す同一労働同一賃金の実現に向けて」と、さらに、「待遇差の解消」が「不合理な待遇の相違の解消等」を目指すと、変更されています。 「待遇差」は「待遇の相違」と言い換えされており、速やかに同一労働の実現を目指すに対し、可能な限り速やかにかつ計画的に進めることが望ましいと変更されています。 正規と非正規の処遇の格差是正をヨーロッパ並みのレベルに早期に実現するという趣旨が、若干トーンダウンした形になっています。

 既に裁判で争われている「住宅手当」「家族手当」についてや、多くの企業で支給されている「退職手当」についても「指針案」では追記されず、具体的事例が示されていません。さらに傷病休暇、法定外休暇等の「ガイドライン案」「指針案」で示されている例示の基準は、下級審段階での判断と異なったものもあり、中には「不合理」「不合理でない」と 判決の判断が異なったケースもあり、制度の見直しを着手するとしても慎重を期すことが望まれます。(詳細な事例は別途お知らせします。)


3. 制度改正の留意点

 新聞紙上で指針案の内容で大きく取り上げられたのは「不合理な待遇の相違の解消等」を行うに当たっては、基本的に、労使で合意することなく通常の労働者の待遇を引き下げることは、望ましい対応とはいえないことに留意すべきです。法改正前の「労働契約法」「パート労働法」の趣旨、改正法の趣旨も当然ながら、格差の是正は低すぎるものを引き上げることを意図したものと理解するのが自然です。 しかしながら、引き上げるとしても各企業の賃金原資が限られており、実際に引下げし是正を実施した事例等が報道されています。そもそも「通常の労働者」の労働条件の引き下げは、当然、労働者合意が前提であり、労契法10条の就業規則不利益変更に該当する可能性もあるので、引き下げ変更はハードルが高いと言えます。(個別の是正策例についても今後情報提供いたします。)
 格差是正を巡って現在係争中の最高裁の判決や有力と思われる判決が出ることによって、指針案の内容が多少変更される可能性もあり、制度変更について「速やかさ」が求められる一方、先に述べた事情等から慎重な検討も求められます。

労働政策審議会分科会 企業のパワハラ対策法制化を提言へ

 11月19日に開催された第11回労働政策審議会雇用環境・均等分科会において、職場のパワーハラスメント(パワハラ)対策が議論されました。パワハラについて「対策を抜本的に強化することが社会的に求められている」とし、企業に防止措置を設けるよう法律で義務付ける方針を示しました。 12月7日の第12回同分科会で出された報告書案においても、同様の内容が盛り込まれています。

 具体的にはまず、パワハラの定義について、「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」報告書(平成30年3月)の概念を踏まえ、 (1)優越的な関係に基づく(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により(3)就業環境を害すること(身体的もしくは精神的な苦痛を与えること)の3つの要素を満たすものとして定義することを提言しています。


    具体的に、3月の検討会報告書では、
    • 上司が部下に対して、人格を否定するような発言をする
    • 上司が部下に対して、長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命ずる
    といった行為はパワハラに該当するとされ、一方、
    • 遅刻や服装の乱れなど社会的ルールやマナーを欠いた言動・行動が見られ、再三注意してもそれが改善されない部下に対して上司が強く注意をする((2),(3)に該当しない)
    • 新入社員を育成するために短期間集中的に個室で研修等の教育を実施する((2)に該当しない)

    といった行為は該当しないとされています。

    その上で、職場のパワハラ防止対策として、事業主に対してパワハラ防止のための雇用管理上の措置を講じることを法律で義務付ける方向としています。具体的には、
    • 事業主における、職場におけるパワハラがあってはならない旨の方針の明確化や、当該行為が確認された場合には厳正に対処する旨の方針やその対処の内容についての就業規則への規定、それらの周知・啓発等の実施
    • 相談等に適切に対応するために必要な体制の整備(なお、本人が委縮するなどして訴えられない例もあることに留意すべきこと)
    • 事後の迅速、適切な対応
    • 相談者・行為者等のプライバシーの保護等併せて講ずるべき措置

    といった内容が指針で示される見込みです。その際、中小企業はノウハウや専門知識が乏しいことを踏まえ、負担軽減に配慮し、例えばコンサルティングの実施、相談窓口の設置等の支援を積極的に行うことも提言されています。


パワハラの場合は、他の類型のハラスメントと比べて業務上の必要な指導との線引きが難しいことから、分科会において「判例等を踏まえ、明確な範囲に限定すべき」との意見も出されました。こうしたことから、 「業務上必要かつ相当な範囲」の考え方や具体例、「就業環境を害すること(身体的若しくは精神的な苦痛を与えること)」の考え方(「平均的な労働者の感じ方」を基準とすべきことなど)、具体例なども指針で示される見込みです。パワハラは、「企業にとっても経営上の損失に繋がる」とされています。今後の動向も注視しつつ、適切な対応を取ることが求められます。

監督署による裁量労働制に係る調査が全国的に行われています

 今年の6月に成立した働き方改革関連法において、今回は改正を見送られた企画型裁量労働制の範囲拡大;厚生労働省による不適切なデータ引用によって注目され問題になっていたのは記憶に新しいと思います。
この問題を受けて、秋頃から 企画裁量や専門裁量を適用している事業所に対して、監督署の調査が積極的に行われています。前述の不適切データにおける世間の批判も大きかったためか、印象としては今まで指摘を受けていなかった事項にも厳密にチェックが入っているようにも感じていますので、今回は多くの事業所で利用されている専門裁量労働制に関して、改めてその条件等を整理したいと思います。

 専門裁量労働制はあくまでも通常の労働時間制の〈例外〉の位置づけになるので、有効とされるには、基本的に以下の図のように①形式要件②実態要件の双方を満たさなければならず、いずれかが欠けた場合、その裁量労働制の効果は無効とされ、結果として未払残業代の清算といった問題に発展することもありえます。

<主な形式要件><主な実態要件>

※法定の記載事項

  1. 対象業務
  2. みなし労働時間
  3. 対象業務を遂行する手段および時間配分の決定に関し、具体的な指示をしないこと
  4. 対象労働者の労働時間の把握方法および健康・福祉を確保するための措置
  5. 労働者からの苦情の処理のための措置
  6. 有効期間(3年以下が望ましい)
  7. 上記4および5に関し、労働時間の状況、健康・福祉確保措置、苦情処理に係る記録を有効期間中および満了後3年間保存する旨

 これらの要件については過去の調査でも当然チェックされていた内容ではありますが、今回の調査では上記の(イ)についてより詳細にチェックがされているように感じています。
監督署に提出する専門裁量労働制に関する協定届(様式第13号)には(イ)における「3. 対象業務を遂行する手段および時間配分の決定に関し、具体的な指示をしないこと」と 「7. 上記4および5に関し、労働時間の状況、健康福祉確保措置、苦情処理に係る記録を有効期間中および満了後3年間保存する旨」については直接的な記載がないので、 当該協定届の記載のみを以って労使協定締結としている事業所においては十分な注意が必要です。
裁量労働制を適用されている会社においては、この機会に自社の制度が適正に運用できているか、改めてご確認頂いてもよいと思います。

高年齢者雇用が過去最高に

 労働力人口の減少に伴って深刻化する人材不足を反映して、高齢者雇用を推進する企業が増加してきています。厚生労働省が発表した2018年の「高年齢者の雇用状況」によれば、70歳まで働ける制度を設けている企業の割合は過去最高になり、約4分の1が何らかの制度を独自に作っていることが分かりました。
 5年前に施行された改正高年齢者雇用安定法によって、7割以上の企業が高年齢者雇用確保措置を実施しています。そのうちのほとんどが60歳で定年という従来の形は維持しつつ、継続的に勤務することを希望する高齢者に対しては65歳までの雇用を保障する継続雇用制度の導入です。 定年自体を引き上げる企業や定年の撤廃に踏み切る企業は少数派となっているのが現状です。今後、少子高齢化が進む中、定年後も働きたいという高齢者がより職場にとどまりやすい環境づくりを行うことが必要と考えられます。企業には、定年後も働きたいという従業員を再雇用する 企業を支援するために用意されている「高年齢者雇用安定助成金」「65歳超雇用推進助成金」などの助成金も活用しながら、待遇の改善に励むことが期待されています。

2019年4月より労働条件明示がメール等で可能に

 労働基準法第15条第1項では、「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。」としており、労働契約の期間に関する事項等、13項目について明示することが定めされています。 そして、以下の5項目については、労働者へ書面の交付による明示が求められていましたが、2019年4月に施行される労働基準法施行規則の改正により、労働者が希望した場合、電子メール(労働者がメール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものに限る)FAXの送信でも労働条件の明示が可能となります。 労働者が希望した場合という条件がありますので、その点は事前に確認が必要となります。

【書面による明示事項】
  1. 労働契約の期間
  2. 就業の場所、従事する業務の内容
  3. 始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交替制勤務をさせる場合は就業時転換に関する事項
  4. 賃金の決定・計算・支払いの方法、賃金の締切り・支払いの時期に関する事項
  5. 5. 退職に関する事項(解雇の事由を含む)

2018年10月より雇用関係助成金の提出が郵送で可能に

 これまで雇用関係助成金の申請を行う際は、原則として申請先の役所窓口に書類を持参して届出る必要がありましたが、2018年10月より郵送での受付を開始しています。 わざわざ遠方の役所まで出向いて届出る必要がなくなりますので、利便性は大いに向上しますが、助成金の申請では書類不備や補正での差戻しが多くありますので、郵送で届出る場合はより慎重に申請書類を確認する必要があるでしょう。 厚労省のリーフレットでは郵送で届出る場合の注意事項として以下の点を挙げています。また窓口での受付も引続き行っているため、初めて助成金を申請する場合など申請書類に不明点がある場合は窓口で届出ることが推奨されています。

【郵送にあたっての注意点】
  • 郵送事故の防止のため、簡易書留等、必ず配達記録が残る方法で郵送すること
  • 郵送の場合、申請期限までに到達していること
  • 書類の不備や記入漏れがないよう、事前によく確認すること