社労士

コラム

働き方改革関連法
~ハマキョウレックス事件と長澤運輸事件の最高裁判決を踏まえた同一労働同一賃金の対応について~

2018 年10 月2 日

働き方改革関連法

  1. 働き方改革法の公布

     前号でお伝えした通り働き方改革関連法が成立し、7月6日に公布されました。働き方改革関連法の第一の課題は、「雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保」いわゆる「同一労働同一賃金」など非正規労働者の処遇改善であるとされています。
     この実現に向けて、パートタイム労働法、労働契約法、労働者派遣法の改正や既に非正規労働者の待遇格差の不合理性の内容を具体的に示す同一労働同一賃金ガイドライン案の作成が行われています。正規労働者と非正規労働者の格差を是正しなくてはなりませんが、菅野和夫氏が「無期契約労働者と有期契約労働者(正規労働者と非正規労働者)間の労働条件格差は、正社員の長期雇用慣行(内部労働市場)を中心にしつつ周辺に非正規労働者の柔軟な雇用関係(外部労働市場)を配するわが国企業の雇用システムに根差す問題であって、民事労働紛争の法的解決装置のみによって是正することを期待できる規模・性格の問題ではない。」(『労働法』第11版P335)と述べられている通り、評価の客観的基準を設ける必要がありますが、現状では人事・賃金制度を同一化して、同一労働同一賃金を実現することは難しいと言えます。

  2. 最高裁の判決

     今回の法改正の意図は短時間・有期雇用契約であるための格差の是正です。格差が不合理と認められるものであってはならなく、少なくとも「均衡」がとれていなければならないと、労働契約法第20条の趣旨が引き継がれています。ただし、職務内容同一短時間・有期雇用者であって身分活用が同一の場合は均等待遇が求められます。不合理であるかどうかは、事業主の主観ではなく、客観的・具体的な実態に照らして判断されることとなります。したがって、「将来に向けた役割や期待が異なるため」といったような主観的・抽象的な説明では不十分であり、実際の職務内容や異動の有無などの客観的実態に基づいた説明が必要となります。さらに「その他の事情」(現行法)、「その他の事情のうち、当該待遇の性質のうち、当該待遇を行なう目的に照らして適切と認められるもの」(改正法)を考慮して判断されます。
     6月1日ハマキョウレックス事件最高裁判決において、個別の賃金項目ごとに職務内容および職務内容・配置の変更範囲に遡って適法か判断し、配置の変更の範囲を認めたうえで「住宅手当」以外の争われた手当は不合理と判断し、使用者側に厳しい判決となりました。
     同日の長澤運輸事件最高裁判決では、職務内容・身分活用が同一である定年後再雇用の労働者の待遇について、それぞれの待遇について支給要件や内容に照らして不合理性の判断を個別に行っていますが、退職金や老齢厚生年金の受給等が「その他の事情」として考慮され、精勤手当以外の争われた手当を支給していないことは不合理でないと判断していることは注目すべき点です。また労働契約法第20条は民事的効力のある規定であり、労働契約法第20条により不合理とされた労働条件の定めは無効となり、故意・過失による権利侵害、すなわち不法行為として損害賠償が認められるとし、また無効とされた労働条件については、賃金面も含めて労働条件をそれぞれ就業規則で定められている以上、無効即無期契約労働者(正社員)と同一とする解釈を最高裁はとっていません。同一とみなすかどうかについては現在争われている日本郵便の事件の最終的判断が注目されます。

    同一労働同一賃金ガイドライン案や無期転換労働者の待遇などその他の留意点につきましては次号でお伝えします。

長時間労働が疑われる事業所への監督指導結果

 厚生労働省は平成29年4月から平成30年3月までに労働監督署による監督指導の実施対象となった25,676事業所への監督指導結果を公表しました。
この監督指導の対象は時間外・休日労働数が1か月当たり80時間を超えていると考えられる事業所に関する各種情報並びに、労災請求において長時間にわたる過重労働に起因すると考えられる過労死等が報告された事業所を対象としています。

■監督指導結果のポイント
①監督指導の実施事業場:25,676事業場の内、70.3%で労働基準関係の法令違反あり。
②主な違反内容(是正勧告書の交付を受けた事業場)
 ・違法な時間外労働:11,592事業場(45.1%)
 ・賃金不払残業:1,868事業場(7.3%)
 ・過重労働による健康障害防止措置が未実施:2,773事業場(10.8%)
③主な健康障害防止に関する指導の状況(指導票の交付を受けた事業場)
 ・健康障害防止措置が不十分なための改善指導:20,986事業場(81.7%)
 ・労働時間の把握が不適正なための指導:4,499事業場(17.5%)

参考URL(厚生労働省HP内):長時間労働が疑われる事業場に対する監督指導結果を公表します
(平成30年8月7日【労働基準局監督課過重労働特別対策室】PDF資料)https://www.mhlw.go.jp/content/11202000/000552663.pdf


平成29年度の監督指導による賃金不払残業の是正結果が公表されました~1,870企業に対し、合計446億4,195万円の支払いを指導~

 厚生労働省は、平成29年度に時間外労働などに対する割増賃金を支払っていない企業に対して、労働基準法違反で是正指導した結果を取りまとめました。これは、全国の労働基準監督署が、賃金不払残業に関する労働者からの申告や各種情報に基づき企業への監督指導を行った結果、不払だった割増賃金が支払われたもののうち、その支払額が1企業で合計100万円以上となった事案を取りまとめたものです。
 監督指導の対象となった企業では、定期的にタイムカードの打刻時刻やパソコンのログ記録と実働時間との隔たりがないか確認するなど、賃金不払残業の解消のためにさまざまな取り組みが行われています。
詳しくは下記URLをご覧ください。
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/chingin-c_h29.html


【平成29年度の監督指導による賃金不払残業の是正結果のポイント】
 (1)是正企業数 1,870企業(前年度比521企業の増)
  うち、1,000万円以上の割増賃金を支払ったのは、262企業(前年度比78企業の増)
 (2)対象労働者数 20万5,235人(同107,257人の増)
 (3)支払われた割増賃金合計額 446億4,195万円(同319億1,868万円の増)
 (4)支払われた割増賃金の平均額は、1企業当たり2,387万円、労働者1人当たり22万円

全国の最低賃金の改定額が答申されました~答申での全国加重平均額は昨年度から26円引上げの874円~

各都道府県労働局に設置されているすべての地方最低賃金審議会が、平成30 年度の地域別最低賃金の改定額(以下「改定額」)を答申しました。

都道府県 最低賃金額(増加額) 都道府県 最低賃金額(増加額)
東京 985円(27円増) 千葉 895円(27円増)
神奈川 983円(27円増) 埼玉 898円(27円増)

【平成30年度地方最低賃金審議会の答申のポイント】
 ・改定額の全国加重平均額874 円(昨年度848 円、26 円の引上げ。
 ・全国加重平均額26 円の引上げは、最低賃金額が時給のみで示されるようになった平成14年度以降、最大の引上げ。
 ・最高額(東京都985 円)に対する最低額(鹿児島県761 円)の比率は、77.3(昨年度は76.9%。なお、この比率は4年連続の改善)、
  また、引上げ額の最高(27円)と最低(24円)の差が円に縮小(昨年度は4円)。
 ・東北、中四国、九州などを中心に中央最低賃金審議会の目安額を超える引上げ額が23県(平成27年度以降最多。昨年度は4県)

9月からの厚生年金の保険料率に変更はありません

H29年8月分(9月納付分)まで H29年9月分(10月納付分)以降
181.82/1000(労使折半90.91/1000) 183/1000(労使折半91.5/1000)

厚生年金保険の保険料率は、平成16年の改正により保険料水準の上限が設けられ、その水準に達するまで、段階的に引き上げられてきましたが、平成29年の改定で、その上限の18.3%に達しました。今後は、更なる法改正がない限り、18.3%で固定されることになります。

国民年金保険料の産前産後期間の免除制度が始まります

 次世代育成支援の観点から、国民年金第1号被保険者について、出産前後の一定期間の国民年金保険料が免除される制度が始まります。また、この財源とするため、国民年金の保険料が月額100円程度引き上げられます。(平成31年4月~

1.国民年金保険料が免除される期間
出産予定日又は出産日が属する月の前月から4か月間(以下「産前産後期間」といいます。)の国民年金保険料が免除されます。なお、多胎妊娠の場合は、出産予定日又は出産日が属する月の3か月前から6か月間の国民年金保険料が免除されます。
※ 出産とは、妊娠85日(4か月)以上の出産をいいます。(死産、流産、早産された方を含みます。)
2.対象となる方 :「国民年金第1号被保険者」で出産日が平成31年2月1日以降の方
3.施行日:平成31年4月1日
4.申請方法:住民登録をしている市(区)役所・町村役場の国民年金担当窓口申請書を提出してください。出産予定日の6か月前から提出可能です。
※ ただし、提出ができるのは平成31年4月からです。

ストレスチェックの実施者が追加されます

 労働安全衛生法に基づくストレスチェックの実施者を追加するため、労働安全衛生規則の一部を改正する厚生労働省令が、平成30年8月9日に公布・施行されました。平成27年に施行された「ストレスチェック制度」は、事業者に対し、労働者の心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)や、検査結果に基づく医師による面接指導などを義務づける制度です。ストレスチェックの実施者は、ストレスチェックを実施し、その結果を踏まえ、面接指導の必要性を判断する者で、産業保健や精神保健に関する知識を持つ医師、保健師、必要な研修を修了した看護師や精神保健福祉士となっています。今回の改正では、7月11日の労働政策審議会安全衛生分科会の答申を受けて、ストレスチェックの実施者に、必要な研修を修了した歯科医師と公認心理師を加えました。厚生労働省では、今回の改正内容を含め、ストレスチェックの適切な実施に向けて、引き続き事業主や労働者への周知が行われる予定です。


【改正の主な内容】
 ・ストレスチェックの実施者に、検査を行うために必要な知識についての研修であって厚生労働大臣が定めるものを修了した歯科医師及び公認心理師(※)を追加する。