社労士

コラム

働き方改革法案の動向について⑤

2018年9月3日

 働き方改革関連法が成立し、今後各企業の皆様は就業規則の改定・人事制度の見直しに着手されると思います。長時間労働を抑制させるための時間外労働の上限規制等労働基準法の改正は原則来年の4月1日に施行されます。(中小企業は一部施行が2020年4月1日、60時間超の時間外割増50%は2023年4月1日施行) 高度プロフェッショナル制度も来年4月1日より運用開始が可能となります。
 また、非正規雇用者の処遇格差の是正を図る同一労働同一賃金制度実現に向けての労働契約法、パート労働法は2020年4月1日(中小企業は2021年4月1日)に施行されます。これら法改正の施行にあたり、政府は具体的な対策を進めています。今回は、対策の流れとして参考になるものとして、この法律成立の過程で参議院の附帯決議の中から注目すべき一部と7月24日に閣議決定された「過労死等の防止のための対策に関する大綱」の内容を紹介いたします。

~働き方改革法案に対する附帯決議~

 働き方改革関連法の成立にあたっては、衆議院、参議院の両院とも附帯決議が付いており、参議院の方は47項目にも及びます。附帯決議とは、法律の執行にあたって政府が留意すべき事項や、関連する制度の見直し、将来の法改正による改善要望などのことで、内容は多様です。法的拘束力はありませんが、政府はこれを尊重する必要があるとされているため、企業にも影響のある内容については確認が必要です。


【時間外労働の上限規制】
 ・特別条項付き36協定→通常予見できない臨時の事態への特例的な対応であるべき、具体的な事由を挙げず
   恒常的な長時間労働を招くおそれがあるもの等については特例を認めない、労働基準監督署の窓口におけるチェック強化と助言指導の実施
   ※健康を確保するための対策を義務付け、36協定に記載させる方針で検討中

 ・過半数代表者の選出→「使用者の意向による選出」は手続違反であることを監督指導徹底
【勤務間インターバル制度】
   本法において努力義務化→次回見直し時に義務化を目指す、通勤時間の実態等を十分に考慮し実効性のある休息時間が確保されるよう労使の取組を支援
【年休の付与義務】
   年休の取得促進に関する使用者の付与義務→時季指定にあたり、労働者から意見を聞き、意思を尊重し、不当に権利を制限しないこと
【高度プロフェッショナル制度】
 ・高度プロフェッショナル制度を導入する全ての事業場→労働基準監督署は立入調査を行い、適用可否をきめ細かく確認し、必要な監督指導を行う
 ・高度プロフェッショナル制度の決議→自動更新は認めない
【パワハラ・セクハラ】
   実効性のある規制を担保するための法整備やパワハラ防止に関するガイドライン策定に向けた検討を労働政策審議会において早急に開始する
【副業・兼業・多様な就業形態】
   長時間労働の抑制、社会・労働保険の適用と給付、労災認定など必要な保護措置について、働き方の変化を踏まえた
   実効性のある労働時間管理の在り方について検討を進める

~過労死等の防止のための対策に関する大綱~

 厚生労働省が見直し案をまとめていた「過労死等の防止のための対策に関する大綱」が2018年7月24日に閣議決定されました。大綱では政府として初めて、終業と始業の間に一定の休息時間を確保する「勤務間インターバル制度」の周知や導入、及び仕事上の不安・悩み又はストレスの相談先がある労働者の割合に関する数値目標が掲げられています。また、過労死や長時間労働が多いとして政府が特別な調査の対象とする業種に、新たに建設業、メディア業が加えられたほか、さらに宿泊業等への取組についても記載されました。

< 新大綱 5つのポイント>

  1. 新たに「第3 過労死等防止対策の数値目標」を立てて、変更前の大綱に定められた「週労働時間60時間以上の雇用者の割合を5%以下」など3分野の数値目標を改めて掲げるとともに、勤務間インターバル制度の周知や導入に関する数値目標※など新たな3つの分野の数値目標が掲げられました。
    ※数値目標
    • 2020年までに、勤務間インターバル制度を知らなかった企業割合を20%未満とする。
    • 2020年までに、勤務間インターバル制度を導入している企業割合を10%以上とする。
  2. 「第4 国が取り組む重点対策」において、「労働行政機関等(都道府県労働局、労働基準監督署又は地方公共団体)における対策」を新たに項立てし、関係法令等に基づき重点的に取り組む対策として、下記3点などを明記されました。
    1. 長時間労働の削減に向けた取組の徹底
    2. 過重労働による健康障害の防止対策
    3. メンタルヘルス対策・ハラスメント対策
  3. 調査研究における重点業種等(過労死等が多く発生している又は長時間労働者が多いとの指摘がある職種・業種)として、自動車運転従事者、教職員、IT産業、外食産業、医療を引き続き対象とするとともに、近年の状況を踏まえ、建設業、メディア業を追加し、さらに、宿泊業等についての取組をすることとされました。
  4. 勤務間インターバル制度を推進するための取組や、若年労働者、高年齢労働者、障害者である労働者等への取組について新たに追加されました。
  5. 職場のパワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、妊娠・出産等に関するハラスメントを包括的に「職場におけるハラスメント」として位置付け、その予防・解決のための取組みについても明記されました。

健康増進法の一部を改正する法律案について

 受動喫煙対策の拡充を図る「健康増進法の一部を改正する法律案」が成立し、平成32年度より全面施行されます。同法案では、多数の人が利用する施設等において一定の場所以外での喫煙を禁止することとしており、企業の事務所内では室外への煙の流出防止措置を講じた喫煙専用室以外での喫煙は禁止されることとなります。

【企業の事務所内での措置】

職場の受動喫煙防止対策は事業者の努力義務となります。対策を行う際は厚生労働省より費用の一部を支援する「受動喫煙防止対策助成金」がありますので、ご活用ください。詳細はこちらをご覧ください。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000049868.html

テレワーク・デイズ ~2020年に向けた国民運動プロジェクト~

 「テレワーク・デイズ」は総務省、厚生労働省、内閣府等が、東京都及び関係団体と連携し、実施している「働き方改革の国民運動プロジェクト」の名称です。2017年は「テレワーク・デイ」という名称で、7月24日にテレワークの全国一斉実施を呼びかけ、約950団体・6.3万人が参加しました。総務省は、2012年ロンドンオリンピックで、ロンドン市内の企業の約8割がテレワークを導入したことで交通混雑を回避した成功事例にならい、2020年東京オリンピックの開会式にあたる7月24日を「テレワーク・デイ」と位置づけて、2017年から多くの企業・団体・官公庁の職員がテレワークを一斉に実施するよう呼びかけています。東京オリンピックの交通輸送技術検討会では、交通対策を行わない場合、会場周辺駅や周辺の路線を中心に、局所的な混雑が発生することが予測されています。そのため「テレワーク」は、大会時期の混雑を解消するための手段として期待されています。通勤ストレスの軽減・交通混雑の緩和をはじめ、介護や妊娠・出産など、さまざまな事情をかかえた人材の離職防止につながるなど、今後は働き方の「一つの選択肢」として考える企業が増えていきそうです。


 2018年「テレワーク・デイズ」の実施について
 http://www.soumu.go.jp/main_content/000545441.pdf

現役並み所得者が介護サービスを受ける場合の負担割合が3割になりました

 「介護サービスを受ける場合、これまでは1割又は一定以上の所得のある方は2割とされてきましたが、平成30年8月から65歳以上の方(第1号被保険者)であって、現役並みの所得のある方については費用負担が3割となります。

 <参考リンク>https://www.mhlw.go.jp/content/000334525.pdf

雇用保険の「基本手当日額」が変更になりました

 平成29年の平均給与額が平成28年に比べ約0.57%上昇したことにより、平成30年8月1日(水)から雇用保険の基本手当日額・継続給付の限度額が変更されました。
※平均給与額:「毎月勤労統計調査」による毎月決まって支給する給与の平均額


雇用保険の「基本手当日額」

平成29年度「過労死等の労災補償状況」が発表されました

 厚生労働省は、平成29年度の「過労死等の労災補償状況」を発表しました。
過重な仕事が原因で発症した脳・心臓疾患や、仕事による強いストレスなどが原因で発病した精神障害の状況について「業務上疾病」と認定し、労災保険給付を決定した支給決定件数などを年1回取りまとめています。

 脳・心臓疾患に関する事案の支給決定件数は、平成28年度260件、平成29年度253件で、精神障害に関する事案の支給決定件数は、平成28年度498件、平成29年度506件となっており、ほとんど同じ件数で推移しています。